1985/7/5 雑誌「週刊平凡」悪魔メークにかけた青春 ダンプ松本の巻

1985/7/5号の雑誌「週刊平凡」にダンプが特集されていたので引用します。

 

当時のダンプの取材は「恐怖だった」というものが多いのですが、週刊平凡の本記事はダンプ松本ならぬ、松本香の本来の姿を克明につづっています。

 

 

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あー、イヤだ、イヤだ。今日ばかりはもイヤだ。できることなら逃げたしたい気分だよ、まったく。なんたって今回は、過激、狂暴、残酷、極悪の"ドァンプ松本"だあー。このページのタイトル、"オソロシ人間大接近"に変更したいーい。今週はキョーフの一日付き人。あ、いけね、生命保険に入るの忘れちまった。

 

やさしさを捨てさせる

"悪魔メーク"にかけた青春!

ダンプ松本の巻

 

こんなツライお仕事、上から命令でもなければ、だれがやるかっつうの。
これがクラッシュギャルズな ら話は別、トーゼン喜んでハセ参じちゃうとこなんだけど。 じつは、このタイトルをまだ先方に伝えてないんですよね。 だいたい、恐ろしくって口が裂けたっていえやしない。"オモシロ人間"だなんて・・・・・・。
・・・・などと思ってる間に、ああ、マズイなて、着いちゃったよ、待ち合わせ場所に。

 

■午前10時15分
渋谷ビデオ・スタジオ。ダンプは・・・いや(いまのうち慣らしておかなきゃいけないな。なにしろ、まちがって呼び捨てにでもしたらタイヘンだ) ダンプさまは、テ レビドラマ『花の女子校・聖カ トレア学園』(テレビ東京系)にご出演の予定だった。

 

10時の待ち合わせ時間なのだが、少し遅れている。いっそのこと、このまま来なけりゃいいのになァ、ビクビク・・・・・・
なんて思ってたやさき、やってきましたダンプさま。「おおっ と! 掟破りの」とでも申したい気分でありますが、ワタクシ古舘伊知郎ではありません。ただの付き人ですが・・・。


「あっ、おまえか! コノヤロー!! このダンプさまのどこがオモシロなんだ。命がけで真剣に闘ってるプロレスラーをつかまえて、何をいいやがるんだ!!」
という展開を予想した付き人は思わず身構えたのだったが、それは違っていた。

 

「あ、どうも。はじめまして、ダンプです」
 

ガクッ。意表をついた攻撃ではあった。

 

■午前10時45分
この日のダンプさんの役柄は野々村誠ふんするカトレア学園の教師が、「ダンプ松本はスケバンのなれの果てだ」と侮蔑した場面で、後輩のブル中野さんと怒りの乱入をするというも の。そんなストーリーとはもちろん出演者全員だれひとりとし て知らない。
メークを終えたダンプさんとブルさんは、真剣な顔付きでプロデューサーの説明を聞いている。

 

■午前11時
すでに始まっている撮影現場の裏口からこっそり潜入。機をうかがいながら、虎視眈々と出番をねらっているふたり。 「ゴー」。
フロアディレクターか らの合図が出るやいなや、怒濤のような勢いで突入。その瞬間、スタジオ中に悲鳴の渦が巻き起こった。
その中でいちばん大きな悲鳴はいうまでもなく野々村誠。必死の形相で逃げまどいながら、「わァ、ゴメンナサイ!許して・・・だって台本が・・・・許してください! ギャー、ダンプさん、バンザーイ」
さすがだ。
ダンプ・ブルコンヒは究極の芸に達している。そして野々村誠のリアクションはすでに演技を超越している。みごとだ。
今後、彼を目標にがんばろうと決意する付き人だった。
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やさしさのない人間にワルは演じられない!

