
AJW 1984 12 10 大和車体工業体育館 大森・飛鳥・長与vsダンプ・クレーン・ペギーリー
38:00~くらいから
(↓AIでフルハイビジョンに変換した動画です。試合のみ抜粋)
ようやく1984年も最後の試合です。大和車体工業体育館での試合となります。
1984年は、クラッシュ・ギャルズ大躍進の年でした。
それと同時にダンプ松本も、この1年間で大躍進しました。
悪役・ダンプ松本は珍獣扱い的に、年末年始番組にかけて、バラエティ番組に飛び込みで登場していたと思います。プロレス会場では「殺せ」とばかりに嫌われていましたが、プロレスファン以外の人たちからは、ダンプ松本のようなインパクトのあるキャラクターは、テレビでウケはじめます。独特の個性があったのです。デブでしかも女性の露悪系タレント・・当時いましたっけ?
ダンプの著書から、当時の嫌われ度についての記述を引用してみます。
「おかあちゃん」より---------------------------------
「ダンプ松本」の名前で一躍脚光を浴び始めたわたしに、ある日カミソリが送られてきた。もちろん、差出人の名前はなかったが、そのカミソリを見て私はすごく嬉しかったことを覚えている。嬉しくてうれしくて仕方なかった。
カミソリを送られて喜ぶなんて、おまえ頭がおかしいのかと言われそうだが、ご安心あれ! 私は頭などおかしくはない。理由を言おう。これまでいくら悪役とはいってもカミソリなんて事務所に届いたことはなかった。それがダンプ松本が登場した途端にカミソリである。カミソリが送られてくるということは、ダンプ松本が女子プロレス史上最高の悪役スターだということの何よりの証明と言えるのだ。
私は悪役になる以上は、"これまでにない最高の悪役、日本一の悪役スターになってやろう!"と思っていた。
最高の悪役とは何か? それはとれもなおさず「カミソリが送られてくるような悪役」のことだ。"カミソリを送られるような悪役になりたい" そう思っていた矢先のカミソリだったのだ。私がリングで燃えないものか---。
つくられたスターなんかに私はなりたくない。そう思って自分の力でイメージを作ってきた。"つくられてるんじゃない、自信を持て!"ってね。
今思うと、なんてひでえやつなんだろうと思うよ。自分でもビデオ見てて怖いもの。それに一時期、公私すべてに及んで悪役のイメージづくりをしていたからね。
「わたしはあんたの友達なんかやめたい」
友達にそう言われた。さびしかった。けど、彼女はわからないんだから、仕方ないと思った。今わからなくても、きっといつかは分かってくれるだろうと思ってやっていた。
今、悪役のダンプ松本を振り返ってみて? 一生懸命やっていたと思うよ。プロに徹していたしね。あんなに怖い感じ、よく出してたのはすごいなぁってね。こういうのがいたら、プロレスファンなら、本当に憎たらしい女だと思うだろうなぁ。今はいないね。プロレスラーなんだから、リングの上ではうんとうんと暴れてやろう・・・。そして親や何人かの心許せる友達の前でだけ素顔を見せて泣けばいい。
今、悪役をやってきて良かったなぁとしみじみ思う。もしベビーフェイスだったら、これほどまでに成功はしなかっただろう。
悪役ならばこそ、どん底のかみしみも経験した。そしてそのどん底から這い上がった。その時の快感を何に例えよう。とても言葉に出来ない。強烈な何かが、体の奥からほとばしり出るような、それは快感だった。運命に感謝したいくらいだった。
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さて、試合を見ていこうと思います。
今回は登場シーンの演出が非常に凝っています。照明が真っ暗となり、数個の赤い照明とスポットライトがリングを照らします。全日本女子プロレスもお金を賭けてきましたね。
(クラッシュのときは赤)
(極悪のときは青)
真っ暗の中をポリス帽を被ったダンプ、クレーン、阿部四郎、ペギー・リー、さらにリトルハートが入ってきます。なんとも不気味な演出です。ついでにスモークも炊けば今風ですね。
(パッと明るくなると、リング上にクラッシュ+大森と、極悪同盟+外人が対峙しているという構図)
志生野アナ「ライトを浴びて今、ダンプ松本が、クレーン・ユウが、そしてペギーがやって参ります」
志生野アナ「その後ろにチラッとレフェリーのリトルハートの顔が見えております」
志生野アナ「極悪の旗をかざしまして、極悪同盟の入場です」
志生野アナ「ファンの歓声が悲鳴に変わっている!!」
志生野アナ「なんとも異様な雰囲気だ、早くもチェーンが鎖が!!」
ここで大量にリング上に立っているファンから花束が贈られますが、全員が赤コーナーへ!!
