1985/6/10号の雑誌「平凡パンチ」に阿部四郎の特集がありましたので引用します。
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"共産主義という妖怪がヨーロッパを席捲している"という『共産党宣言』の出だしにならえば、阿部四郎という恐ろしい怪物が女子プロレスのマットを蹂躙している。彼の素顔を探ってみると・・・。
女子プロレスのもうひとつのスター
阿部四郎 悪役レフェリー
俺の裁定に難クセをつける奴は地獄に堕ちろ
猪木の新日本プロレス、馬場の全日本プロ レス、佐山サトル、藤原喜明のUWF。男子プロレスのサバイバル闘争も苛烈だが、女子プロレスのリングの上の抗争も熾烈を極めている。人間凶器=ザ・ロード・ウォリアーズ、 歩く人間山脈=アンドレ・ザ・ジャイアント、 WWFのヒーロー=ハルク・ホーガンなど、 男子プロレスは、メインを高給外人に負うところが多い。ところが、わが女子プロレスは どうか。中ソネが提唱する"外国製品を買い ましょう"運動に真っ向から異を唱えて、外人にはまったく頼らず日本人同士の抗争でフ ァンの血を沸きたたせる省マネぶり。その呼びものの試合が、クラッシュ・ギャルズ対ダンプ松本率いる極悪同盟だ。極悪はWWWAタッグチャンピオンの座をクラッシュ・ギャ ルズから奪取したこともあったが、陰になり日向になりそれを助けてきたのが阿部四郎。レフェリーが味方についているのだから、極悪同盟に利があるのは当然。なんでなんでそん なにエコひいきしてクラッシュをいじめるのだ、阿部サン?
「俺はね、ダンプ松本がかわいそうで仕方がなくてね。あの娘は一生懸命レスラーになりたくてガンバッてたんだ。でも、レスラーに は向かないからといわれて1年間営業にまわされ、ずっと宣伝カーに乗ってた。それでも歯を食いしばって耐えてたんだよな。俺は何とかあの娘を売り出してやれないものかと考えてね、でも、あの顔にあの身体だろ(!?) いっそのこと悪役に徹したらどうかっていったんだ。まぁ、ついでに俺もバックアップし ようって。プロレスやりたいなら善玉だけじ やねぇ。とことんワルになる手もあるさ」
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俺がやられるから会場がワクんだよ
無理が通れば道理引っこむ。リング上の阿部レフェリーの傍若無人、夜郎自大的ないいかげんなレフェリングは目にあまる。
クラッシュ・ギャルズも阿部レフェリーの レフェリングには心底から怒っている。
「あんなやつ大ッ嫌い! バカヤロー、卑怯 モンめ!」(長与千種)
「こんちくしょう! ほんとに殴り殺してやりたい!!」(ライオネス飛鳥)
と憤懣をかくさない。しかし、はなっから 「極悪」の味方という立場を明らかにしているだけに(!?) クラッシュファンの怒りをかうことももちろん承知の上だ。「極悪」がバケツでクラッシュを殴ったり、チェーンで首をしめつけても見て見ぬふり。極悪がやられているときは、身を挺してクラッシュからの攻撃を阻止する。 クラッシュからスリーカウントを1秒以内で取る技など、もはや芸術の域 に達している。
旧来の女子プロレスは、善玉がやられにやられても、最後は一矢報いて必ず勝利するパターンだった。しかし、ビューティー・ ペア の出現で実力至上主義になり、そして阿部レフェリーは、強くてタフなクラッシュにさえ、 ファンの意向を無視して負けを告げる。女子プロレスの新時代なのだ。
つい先日、クレーン・ユウが抜け、極悪同盟はダンプ松本とブル中野のふたりだけになってしまった。が、極悪への加盟希望者はあとを絶たない。元締め阿部の存在は大きい。 6月25日は東京・品川プリンスホテルのアイスアリーナでジャパングランプリの優勝決定戦が行われる。善=クラッシュが勝つか、 極悪同盟が勝つか、見逃せないぞ。
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試合開始前、彼はリングの設置に気を配っ たり、イスの配列に手をくわえたり、切符の手配から会場の警備員に指示を与えることまでする。忙しく会場をめぐり歩くのは、なぜか? 実は、彼は興行師(プロモーター)なのだ。そんなもうひとつの顔を知るわけもない小学生の男の子が、仕事中の阿部レフェリーに小走りに駆け寄り、
「バッカヤロー! 極悪同盟にばっかり味方 しやがって。おまえなんか死んじまえ!」
いうが早いか、脱兎の如く走り去った。と、今まで動ぜぬふうを装っていた阿部レフェリーの顔にカッと赤みがさした。
「なんだとッ! 待てェ、このやろォー!」 拳を振り上げ、もの凄い形相で少年の後を 追い回したのだ。このひとは実生活でも悪役なのだろうか?