 

■午前11時30分
撮影終了後のダンプさんたち の控え室に、出演者たちがつぎつぎと集まってきた。その中に
野々村誠の姿を見つけたダンプさんは、
「大丈夫だった? 驚いたでしょ」と声をかけた。さきほどとは打って変わった優しそうな笑顔だ。

 

■午前11時45分
スタジオを出たダンプさんは、近くのブティックへ。シャツやパンツを手に取っては、
「わて、かわいい」
を連発。

ほとんど時間をかけずにシャツとパンツ、ジャケット、それぞれひとつずつを買うととに決めた。
 

ーダンプさん、試着はしないんですか?
 

「うん。とくにこの時期は汗ばんだ 体で試着したら悪いでしょ。サイズが合わなかったら、そのときはそのとき。だれかにあげちゃうからいいんです」と照れくさそうにいう。この気配り、だれにでもできるというものじゃあり ません。またまたこの人の優しさを実感する。
と、そのとき、店内に流れていた有線放送から、クラッシュギャルズの歌が流れるというハプニングが・・。

「あっ、クラッシュの新曲だ」
一緒にいたブル中野さんが、 リングを離れている余裕からか、うれしそうな声でいう。 すると、
「ブル、ちょっとマズイよ」
と、ダンプさんがとたんに険 しい表情になってたしなめるという一幕が・・・。
優しさの半面、こんなところにも、もちろんプロの厳しさが ある。
 

■午後1時

目黒区にある『全日本女子プロレス興業』に到着。
事務所前には、路上にあふ れるほど大勢のファンが押しかけていた。
車から降りた ダンプさんを見つけたファンたちは、口々に「憎たらしい」、「大キライ」と、もちろん本人には聞こえないように小声でいい合 っていた。
事務所横にある自動販売機に は《ダンプ死ね!!!》なんていう カゲキな落書きがあった。ちょっとイジョーな興奮だ。

 

-度を越したファンの態度に腹を立てたことはないですか?
 

「ああいうのは、かえって刺激剤になるから......」
余裕の笑顔で答えた。
もういちど自販機を振り返ると《ダンプ死ね!》の横に《千種結婚して》なんてのもあった。これも、イジョーな興奮といえなくもない。
 

■午後1時45分
今日は6時から茨城県の水海道市で試合が予定されている。 女子プロの大型バスに、ダンプさんはだれよりも早く乗り込んだ。
すかさず付き人も一緒に乗ろうとすると、

「ここから先は男子禁制だから」

と制止された。
一そんなことをおっしゃらずに。犬と呼んでください。
一生ついていきます!

 

「ちょっとだけですよ」
 

なんとかお許しをもらった。 ダンプさんはこれから移動中に 仮眠を取るという。ふつうのバスよりも大きめの座席を2人分(スター選手の特権だ)占領して、 器用に横になった。
い表情だ。
寝顔は、意外に(?)あどけない表情だ。


観客を熱狂させるパワーはクラッシュ以上!?


■午後2時15分

水海道に向けて出発。

もちろん、付き人はバスに便乗はできない。別の車で追いかける。後ろからバスを見ていると心なしかダンプさんが乗っている側が傾いているように感じた。
 

ダンプ松本=本名・松本香。昭和35年11月11日、埼玉県生まれ。身長163センチ、体重100キロ。 血液型B。女子プロのオーディシ ヨンは4回の挑戦のすえ、執念で合格を果たした。いまや人気絶頂 のクラッシュギャルズの対極にいる"悪のスーパーヒーロー"だ。 

 

■午後4時
水海道市のイトーヨーカドーに到着。なんと、この屋上で試合が開かれるという。 青コーナー側と赤コーナー側とに分かれて、それぞれが特設の控え室に入っていった。例によって、付き人は立ち入り禁止だ。
連日(この日まで連続12日間)の試合の疲労がたまっていたのか、ダンプさんは控え室に入ってすぐ仮眠を取る。

 

■午後6時
試合開始。
ダンプさんたち極悪同盟の試合は7時ごろに予定されていた。
同行した当編集部のカメラマン、控え室のドアを開けて姿を見せたダンプさんに、
「すみません、この付き人をイタブってるという場面を撮影したいんです。"上"からの命令でして・・・・・・」
なんてよけいなことをいいだした。
ありがたくないことに、ダンブさん、これを快諾。
-手かげんしてやってくださいよ。
と思わず哀願してしまった。 竹刀を振りかざしたその瞬 間、アノ悪魔メークの中にブキミに鋭く光る瞳を、付き人は見 逃さなかった。

