1985/9/1 ムック「ファイトスペシャル1」極悪同盟特集編

同書のうち、極悪同盟を特集した部分を引用します。


 

 

 

 

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「どうせロクなこと、書きゃしねえんだろ。それならカッコつけた質問ばかりする んじゃないよ!」 ---北海道のとある会場 でダンプ松本を取材したときのこと。


グイッとニラまれたオレは、思わずチビリそうになっちまった。素顔のダンプは、 そんなにおっかない顔をしてるというわけじゃない。仕事が終われば、本名・松本香サンという、れっきとした女性(?)だもんネ。
それが・・・試合用のメークをしているところをつかまえて、最近のクラッシュをどう思う?とか、山崎、立野もずいぶん強くなったねえ、なんて話を聞いているうちに、 だんだんダンプの表情も声もケンアクそのものになってきたってわけ。
 

宿舎にいるときや、街をブラついている ときのダンプは、ビックリするぐらいおとなしいんだよナ。
もちろんニコヤカにファン・サービスを するってわけじゃない。 ジロジロ見ているファンをグイッとにらみつけ、サインを頼 まれても徹底的に無視しちまうけど、決して自分から竹刀を振りかざして暴れたりはしないんだ。
 

そんな姿を見ていたオレは、「ああ、極悪同盟のドンといっても、人がいうほどおっかない女じゃないな」と考えたんだけど、 これはとんでもない早トチリだった。
要するに"松本香"は、控室でメークをしながら身も心も"ダンプ松本"に変身す るのでアル。
ダンプの名セリフのひとつに「ハサミで 相手の額を突き刺すときの気分は? って 聞かれることがあるけど、そんなの意識にないんだよ。ガツッ! っていう音がして、 と気がついたらハサミが刺さってるんだ。いつか、相手を殺しちまうんじゃないかと心配してるんだよ」というのがある。 これで納得がいくってもんだ。"ダンプ松本"の狂乱ぶりは、とても"松本香"の理性じゃ抑えられないわけだね。
インタビューに答える調子も、メークが 進み、素顔がほとんど見えなくなるにつれ て、険悪でドスのきいたものになってきた。 ゴングが鳴ったら、相手のレスラーはもちろんだけど、ファンもTVスタッフもマスコミも、みんながダンプの敵だ。いや、 というよりも、みんなが敵だと自分に言い 聞かせて、さらに興奮状態をハードなものにしていく。
 

中でも長与千種に対する敵ガイ心は凄い。 熱心なファンなら、ダンプが狂ったような形相で長与に凶器攻撃を見舞い、ハサミで髪の毛を切るというシーンを何度となく見 いるはずだ。
そんな遺恨がエスカレートして、8月28 日の大阪城ホール決戦では、ついにカベジ ェラ・コントラ・カベジェラ(髪切りマッ チ)による長与VSダンプが決定!
カベジェラ・コントラ・カベジェラ(語源はスペイン語なのだ)って知ってるかい ?なんと! 負けた方のレスラーは、リング上でバリカンを当てられ、丸坊主にさ れちまうのだ。


メキシコではよく行われる試合形式だけ ど、女子レスラーにとっては、あまりにも過酷なルール。レスラーといってもヤングギャルには変わりがない。大観衆の見ている前で丸坊主にされるなんて耐えきれな いぜ。
おまけに、悪役で売ってるダンプにとっては、たとえ丸坊主にされてもマイナス面が少ないけど、長与にとっては大変なイメ ージダウンだ。
もちろん、そこのところはダンプも十分に計算しているわけ。 こんな形で挑発され たら、長与が黙って引っ込んでおれない性格だということも読んでるんだねえ。
ダンプは「(長与が)髪切りマッチを受けて立つっていうんならいい度胸だよ。だけど賭けてもいい。クリクリ坊主になるのは、 アイツの方だよ」と凄んでみせるだけだが、 どうしてどうして、なかなか"読み"の方も深くてスルドイのだ。
ダンプの鋭い視線をたっぷり浴びて、す っかりビビったオレだけど、クレージーに見せかけて、実はなかなか冷静なダンプの 一面も発見した。

