
AJWW 1982年 ライオネス飛鳥 vs 松本香 長崎県大村体育館
VHS Pro-WrestlingさんのYoutubeより
(↓AIでフルハイビジョンに変換した動画です)
さて、今回は松本香時代のライオネス飛鳥とのシングルの試合となります。
後にクラッシュ・ギャルズとしてパートナーとなる、長与千種の話を書きましたが、試合内容を比較すると面白いと思います。
1983年 長与千種vs松本香
ちなみにこの試合の会場や日付は分かりません。動画アップ主が1982と記載していたので、1982年と記載しています。1983年の可能性もありますが、松本の髪がソバージュをかけた感じなのと、紫のガウンを着用しているのでおそらく1982年だと思います。
ライオネス飛鳥がダンプの"松本香"時代について語るインタビュー記事というのは、今のところほとんど見つけられません。理由としては飛鳥が1985年後半から精神的に辛い状態となり、自分のことで精一杯であったからと思われます。
その中でもダンプに対しての意見がありましたので、掲載しておきます。
デラックスプロレス 1988年5月号より------------
ダンプはね、トモ(ライオネス飛鳥のこと)の新人時代からの仲間だもの。松本香だったころの彼女は、なんというかな、ちょっと臆病なところがあったのね。そういう人がダンプに変身して、自分のイメージをドンドン変えていったのは、本当にすごいよ。その一方で極悪軍団をあそこまで大きくしていったのは立派だよ。脱帽したいもん。
-------------------------------------------
週刊明星 1985/7/25より------------------------
ダンプは突然変異ですよ。お母さんは小さいし、妹は細くてかわいいし。で、そのお母さんは長与千種のファン、妹のヒロタンは私のファンなんです。悪役の家族はかわいそうですね。
-------------------------------------------
上記のインタビューから、ライオネス飛鳥はとても真面目で、ウソをつかずに公平に人を評価しようとしていた感じが伺えます。
また、ライオネス飛鳥が自分自身の新人時代についてはこう語っています。
デラックスプロレス 1988年7月号より------------
自分が若手の頃は、自分が一番強いと信じていた。もちろん、同期の中ではってことだけどね。ジュニアのベルトを取ったときもベルトが重いなんて、絶対に思わなかったよ。重いって思わないためにはね、それなりに練習を重ねて、自分に自信をつけるように努力するしかないんだよ。目標が持てれば、練習と生活態度に気を付けて実現するために努力するわけだから。これってトモが今までやってきた答えなんだ。
-------------------------------------------
またこの頃の松本が飛鳥をどう見ていたのか、ブルのインタビューにあります。
プロレス取調室より---------------------------
ブル中野 「ダンプさんは、ジャッキーさんに憧れていたのに悪役にさせられて、"ジャッキー2世"と呼ばれていた飛鳥さんには相当なライバル意識を持っていたようです」
-------------------------------------------
さて、試合のほうを見てみます。
若い時の飛鳥ですね。クラッシュ時代を見慣れているせいか、またまた少々別人に見えてしまいます。
一方の松本です。この頃はワルのイメージを定着させようと、色々と工夫していたようです。
このときは明らかに先輩の池下ユミやマミ熊野、デビル雅美を意識したソバージュのヘアスタイルをしています。しかもこれがまた童顔に似合わないのが・・(^^; (池下さんや熊野さんは本当にワルって顔しているので、似合うんですけどね・・)
しかも、
リングアナ「180パウンドォ~、マツモトォ~、カオォールゥ~!!」
長与千種の試合のところでも書いたんですが、「マツモォトォ~、カオ~ル~」の可愛い名前のコールでヒールイメージが出ない・・。しかも体型がチビデブ(失礼)なので、相変わらずヒール感がしません。
また、当時の松本香のリングでの化粧については、以下のエピソードを見つけました。
私じゃダメかいより------------------------------------
ダンプ「女子プロの新人時代は、リングにあがるときは、薄化粧をしたものさ。
