その①の続きです。
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ナナメから見ると
頭切ってもシャンプーで治る
凶器攻撃や流血も、最近の女 子プロレスでは珍しくなくなった。それでなくても十分過激なのはたくさんいるのに、女はますます過激になりつつあるらしい。
「向こうが逃げればいいんです けどね。あたっちゃうんで。私もこの間、頭を切りました。 場外乱闘の時、鉄柱とリングのワイヤで切っちゃったんです。リングを組んでるワイヤが古いから、ささくれだってトゲみたい になってるんですよね。バケツの角でも、よく切ります。あれ、三回ぐらいたたくと、胴のところのバケツを合わせてるところが離れちゃって、そこだとよく切れるんです。でも、頭をバケツで切ったぐらいなら、 その日に、シャンプーすれば、すぐ治っちゃいます。リンスもしますよ」
本名は松本香。昭和55年埼玉県熊谷市生まれ。二十四歳。市立東小学校 - 富士見中学校を卒業して昭和54年5月、女子プロ レスに入った。小さいころから 「元気な女の子」(ダンプ)だったそうだ。近所に男の子が多か ったため、女の子らしいママゴ ト遊びなどはあまりしないで、 もっぱら木登り、サッカー、野球、ザリガニ捕りにスズメ捕りで遊んでいたという。中学時代は水泳部。種目は平泳ぎ。兄弟は三つ違いの妹と二人だけ。との妹は地元のバス会社でバスガイドをしている。
女子プロレスに魅かれたきっかけは、テレビで見た"マッハ文朱の雄姿"。
「カッコよかった。こういうふうにしながら仕事をやっていけ のいいなと思ったんです。OLとか座って仕事をするのは自分に向いてないんです。両親は反対しましたが、自分の人生ですからね。旅が多いということもわかってましたが、プロレス が好きだから気にならなかったですよ」
しかし、実際に入ってみる と、さすがに厳しかったよう だ。練習はもちろんだが、とく先輩、後輩の礼儀とケジメ。
「毎日、怒られて。 荷物運びが 遅いとかね。ある程度、予想はしていたけど、それ以上でしたね。先輩に嫌われると、辞めさせられちゃいますからね。私だ って、嫌な人は辞めさせちゃいますよ。そういう人はいてもしょうがないから、オマエは辞めろと毎日いい続けて辞めさせちゃいます。厳しいですよ。最初は先輩がこうだといったら、それが間違っていても、ハイといわなくちゃいけないんです」
いま、年収は同年齢のOLの五倍ぐらい。税金だけで新人の 給料と同じぐらい払うという。 お金を使うのは食事とタクシー 代と服ぐらいのもの。といっても食事には別に気を使っていない。好きなものを好きなだけ食 べるスタイル。
「夜10時に宿舎に戻って、朝11時には次の試合の会場に出発ですからね。疲れちゃって、何がからだに良いかなんて、考えてられないですよ。やせたい人は ダイエットしてますけどね」
妹の広美さん(二十一)「私にとっ ては、一言でいうといいお姉さんです。小さい時から親が共働きだったんで、遊びに行く時も 私が一人にならないように、 いつも一緒に連れていってくれました。
親孝行なんです。お母さんは、からだが小さくて弱いんですが、女子プロレスに入ってすぐのころ、お母さんが入院した ことがあって、お姉さんはつきっきりで看病してました。私はそういうのはワリと平気なほうなんですけど、お姉さんは心配して泣いちゃったりしてましたね。
家では青春ドラマなんかよく 見てます。『スクール・ウォーズ』とか『不良少女と呼ばれて』とか。『スクール・ウォー ズ』を見てて、泣いちゃったりするんですよ。
だけど笑い上戸なところもあ るんです。『笑っていいとも』 みたいな番組に出たりする時は、笑いをこらえてるみたいなんです。
女子プロレスに入る時は、親も先生も友達も、みんな反対したんですけど、いまは両親も応 援してますよ」
マエから見ると
女子プロレス悪役の中の異端
女子プロレスの最近の異常人気には、悪役ダンプもとまどい気味である。
「給料への影響を考えると、いいんですが、ギャーギャー、キャーキャー、ハッキリいって、うるさいですね。ウンザリします。盛り上がることはいいんですが、悪役としていわせてもらえば、うるさすぎますよ。何をやってもキャーキャーいうだけで、ただ実物を見に来ているだけみたい。もっとプロレスそのものを見てほしいですね」
それにしても、よくもまあ、 あんなヒドイことをと思うようなことを平気でやってのける。 それを可能にする"悪役精神" とは、どんなものだろうか。ダ ソプ松本の場合は、単純明快 に、相手に対して思いやりの心など持たないこと。
「ふつうは、こんなにやったら カワイソウだなどと思うんです が、それを思わないことです。だから、私はザマァミロと思いながら、痛くて当たり前と思いながらやってます。相手がギブアップすればいいのに、こっちにかかってくるのは、まだヤル気があるからというだけのことですよ。
普段だって、相手とは仲がいいということはないです よ。こっちも、プロですから、 年がら年中、リングの上みたいなことはやってられませんが、 クラッシュたちとは、試合以外の時は滅多に口をききません」
