
AJWW 1984/11/3 栃木県粟野町勤労者体育館 ダンプ松本、クレーン・ユウvsジャガー横田・小松美加
Evito-X-PuroさんのYoutubeより
10:00くらいから
(↓AIでフルハイビジョンに変換したものです)
これは私が思うことですが、後輩の中野恵子加入前と加入後は、ダンプ松本の意識に大きな変化が訪れたんじゃないでしょうか。
後輩の加入によって変化した選手として、有名なところで「長州力」がいます。彼は若い頃は素質は素晴らしいものがありましたが、くすぶっていました。練習も嫌いだったようです。しかし若手を指導する立場になってからは、練習に目覚めて道場で先陣を切ってガンガンとやるようになります。立場が人を変えました。これは彼が上の立場になったことで、「言葉と行動を一致させる必要が出てきた」からです。
これと同じことがダンプ松本にも起こったのではないかと思っています。
中野恵子加入により、ダンプ松本の元々の性格である"仲間や後輩を引っ張っていく"という親分肌が出てきます。おそらくダンプは中野を厳しく鍛える立場で、ユウは放任主義(鍛えるというよりは、それとなく教える、支える感じ)だったんじゃないかと思います。ダンプは中野を殴って鍛えている以上、「後輩の前で恥をかくわけにはいかない、弱さを見せてはならない」という意識が強くなったと思います。つまり、立場が上になったことで、「ヒールNo.1という言葉と行動を一致させる必要が出た」ということです。
その結果、試合ではさらに大胆な反則を繰り出すようになります。
ダンプ松本は100kgを超えていますが、当時は体の脂肪はほとんどなかったという話もあります。太りながら、試合で激しい運動をしていたため、全身がパッツンパッツンの柔らかい筋肉のカタマリだったのかもしれません。重心も低いので安定していますし、全身のバネもあるので想像以上に素早い動きをします。
だから、自分よりも体重が軽い選手には、ビクともしない体幹の強さで、他を圧倒し始めます。
そもそも体重が100kgもあるレスラーは、当時はごく一部の外人しかいませんでした。もちろん日本人ではダンプ松本が初めてでした。100kgという体重は想像以上の強さとなります。
並の選手ではダンプを持ち上げることができませんし、押し倒すこともできません。
「体重があること=強さにつながる」ということを最初に示したのはダンプ松本ではないかと思います。だから、後年のブル中野やアジャコングなど90年代の女子プロレス選手はみな100kg近くに体重を増やしていました。
(このズングリした体型が特徴的)
ダンプの1984年は、毎日メイン(後半)で試合をしており、実践で不得意だった「受け」の技術もかなり良くなってきて、相手に技を受けた後の「受けた感」が出るようになってきました(とはいえ、クレーン・ユウと比較するとやはりうまくはありません。やられている感じはクレーンのほうがうまいため、やられ役のクレーン、反則役のダンプ、という風に分担されます)
正直なところ、ダンプのレスリング自体は、後年のブル中野やアジャコングと比較すると、そこまでの強さには至りませんでした。それは基礎体力や運動神経の面もあるでしょう。限界はあります。しかしダンプは「ヒールNo.1」を確立するため、体重と竹刀による反則攻撃によって、その強さをなんとか保とうとしました。
もちろんレスラーですから常人とはくらべものにはなりませんが、レスラーの中にあっては、張り子の虎とまではいかないものの、かなり危うい試合もありました。
後輩に対しては特に容赦がありません。体重の差があって圧倒的です。若いブル、堀田、北斗なども全く寄せ付けません。
当時はまだレスラーが大型化する前ですし、当時の国内にも外国にも似た体型の選手がおらず、さらに凶器攻撃に振り切っているため、ダンプ松本のレスリング自体は評価しにくいんだと思います。それまでのストロングスタイル自体を否定する、違う切り口のプロレスです。
