ボクの天城先輩(1)


影山と天城の微エロ短編小説を書いてみました。
前に書いた真帆路と天城の小説とは別の設定で、真帆路と天城は単なる友達です。天城は影山寄りということで(笑)


登場人物

天城大地と影山輝。3年生と1年生の先輩後輩の関係。


揺れるバスの車内で、ボクの隣で先輩が眠っている。
──天城先輩。
雷門中のサッカー部で、壁のようにでかいディフェンダーとして活躍している。
体型は『となりのトトロ』に登場するトトロみたいな感じだ。
お相撲さんのように大きくて、髪の毛は獣みたいにモサッとしていて、ふかふかして気持ちよさそう。
・・・。
ボクは、バスの中で当たり前のように先輩の隣に座っていた。
先輩の腕を掴んで、眠ったフリをしている。
少しドキドキしながら・・。
どうしてなんだろう。


ボクは先輩の腕を掴みながら、昔のことを思い出す。
数か月前、ボクは雷門中のサッカー部に入部した。
たくさんの先輩たちを目の当たりにして、ボクは緊張で顔が引きつり、完全に浮足立っていた。
キョロキョロとあっちを見たり、こっちを見たり。
その中に存在感抜群の巨漢の先輩がいた。
ひときわ背が高くて、そして横幅も大きい。
それが天城先輩だった。
もちろん、そのときは名前すら良く分からなかったんだけど・・。


ボクが天城先輩を見たときの第一印象は・・。
──絶対に仲良くなることはない。
そんな印象だった。
だって先輩は、ボクの何倍も体が大きいし、
  眉間に十字傷があり、吊り目で見た感じはかなり怖い。
あんな怖そうな顔で声をかけられたら、とても返答できる自信はない。
それにボクは部活が初めてだったから、
  先輩と後輩のような関係はよく分からなかったし、天城先輩のような見た目がおっかなそうな人は苦手なタイプだった。


ヒョロヒョロなボク、そして巨漢の天城先輩。
案の定、先輩とは入部してしばらくは、ほとんど接点はなかった。
ボクから先輩に話しかけるのは失礼な感じがしたし、何よりも天城先輩は見た目が怖かったし・・。
話すこともないんだろうなと、思ったこともあった。
・・・・。
それがどういうわけか、ある日を境にして突然会話をするようになった。
──きっかけは・・。
鬼道監督のハードなトレーニングだった。
それまでの円堂監督のやり方とは違い、
  いきなり腕立て伏せやスクワットなどの、ボールを使わない練習を始めた。
天城先輩はボクの3倍のタイヤの量を引かされて、さらに延々とランニングさせられた。
体が大きい先輩は、走ることが大の苦手だったらしく、
  最後にはグラウンドに倒れこんでしまい、身動きすらできなくなってしまった。
ボクは心配で駆け寄ったけど、監督から「練習を続けろ」と言われ、助けることはできなかった。



過酷な練習は続き、帰りのロッカールームで事件は起きた。
「やってられないド!!」
天城先輩はガマンの限界に達したらしく、ロッカーにカバンをぶつけて珍しく語気を荒げた。
うわー、怖い先輩だなぁ・・なんて横目で見ていた。
あまり関わらないように、ボクは体を丸めてその光景を眺めていた。
そうしたら、突然先輩が近づいてきて、ボクの肩をつかんできたんだ。
「なぁ、影山? お前もこんな練習は嫌だド!?」
ええっーー!? ボクですか!? って思った。
だって、前フリも何もナシなんだから。
至近距離で見る先輩は、とても機嫌が悪くて、正直恐ろしかった。
「影山もそう思うド!?」と睨まれたら、それを否定することなんてできない。
だから、笑ってごまかして「あはは・・」と言ったら、
  そのまま肩を掴まれて、強引にラーメン屋さんに連れて行かされた。
ボクの本音は、練習を続けたかったんだけど・・。


──なんて強引な先輩なんだ!
それが天城先輩の2番目の印象かな?
そう、今思えば天城先輩の印象は、最悪な感じだった。
自分勝手な意見を押し付けて、わがままし放題の先輩。
そんな感じに見えた。


結局、ラーメン屋の店主のアドバイスで、先輩はコロッと練習に戻ってしまうんだけど、
  そのときも「戦うんだド! なぁ、影山?」と脅迫のように迫ってきて、ボクはただ振り回されただけだった。
あ〜、つくづく強引な先輩だよなぁ。
これってもしかして、半分はイジメなんじゃないのかな?
天城先輩って、もしかしてイジメっ子?
だったら最悪だなぁ・・なんて考えた時もあった。


この事件がきっかけで、ボクは天城先輩は少しずつ話す機会が増えた。
「影山、練習するド!」
先輩から話しかけてくれる。
なんとなく嬉しかった。
絶対に仲良くなれないと思っていた先輩だったから、余計にそう感じたのかもしれない。
ボクは「はい!」と元気よく笑顔は絶やさないようにした。
でもまだ、"怖い先輩"のイメージは消えていなくて、
  先輩の機嫌が悪くなると、もしかするとイジメられるかもしれないから・・。
いま考えると、ボクは相当に臆病だったよなぁ。
・・・・。