 

イタッ!!
1発、2発・・・・・・ その容赦ない"反則攻撃"は お尻を目がけて 合計8発も続いたのだ。
「アレッ、痛かった? かなり手かげんしたつもりだったんだけど・・・・・・」
ど、どこが手かげんだっつうの。もう、バカ正直というか、 限度を知らないというか。イテテ・・・。

 

■午後7時15分
極悪同盟登場。
ものすごい怒号だ。
付き人の後ろから、
「パッキャロー! てめぇなんか死んじまえ!」
というぶっそうな叫び声がし た。振り返ると、なんとそこに は清純そのものといった美少女(ホントです)がメガホンを手に 握りしめていたのだ。

その阿鼻叫喚の世界ともいえるリングは、はっきりいって、 メーンイベント、クラッシュギャルズの試合よりも燃えてい た。明らかに観客のボルテージ が高かったように思えてならない。

 

結果は、極悪同盟の反則負けだったが、リングから引き揚げてくる姿は、たしかに勝ち誇ったような表情だった。観客の驚声は、祝福の声援に聞こえていたのかもしれない。
 

■午後10時
試合を8時に終え、また事務所に戻ってきた。

 

バスから降りたダンプさんは そのまま、奥に止めてあった愛車のスクーターで自宅に帰ろうとする。もう、あのメークは落としていた。
 

「そちらこそ、どうもお疲れさま」

 

なんというあたたかいお言葉。
-どうイタしまして。
青アザになったほどのお尻の 痛みも忘れて、付き人は見えなくなるまで、アノ巨大なヒップを見送っていた。

 

「やるっきゃないよ。このダンプからプロレス取ったら、ただデブでしかないんだから」 なにかの場面でもらした言葉だ。


心優しい彼女が、リングに上ると豹変するのを、単に"演技"という言葉ではかたづけらけない。メークをした瞬間から、ダンプ松本はある種の使命を持って自分の役柄を守り通す。それはまぎれもないプロのであるような気がした。

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この時期、ダンプは悪に達していたので、記事も本来の姿を晒すものは少ないのですが、「週刊平凡」という比較的若い人も読む大手の雑誌で、ダンプ本来の姿を晒したのは珍しいかもしれません。

「聖カトレア学園」で野々村誠を急襲したときの裏のエピソードも公開されています。「大丈夫だった? 驚いたでしょ」なんて声を収録後にかけていたところがダンプらしいです。

 

もっとも中高生がこの記事を読んだら、作り話と思ったかもしれませんね。

 

 

写真部分を拡大してみます。

 

こちらは野々村誠が出演していたカトレア学園に出演したときの写真ですね。

 

(目つきが変わってきた。ほらほら、だんだん性格もかわってくる)

 

 

これは聖カトレア学園の本番前に、ダンプとブルがスタッフと打ち合わせをしている写真です。

真剣に聞いているのが分かります。

 

 

(似合うか、なんて聞かれたって困りますよ。ボク正直な性格なんだから)

ダンプがオフで洋服を買い物している一幕。

 

(「アタシは釣りはいらないのサ」とはいわなかった)

ダンプはお金に細かいので、きちんとお釣りはもらうようです(笑) その割には酒とパチンコでお金はなくなったようですが。

 

(これぞ、女子プロが誇る寝台バス。もちろん"クラッシュ"はおりません)

これは赤バスのようには見えませんね。赤バスだと一番後ろに椅子なしで雑魚寝できたはずなので。

 

(さすがサインをねだファンはいない。寂しい"ヒロイン"ではある)

サインは直接は怖くてねだられなかったかもしれませんが、会社の色紙は売れていたようです。

 

 

(闘いに敗れたといえども、この意気揚々ぶり)

 

(悪の味方はDUMP号に乗って-。ナンバーが564(コロシ)と読めなくもない)

ダンプの愛車、ホンダリードは目黒ナンバーの「・564」だったようです。