1985/11/26号の雑誌「週刊プロレス」に全日本女子プロレスのWWF進出の話が掲載されていましたので引用します。
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すでに寝られていたWWFの「日本興業、来年12回」プラン
女子プロをパイプ役にフジサンケイグループに急接近
このところ、高まるばかりなのが、WWF日本進出の噂。実際、いま考えるとWWFの新日本に対する契約打ち切りは"日本侵略"を目的とした計画のひとつだったのではないか、と思われる節がある。例えば、新日本との提携時代から、来日する外人レスラーの間では「WWFが日本で興行をうちたがっている」という噂で持ちきりだったこと。
また、契約切れ後のWWFの動きが、あまりにスムーズなことがあげられる。
契約切れ前から"超目玉商品"のハルク・ホーガンの来日にストップをかけ、契約切れした途端、アンドレ、アドニスらの来日も不可能となった。これにたまりかねた新日本は「これ以上、無用なトラブルは避けたい」と10月31日藤波、木村組のWWFインタタッグ、藤波のWWFインタナショナル・ヘビー、ザ・コブラのWWFジュニアヘビーの各ベルトをWWFに返上する騒ぎに発展。
が、WWFはこれより1ヵ月も早く大物幹部2人を日本に送り込んでいる。9月26日全日本女子プロレス、大宮大会に姿を見せたWWF海外進出部門副部長ジェームス・E・トロイ氏とWWFのビデオを米国内で一手に配給しているCATVの代理会社「インケーブルテレビ グリッシュ・カンパニー」の代表チェスター・F・イングリッシュ氏がその2人。彼らの表向きの来日目的は、全日本女子プロレスの視察。が、その裏で彼らはもうひとつの動きをしていたのだ。「ズバリ、彼らの来日は日本で興行を打つための市場調査と、そのバックアップのためのTV局との交渉です。彼らは翌27日には、フジテレビをたずね、WWFのビデオ放映と、日本での興行の根回しの要請を行っているんですよ」(事情通)。
WWFが来年、4月に6試合、年の後半に6試合、計12試合の興行を行うプランがあるという。すでにTBS、フジテレビに接触していた。最近の女子プロレスへの接近は、日本プロレス市場への侵略のパイプづくりであろう。しかし女子プロレス側は、「WWFとの協力関係は、あくまで女子のプロレス内でのこと。日本の市場への進攻を手助けすることはない」と断固拒否。果たしてWWFの日本侵略は......。
では、なぜWWFはフジテレビに白羽の矢を立てたのだろうか? 事情通が続ける。
「WWFとしてはむろん、テレビ朝日と日本テレビは最初から除外していた。TBSとは一時接触を持ったが、これはあきらめた、と聞いています。フジとWWFとのパイプは、今年、フジ・サイケイグループの後援で日本相撲協会がMSGでニューヨーク場所を開いた時にフジ側との関係にパイプができた。その線からWWFはフジに協力を頼んだと考えられます」。
ちなみに9月のWWF女子プロレス視察の窓口役となったのは、フジテレビ・ニューヨーク支局長の吉田斉氏。すでにこのラインで、全日本女子プロレスのクラッシュ・ギャルズとダンプ松本はニューヨークを訪問。10月21日には長与千種、ライオネス飛鳥の2人がMSGのリングからファンにあいさつを行っている。こうした事実だけを見れば、WWFがフジのバックアップのもとにMSGビデオの放映、並びに興行を打つことも決してあり得ないことはないように思えてくる。
そして、もしWWEが日本で興行を打つのなら、そのプロモート役は、現状では全日本女子プロレスしかないのではないか......。
フジ、WWFの具体案蹴る女子プロと"業務提携"提案
そこで本誌は、この問題をもっとも良く知る人物に話を聞いてみた。デイリースポーツ事業社代表であり、全日本女子プロレスコミッショナーである植田信治氏である。植田さんはWWFがフジ側に日本での興行をバックアップしてくれないかと相談にいったという話を知っていらっしゃいますか。
「ええ、なんでもWWFはかなりハッキリした日程をフジ側に示したらしいですね」
――その日程とは?
「来年4月に6試合、そして年の後半に6試合、計12試合を日本で興行してみたい、ということだったらしい。その時のトップになるのはハルク・ホーガンというのがWWFの腹みたいだね。ただ、フジテレビの編成局としては、この話をことわったと聞いています。」
――現在、WWFは全日本女子プロレスに接近しているわけですが、これはWWFが日本で興行を打つための一種の交換条件だとは考えられませんか?
