1985/4 雑誌「写真芸術」世紀末おんな記録帖 ダンプ特集

1985/4月号の「写真芸術」にダンプ松本が特集されていますので引用してみます。

 

(大迫力の見開き)

 

 

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悪玉。
この女、実に愛くるしい顔をしている。
煌々と輝くライトの下、つまりはリング上 ・・・・・・金髪逆立てチェーン振り上げ、口をへの字に結び、凄んでみせるが標的を射る目は澄んでいる。
ダンプ松本。
本名、松本香。
昭和35年11月11日、埼玉県熊谷市生まれの 24歳。サソリ座。
腕をしごきブーンと一振り、ハンセンばりのラリアットが標的の喉笛を撃破する。 あるいは コーナーに獲物を追い込み、 ムンズとつかんだロープに100kgの反動、~~ アンドレばりのヒップドロップは逃げ場を失った獲物を押し潰す。
彼女はプロレスラーである。悪玉である。竹刀で千種をぶっ叩く、拳から突き出たフ ォークは飛鳥の額をブチ破る。彼女等、今をときめくクラッシュギャルズ。
長与千種であり、ライオネス飛鳥である。 

だから、だから観客は・・・多くのクラッシ ュファンは悲鳴をあげる。善玉ファンは泣き叫ぶ。阿鼻叫喚、憎悪の嵐の中、情無用のヒールは勝鬨の拳を突き上げる。


情けは無用さ。女である前にプロレスラー。 フォークが怖けりゃサッサッと逃げな。チェーンがいやならリングを下りろ。凶器は悪玉の証明・・・・・・返り血は勲章さ。顔だろうが頭だろうが知ったこっちゃないね。リングに上がりゃそんな余裕はないんだよ・・。憎まれるのが華、嫌われるのも華。
 

ヒール

キラキラ輝く瞳をもっている。
ヒールに徹する一途さは健気でもある。 東京・目黒の事務所前で、移動の車中で、 会場で、好意のまなざし、親愛の情を寄せる人間がいるにはいる。 極悪同盟(相棒はクレ ーン・ユウ) ダンプ松本の悪玉振りに共感する少女たち、ズベ公風あり暴走族風あり、まれには普通の少女あり。クラッシュギャルズに睡し、立野記代、山崎五紀にひたすら背を向け、ミーハーファンとは違うとばかりに、 善玉ファンを押しのけ、悪玉にすり寄るつまりはファン。

 

ファン? 面倒臭いね。サインもしないし、話しもしないよ。私のファンは 罵声を浴びせてくれる奴。花束の替わりにカミソリ送ってくれる奴。「死ね」 だ「帰れ」だ言ってくれる奴。

 

オーディション
マッハ文朱、ビューティペア、ミミ荻原と女子プロブームの頂点で、スターレスラーは数多くの熱狂的ファンを確得した。少女たちはファンであると共にレスラー予備軍でも あった。
華やかな七色光線の中、極彩色のテープを 浴び、キラびやかなステージ衣裳に身を包み、 歌い踊る彼女たちは歌手でもあり、タレン トでもあった。
昭和55年- 松本香が受けた二度目のオ ーディションには書類選考を通過した184人の 少女が集まった。
合格者は10名。長与千種、大森ゆかりはダンプの同期である。

 

女子プロに夢中になったのは中学生の 頃。
肉体と肉体がぶつかり合う迫力、力と力、技と技・・・・・・緊張とスピード、鍛えられた肉体の限界への挑戦・・ウン、カッコ良かったね。
スポーツが好きで中学時代は水泳、 ソフト。 高校に入ってアーチェリーと、 どれも一生懸命、夢中になってやった
プロレス・・・これっきゃないと思ったね。
一回目のオーディションは高二の時、 結果は不合格、受かるとは思わなかった・・。

当時はジャンボ堀やビューティ・ペア の時代で、みんな体が大きかったね。 ムリないなって思ったね。 もちろん親には内緒・・・・・・ 翌年、高三の時にまた挑戦。 今度は受かった。嬉しかったね。 親はもちろん猛反対。
だけど自分では決めてたからね・・・・・・親 をとるか、女子プロをとるかっていうくらいの迫力はあったね。説得して駄目ならしょうがないって思ったね。
オーディションっていえば『スタ誕』もも受けたよ。合格するとは思わなかっ たけど やっぱり予選で落ちた・・・・・・
歌はウマくないし、歌詞も2~3か所 間違っちゃった・・・曲名はズートルビーの何とかってやつ・・・・・・ 忘れちゃった な。これは中三の時。どうして受けたかって・・・まあ、チャレンジ精神が旺盛だったんだね。