悪役でも、やっぱの客商売だから。そのぐらいの身だしなみは必要になるんだ。
最初は自分は恐る恐る、アイシャドウをつけたことがあった。ブルーのヤツを・・。
それやってたら、
「気持ち悪いからヤメとけ」って言われちゃった。
そこでヤメなかったら、もっと早くトップになれてたかなって思う。
だって「気持ち悪い」っていうのは、悪役にとって最高の誉め言葉だったんだぜ。
けど、新人だったから、そう言われちゃうと、ヒルんじゃって・・。
それ以来、リングにあがるときの化粧は「目立たないように、目立たないように」って・・」
----------------------------------------------------
このような化粧の苦労もあったようです。なんとなく目元に黒い化粧をしているように見えるのですが、映像が悪いのでよく分かりません。
そのあとはいつものドッカーンパフォーマンスです。注目は「ワニ」がでっかく描かれたラコステみたいな水着ですねw 目立とう精神満載の水着で、ハイセンスすぎて、着こなし難易度はかなり高そうです。このようなものをあっさり着てしまうのが、松本らしいです。
例えて言うと、みんながユニクロを着ているところに、一人だけETROを着ている感じです。水着だけでも目立ってやる!! とい意気込みは感じられます。
このような「やってしまったもの勝ち」みたいなところが、飛鳥には絶対に真似できないセンスだと思います。松本が天性のパフォーマーであることが分かりますし、後にヒールレスラーとして開花していく能力なのかもしれません。
試合が開始すると、なぜかベビーフェイスの飛鳥がいきなり奇襲。いや、ここは逆だろ(笑)
平手打ちから松本のラリアートを交わしてからのアトミック・ドロップの連続攻撃。松本もボディプレスからのエルボー、そして目つぶしと良い連続攻撃で始まります。飛鳥は動きがいいので、リズムが長与のときよりも断然よいです。
志生野アナ「松本香選手は登場すると、なんとなくユーモラスな感じがしますね」
松岡「スイムスーツっていいますかね、よく考えていて、ユーモラスな」
志生野アナ「なるほどね」
松岡「あのー、控室でちょっと聞いたんですけど、みなさんデパートとかで普通のものを買うんですって。自分の気に入ったものを。それで落ちないようにちゃんと自分たちで工夫して止めたりして、着ているそうです」
志生野アナ「あーそうですか」
松岡「ひとりだいたい10着は持ってらっしゃるって」
志生野アナ「そうでしょうね」
松岡「アタシたちが買うものよりも、目立って、自分の個性を表現できるものを買ってますって」
別の人「ファッションも参考になるんですか?」
松岡「私なんか見て、今年こういう水着が着たいなって参考になりますもんね」
別の人「そうなんですか」
松岡「松本さんが着ている"ワニ"のなんか、なかなかないですよ。LLでしょうね・・」
志生野アナ「そりゃそうでしょうね」
何気にワニが大人気です!!
さて試合が進むと、マスクド・ユウのフォローもあり、ラフファイトが見え始めます。
さらにマスクド・ユウが飛鳥を場外でイスに叩き込みます。ユウがなぜか大活躍です。
松本の試合ではマスクド・ユウが目立ってフォローしているのを見かけますが、逆にマスクド・ユウの試合で松本がリングサイドからワルをしているのがあまり見つけられません。こういうところにもまだヒールへの意識が足りない部分があったのでしょうかね。
そういう意味では、マスクド・ユウのほうが、このときは一歩ヒールとしてリードしていたと思います。
リングサイドの飛鳥を大声で罵る松本。注意するラッキー飯村(レフェリー)を思いっきり投げ飛ばすパフォーマンスです! この頃の松本の十八番でしょう。
しかし、ラッキー飯村がムカついたのか、そのあとのカウントの鼻息が荒くなっていますw
またこの試合を見て気が付くのは、松本の声が通るのはもちろんですが、意外と飛鳥も大声で罵っています。
ライオネス飛鳥 「コォンノヤロゥ~、ンニャ~!!」
松本並みに声が通る飛鳥。意外です。
まだ黄色い声援がない試合だけに目立ちます。
飛鳥の高速タックルからのストンピング、さらに松本の大きな体を物ともせず、グラウンドの展開。この頃はさすがに長与千種よりも圧倒的に、技にキレがあります。
志生野アナ「松本選手も本当に下積みが長かったといいますかね」
志生野アナ「ようやくこうして、えー、リングの上で試合ができるようになりました」
志生野アナ「それだけ辛抱強いというんでしょうかね」