まぁ、当然です(^^;
気になるのは、ベビーフェイスの大森への花束が少ないことです。大森は一年前までは55年組ではトップを走っていたはずですが、この半年ですっかり存在感がなくなってしまいました。
志生野アナ「なにか、来るべき時がきた、そう言った感じです」
選手紹介です。
長与だけは2段ロープに登って、極悪チームを挑発。天性のパフォーマンスでファンの目を釘付けにします。大森と飛鳥が消極的なのに対し、長与は全然違うパフォーマンスです。
一方のダンプも長与に対抗して、ロープ1段目まで登って、パフォーマンス。
おそらく2段目までは怖かったので、1段目まで登ったんでしょう(^^;
ここにきてハッキリと分かります。長与とダンプは、ベビーとヒールに分かれているだけで、やっていることは全く同じです。
レフェリーは、またもやリトルハート。
おそらくこの最終戦が終わったら、アメリカに帰国ですので、ここが最後の見せ場です。
ファン「カーエーレー!! カーエーレー!! カーエーレー!! カーエーレー!! 」
志生野アナ「そしてリトルハートの登場でまたもやカエレコールが巻き起こります!」
志生野アナ「宮本さん、なにか収拾がつかない予感がしますね」
宮本「6人タッグですからね」
1本目
ダンプがいきなり飛鳥に襲い掛かって、1本目が始まります。
いきなり場外戦へ。クレーンは大森を捕まえて、ペギー・リーは長与でしょうか。
この頃から、ダンプは音声が入ったままのマイクを凶器として使い、飛鳥や長与の頭を殴っていきます。「ゴホッ」とか「ドスッ」というぶん殴ったときの濁った音が、生々しく入り、効果抜群です。これは11月くらいの試合から始めていました。
志生野アナ「あーっと(リトルハートの)カウントが速い!!」
志生野アナ「なんと、今度は力を合わせて長与をやりました!」
宮本「これは言語道断ですね」
志生野アナ「こんなことがあっていいのか!?」
志生野アナ「どうしたんでしょうか、レフリー不在であります。不在どころか選手になりました!!」
志生野アナ「これですからもうファンは黙っていません!」
志生野アナ「なんとも奇妙奇天烈なレフリーでありります」
リトルハートがすぐに本性を現し、ペギー・リーと長与をブレーンバスター。この人、仕掛けるのが早すぎるしょ(笑)
しかし志生野さんの解説が面白すぎますね。志生野さんの解説(というか、気持ちの代弁)がなかったら、テレビを見ている人は「なんじゃこりゃ」になってテレビのスイッチを切りそうです。
珍しいダンプのスリッパ攻撃(笑) あまり痛くなさそうですが、旅館から取ってきたんでしょうか?
志生野アナ「今度はなんですか、スリッパを出しましたか」
志生野アナ「ありとあらゆるものを凶器として使用いたしますダンプ松本」
志生野アナ「今年は、しかし思えば極悪同盟とクラッシュギャルズ、対決の年でもありました」
そのあと、クレーンがうまくやられて見せ場を作ります。
極悪に比べて地味ですが、ペギー・リーとリトルハートは、コンビの反則を思う存分に駆使して、極悪以上にやる気満々です。場外では長与を叩きつけまくり、その後クレーンと交代して、一人だけリングに上がってしまいます。本当に地味ですが、極悪に負けじと頑張っていたペギー・リーは、なかなかやる気のある外人レスラーさんだったんじゃないでしょうか。
1本目は極悪チームの勝利です。
(インターバルにドサクサに紛れて、ダンプが飛鳥に生卵攻撃。嫌われることばかりやってます)
2本目
いきなりペギー・リーが鉄パイプ攻撃を始めます。外人レスラーでここまで積極的に反則をしてくる方々はなかなか珍しい感じがします。
その後、クレーンがベビーフェイスに捕まり、飛鳥がジャイアントスイング。
さらに長与とのコンビでパイルドライバー。
ここでリトルハートの超低速の3カウントが入り、2本目はベビーフェイスの勝利です。
クレーンは受けがうまいので、どうしてもこういうヤラレ役に回ってしまうのが、損な役回りな感じがします。まぁこれは展開上、仕方なしですね。
3本目
1984年のラストラウンドは、ここまでなりを潜めていたダンプがラッシュをかけます。
まずはダンプがハサミで飛鳥と長与の額を割りにいきます。
志生野アナ「ダンプ松本がハサミを持って入って参りました!!」
志生野アナ「あーっと、脳天にいっぱーつ!!」
志生野アナ「やりました!!」
志生野アナ「今度は長与の脳天にいっぱーつ!!」
志生野アナ「ハサミであります。これは危ない。また流血の惨事になるか!?」
宮本「長与の髪を切ってますよ!」
(お客様に髪の毛を見せびらかすダンプ)
(ベロベロベエーとファンに焚きつけるムカつく行動)
少しずつ顔芸が多くなってきています。ダンプ自身もアドレナリンが出まくっている状態でしょうか。止まらなくなります。
(なんという憎々しい表情が出来るようになったんでしょう・・)
志生野アナ「長与の髪の毛が散っております」
志生野アナ「これはひどいことをする!」
志生野アナ「ダンプ松本、憎々しい表情をご覧ください」
志生野アナ「とうとう長与の髪の毛を切っております。そしてリング上にバラまいております」
(大森の髪の毛もバッサリ。そういえば、大森はぶるちゃんねるに登場したときに、「頭にハゲが出来ていて、ダンプにマジックで「ハゲ」って書かれた」と話していましたが、このころはまだ大きなハゲはないみたいですね・・)
ついに流血!! どうやらダンプの最初のハサミの一撃で額を割ったようです。凄惨になってきました。
飛鳥の喉元にハサミを突きつけながら、ハサミ攻撃!! いくらプロとはいえ、いまみても怖い!!
