チームワイルドファングに入るために、プロレスで一旗あげることになったベンケイだが・・?
登場人物
ベンケイ。マスクドブルと名乗りプロレスに乱入。
マッド。賭けプロレスのチャンピオン。180cmを超える大男で体重150kg。
ベンケイはキョウヤからもらったブルのマスクをかぶり、
筋骨隆々とした上半身を揺らしながら、日本では非合法といわれるプロレスバーの前に立った。
(ここでわしの運命は決まるわい。ここで一旗あげて、キョウヤさんに認めてもらうんじゃい!)
意を決したベンケイは、堂々とプロレスバーのドアを開けて、中へ入っていった。
バーの中は暗くて、ひんやりとしていた。
中は想像以上に広くて、中央にプロレスのリングがある。
その周りには観客用のテーブルが、所狭しと並んでいた。
客は男性から女性まで年齢も幅広く見え、素性を明かしたくないのかサングラスをしている者も多数いる。
きっとインドでも違法スレスレの、相当に怪しいバーだということが分かる。
(なんちゅう、うさん臭い場所じゃい・・。この中で賭けプロレスが行われているのか・・?)
ベンケイは入り口の近くにいる背の低い店員を見つけた。
(よし、気合で負けんようにしなくては!)
意を決したベンケイは、その店員に大きな声で話しかけた。
「おい!」
「な、なんでしょう、お客様」
「わしはマスクドブルじゃ。プロレスで勝負しに来た。どうすれば戦えるのか言わんかい!」
「は、はい!」
ベンケイの気合のこもった怒声に、店員は押され気味だ。
(よしよし。どうやらわしが小学生だというのは、気づかれていないようじゃわい)
店員はベンケイの気合にたじろぎながら返答をした。
「客席中央をご覧ください。あそこがリングでございます」
彼の指した方向を見ると、そこにはライトに照らされたリングがある。
そのリングが小さく見えるほどの、巨体を持ったプロレスラーと司会役のデブな女が並んでいた。
「あそこに行けば戦えるんじゃな?」
「いま対戦相手を募集中ですので、申し込みをすれば試合ができます」
「分かったわい!」
「しかし、あのマッドというプロレスラーはめちゃくちゃ強くて、死人も大量にでていますのでやめたほうが・・」
「死ぬのが怖くて、わざわざこんな所に来るかぁ!!」
ベンケイは唾を飛ばしながら、声を張り上げる。
「そ、そんなに怒鳴らなくても聞こえます・・」
「ええんじゃい!」
店の雰囲気に飲まれまいと、ベンケイは自分で自分の気持ちを鼓舞させていた。
<まずは気持ちで負けないようにする>
それがキョウヤに教えられたことだったからだ。
いままでにない気合をみなぎらせて、リングへと近づいた。
『さぁ、このマッドに挑戦する命知らずはいないかね?』
司会の女はマイクを片手に、次の挑戦者を探していた。
どうやら賭けプロレスは、対戦カードがあらかじめ組まれているのではなく、その場で乱入するシステムらしい。
『マッドに挑戦するツワモノは誰もいないのかい? みんな腰抜けだねぇ』
司会の女は必死に対戦相手を探しているが、なかなか次の挑戦者が名乗られない。
(あのマッド相手じゃなぁ・・)
(新しく対戦カード組まないと誰も出てこないだろう・・)
『これじゃ賭けにならないね。じゃ新しいカードを組もうかね』
司会の女がマッドをリングから降ろそうとしたとき。
「わしが相手じゃ!!」
店内に響き渡るような大声で、マッドに挑戦状を叩きつけた。
ベンケイはヒョイとリングの上にあがると、マッドを睨み付ける。
マッドも突然乱入してきた謎のマスクマンに興味を持ったのか、腕組みをしながら見下ろした。
対戦相手のマッドは、身長が180cmを超える巨漢で、太ったお腹をみれば体重が150kg以上はあるだろう。
ベンケイがいくら大柄だとはいっても、見上げるほどの大男だった。
(ひぃえ・・間近でみると、めちゃくちゃにデカイわい・・!!)
余裕の笑みを浮かべるマッドに、ベンケイは一瞬たじろぐ。
しかしここでビビッていては、勝利はおぼつかない。
<店に入ったときから、相手との勝負はすでに始まっているんだ。相手がいくら大きくても決して怖気ずくなよ!>
キョウヤの言葉を思い出し、ベンケイはブルルルルッと奮い立って覇気をみなぎらせる。
(そうじゃ、気合じゃ! 気合が足りんのじゃ!)