強さを個の強さとするのか、集団の強さとするのかでも、ダンプの強さの評価は変わります。ダンプが戦うときは極悪同盟の影武者がたくさんいますし、試合となければ相手はダンプ一人ではありません。こういうのがプロレスの強さを比較するときに難しい点なのですが、ダンプは個ではそこまでの強さはないが、集団力と反則でたいていの選手には勝つことができるのではないかと思います。
ダンプのプロレスについては、あまり深堀りしている人を見たことがないので、再評価してほしいところです。
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そこで今回の試合です。
1984年10月までの試合とは違う感じがすると思います。相手は実力No.1のジャガー横田と若手の小松美加(ニンニン)です。
この頃になると、ダンプ松本はメディアや雑誌でもかなり有名になってきています。
この頃はもうポリス帽はあまり被らずに、自慢の美しい金髪をみせています。
ユウのほうはポリス帽を被ることが多いです。
今回は観客の合間を縫って登場。地方大会ということで、ミーハーファンというよりは「おっさん」ですので、意外とダンプが近くを通っても逃げずにそのままの人が多いですね。
志生野アナ「いまこの極悪同盟の2人が本当にもうやりたい放題でしたね」
志生野アナ「これはね、もうリングの暴走族ですから、十分に気を付けてください」
志生野アナ「なにか放送席を見てますけどね、目と目を合わせないようにしてください」
地方大会に行くと、ダンプにもテープが飛んでいます。東京のような大都市では会場全体を埋め尽くすほどのクラッシュギュルズのミーハーファンが集結しているので、極悪にはとてもテープが投げられません。しかし、地方大会では極悪同盟も雑誌などで取り上げられつつありましたので、ミーハーファンの目を気にせずにテープを投げることができたかもしれません。
今回は相手に後輩の小松がいますので、試合開始前から早速ちょっかいを出し始めます。完全に小松がいい餌食です。
「お前を集中攻撃するぞ!!」という極悪同盟の合図ですね。
ジャガーは慌てて小松をかばいに行きますが、少々頼りないパートナーですので、ジャガーがどこまでフォローできるかにかかっています。
8月くらいにシングルで対戦したときは、ダンプはまだジャガーに少々臆していたところがありますが、この頃になると相手が最強のジャガーだろうと、堂々たる態度で対応しています。ここ一年の成長をとても感じます!!
私がダメかいより------------------------------
先輩と試合をするときなんか、リングにあがるのが怖くって、怖くって。
相手の実力がどこまでなのかって、みきわめがつかないと恐怖感が増す。
人間の感情ってそういうとこあるよ。
逆に、力がついてくると、相手のことが良く見えちゃう。初対面だって、そういうのがわかっちゃうものさ。
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1984年になって、ジャガーとは何度も対戦しているうちに、ジャガーの実力が分かったからこそ、自信をもってリングに上がれるようになったんだと思います。ジャガーは強いけど、その強さがどの程度なのかが分かるってのが重要なんだと思います。ダンプにとっては、大森ゆかりのほうが何をしてくるか分からなくて、やりにくい相手だったんじゃないのかぁと思うのですが。ジャガーはお手本のような綺麗なレスリングをしてきますからね。
ゴングが鳴って試合開始。ジャガーと細かい動きでタイミングを取った後、ジャガーを掴んでロープの中央から場外に叩きだします。このときのジャガーは相当危険な落ち方をしているように見えますが、見事に着地してきちんと戻っていますね。凄い運動神経です。
またダンプの細かい動きも軽快ですね。
志生野アナ「あ~っと小松美加がいまリングの中に入れられました」
志生野アナ「これは奇襲作戦であります、ダンプ松本は早くも小松美加を捕まえました」
志生野アナ「なにか狼の前の子羊という感じでも、ちょっと小松美加、今日は極悪同盟の前にどうも悪い予感がいたします」