 

このダンプをサポートしているのが、ブル中野とコンドル斉藤の二人だ。
ずっとダンプのパートナーとして暴れきたクレーン・ユウが、4月26日のダンプとの"極悪対決"を最後に引退(レフェリ ー転向)したことは、ご存じのとおり。 ユウが消えたことで、ちょっぴり戦力ダウンが心配された極悪同盟だけど、どういたしまして。
新しくダンプのパートナーに指名された 中野の成長ぶりはビックリするばかりだ。 今年2月に頭を"ブル・カット"に変えて イメージチェンジ。
そのブキミさが、ファイトぶりにも大きく生きて、いまじゃすっかりメーンエベンターの貫録だ。

 

本名の中野恵子でリングに上がり、"パンダ"のニックネームで親しまれていたころ から、どこか悠然と構えていた中野だけど、 ボスのダンプにいわせると「あいつ(中野) はホントに"大物"だよ」とか。
最近はTVやマスコミに追いまわされることの多い極悪同盟。二人そろってのTV出演も少なくない。そんなとき、東京・目黒の事務所で待ち合わせてから局へ出発するわけだけど、なんと中野はしょっちゅう 遅刻してくるそうだ。
「このダンプさんを待たせるなんて、大した度胸というしかないよ。頼もしいねえ」 とダンプがホメる(?)んだからね。
 

もともとノンビリ屋で細かいことには神経をとがらせないという中野だが、そのず太さがあるからこそ、キャリアでは大先輩 のジャガー、デビル、クラッシュなどに対しても平気でケンカを売れるんだろう
いまでも十分、ユウの抜けた穴を埋めている中野だけど、さらにもう少しキャリア を積めば、大変な悪役になるぞ。 ダンプのように"中野恵子"を"ブル中野"に変えてしまう自己暗示をかけるようになったら、 ダンプ以上にコワ~イ存在だ。


そしてコンドル斉藤。 山崎照朝先生から空 手の指導を受けて"ポスト・クラッシュ"の有力候補だったのに、自分から志願して極悪同盟へ。
ファンがガッカリしてるよ、と斉藤に言ったら、鋭い視線でニラまれちまった。 そうだった、浪花っ子のマチ・サイトー (もちろん、かの有名なマサ・サイトーにあやかったニックネームでアル)は、めっ ぽう気が強いんだ。 キャリア2年の若手だ からといって、エラそうなことを言ったら 吹っ飛ばされそう。

 

中学時代から"プロレス大好き少女"で 「週刊ファイト」に投稿したこともあると いう斉藤だけに「本当にやりがいのあるの は、ベビーフェース(正統派)よりもヒー ル(悪役)。キャーキャー騒がれるより憎ま れた方がいい」と、プロフェッショナルら しいセリフもはいてくれたぜ。
今年のはじめまでは"尊敬する先輩"だ ったクラッシュにキバをむいた斉藤----キャリアの差でハネ返されることも多いけど、クラッシュから浴びせられるパンチ、 キックの一発一発が"栄養"になるだろう。 ファンのバ声を浴びながらも、ふてぶてしく生き残る極悪同盟。 女子プロ人気を支 える"もうひとつの力"として、これから も暴れまくってくれ。

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ダンプを取材する多くの記者が、素顔の"松本香"とメイクしたときの"ダンプ松本"の豹変ぶりに驚くと話しています。メイクというのは松本にとっては悪魔になるための儀式であるのでしょう。

女性は(男性もか?)お化粧をすると全く気分が変わるようですから、ドギツイ極悪メイクをすれば、普段の"松本香"という人格は消えてしまうのでしょう。

しかし、良く効く薬には恐ろしい副作用もあったのかもしれません。1987年以降のダンプの心が疲弊する原因の一つにもなったのかもしれませんね。

 

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