逆説のプロレス 全日本女子プロレス「極悪女王」ムック本

逆説のプロレス(24)全日本女子プロレス「極悪ヒール女王」列伝 (双葉社スーパームック) ムック – 2024/8/21

 

 

このような本が発売されました。

2024/9月からドラマ「極悪女王」が配信されるので、それに先駆けて発売されたようです。

全体的な印象としては、あまりダンプさんと関係ない話が多いかな?という感じです。

このムックは「女性ヒール」の歴史を特集したムックなのか、「極悪女王」を特集したムックなのかによって、評価が分かれると思うのですが、おそらく「極悪女王」を特集したムックのはずなので、そう考えると評価は少し下がります。

 

細かくみていきます。

 

●「極悪女王」の紹介部分

この部分はこれから放送される話なので面白かったです。

キャストに大森ゆかり、クレーン・ユウ、ジャガー横田、デビル雅美も配置されており、期待できます。デビルなんてよく許可されましたね。

「ダンプ・ザ・ヒール」ではクラッシュとクレーン、大森といった同期以外は実名では出てきませんでしたからね。

 

●ダンプ松本 インタビュー

ここ最近のインタビュー記事では一番情報量が多いかもしれません。

それは最近になって「ぶるちゃんねる」やダイナマイトギャルオさんのブログで情報が掘り起こされ、ご本人の記憶が戻ってきたのかもしれません(笑)。

もちろん、現役をやめた後の1990年代の自伝に今回の情報はほぼ掲載されていますが、編集者もあちこちから情報を集めて補足しているのは良かったと思います。

「阿部四郎は私がお願いして、私が指示を出していた」と書かれているので、極悪初期のころは、ダンプから阿部四郎に接触したようです。お互いに相談していたのは間違いありませんが、どちらかというとダンプ主導だったことが分かります。会社主導なのかと思っていました。ウエダコミッショナーが最初は本気で阿部を追放しようとしていたので、そうすると合点がいかなくもないです。それならダンプも情報共有すれば良かったのに、と思わなくもないですが。

 

●長与千種 インタビュー

こちらも良かったです。池下やマミ熊野、デビル雅美を通して最初はヒールになろうとしたことが書かれています。

ダンプの人気が出た時は「来たな・・」と思ったと語っています。ダンプまで人気になることを予見していたってことですかね。またクラッシュ旋風は、ダンプと飛鳥、特に飛鳥に対するレスペクトは大きく感じました。いままで仲が悪かったけど、先日40周年イベントをやって、ようやくヨリを戻し、お互いが理解しあうようになったように見えます。

 

●ライオネス飛鳥 インタビュー

インタビューの中では、一番新鮮でした。特にダンプと同居していたころの話は結構詳しく話されています。長与に関しては「彼女は常にプロレスを考えていて、クラッシュを作ったのは長与で私はその役だった」と素直に認めていました。おそらく、長与に文句を言いたいことはたくさんあるんだろうけど(笑)、軋轢はもう生みたくないのか避けている感じがしました。

 

●影かほる インタビュー

前半は「ぶるちゃんねる」で語られていたダンプの影武者になったきっかけの話です。後半は松永兄弟のことを詳しく語られています。「極悪女王」でも松永兄弟の昭和的な経営方針は見どころのひとつなので、ちょっと変わり種的なインタビューで良かったんじゃないでしょうか。「ぶるちゃんねる」でもある程度は松永兄弟については語られていましたけどね。

 

●ブル中野 インタビュー

ブルに関しては「ぶるちゃんねる」でご本人がかなり詳しく話されていますので、いまさらそれほど新しいことはありませんでした。大宮スケートセンターで「デビル雅美」と衝突したときの話が、「ぶるちゃんねる」よりも詳しく話されています。この点は情報として新鮮でした。ブルはYoutubeと「金網の青春」でほぼ出尽くし感があるので、定番インタビューで十分かもしれませんね。あとはダンプ引退後の苦労話がありますが、「極悪女王」とは関係ないので、必要なのかな?という感じです。

 

●アジャコング インタビュー

最初の4ページくらいが入門してから極悪同盟に無理やり入らされて、そのあとダンプを嫌っていた話があります。こちらも色々な雑誌ですでに読んでいるのであまり新鮮のことはありませんでした。ご本人もあまり記憶していないのかもしれませんし、口に出せないこともあるかもしれません。そのあとはブルとの抗争の話が多いのですが、これも「極悪女王」とは関係ないのでこのムックに必要なのかなという感じでした。

 

●ターザン山本 インタビュー

話が北斗のことばかりで、「は?」という感じでした。1987年から編集長となって、活字プロレスを流行させたターザン山本ですが、あまりダンプの時代は得意ではない模様。申し訳ないですが、「極悪女王」のムックとしては不要だったのではないかと。

 

●ロッシー小川 インタビュー

ロッシーのインタビューも「ぶるちゃんねる」と最近出版された自伝で話をされている内容が多かったので、あまり新鮮なところはない感じでした。やはりアジャvsブルの話も出てきて、このあたりは不要なんじゃないかなぁと。

 

