
-------------------------
女子プロレスの「悪役レフリー」が体現する"いいもんイジメ"の構造
今回の女子プロレスブームは なんと言ってもライオネス飛鳥 と長与千種の「クラッシュギャルズ」の出現によってもたらさ れたものであるが、彼女たちの ヒロイックなキャラクターを形成する上で、レフリー・阿部四 郎の存在は大きいと思う。
阿部は悪役に味方するレフリ ーである。ダーティーなイメー ジのレフリーとしては、以前か らユセフ・トルコという人物がいたが、ユセフの場合は、外人組がフォールされたときのカウントの速度が、日本組がやられたときに較べて若干遅い。つまり、主観的に見て「外人に甘いカウントをとる」といった程度 の、いわば順法闘争の枠内でダ ーティーな役割を演じていた。
たとえば、悪役の外人レスラ ーが猪木に凶器攻撃を仕掛けたとする。このとき、ユセフは見て見ぬフリをするわけだが、そ の辺の芸に"さりげなさ"が残っていた。十人のうちの六人が気づく程度の不公平なジャッジである。「バッキャロー、何を見てやがんだ!」とイライラは 募っても、「ユセフ=悪役」とキメつけるには、もうひとつ証 拠が不十分であった。
「もしかしたら、猪木が単に運が悪いのかも知れない・・・・・・」と、 十人のうちの四人は、なんとな く歯がゆい気持のまま妥協して しまう。そんな曖昧な"ダーティー"を演じていた。
ところが阿部四郎に関して言えば、そういった曖昧な部分がひとかけらもない。十人全員が「阿部=悪役」とわかるような 役割をふられている。
TVカメラは、阿部が悪役の ダンプ松本やグレーン・ユキに 何やら耳うちしているシーンなどをクッキリと映し出し、凶器攻撃も、見て見ぬフリではなく 真正面で堂々と凝視していながら止めない。観客も「阿部=悪役」という定義を前提に観戦し ているため、クラッシュが阿部に飛び蹴りなどをかますと大歓 声が巻き起こる。
先日、「ダンプ松本・クレー ン・ユウの極悪同盟VSライオ ネス飛鳥・長与千種のクラッシュギャルズ」のタイトルマッチをTVで観ていた。女子プロを じっくりと観戦するのは久しぶりだったせいか、仰天させられ るシーンがいくつかあった。 『レフリーが二人いる』。
主審は正義派のレフリーで、副審として極悪同盟の要請で阿部四郎が付く。大詰めでクラッシュと極悪は大乱闘になり、正義のレフリーもノックアウトされる。それを確認するや否や極悪の一人が起き上がり、クラッシュの一人をフォール。咄嗟に場外から 副審の阿部が登場し、カウントを数えて「極悪、勝利!」。
当然、観客は収まらない。 『コミッショナー登場』。主審、 副審の上に、さらにコミッショナーの審議がつけ加えられる、 とは予想していなかった。ダークなスーツに身をかためた見るからに厳粛そうなオッサンが二人リングに上がってきて、「ただいまの試合の判定について」を、尤もらしい口調で説明した。
僕はそのようなシナリオ構成 を見ていて、火曜の夜にやっている小泉今日子のドラマを思い 出した。「少女に何が起こった か」というタイトルのそのドラ マは、とにかく毎週のようにキョンキョンが周りの登場人物 に、イジメてイジメてイジメぬ かれる。登場人物中の概ね80%は、キョンキョンの敵なのだ。
ドラマの中で、毎週、夜中の十二時になるとキョンキョンの前 に現われて、彼女の腕をねじ伏せながらイヤミをまくしたてて 消えてゆく石立鉄男と、ダーティー・レフリー、阿部四郎の仕事は同種のものであると思う。
石立も阿部も、同じように頭髪に強いパンチパーマをあて、 見るからに悪そうなキャラクタ ーにつくられている。その"いいもんイジメ"の構造は、もは や常識の枠を越え、一種サドマゾの域に達している。観客は、 いいもんの勝利を期待しつつ、 ある時間は悪役の側に立っていいもんをイジメるサディズムを愉しんでいる――そんな気がする。欲求過剰の時代において 「不条理な悪」の役割は大きい。
-------------------------
文春らしい面白い記事です。
阿部四郎に注目し、明らかな悪を行うことで、プロレスがドラマのように仕上げられている、その役割は「石立鉄男」と同種のものであると書かれてます。
確かに石立も阿部もパンチパーマのヤクザもんみたいなオッサンの恰好をしており、主人公をイジメぬくという点では、当時の全女は、大流行した大映テレビのドラマと同じ仕掛けがしてあるのかもしれません。
そして、イジメる側に立って愉しむサディスティックさもあるのではないか、と極悪側の人気についても書かれています。
大映テレビといえば「スチュワーデス物語」が最も有名ですが、今となっては「ダンプ・ザ・ヒール」の第一巻は、大映ドラマのそれのようです。「亀のようなノロマでドジな松本香!!」なんて堀ちえみの役みたいですし(風間杜夫のようなイケメン教官がいないけど)、約40年経過して、クラッシュをイジメていた人が、実はイジメられていたという、ウソのような本当の話が出てくるから、事実は小説よりも奇なりと言えるでしょう。
ちなみにレフリーが2人いた試合というのは、以下のWWWA世界タッグ選手権のことを指していると思います。