
ダンプの決め技といえば、ラリアートです。
70年代から80年代初頭にかけて、スタン・ハンセンのウエスタン・ラリアート(ラリアット)が有名になり、さらに長州力もリキ・ラリアットという名称で使用していました。この時期、流行していた花形の必殺技です。
このラリアートについて、エキサイティングプロレスの1984/4月号にクラッシュと大森、ジャンボ堀が話している記事がありました。
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シングルチャンプが夢だよね 誌上対決!?
―お互いに、ここだけの話ですが、とは言っても全国に知れ渡る訳ですけど、仕かけられてキツ〜イ技は何か、また次回闘う時に自身を持って繰り出す技は何かをバラし合って下さい。
長与 私たちは今度新島で合宿があるので、 堀、大森のサンボ殺法に負けないように㊙空手の特訓をしてきます。
飛鳥 サンボ殺法もそうだけど大森のラリアットは効きますよ。
長与 でも、あんまりやらないから助ってる けどね。
大森 松本が使っているから......。
堀 そんなの関係ないよ。掟やぶりやっちゃいなよ。
大森 でもラリアットって痛いよね~。松本がチェーンなんかもったら最悪だよ。
堀 もう次の日なんかノドが痛くってさ。
長与 あれね、いい作戦があるんだよ。
一同 ナ~ニ。
長与 冬なんかさ、空気が乾いているからバ チンッとくるじゃない。あれはねニベアを塗 るといいんだよ。(笑)
堀 しかしさあ、ダンプ松本とマスクド・ ユウのコンビって最悪だと思わない。
飛鳥 チェーンでバシバシ来るもんね。
堀 ノドも締められるしさ。裂けるかと思 ったよ。
大森 本当にどうにかして欲しいよあれは。
長与 レフェリーもさあ、チョッとやらせ過ぎだと思わない。
一同 ウン。
長与 話がそれてしまった。大森のラリアットはあんまり無いですよね。
大森 いや、出しおしみしといて一発バシッといってやるよ。
長与 ヒェ~。あっそれと、トップロープか らのヒップドロップもやめて下さい。
中略
飛鳥 ところでさ、最近 皆が色んな技を使い過ぎだと思わない?
大森 決め技が無いんだよネ。男子プロレス みたいに。
堀 新しい技を開発し過ぎるんだよね。もっと自分の個性を出すべきだと思わない。
飛鳥 新人の頃は何もなかったもんね。
堀 ワタシはジャンボ・スープレックスを自分の個性にしたいですね。
飛鳥 ジャイアント・スウィングに磨きをか けたいですね。
長与 アタシは初歩に帰ることですね。
大森 ワタシはやっぱりラリアットかな~?
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全日本女子プロレスの暗黙の了解で、先輩や他人が使っているフィニッシュ技を使わないという掟があったようです。
以下、ブル中野の著書「金網の青春」に彼女自身の体験が記載されています。
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ある日「前座で試合に出してやるから」と社長が言ってくれた。
私はようやくリングにあがり、5分間、あっという間に終わった。何をやったのかさえ分からない。
そのあとは先輩に呼ばれ、全先輩に怒鳴られた。理由は大先輩のダンプさん、クレーンさんの得意技の体当たりを勝手に使ったからだった。それもプロテストに受かっていない私がだ。
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ダンプとクレーンが使っていた「体当たり」でさえ、使うことは許されていなかったようです。
「体当たり」ってそもそも"技"なのか微妙な感じがしますが、当時の松本の試合を見ていると、彼女が一番客を沸かせられる技が「体当たり」だったので、その技を勝手に使った中野は先輩全員から怒られるという憂き目にあったわけです。
話を本題に戻すと、本記事では、長与と飛鳥が、「大森のラリアートが非常に痛いので、大森も使え」と話しています。しかし大森は「松本が使っているから・・」という理由で、ラリアートの使用に消極的です。これは女子プロレスの掟だからです。
松本がラリアートを使っていたのは新人時代からで、1980年のテレビ放送初登場の時にはすでにラリアートを使っています。おそらく全日本女子プロレスの日本人でラリアートを使おうといち早く着手したのは松本で、その後ラリアートに磨きをかけて、1983年の後半には、相手が一回転して吹っ飛ぶような一撃必殺の技になっていきます。ダンプの後にラリアートを必殺技にした女子プロレスラーはあまり記憶がありません。(私が知らないだけで、いるのかも)
大森はトップロープからのフライングボディアタックやパイルドライバーといった技をメインに使用していきます。しかしそれが必殺技かと言われると、少し弱いんですね。
誌面最後に大森が「やっぱりラリアットを決め技に・・」と話していることから、おそらく相当に使いたかったんでしょう。なにしろ男子プロレスでも、最も華がある技ですからね。
しかし、大森は最後までラリアートを滅多に使いませんでした。ダンプを立てて、自分は違う技を見つけるという英断をしています。それが後年の「空手チョップ」という、女力道山の異名をとる最高の必殺技の習得へとつながります。
この記事、ダンプが早くから女子プロレスの世界でラリアートに目を付けていた先見性と、大森の掟を守って自身の技を開発していった律義さ、両方に拍手を送りたいと思います。
ところで誌面、思わず笑ってしまう点が。
いやいや、ちょっと待て(笑)
せっかくいい記事を作ってるのに、クラッシュギャルズの名前すら間違えているのは初めてみました。(^^; しかも、かなり女子プロレスを取り上げていたエキサイティングプロレスですからね。よほど急いで作った記事だったんでしょうか。
後から検索したら、この記事、ダイナマイトギャルオさんのところでも取り上げられていますね。