サインはしない主義。オフの 時に、あまりうるさくファンがつきまとうと、「私はいってわからなければ殴り飛ばすことにしてます」とウソブく。泣きわ めくクラッシュ・ファンを無視して悪役に徹するダンプ松本 は、いまの女子プロレスブーム の中で、もう欠かせない存在である。
フジテレビの女子プロレス中 織の担当アナウンサー(フリー)、 志生野温夫
「私は女子プロレス のアナウンサーを始めてからも う十年になりますが、ダンプは 日本の女子プロレスの悪役の中では、ちょっと異端なんです。男子のプロレスでは悪役はだいたい外人と決まっていたんですが、日本の女子プロレス では昔から日本人がやっていて、非常に技のある選手がやってきてたん です。ところが、ダンプは技はあまり持ってない。
またデビル雅美も、かつては木刀を持って入場して来ました が、それを試合で使うことは絶対になかった。しかし、ダンプの場合は凶器を実際に使う。この点も今までの悪役とは違うわけです。
でも、これは、実はクラッシ ・ギャルズのやり方と似ているんです。
今は男子のほうでもシューティングといって、相手の技を受けてやる必要なんかぜんぜんない、本気のプロレスをやろうと いう流れがあるでしょ。クラッ シュたちも、そういうやり方で出てきましたし、ダンプも相手にダメージを与えるために凶器を本当に使うという点では、その精神はクラッシュたちに通じるものがあります。
でもダンプは、普段は本当に人がいいですよ。
最初のころ、オーディション 受けてもなかなか合格できなく て、会社から何度も辞めろといわれたのに、運転手でもいいから置いてくれと二年も三年も粘 って、一生懸命にやってきた選手なんです。その点はみんな認めてますし、そんなところを今も残しているから、凶器を使ってもヘンなシコリが残らないんです。
そんな人のいいコが、あんなに過激なことをやるのは、やっぱりリングに上がる直前に、どこかでパッと変わるんでしょうね。プロの格闘技というのは、 そういう人でないとダメなんです。いつまでもサメてちゃできない。巨人の江川みたいな人間にはできないですよ」
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週刊サンケイのインタビュー記事はなかなか面白いですね。
どこまでが本当かは微妙なところがありますが、志生野さんや妹さんのインタビューは、おそらく雑誌社が勝手な改変はしていないと思われます。
●先輩が厳しい
「先輩が想像していたよりも厳しかった。先輩に嫌われると辞めされられちゃう。自分も嫌な人はやめさせる」と書かれています。
これはおそらくプロレスや集団生活に向いていないと判断した人は、辞めらせられるということではないかと思います。一か月も興行で顔を合わせ続ける複雑な人間関係の世界ですから、一定数のどうしようもないヤツというのは入団してくるわけで、そういう人はみんなから嫌われてやめる方向になるのではないでしょうか。考えてみると、普通の会社でも同じです。気に食わないヤツがいる場合、サラリーマンでも相手を追い出すか、自分が逃げるかになるでしょう。
●妹さん(広美さん)の証言
ダンプが先日(2023/6)に「ぽかぽか」という番組の「お母さん大好き党」コーナーで、母親思いである演説をしていましたが、昔から全く変わっていません。本インタビューの妹さんの証言からも分かります。また「スクール・ウォーズ」で涙したというのも、これまたいまも変わっていないですね(^^)。
「笑っていいとも」のときは「必死に笑いをこらえていた」と書かれています。しかし、タモリのネタをことごとく耐え抜きましたから、さすがはダンプです。クレーンと阿部四郎は途中で笑っていましたからね。
●凶器攻撃をしながら「ザマーミロ」
ダンプの凶器攻撃はマジモンであることが書かれています。
(とはいえ、プロのヒールですから、その辺は差し引きで考える必要があります)
このあたりは男子プロレスとは違うというか、全日本女子プロレスの生々しさが漂います。「痛いならギブアップしろ」と書かれていますが、これで興行として成立してしまうのが全日本女子プロレスの選手たちの凄さですね・・相当に厳しい世界であることが分かります。
●志生野アナの証言
ダンプは技をあまり持っていないという点は、きちんと言及していますね(^^;
志生野さんの証言は、私が「1984年のまとめ」の項目で「なぜダンプが成功したのか」という記事で書いたことと、ほぼ同じようです。
「ダンプは会社からも辞めろと言われていて、それでも一生懸命やってきた点はみんなが認めている。だから凶器を使っても変なシコリが残らない」とも書かれています。特に55年組のクラッシュギャルズと大森ゆかりに関しては、同期としてダンプが苦労していたところを見てきているわけですから、どんなに凶器攻撃をされようが、その試合で反撃することはあっても、のちに遺恨を残すようなことはほとんどなかったと思います。長与の髪切りマッチに関しても、どこまでがストーリーで、どこまでが憎しみ合いだったのか、なかなか読めない点もあります。