志生野アナ「ダンプ松本100kg、小松美加は50kgあるかないか、ほとんど体重は半分であります」
志生野アナ「今度はクレーン・ユウにタッチか?」
志生野アナ「もう自分一人でも十分だ、そういった感じのダンプ松本であります」
志生野アナ「憎々し気にタッチして、クレーン・ユウが登場してまいりました」
志生野アナ「こういう試合ってのはねぇ、ハンデを付けられればそれに越したことはないんですが」
志生野アナ「ハンディキャップってのがありませんからね、どうしたらいいんでしょうか」
宮本「本当ですよね。小松選手がどれだけ頑張るかですね」
クレーンがサーフボードストレッチをしているところに、腹パンチを喰らわせるダンプ。細い小松にこれでもか!!という嫌らしい攻撃に、お客様からブーイングが起こります。
さらに、阿部四郎が見ていない隙に、もう一度出て行って2回目の腹パンチ。これにはお客様からさらに大ブーイング。こういうチョコチョコした動き方が、今見ると面白いのですが、この当時はお客様からの怒りを買っています。
もう完全に小松イジメになっています(笑)
あまりに小松が不甲斐ないためか(笑)、ダンプは小松を解放してジャガーにタッチさせます。
ジャガーの華麗な反撃が始まるかと思いきや・・・。
阿部四郎がジャガーの足をスッ転ばせよう作戦に出ます。
志生野アナ「ああーとっ、今のは汚いぞ、阿部レフェリー!!」
志生野アナ「阿部レフェリーがねぇ、ちょっと足を!」
しかしお構いなしに攻め続けるジャガー。さすがです。
志生野アナ「トップロープからいまジャガー横田の反撃であります」
またまた足を引っかける阿部四郎。
志生野アナ「このレフリーは何をするか分からない!!!」
志生野アナ「やりました、またやりました!!」
志生野アナ「さっきから何をしているんでしょうか!?」
志生野アナ「ジャガー横田、せっかく反撃の体勢でありますが、阿部レフリーが足をかけました」
(たまたま足がかかっちゃったアピールをする阿部四郎)
この「俺はワザとやったんじゃない」というアピールも、あからさまで面白すぎます。本当に阿部四郎は役者ですね。ちょっとした行為で、バッチリ目立っちゃう凄いレフリーです。
前々から書いていますが、ダンプ以上に嫌われることをガンガンとやってきます。
ダンプと阿部四郎の卑怯な攻撃で、会場中がヒートアップしすぎです!!
お客様(ミーハー) 「カエレ!カエレ!カエレ!カエレ!カエレ!カエレ!カエレ!カエレ!カエレ!」
宮本「もうね、意識的にやっているのかちょっと」
志生野アナ「(足をかけるのが)うまくないんでね、自分の足が痛くなっているんですよ」←志生野さんの解説が笑えます
その後も阿部四郎はしきりにマットを拭いてみたり、あれこれ自分が悪くないアピールをし続けます(笑)
すっかりペースを乱されてしまったジャガーは、ユウの人間絞首刑をかけられて、這う這うの体で場外へ。
さらに足を引っ張っていた小松まで、いつの間にか人間絞首刑にかけられてしまい、ジャガー&小松コンビは壊滅状態です。極悪コンビ+阿部四郎がやりたい放題で強すぎます。
リング上からジャガーを見下ろすダンプとユウ。阿部四郎もプラスして、本当に強いコンビに成長しました。阿部四郎を巻き込んでの、反則何でもありの新しいヒールコンビの頂点までもう一歩というところまで、来ていると思います。
「ウルサーイッ!!」
騒然とする会場で、ダンプは2段ロープに登って叫びます。この頃にはお客様に対する罵りがどんどん出てきます。阿部四郎に負けじと、アピールがエスカレートしていきます。
さすがは「ファンなんて一人もいらねーんだよ」という根性の持ち主です。
場外からジャガーがリングインしたところでツープラトンの攻撃に入ります。
ダンプとユウの息のあったキックはあまり見たことがないので貴重ですね!!
(ダンプはユウよりも足が短いので、届いていない可能性があります・・(^^;))
ジャガーがヒップアタックで反撃して、コブラツイストに入ったところで、ダンプはついにバケツ攻撃を敢行!!