司会の女が持っているマイクを猛烈な勢いで奪い取った。
ベンケイは張り裂けんばかりの声を出して、マイクパフォーマンスを始めた。
「わしはマスクドブルじゃい!! マッドとかいったな、お前に挑戦するわい!」
右手を斜め上に突き出し、鋭い眼光でマッドを睨み付ける。
(そうじゃ、キョウヤさんに言われたとおり、観客にもアピールしなくては)
今度は後ろを振り向いて、客に向かってマイクパフォーマンスだ。
「みなさ〜ん、このマスクドブルが挑戦します!」
──ザワザワ・・。
観客からの反応はいまひとつ。
「一日に片手腕立て伏せ3000回、腹筋5000回のマスクドブルじゃ! どうぞよろしく!」
──ザワザワ・・。
やはり観客からの反応はいまひとつだった。
(ん〜、なんかやり方か違うんか・・?)
──観客に自分の強さをアピールする。
キョウヤに言われたことだが、意外と難しい。
賭けプロレスでは、自分に賭けてくれる者がいなくては試合が成立しない。
だから、マスクドブルが強いことを客に知らしめる必要がある。
マッドに比べて、小柄なベンケイは観客から見れば弱い対戦相手に見えてしまうのだろう。
(くそー、うまく事が運ばんわい。こうなったら気合じゃ〜!)
ベンケイは会場にあるすべての空気を吸うくらいの気持ちで息を吸い、そして怒鳴った。
「元気ですかああああ!!!!」
変わったアピールが功を奏したのか、観客の視線が一気にベンケイに集中した。
(よっしゃ、目立ってきたわい!)
「わしは日本からはるばる武者修行に来たマスクドブルじゃい!!
500戦していまだ無敗、わしの通った後には草一本すら生えない猛牛じゃー、ぶるるるるっ!!」
<おお〜!>
「これからそこのマッドとかいうデカブツをぶっ倒して、わしの強さを見せ付けてやるわい!
ぶるるるるるるるるるるるるるるるっ!!」
<いいぞ、ブルー!>
<よし、マスクドブルに10万ルピー!>
<俺はマッドに20万ルピーだ!>
次々に賭け金が集まり始める。
これで試合は成立だ。
(よし、会場の雰囲気は完全にわしの物じゃい。一気に勝ちもいただくぞい!)
ベンケイは片手で小さくガッツポーズをする。
ベンケイはマイクを持ちながら、再びマッドの方向に振り向く。
そして、鋭い眼光でマッドを睨み付けて、さらにマイクパフォーマンスを続ける。
「マッドとか言いおったな! でかい面していられるのも今のうちじゃい。
お前なんかに、このマスクドブル様が止められるものか! コテンパに叩きのめしてやる!」
「ほほう、ずいぶんと大きく出たな」
ベンケイの挑発に、マッドは全く動じることはない。
それどころか、ベンケイの体をジロジロと舐め回すような視線で見つめていたのだ。
なにかゾッとするような悪寒が走る。
ベンケイはその視線に耐えられなくなり、大声で叫んだ。
「な、なにをジロジロ見ているんじゃ!」
「ずいぶんと綺麗な肌をしているな。てめー年はいくつだ?」
「そんなこと関係ないわい!!」
「鍛えられた二の腕、腹筋、胸・・たしかに体はデカイ。しかし、わき毛がツルツルだな?」
「だまらっしゃい! 試合の結果ですべてを分からせてやるわい! いまから首でも洗っておくんじゃな!」
そういうと、ベンケイはマイクをリングを思いっきり叩きつけた。
しかし、そんなベンケイのマイクパフォーマンスを、マッドは余裕の笑みであざ笑った。
(ヘヘッ、コイツ・・わき毛も生えてねぇ小僧だぜ。こりゃ久しぶりにイジメ甲斐がありそうだ)
キーンというマイクの歪み音とともに、いよいよマスクドブルVSマッドの試合が開始されようとしていた。
次回予告
ベンケイ 「こんな大男、わしの敵じゃないわい! マスクドブル様の強さを見せてやるぞい!」
(マッドやバーの映像は「魔動王グランゾート」の第3話より使わせてもらいました)