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男プロ

 

女子高校生、松本香が女子プロに憧れを抱いた昭和50年代前半、 世界のマットは燃えていた。
猪木は異種格闘技戦に突入。 格闘技世界一 決定戦・第一戦でWルスカを退け、AT・ジャイアント、モンスターマン、C・ウェップナーと悉くKO及至はTKO。(M・アリ戦は引き分け、W・ウィリアム戦は無効試合)
B・バックランドからはWWFヘビーを奪 取、T・J・シンとはNWFのベルトをめぐ り文字通りの、死闘を展開。
藤波はニューヨーク、MSGにおいてC・ エストラーダを破りWWWF世界ヘビーを 奪取。
馬場はJA・ブリスコを破りNWA世界チャンプの座に輝き、第三回チャンピオンカーニバルではG・キニスキー、世界オープン選 手権ではH・ホフマンを、第五回チャンピオンカーニバルでは鶴田、第六回でA・T・ブ ッチャーを破り優勝。鶴田と組んではザ・ファンクスを破りインタータッグ選手権者に一 やがて三千試合連続出場を達成(昭和55年)す。
多くの女子プロに予備軍の、神的存在であ ったビューティ・ペア人気は、マット界が燃え盛る、その真っ只中で爆発した。

 

イノキ? ババ? 全然興味ないな・・・ 上田もシンもわからない。だいたい男プロは殆ど見たことないね。だから知らないレスラーも多いよ。テキサス・ アウトローズ? 知らない。このコスチュームは私たちのアイディア・・・・・・髪は自分で染めたけど......。
だいたい女子プロの子は男プロを見ないみたい・・・・・・夜は試合があるし。

 

少女

かつて善玉中の善玉ビューティ・ペアに憧れた彼女はなぜ、今悪玉なのか......。
あるいは、かつて総師としてデビル軍団に君臨
、女子プロ史上最高のヒールとまでいわれたデビル雅美はなぜ、今善玉なのか......。 中学、高校を通じて、高校生の時にはアーチェリー部の部長をつとめ体育委員長にもなったというスポーツ少女の経歴からは悪玉の気配は漂ってこない。
『スター誕生』のオーディションを受け、 女子野球、 ニューヤンキースのテストすらも受けたスポーツ少女にはむしろ、明るく健康的で積極的な・・・・・・誰からも愛されるベビーフェースこそが似つかわしくはあるまいか。
パワー、テクニック、レスリングセンスと 三拍子揃った稀代の悪玉デビル雅美には、ストロングスタイルこそが似つかわしかったように..................。

花束や、熱い声援に恵まれる立場、つまり、 正統流レスラーへの可能性を、彼女に似合う一生懸命さで、彼女の好きなチャレンジ精神で、なぜ望まなかったのか......。
 

イヤだったよ・・・・・・最初はね。
人から憎まれるのがイヤだった。

私の長所はね、明るいこと、どんな時にも落ち込まないこと・・・・・・短所は気が弱いこと、臆病なこと・・・
一時期、柄にもなく落ち込んだ時期が あってね......オーディションに受かった後はプロテストがあるんだけど、それに落ちた時・・・・・・女子プロやめる子もいるんだけど私はどうしてもリングに上がりたかった。
私は免許があったから会社に頼んでね、 宣伝カーに乗せてもらったんだアルバイトで......三か月位だったかな。 女子プロの仕事なら何でもいいと思ってね。毎日〈地方の町を、宣伝カー走らせ夜は雑用。
女子プロに見放されたら、もう何も残 ってないっていう追いつめられた気持 ちだったね。
それまで自分の好きなことやってきた から・・・・・小さい頃はカエル捕まえて、 皮ひんむいてザリガニとりばかりやっ てたし、勉強もしないで男の子と野っ原駆け回ってね・・・・・・ソフトやったり、 ドッチボールやったり体を動かし ている時が一番楽しかった。
それが、中学の時から目標にしていた 女子プロのマットに上がれないんじゃね。
まあ、オーディションもプロテストも落第生だったけど、プロテストに落ちた時は初めてオーディション落ちた時 よりつらかったね。
でもそんなこんなでプロテスト受かっ た時は嬉しかった。オーディションど ころじゃなかったね。
まるで天国と地獄だね。
だから悪玉は気が進まなかったけど、 好きなマットに上がれるワケだから・・それにやるからには、徹底しなきゃ っていう決意だね。
去年、本格的にイメチェンしてね。リ ングネームも本名の松本香からダンプ松本・・・髪の毛染めて革ジャン着てね、