●小島和宏 インタビュー

この方はよく知らないのですが、1989年に週刊プロレスの記者になった方ということです。書かれていることはダンプが去ったあとのブル、アジャ、北斗の話で、これまたこのムックの趣旨と違うのではないかなぁ・・という感じです。この本が「女性ヒール全体」のムックならば、全然アリだと思いますが、私にはどうでもよかったですね。

 

あとはダンプの唯一の当時のファンという方のインダビューがありました。

このかた、なんと引退試合で試合を受け取り、家にまだその竹刀があるとのこと。

また、当時バス移動のときもファンをシャットアウトしていたとされるダンプに対し、ほそぼそと手紙でやりとりをしたり、声をかけてもらっていたとのこと。この人凄いですね。ぜひお話してみたいです。

当時の会場はクラッシュファンだらけで、極悪は一人もファンがいなかったと語られています。1984年あたりは分かるんですが、1985年中盤以降は当時の試合を見ているとダンプにもけっこう紙テープが飛んでいますが、それはファンではないってことなんでしょうか。その点はよくわかりません。

 

●伊藤雅奈子さんインタビュー

有名なクラッシュ親衛隊の方のインタビューもあります。このかた「1985年のクラッシュギャルズ」の本に色々と書かれていますので、それの繰り返しの部分はありますが、このようなファンの証言が掲載されているのは良かったんじゃないでしょうか。

今回はダンプとクラッシュ、両方のファンの言質を取ったのは良かったと思います。

 

●ヒール名言集

これはダンプとブルだけでも良かったように思うんですが、ダンプの時代はマイクパフォーマンスタイムがありませんでしたからね。「ざまーみろ」とか「どんとイレンコ」とか、その辺もダンプ語録に入れてほしかったです。

 

●凶器の歴史

これも北斗とか尾崎とか、ずいぶん後の時代の人たちの凶器の歴史なんですけど、私としては"極悪同盟の凶器の歴史"だけでも十分に成立したと思いますけどね。相変わらずこの本の守備範囲が良くわからないです。

ダンプの「竹刀」だって、ダンプがヒールになってからずっと使っているものではなく、1985年から使い始めたものです。そういうところもダンプに注目していれば色々と書けそうなんですが。でっかい特製ドラム缶なんて、いまとなってはドリフのコントみたいで、写真付きで紹介すればよかったのにと思います。ブルのヌンチャクだってもっと深ぼれるし、クレーンもヌンチャク練習していたけど挫折とか、長与も初期にヌンチャクをもって入場したとか、ホント、ネタはたくさんあるのにもったいないです。

これから「極悪女王」を見る人たちって、たぶん極悪同盟の頃の情報が欲しいわけで、このムックを買っているんじゃないかと思うんですよね。

 

●ヒール年表

これもよくわからないのですが、「極悪女王」ならば極悪同盟の年表だけでよいと思うのですが、なぜヒール全体なのか・・。この本は女子ヒールすべての特集なのだとしたら不足していることが多すぎるわけで・・。

またダイナマイトギャルオさんのページにも書かれていましたが、明らかに情報がギャルオさんのページから取ってきたものも多いらしく、さらに妙に詳しい時期と全然詳しくない時期の差が激しいという情報の偏りも見られます。

例えば極悪同盟のところでいうと、1984/2/28にデビル軍団解散があり、そのあとが1985/2/18ですからね。この一年は極悪同盟にとって非常な重要なイベントが並んでいたし、極悪同盟の設立時期で、私としてはなにがいつどうしたのか、知りたかったので、もっと調査してほしかったです。

少なくとも「1984/1/4に松本香からダンプ松本に改名」は絶対に入れないといけないのでは?

改名が2/28に行われていると誤情報が書かれていますので、こういう初歩的なミスはやめてほしいです。これヤバイよ。あとは細かい点では「髪切りデスマッチ」のレフェリーが「ルーシー加山」になっているんですけど、主審が「ホセ・トレス」で副審(がいたのか分からないが)が「ジミー加山」だったのでは? イジメおねえさんがレフェリーですか?って感じです。

あとは「笑っていいとも」に出演したとか、「タコヤキラーメンのCM」に出演したとか、けっこう芸能で重要なことも書かれていません。「マジだぜ」が名言に掲載されているんなら、タコヤキラーメンも取り上げてほしいです。

 

インタビューとしては面白いですが、ターザン山本にインタビューするくらいなら、当時の極悪メンバーであるクレーン・ユウ、コンドル斉藤、仲前めぐみ、坂本あけみ、石黒泰子あたりが出てきたら面白かったんじゃないかと思います。あとはデビル雅美と伊藤浩江(タランチェラ)、ベビーフェイスでは大森ゆかりか、一緒に住んでいた立野記代あたりですかね。デビルがずっとダンマリなのが残念です。

 

そんなこんなで、私もダンプファンページをやっているので、どうしてもダンプに肩入れしてしまう感想になってしまいました。「極悪女王」というムックなのに「ヒール全体」まで広げてしまったのは、どうなんだろ、という感じがします。いままでダンプ松本に興味がなかったけど、「極悪女王」をきっかけにダンプ松本を知ろうという人に向けてのムックだと思うので、他のヒールは別枠で語ればよいのでは、と思います。

新たな情報も入ったので、これはこれでよいのですが、ダンプに対して愛を感じない少々残念なムックでした。