1985/11/15号の雑誌「週刊平凡」に金鳥どんとのCMについて記事がありましたので引用します。
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冬の名物CM
どんとの撮影で文珍・のりおを大笑いさせた
ダンプ松本のひょうきん素顔!
寒くなるときまって話題にのぼるのが<どんと>のCM。毎年流行語を生んでいるが、今回はのりお、文珍に加えてダンプ松本を起用した。撮影で見せたリングの悪役の素顔は--?
「よろしくお願いしまーす」とかわいらしい声が、スタジオに響き渡った。声の主を見てスタッフはびっくり。なんと、出演者の中でスタジオに一番乗りした、極悪レスラーのダンプ松本だった。
なにせダンプ松本といえば"悪のスーパーヒロイン"。残忍非情なりングでの暴れぶりは、女子プロレスのファンならずともご存じのはず。
つい先日も、クラッシュギャルズの長与千種ちゃんの頭を残酷にも丸坊主に刈ってしまった。
スタッフ一同、緊張した面持ちでダンプの登場を待っていた。が、そこに現われたのが、ノーメークのかわいいダンプ。みんなホッとしたのも束の間、"迫力なくて撮影大丈夫かなァ?"という心配が頭をかすめてしまう。
<どんと>のCMといえば、弥生時代を舞台にした一昨年の「ちゃっぷい、ちゃっぷい」が大ヒット。昨年の「どんと、ギブミー」も好評だった。となると問題は第3弾。「2つのヒットCMは、時代背景とそ違うが構造的には同じ。今回もそのパターンではしんどいというのがスタッフの同一意見だったんです。そこで西川のりお、桂文珍に加えて、インパクトの強いキャラクターを起用してはどうだろう、となったんです」と制作スタッフの餅原聖さん。
そこで白羽の矢が立ったのが"つよーいキャラクター"を持つダンプ松本だった。そんなわけで、恐怖心を持ちながらもド迫力に期待していたスタッフ一同は、親しみやすいダンプを見て心配が先に立ってしまった。この心配は本番で解消するが、この時点でのスタッフの心配をダンプ自身は知るよしもなかった。それよりもCMの内容まで知らされていなかったのだ。
「ふつうは企画を説明してから出演をお願いするんですが、今回は内容を話す前に、もう承諾をいただいていました」(餌原聖さん)
リング上では無敵の極悪人も猛暑に思わず"マイッタ!"
撮影はまだまだ残暑の厳しい9月15日に行なわれた。この日いちばん恐ろしかったのは、ダンプの凶暴さではなく、スタジオ内の暑さだった。
撮影に立ち会ったスタッフの横田真治さんは、その日のようすを、「音声と同時録画のため、音が入らないようにクーラーを切ったので、スタジオ内はもう夏地獄。しかもエキストラ30人を含めて10人以上の人がひしめきあってるんですからね。暑さのためにエキストラの子供2人が倒れてしまうアクシデントまで起きたんですよ」
出演者は毛皮の分厚いコートを着せられ、帽子までかぶらされて、高熱を発するライトの下に立った。かのダンプもこれにはお手上げ。「いやあ、あの暑さにはまいりました。メークもちゃんとしたのに、汗びっしょりになってしまって、すぐに落ちてしまうほどだったんです。リングの上で暴れ回って汗を流しているほうがずっとラクです」
あまりの暑さに頭にきてスタジオで"極悪レスラー"に変身することは、ついになかった。演出した関口菊日出さんは、
「こちらのいうことに"はいはい"とすなおに返事をしてくれて、とてリングの上の彼女と同一人物には思えませんでしたね」
セリフをまちがえたりすると、「すみませーん」とかわいい声で謝るので、のりおも文珍も、リング上のダンプとのギャップの大きさに唖熱。そのたびにスタジオ中が爆笑のウズに包まれた。
「スタッフからアイスクリームの差し入れをもらったときは、ほんとうにうれしそうな顔をしてとてもかわいらしかったですよ。リング上の顔はあくまで営業用なんですよ、きっと」
企画・制作を担当した堀井博次さんは、フツーの女の子以上にすなおなダンプを強調する。そんなダンプも「どんと、イレンコ」とどなるシーンになると、あのリング上の怖いダンプに変身する。「怖いのなんのってすごい迫力。おかげでいい絵が撮れまし
た」
とスタッフ一同は大喜びだ。
ところで、ダンプが叫ぶ「どんと、イレンコ」のコピーも流行語になりそうだが、スタッフ全員で80種類も考えた中から選ばれたもの。なかには"サムチエンコ、トリハダスキー"、"ワシにもひとつクレバチョフ"、"グリチェンコ"、"ビリビリビッチ"なんて傑作もあったようだ。
「どれを使うか本番直前まで迷いに迷い、全員で合唱すると群衆の恐ろしさが出てくる「どんと、イレンコ」になったわけです。コサック不良合唱団みたいでおもしろいでしょう」横田真治さん)
つぎの出演希望CMは、ダンプならぬスポーツカー!?