本格的に悪に徹しようと思ったね。ダンプの様にね、突進するだけだってね。 今は充実してるね。人気も出て来たし 「帰れ」コールとかね、「殺してやる」 とかね......
とにかく憎まれるのは嬉しいね......
一生懸命やるだけだね。
女子プロを辞める人間? いるよ......
別に何とも思わない。
自分でやめたいと思ったらやめりゃい いしね。
自分で選んだんならね、しょうがないよね・・・・

 

 

質問

●初恋

小学校四年生。 相手は同級生。
●好みのタイプ
人間味のある温かい人。体のガッシリしているスポーツマンタイプ。
●趣味
パチンコ。
●好きな服装
Gパン、ラフな格好。
●住まい
東京・目黒のワンルームマンション。
●酒
飲まない。
●タバコ
人が吸っているだけで気分が悪くなる。
●好きな歌手・俳優
中村雅俊、おかわりシスターズのミキちゃん
●親孝行
親には結構苦労をかけたからね。去年はハ ワイ旅行をプレゼントしようとしたけど、ハワイはヤダって。妹と妹のボーイフレンドにプレゼントしたよ。
●愛読書
別にナシ。
●プロレス雑誌
自分が出ているページだけ見る。
●好きな食べ物、飲み物
果物、焼肉、ジュース。量は普通。
●女子プロ以外の職業
考えられない。
●男だったら 

野球選手。
●アイドルタレント
芸能人は大切にされるから、うらやましい。
●暴走族
人に迷惑をかける人は嫌い。
●風俗ギャル
仕事だろうから・・・・・・別になんとも思わない。
●今、一番やりたいこと
おかわりシスターズのミキちゃんに会いたい。
●恋愛
今はプロレスあるのみ。
●結婚
考えられない。
●出産
もちろん考えられない。
●10年後の自分
とにかく、今は、プロレスあるのみ。
●好きな言葉
苦しみの中から喜びが生まれる。
●女子プロに入って一番良かったこと
悪玉・ダンプ松本としての今・・今迄・・・・・・いろいろ辛かった。

 

悪玉再び
今回の取材記事、どういう風に書いて欲しいか、というバカな質問
「憎々しげに、とにかく憎たらしく」
とダンプ。
この女、実に憎々しい顔をしている。
煌々と輝くライトの下、逆立つ金髪天を突き、チェーン振り上げ阿修羅の形相。標的を射る目は血に飢えた極悪狼。女金狼ダンプ松本。
腕をしごき、ブーンと一振り・・・・・。

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それほど目新しいことは書いていませんが、

 

・スター誕生で歌った曲はずーとるびの曲

・男子プロレスは全く見ない。

 

長与は男子プロレスを研究しまくったらしいのですが、ダンプは全く男子プロレスは見ていなかったということで対照的です。

長与のやられっぷりは猪木の美学に通じるものがあるし、シュートスタイルは当時流行していた前田や佐山から取ったものでしょう。一方のダンプは、ブッチャーを多少は参考にしている感じはしますが(フォーク攻撃など)、タイガージェットシンや上田馬之助すら知らないと話しています。確かにダンプの悪役ぶりは、男子プロレスの抗争劇とは全然違って、ただ黙々と相手を痛めつけて、最後に逆転すらさせてあげない、という全日本女子プロレス特有のものに感じます。これはショー的にも、世界でもあまり例を見ないプロレスではないかと思います。

つまり、変に男子プロレスを意識することなく、自分の世界を構築したという点が良かったのかもしれません。

ダンプはビックリするほど攻撃的な悪の大親分なわけだけど、見た目の体型や、女性であるというフィルターからか、憎いんだけど、なぜかコミカルな感じがする、不思議なレスラーです。それまでのレスラーをあまり参考にしていないから、独自路線を築いたというか、ヒールなのに明るいのです。陽の明るい光を放つ、巨悪レスラーは後にも先にもダンプ以外にはいない感じがします。

 

・最初は憎まれるのが嫌だった。

ダンプ自身が「自分はデブで美人ってわけでもないから、最初からヒールを選んだ」と話されていますが、最初は憎まれるのは嫌だったと話しています。これは本当に初期の初期の話でしょうね。同期のライオネス飛鳥や大森ゆかりをみれば、レスリングセンスはどうみても彼女らのほうが上に見えたでしょうし、アイドルではやれないと感じたようです。

人に恨まれるのは「嫌」だったようですが、プロテストに何回も落ちたことで、「嫌」でもプロレスができないよりはマシ、だと考えが切り替わったと書かれているように見えます。

 

写真部分を少し拡大してみます。

 

 

 

 

 

 

ダンプがリングで輝いていることを、このカメラマンは表現したかったのではないかと思います。どの写真もダンプらしさを捉えていると思います。