解説者「精神的な忍耐力というか、オーディションに合格するまでの間に培われたんでしょうね」
志生野アナ「本当にそうですね。」
志生野アナ「練習場の主みたいな存在になってましたね。」
志生野アナ「人気者でしたものね」
志生野アナ「ようやく念願叶って、プロのライセンスを取りました松本香選手であります」
練習場のヌシ!! 松本は1回目のオーディション合格から約1年もプロテストに合格できなかったため、その間ずっと練習場で稽古に励んでいたということが分かります。「人気者でした」というのは、おそらく以下のエピソードに見られる見学者から人気だったという意味なんじゃないでしょうか。
なんたって女子プロレスより--------------------------------
道場のトレーニングには股割りというのがあって、ロープと平行に足を180度に開き、2人の選手がつま先を固定し、うしろから背中をグイグイ押して、胸をマットにつけさせるようにする。股が裂けてしまいそうに痛い。そこを「あと50秒だ!」と先輩の情け容赦ない声が飛んでくる。
体が異常に固かったダンプは、この股割りには泣いたものだった。ダンプは練習嫌いの上に恐がり屋で、体を動かすと苦しいといって泣き、朝は練習が怖くて練習ができないといって泣き、女子プロの松永高志社長に言わせると、ホントに涙をポロポロとこぼしていたという。
-------------------------------------------------------
おそらくダンプが入門前に泣きながら苦労していたのを、志生野さんも親心で見ていたのではないですかね。それに志生野さんの解説を聞いていると、松本の試合が少ないというのもあるかもしれませが、対戦者よりもヒールの松本のことをいつも多く話している感じがします。それだけ松本に思い入れがあるのかもしれません。
松岡「あの体重の割りには敏捷ですよね」
志生野アナ「敏捷ですよね、よく動いてますよ」
志生野アナ「それにですね、ずっとトレーニングを積んでますから、そんなに汗もかきませんしね。たいしたもんですよね」
志生野さんが何気にべた褒めです。
解説者「パンチが厚い肉の壁に吸収されて、届かないんじゃないかと思います」
志生野アナ「なるほど、中心部まで届きませんかね」
グラップラー刃牙のような解説になってきました。
途中にワイルド香月も入り、目つぶし、山嵐式バックフリップなども入りますが、ギロチンドロップを避けられてから、ネックブリーカー、そして83kgの松本を得意のジャイアントスイングにもってきます。
やはりエリートの飛鳥になると、精密機械のような流れるような反撃です。
こういうところが、長与千種の試合との違いで、きちんとベビーフェイスのメリハリがついています。
もはや松本はこれまでかと思われたところに、ロープに振られてからの必殺のボディアタック! 松本も使いどころが抜群にいいです。この試合、ジャイアントスイングから、ボティアタックの反撃で、お客様がオオッと沸いています。
これです。選手それぞれの得意技を、ここぞのタイミングで出したときに、一番お客様が沸く、これがプロレスで重要です。
そのあと回転エビ固めで決まるかと思われましたが、マスクド・ユウの乱入で一時的に逃れました。試合的には、ここで回転エビ固めで終わっても綺麗だったんじゃないかと思います。
そのあとに松本はラリアートを狙いますが、結局またまた回転エビ固めでやられてしまいます。
この試合を見ると、ライオネス飛鳥が相手になると、試合がかなり引き締まったものになっているのが分かります。長与千種の試合はグタグタって感じでした。ただし、プロレスラーとしての痛みを、視聴者として共感できるのは、やはり長与の試合のほうです。
また、ミーハーファンの声援がないので、ライオネス飛鳥の「コノヤロウ」もしっかりと聞けるので貴重です。
飛鳥のプロレスは「精密機械のようで面白くない」と社長に言われたそうですが、すでに2年目で高いレベルをクリアしているからこそ、さらにその上を目指せという助言なのだと思います。
大森ゆかりと並んで55年組みのエリートと思わせる内容でした。
しかし、落ちこぼれ組の松本も、1982年という年代を考えれば、とても良い試合をしていたと思います。やはり飛鳥相手だというところが大きいのかもしれません。
------------------------
なお、一年後(1983年)には松本と飛鳥は全日本王座をめぐっての攻防があります。それは別のブログに記載していますのでそちらをご覧ください。