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子どもの頃の彼は、勉強嫌いの劣等生だった。二人兄弟の7番目で、着るものはみんな上からのお古。両親にもあまりかまってもら えず、成績も良くない。おもしろくないから 教師には悪態をつき、クラスメートには殴る蹴るの乱暴を働き、どうにも手のつけられぬわんぱくぶりだった。
中学卒業と同時に上京。途中、フラッと降 りたった、千葉県安孫子市の駅前の募集広告を見てそのまま住み込んだ。電線の修理が主な仕事の電機屋。給料は当時2000円だった。7歳になった頃電機屋をやめ、友だちを頼って旅芸人の一行に加わり、使い走りから 役者まで何でもやった。 20歳のとき、奥さん の文子さんと結婚。それを機に興行師となる。 歌手のコンサートやリサイタルを手がけたり しながら、幼い頃からの憧れだった、プロレスのレフェリーに。いらい25年、プロレス一 筋に打ち込んできた。
悪役レフェリーといえど、プロレスを離れるとやはり人の親。家族は人一倍大切にする。 妻の文子さん(46歳)、お義母さんのタケさん (88歳)、長男の秀昭さん(20歳)は結婚して東久留米に。長女の美子さん(25歳)も既に 結婚し、恵ちゃん(3歳)とユウ君(7か月)の母親だ。阿部に可愛い孫が2人もいるなんてちょっと驚きだが。
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おまえら甘ちゃんに、俺たちの生き方がわかるのか!
所沢市の自宅近くには、阿部レフェリーの経営する店『札幌ラーメン どさんこ』がある。
「ラーメンの売上げ? 一日に2、3万円かな。まぁ、大した儲けじゃないよ」
興行師であり、レフェリーでもあり、そし てお店のオーナーでもある、マルチ人間はえらいお金持とみた。空地に所狭しと置かれた 車のおびただしい数! クラウン、カローラ、 コロナ・マークII、オールズモビル、バスが3台............。これといった趣味もないという阿部レフェリーの唯一の楽しみかと思えば、
「うんにゃ、車は仕事で必要だから」
なんと趣味は、
「感謝状を集めることだな」
意外に思えるが、幼い頃から劣等生のレッテルを張られ他人に誉められたことなどついぞなかった彼にとって、感謝状をもらうというのは、心から嬉しいことらしい。煙草や酒は一切やらない。そんな金があったら、貧しいアフリカの子どもたちに寄付すればいい、 と町の慈善家らしいことば。チャリティー公演などのボランティア活動が成功し、感謝状もたくさんある。
リングを離れた阿部レフェリーの素顔は、 気のいい田舎のオジサンだ。160センチ 95キロの小太りの身体に、つぶらな瞳。汗をふきふき話すさま、孫を抱き上げているとき・・・。
その阿部レフェリーから若者へのメッセージは、 「礼儀作法を知ってなきゃだめだ。そして人を裏切るな」
複雑な心境になるが、その通りですね。
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本号では阿部四郎の知られざる素顔に迫っています。
極悪同盟といえば、ダンプやクレーンといったレスラーに注目が集まりがちですが、阿部四郎は重要人物の一人です。
彼は日本で最も有名なレフェリーになったと思います。
自らが目立つことも好きだったのでしょうし、ダンプとともにアイデアマンだったと思われます。極悪の演出のどこまでがダンプの考案で、どこまでが阿部四郎の考案なのか分かりませんが、日本のプロレスにおいて革命的なことを始めた人です。
彼は元々が興行師ですから、ドサ回り的な女子プロレスに対して、どのようなアプローチをすれば観客受けするのかを、長年の経験で学んでいたと思われます。その才能が開花したのが、1984年です。ダンプとクレーンがヒールとして才能を開花させるのと同時に、阿部四郎も才能を開花させました。
警察から多くの感謝状をもらっているのにも驚きです。
どこまで真実なのかは分からないのですが、慈善家だったと書かれています。ビューティペア、クラッシュ時代は一試合1000万くらいの収益があり、興行師は300万程度の収入、それを年間数試合していたのだから、けっこうなお金になったのかと思います。とはいえ、浮き沈みの激しい業界ですから、興行しても借金だったりと、山あり谷ありの人生だったと思われます。また、コミッショナーのウエダとケンカをしていたレフェリー業は、ノーギャラだったと話されています。
人のいい阿部四郎さん、最後は全女の保証人となって、2000万くらいの返済をされたそうです。