しかし、阿部四郎に誤爆。もうこれはお決まりパターンです。
このジャガーの回転エビ固めは、以前のダンプならばあっさりと決められていましたが、反動をつけてきちんと返せるようになってきました。すごい成長してます。ジャガー横田レベルとはいいませんが、体が柔らかいダンプは、相当にいい動きをしています。
ここからクレーンと二手に分かれます。コーナーに置いておいたチェーンを手にして、クレーンはジャガーを鉄柱へ、ダンプは放送席に小松を叩きつけて、そのままリング内でチェーンで攻撃します。なにかもう手が付けられなくなってきました。
このまま鉄柱へぶつけます。
(どうにも反撃できないジャガーと小松)
(リング上では余裕のダンプ。髪をかき上げて笑みです)
志生野アナ「一方的!!」
志生野アナ「極悪同盟、その本領を発揮!!」
やはり後輩の中野が加入してから、明らかにダンプのヒールとしての覚醒が一段階上がった感じがします。小松が弱いとはいえ、ジャガー相手に全く寄せ付けない強さです。
志生野アナ「ちょっとジャガー横田、小松美加、極悪同盟の前にはタジタジであります」
ここからさらに、もう一段ぶっ飛びます!!
ジャガーをもう一度場外に連れ出して、椅子を投げつけて、今度はフジテレビの放送用マイクを両手に抱えて投げおろします。これはもう参った!! という感じ。
志生野アナ「ああーっと、マイクがやられましたね」
志生野アナ「これはノイズを取るマイクなんですが、めちゃくちゃになりました」
志生野アナ「ダンプ松本はマイクの価値が全く分かっておりません」
志生野アナ「これはフジテレビのディレクターも真っ青であります」
志生野アナ「めちゃくちゃになった!!」
志生野アナ「粟野町勤労者体育館をお借りしたんですけど、どうもこれは」
志生野アナ「器具破壊罪、器具破損罪で訴えられますよ」
宮本「ちょっとひどいですね」
志生野アナ「むちゃくちゃになりました」
かなり驚いているジャガー。
志生野アナ「ジャガー横田も驚いたという表情であります」
志生野アナ「よくやるわ、という感じでねぇ」
志生野アナ「改めて極悪同盟を見上げております」
ここでジャガーがようやく反撃。
小松がフライングボディアタックをしたところで、そのままダンプが受け止めます。
その後、ジャガーのミサイルキックで小松ごと吹き飛ばします。ダンプはフォールを逃れた後、ジャガーと小松のツープラトンをラリアートで返し、さらにトドメで小松に得意の必殺ラリアートが決まりました。
このラリアートで3カウントで勝負ありです。阿部四郎の高速カウントも、この試合から始まっていますね。
志生野アナ「速い、速い!!」
志生野アナ「いまのカウントはきたなーい!!」
志生野アナ「ラリアートの破壊力は認めるにしても、いまのカウントは速いですね」
宮本「ちょっと速いですね」
生野アナ「ジャガーが抗議!!」
最後はまたまた抗議!! なんでもかんでもベビーフェイスは抗議&レフェリー攻撃です。
お客様(ミーハー) 「カエレ!カエレ!カエレ!カエレ!カエレ!カエレ!カエレ!カエレ!カエレ!」
阿部四郎に対する大バッシングが起こり、そのまま阿部はトンズラ。
志生野アナ「世界チャンピオンのジャガー横田をもってしてもですね、極悪同盟と阿部四郎が一緒になったんじゃ、なかなか勝てないということですね」
今回の試合は極悪同盟の圧勝です。
意識が変わったダンプは、後輩の中野に見せつけるように、放送用機材までぶっ壊す狂乱ファイト。さらにジャガー相手に臆するところは全く見せなかったのも、後輩が入ったことに影響されている精神的な部分も大きいでしょう。
また、この試合から阿部四郎が超高速カウントを入れ始め、極悪同盟は地方大会で52試合無敗(本当かは不明です)という驚異的な強さを発揮していくことになります。
今日の凶器 バケツ、チェーン、放送用のノイズ除去マイク