でも、どうして先輩はあのときロッカールームで、ボクに声をかけたんだろう。
だって、あのときに声をかける相手はたくさんいた。
天馬さんでもよかったし、西園さんでもよかったし・・。
どうしてボク・・?
1年生で一番弱そうだったから、絡んできたのかな?
いまでも真相は分からないままだ。
でも、もしボクの何かを気に入って話しかけてくれたのなら・・。
嬉しい・・かも。


それから数週間経ち、天城先輩はスランプに陥った。
試合で必殺技を破られた後、レギュラーも外されて、自信をなくしていた。
ある日、先輩は練習に身が入らなくて、監督に怒られて帰らされた。
ボクは心配になって、気づかれないように先輩の後を追っていった。
すると先輩は公園で昔の友達と口論になり、雨に濡れながら泣いているように見えた。
そんな先輩の姿に、ボクは衝撃を受けた。
だって、ボクを強引に振り回すようなあの天城先輩が、
  大きな体を丸めて、この世の終わりのような表情で、すすり泣くような姿をしていたんだから。


ボクは誤解していたのかもしれない。
先輩は単純でわかりやすい人だと思っていた。
すぐにカッとなって怒り、そしてあっけらかんと笑うような人間。
体型を見てそう判断したのかもしれない。
でもそれは違った。
傘を差しだしたボクに、先輩はゆっくり立ち上がり、無言で木陰まで歩いて行った。
先輩は昔のことを話してくれた。
信じられないことだけど、先輩は昔はイジメられていたというのだ。
ボクにとっては、驚愕の事実だった。



ボクも昔はイジメられたことがあった。
だから、イジメられる苦しさや辛さは、痛いほど良くわかった。
一緒に雨宿りをしながら、先輩はボクに話してくれた。
──昔のイジメのこと、そして親友のこと。
サッカーでスランプに陥っているだけでなく、昔の友達と対戦するのが怖いという事実。
その友達とまた仲良くなりたいという、純粋な心。
複雑な状況が、先輩の心を揺さぶっていたのだ。


天城先輩は、本当はすごい友達想いで、心が暖かい人間だった。
だからこそ、心が傷つき、そして落ち込んでしまう。
すぐに傷ついちゃうところはボクと同じ・・とても似ている。
不思議と親近感が湧いた。
天城先輩の落ち込んだ姿を、ボク以外の人間は知らないだろう。
ボクにだけ見せる、先輩の本当の姿。
「いまの話はナイショだド。男と男の約束だド」
こう言われたとき、ボクと先輩は、初めて一つの糸で結ばれた感じがした。
その糸は決して太くはないが、それでも結ばれたことに変わりなかった。
それはボクが誰も知らない先輩の秘密を知ってしまったから。
だからボクにとって、先輩は特別な存在になった。


あれから数か月、先輩はボクのことを気に入ってくれたのか、
  練習のときはすぐにドリブルやパスの相手になってくれる。
「影山、いくドっ!」
先輩が蹴ったボールをボクが受け止める。
ボクがボールを蹴り返すと、先輩が受け止めてくれる。
ずっと怖いと思っていた先輩が、笑顔でボクを見つめてくれる。
サッカーが終わると、また肩を掴まれる。


「一緒にラーメン食べにいくド!」
みんなが見ている前で、堂々と抱きついてくる。
最初はからかわれていると思っていたけど、最近はちょっとうれしいやら、恥ずかしいやら・・。


先輩は練習が終わると毎日のように、ボクを引っ張りまわしてくる。
小さなボクの体は、先輩の大きな体にギュッと潰されて・・。
でも、その密着感がたまらなく好きになっていた。
以前は強引だと思っていた行動が、いまはとても愛情のある行動に思える。
・・不思議だ。
先輩と一緒にラーメン屋に入る。
今日の練習はキツかったとか、夕食はハンバークだとか、たわいもない話をする。
先輩は機嫌が良くなると、横にいるボクのことをギュウと抱きしめて、あははっと声をあげて笑う。
サッカー部に入った時に描いていたボクの光景とは、全く違う光景。
それが、ボクの目の前で起こっていた。
ボクは先輩のことを本気で好きになっていた。


そしてボクは気が付くと、夜も先輩のことを考えるようになっていた。
ラーメン屋で別れた後、天城先輩は何をしているのか?
ハンバーグを食べて、もう寝ているのだろうか?
まさか、机に向かって勉強をしているのか?
・・・・。
最近は、ボクはもっと別のことを考えるようになった。
先輩の心が知りたい。
先輩はどうしてボクと仲良くしてくれるのだろう。
もしかすると、先輩は彼女がいるのだろうか。
いや、そんなことは恐ろしくて聞けない。
自分でも分からない感情が、ボクの心を支配していた。
おかしいなぁ・・先輩は男なのに。
胸がキュと痛くなるような、あやふやで、居たたまれない気持ち。
ボクは生まれて初めての感情に、戸惑うばかりだった。


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