もし間違ったら喉笛を切っちゃうよ、マジで怖いわ。狂ってます。
こういうのって、事故にならないように、やられる側も動かないようにしているんですかね・・。
きちんとテレビカメラにハサミを見せた後に、凶器攻撃。きちんとテレビカメラのある南側(?)にまでわざわざ連れてきて、凶器を振るい始めたのはダンプが初めてかもしれません。池下ユミやマミ熊野はここまでテレビカメラを意識していないと思います。
志生野アナ「ライオネス飛鳥が極悪同盟の洗礼を受けております」
志生野アナ「悪の洗礼だ!!」
志生野アナ「大森ゆかりの額からも鮮血が流れ落ちている!」
ここでゴングが鳴る。
志生野アナ「ゴングが打ち鳴らされました」
植田「青コーナーの反則負けに認定いたします!!」
植田「おい、レフェリー!!」
植田「レフェリーの日本におけるライセンスをはく奪いたしました!!」
植田「永久追放します!!」
ついにリトルハートのレフェリーライセンスがはく奪されました。
しかも永久追放って・・!?
というか、この人、そもそもレフェリーライセンスなんて持っているんですかね!?(笑)
(よく見ると、かわいいダンプ(笑))
ついにマイクパフォーマンスが始まります。マイクで本格的にあれこれ言い始めるようになったのは、この試合からじゃないですかね・・・。
ダンプ「長与と飛鳥!!」
ダンプ「大事なリングに二度とあがれないようにしてやる!!」
ダンプ「長与も飛鳥も丸坊主だ!!」
と言っているように聞こえます(^^;
放送席をぶち壊し、植田信治コミッショナーにも食って掛かるダンプとユウ。最高権限者の植田にも悪態をつきまくり、試合が終わっても荒れ模様です。
志生野アナ「今年はこれで終わるんでしょうけど、何か来年が心配だ」
植田「カエレ!」
志生野アナ「マイクをめちゃくちゃにされました」
志生野アナ「騒然としております、大和市車体工業体育館」
志生野アナ「なにか今年の全日本女子プロレスを象徴するような幕切れだ」
お客様「もう一回!! もう一回!! もう一回!! もう一回!! もう一回!! もう一回!! 」
志生野アナ「しかし極悪同盟は全日本女子プロレスのすべてのファンを敵に回しました!」
大森と飛鳥はかなりの流血。大森はこれまでにダンプに流血させられたことはなかったような? 全試合見てないから分かりませんけど。
志生野さんが「来年に遺恨が持ち込まれましたね」と話しているところに熱血植田が突然マイクを持って登場。
植田「この試合の決着をつけるために、ライオネス飛鳥とダンプ松本の5分間の1対1の試合をやります!」
もう極悪同意が控室に戻った後に、決着を付けようと言い出す植田。もっと早く言えよ!!
その場での突然の思いつきなのか、最初から決めていたのか・・。よく分からない男ですね・・。
ということで、ライオネス飛鳥とダンプ松本の5分間の「凶器なし」の延長マッチが突如として開催されることになりました。
[5分間の延長マッチ]
(飛鳥が試合をすることに決定したのに、なぜか長与のボルテージがマックス!!!)
レフェリー「一歩でも反則をしたら」
飛鳥「ダンプ、上がってこい! 」
飛鳥「お前正々堂々とやれ、正々堂々と!!」
レフェリー「一回でも反則をしたら、その場で試合を停止します。それで反則したほうを負けにします」
志生野アナ「松永俊国審判部長がレフェリーをやるようです」
凶器使用禁止となると、俄然自力の強い飛鳥が有利。しかしダンプも1984年はグングンと実力をつけた年だけに面白い試合になりそうです。ダンプはヒールなので、負けたらお客さんが喜んで会場がハッピーエンドなのですが、ヒールNo.1として、ピストルで負けるわけにはいきません!!