「もちろん、それはあるかもしれない。ただ、WWFから直接ウチに対して、その件について話はなにもなかったんです」
――10月の渡米の際も、その話はまったく出なかった?WWFはそのビジネスの強引さでは定評ある団体ですが。
「いや、WWFの扱いは非常に良かったね。クラッシュのMSGリングあいさつもスンナリ決まったし、これを根回ししたジェーム
ストロイはWWF内でもかなりの実力と思ったな。トロイ氏がいうには"お宅のレスラーをCATVで紹介するから、ウチのレスラーも、ぜひリングに上げてくれ"というようなことだった。ウチも前にWWE女子王者のウエンディ・リヒターを呼ぼうとして向こうのスケジュールの都合がつかなかった。今度は出来たらウエンディとマネジャーのロック歌手シンディ・ローパーを一緒に呼ぼうか、なんて思ったんだけど」
――でもローパーのギャラは法外でしょう。
「いや、マネジメント専業だけならさほどでもないらしいよ。ただシンディ・ローパーのファンと女子プロのファンは層がまるで違うから、これはあまり、メリットがないかもしれない(笑)」。
過大評価している日本市場 リスク大きい日本での興行
――WWFも女子プロレスの分野は、もうひとつ人気が上がっていないようですね。
「そうなんだよ。だからWWFもウチと接触することで女子プロのテコ入れを狙ったんじゃないかと思う。ウチも前々からMSGに興味はあったし、その点で利害が一致したということですね。今回のWWFとの話し合いの焦点もそこですよ。全日本女子プロレスとしてはMSGで女子プロレスの"日米対抗戦"をやってみたいという考えがある。これに対するWWFの返事は大変結構なアイデアだが、現段階ではまだ無理がある。今後、両者の接触を密にして、興行のリスクを少なくし、来年10月には実現しようじゃないかというものだった。今後この問題はウチ、WWF、フジTVの3者で検討し話し合おうという点で合意に達したんです。話し合いは終始友好的なムードの中で行われたし、マスコミが期待するようWWFの日本興行にウチが応じなければ、どうのこうのという生臭い話はなかったんですよ」
――しかしWWEが日本で興行するといっても、日本の興行システムを知らなければ話にならない。それにはどうしても、全日本女子プロレスの手を借りる必要があるのではないですか?
「正直いいますとね、WWF直接ではないが、ある人を介して、興行に協力してくれないかという話をされたことはあるんです。でも、それは絶対にできない。そもそも女子プロは男子プロレスと一線を画した存在ですからね。私はうかつにも、最近までWWFと新日本の関係を知らなかったんだが、この現状ではなおさら、そんなことはできませんよ。日本プロレス界のメリットになることではありませんからね。それに全日本女子プロコミッショナーという立場を離れて第三者としてみても、WWFの日本興行にはりスクが大きすぎますね」
――といいますと?
「第一にWWFが日本の市場を過大評価しているるということです。確かに日本にくる外人レスラーのギャラは高い。年間の試合数も多いし、団体のバックには全国ネットのテレビ局がついている。こういう面から見れば日本は黄金マーケットに見えるでしょう。だが、現実には観客の動員ではどの団体も苦戦している。ウチだって地方にいけば、まだだま苦しいんですよ。こういう点のリサーチがWWFは甘いんですね」
来年に女子プロ「日米対抗」 あきらめていないWWF
――確かにハルク・ホーガンが来ても日本のトップと対戦するのでなければ、観客動員は難しいですね。巷ではリッキー・スティンボートやタイガー戸口が来日メンバーにリストアップされていると、もっぱらの噂ですが。
「フジの編成局がWWFの話をことわったのも、参加メンバーが外人ばかりだったためとも聞きましたよ。それにWWFのスタイルをそのまま日本にもってきても、絶対ファンには受け入れられないだろうね。ともかくウチとWWFの接触は女子プロラインのみですよ。来年3月には初めて両国国技館でビッグイベントをやるし、4月には台湾に遠征する。日米対抗も来年中には、必ず実現させますから、まァ、期待していてください」
これには松永俊国全日本女子プロレス常務も、まったく同意見だ。
「ウチは女子プロ一本槍で下手な浮気をする気はまったくありませんよ」
松永氏の口調はニベもない。どうやらこれで全日本女子プロレスをパイプ役とする形でのWWFの興行は不可能となったようだ。
が、果たしてこれでWWFは日本侵略をあきらめるのだろうか? WWFの台所を考えればそう簡単には引き下がれまい。新日本との契約が切れた以上、WWFは日本で従来を上回る利益を挙げる必要にせまられている。といって新たに全日本とパイプをつなぐにしても全日本はNWAと強力なパイプがある上、'86年からは来日外人レスラーの数をしぼり込む方針。WWFが新日本との業務提携時代以上に日本マットから甘い汁を吸うのは難しい。したがってWWFはどうしても、この日本で興行を打つ必要があるのだ。
「ウチは協力しないが、彼らにすれば、やれるだけやってみようとヨソにコンタクトしているかもしれない」(松永常務)
「編成局はことわっているのだから、あとはフジ・サンケイグループの対応が問題じゃないかな」(植田コミッショナー)
の言葉にもあるように、まだまだWWFは日本侵略のための作戦を練っているとも考えられる。ある事情通がいう。
「日本では日本人がファイトしないと客が納得しないという話を聞かされたWWFのある幹部は「それなら日本人レスラーを100人集めてみせるさ。我々にはそのくらいのことは、すぐにもできるんだ』と大ミエをきったそうですよ」はたして来年4月に6試合を日本で興行するというWWFの野望は実現するのか、それとも............。
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この時期のプロレス界のムーブメントが分かる記事です。
WWFが新日本プロレスと契約を打ち切り、全日本女子プロレスに接近。その全日本女子プロレスを通じて日本でのWWF興行を考えているのではないか、という話です。
全日本女子プロレスの松永氏やウエダによると、そのようなことは全く考えておらず、MSGにクラッシュとダンプを視察に行かせたようです。また男子プロレスと女子プロレスはつながることができないバックボーンのような話も書かれています。
全日本女子プロレスとしては、WWF vs 全日本女子プロレスの「対抗戦」を実施したかったようです。もちろん実現しないわけですが、この時期から他団体との「対抗戦」は考えていたようですね。そのわりには、ジャパン女子は見向きもしませんでしたが。