1984/10/31に「女子プロレス・ララバイ」という単行本が発売されました。
この本は、ライターの大山健輔氏とカメラマンの垂水章氏が取材をしています。
私が読んできた女子プロレス関連の発行本の中では、最も完成度の高い本だと思います。
文体が美しく、小説を読んでいるようにスラスラと読めます。
内容としては、全日本女子プロレスの当時の興行全般、レスラーへの取材、小人プロレスの取りあげ、会社経営とそれを取り巻く関係会社まで、相当に深いところまで取材がされています。
大山健輔氏と垂水章氏はフリーライターで、一か月間の取材ということだったのだが、女子プロレスの魅力に取りつかれてさらなる取材を重ねてようやく完成したのがこの本のようです。
ジャーナリストとしての血が騒いだ、ということなのでしょうかね。
この本は今でも、安く手に入るので、興味がある方にはオススメです。
一部、極悪に関係する部分や興味のあった部分を引用します。
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(試合を終えた選手の表情は明るい。トラックを運転する松本。1983年だと思われる)
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村松友視氏は快著『私、プロレスの味方です』のなかで″プロレスはスポーツジャンルの鬼っ子だ″と書いておられたが、それは、この本が出版されるまでの状況がそうであったということで、村松流のプロレス論が世間の注目を集め、海底に沈潜していた隠れプロレス者たちの快哉を浴びた時点で、もはやその状況は打破されたのではないか。ジャンルの鬼っ子は親に似ていないことをむしろ誇りとして、あらたなファン層を獲得した。既成のプロスポーツジャンルとは少し離れた場所で、しかし、しっかりと根を下ろし、頑丈な要塞をすでに築いたと見るべきだ。男子プロレスの熱狂的ファンは、満天下に向って自己を主張する権利を得たのである。
しからば、女子プロレスはどうか。女子プロレスファンはどうか。
女子プロレスこそ、男子プロレスから蔑まされているプロスポーツの鬼っ子なのだ。いや、スポーツジャンルのなかにさえ入れてもらえない鬼っ子以下の存在なのだ。彼らは人生の負の部分をいとおしみながら、それでもけなげに笑顔をふりまいている。
それでいい。人生のディテールは我にあり。
僕がはじめて女子プロレスの興行を見たのは、昭和五十八年の夏だった。それは、ある雑誌社から小人プロレスをルポする仕事をもらったからで、僕はその仕事にじっくり時間をかけたいと思っていた。丁寧な仕事をすれば、出来が悪くても自分に納得がいくからだ。
その年の七月、全日本女子プロレス興行の一行は、サマーファイティング・シリーズで関西地区を巡業していた。夏の盛りのその日、僕はカメラマンのタルミ氏といっしょに、あらかじめ教えられていた摂津市西鳥飼にあるパチンコ『ポパイ』の建設予定地の興行先へ出かけていった。試合開始は六時半だが、二時ごろには先発のリング設営隊が準備にかかっていると聞いていたので、その現場を見ようと早目に到着したのだ。
いまから考えると滑稽だが、はじめて見た興行地の印象は強烈だった。
そこはたしかにパチンコ屋の建設予定地だった。予定地であるからには障害物はなにもない。一面の粗いコンクリートの地面が広がる空地に、夏の強い陽差しが陽炎をつくっている。まわりに見えるのは工場と倉庫群、田んぼ、原っぱ、それにひと固まりの建売り住宅群。目のまえの府道をときおり車が走ってゆく。いったい、こんな辺部な場所で何が始まるというのだろう。物憂い夏の午後、道ゆく人もいない。もっともこんな閑散とした街道沿いを歩いて買物にゆく人もいないだろう。つまりはそういう場所なのである。
「ホンマにこんなところで女子プロレスが興行するんやろか」
僕たちはお互い顔を見合わせて、同じことを考えていたと思う。
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(松本香時代。95キロの体重をきかしたロメロ・スペシャルはダンプの切り札だ。スパナにチェーンばかりではありません)
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11時59分のシンデレラたち
'84年度は十人の新人レスラーが入門してきた。こんなに多く採用した年は最近では珍しい。
松永健司専務によると、ことしがとくに粒揃いというのではなく、あの子も捨て難いしこの子もガッツがあるようだし……そんなことを考えているうちに十人が残ったので、それじゃみんな入れちゃえ、となったらしい。それだけ新しいスター誕生への期待も大きいということだろう。
「一列に並んで、後ろ向かせて、ケツ見たらだいたいわかるんです。肉が締ってドーンとケツの大きい子、そういうのがいいんです。いろんなテストやりますけど、あれはついでにやってるだけ。ケツのしっかりした子は当然テストの点数もいいし……。ただねェ、この子はイケルってにらんだ子は、結局期待はずれに終ってしまうケースが多いの。グングン実力つけてスターになる子は、日頃あんまり目立たない子。こちらもあんまり期待しなかったのが、いつのまにかいい選手になってる。ジャガーがそうだし、デビルもそう。ジャッキーだってぜんぜん目立たなかったのに、あれよあれよでビューティ・ペアでしょ。わかんないもんですよ」
女子プロ一筋三十年の眼力も、時代の流れと選手のパーソナリティがどのように絡み合って
スターを創りだすのか、見抜けないようである。
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②へ続く。