(あっという間にサソリ固めに持っていく飛鳥)
さらにジャイアントスイング、そして2段ロープからのバックドロップと飛鳥は怒涛の攻撃を繰り出します。血を流しても、飛鳥おそるべし! やっぱり飛鳥は強いです。
昨年までのダンプならば、ここでフォールをとられていたかもしれませんが、これはなんとか返します。
宮本「ダンプもなかなかしぶといですね」
志生野アナ「本当ですねぇ、ちゃんとやれば相当な力をもってますね」
今度はダンプが反撃。珍しくパイルドライバーを敢行。しかしこれでは決まりませんでした。
飛鳥も頭にきたのか、ダンプが最も苦手とするパイルドライバーでお返し!!
ここでクレーンが反則であると分かっていて、飛鳥の邪魔に入りました。あとからよく見るとダンプはちゃんと意識があったし、足もロープにかかっているので、もしかすると3カウントは入らなかったかもしれませんが、瞬間的には難しい判断です。
しかしクレーンは立場的に、ダンプのヒールNo.1の地位を傷つけないようにしたんじゃないでしょうか。これで反則を取られても、ダンプが反則をしたわけではなく、クレーンが反則をしたということになりますし、そこまで読んでの行動なんじゃないかと思います。
さらにいうと、延長戦が始まってから、赤コーナーの長与千種がすぐに出ていこうと鼻息を荒くしていたのも、クレーンは見ていたと思います。つまり自分が出ていれば、試合がぐちゃぐちゃになることも読んでいると思います。クレーンって、こういうところは仲間思いだし、流れを読む力があって優秀なNo.2なんですよね。
案の定、居ても立っても居られない、トンパチ長与がハサミを持って乱入してきました。
クレーンの思惑通りなんじゃないでしょうか。これで長与も反則したことになります。もうリング上は収拾がつかなくなります。
飛鳥や大森まで、ダンプとクレーンの髪を切ったりと、泥沼の髪きりマッチなります。
これはクレーンの反則なのか、トンパチ娘の反則なのか?
というかさ、
ベビーフェイスに刃物は持たせないほうがいいと思うよ(笑)
あいつらは普段は凶器使っていないし、加減ってものを知らないから、見ているこちら側がなにかヒヤヒヤします。デビルだったら全部分かっているだろうから問題ないんですけどね。実際、デビルが横で監視していたようにも見えます。
ハサミで髪の毛を切られたダンプがまたもやマイクパフォーマンス。もう化粧がほとんど取れてしまい、綺麗なジャイアンならぬ、綺麗なダンプになっています。
ダンプ「反則負けだ、反則負け!!」
ダンプ「赤コーナーの反則負けなんじゃねーのか!!!」
クレーンも珍しく放送席で怒ってます。
クレーン「あんなことやって何が反則だよ」
ダンプ「そうだ、お前も丸坊主にしてやるぞ!!」
クレーン「そうだよ、長与が出てきたから同じだろ!」
クレーン「どこが反則なんだよ!」
と言っているように聞こえます。
レフェリー「ただいまの判定を説明いたします」
レフェリー「最後カウントを入れたので、ライオネス飛鳥が完全3フォールで、クレーン・ユウが反則しましたので、赤コーナーのライオネス飛鳥の勝ちとします」
今回、ライオネス飛鳥の勝利となりましたが、本当に勝ったような感じがしません。それもこれもクレーンの見事な割り込みが、長与のハサミの凶器攻撃を誘発させたことによるものだと思います。なにか釈然としない終わり方にさせた、極悪チーム、特にクレーンのクレバーな戦い方でした。最後の珍しいクレーンのマイクでの抗議も、試合をめちゃくちゃにしたいという考えがあったかもしれません。
極悪チームは記録上は負けになったものの、完敗したという感じは全くなく、むしろクラッシュギャルズとの因縁がさらに深まったという意味で、良い試合でした。
次年度の戦いに持ち越しという感じになりますしね。
一方で、大森が空気状態なのが気になります。デビルもジャガーも、1984年の終盤はあまり目立たなかったので、全日本女子プロレスのマットは、いよいよクラッシュvs極悪という構図になっていきます。これはダンプが「いつかクラッシュと極悪がメインを張るような戦いにしたい」とインタビューで語っていましたが、1984年末でかなり近づいたのではないかと思います。
今日の凶器 マイク、スリッパ、チェーン、生卵、ハサミ