この撮影で"寒さ"を表現するとともスタッフにとって苦労のひとつだった。建物も看板も汚れた感じにし、塩で作った雪も真っ白ではおかしいので土をまき、みんなで踏み固めたという。スタジオのセットを作るだけで、まる4日はかかってしまった。
そのうえ署さのため、やっと撮影が終了したころには、スタッフ一同のTシャツに塩が噴き、汗のシミが何重にもできるしまつ。
主役のダンプも、最後には"悪魔メーク"が汗のため薄れチャーミングな素顔をのぞかせ、「いろいろお世話になりました」と礼儀正しいあいさつを残して、極悪レスラーに戻るべくつぎの試合へと去っていったとか......。
さてこのCM、前2作を超える人気作品になるかどうかだが、前出の堀井博次さんは、
「寒くなったら"ブルブルビッチ"とか、鼻水が出て"ズルズルビッチ"なんて、共感を得るんじゃないかと思っているんですすけど・・・・・・」
といい、スポンサーの大日本除虫菊宣伝部の山崎広直さんは、
「なにしろ前作が2作ともヒットしましたから、今回はむずかしいんじゃないかな。ボクとしては1作目を10点とすると5~6点じゃないかと思ってます。「どんと、イレンコ」も前回ほど流行語にはならないでしょう」
と関係者の間で意見が分かれているが・・・。
さて、<日清のタコヤキラーメン>とこの<どんと>に出演したダンプ松本のつぎなるCMはというと、「カッコいいスポーツカーのCMに出演してみたいですね」
ダンプカーではなくスポーツカーのCMを熱望するダンプだが、暴走族とまちがわれないかな!?
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CM撮影の裏側をかなり詳細に掲載しています。
まずCMの出演に関して内容は知らされていないとのことです。おそらく全女の事務所が仕事を受け、ダンプにやらせていたと思われます。「タコヤキラーメン」のときもダンプは素顔を出すとは知らずに演出されたと他の記事に書かれていますので、当時の松永社長やロッシーの意向で決まってしまったのでしょう。
これが後々、ダンプが全女に不信感を持っていく原因のひとつになるのかもしれません。
スタジオに入る前は当然極悪メイクをしていないのでしょうから、スタッフは素顔のダンプを見て、「かわいい」と思った一方でCM的には「迫力がなくて心配」となったようです。撮影のときは「怖かった」と書かれているので変身できたようです。
また、スタジオは音を出さないためにエアコンを切ったため、防寒具を着ているのは地獄だったようです。これにはダンプも「マイッタ」ということらしいです。アイスをもらったときはうれしそうな顔を食べていたとのことで、2本目のCMにもなると、だいぶ慣れていたのでしょうか。
金鳥の広報さんの話だと、「流行語にはならないだろう」と話していますが、「どんとイレンコ」はそこそこは流行ったと思います。"サムチエンコ、トリハダスキー"、"ワシにもひとつクレバチョフ"、"グリチェンコ"、"ビリビリビッチ"よりはワンフレーズとしては、よかったのではないかと思います。