暴力描写があまりに過ぎたので、今回で終了とします。ォィ
(1)→(2)→(3)→(4)→(5)→(6) Normal Ending
登場人物
ベンケイ。マスクドブルと名乗りプロレスに乱入。
マッド。賭けプロレスのチャンピオン。180cmを超える大男で体重150kg。
「さてと、そろそろ天国に連れてってやるか。マスクドブルさんよ」
マッドとベンケイの戦いはすでに終局へと向かっていた。
ベンケイは試合が始まってから何もできず、結局はマッドになぶられているだけだった。
もしこんな一方的な試合がプロレスで行われていたら、観客は最低な試合とののしるだろう。
しかし、賭けプロレスに酔った観客たちはこの一方的な虐殺ともいえる行為を、むしろ賞賛していたのだ。
<そろそろマスクを剥げ!>
<キンタマを潰せ!>
<ぶっ殺せ!>
ベンケイに金を賭けた観客からは、ぶっ殺せのコール。
そしてマッドに金を賭けた観客からは、賞賛のコール。
双方ともベンケイがボロボロにされる姿を見て楽しむという、酔狂な趣味を持つ人間であることは確かだった。
わずかに残された意識の中で、ベンケイは思った。
(わしは何もできんかった・・これじゃキョウヤさんと一緒に・・)
ベンケイはキョウヤに認められるために、この賭けプロレスに参加したのだ。
それが、こんな惨めな結果になるなんて・・。
(そうじゃ、すべてはキョウヤさんのために・・。
キョウヤさんと一緒のチームに入って、世界一になって・・一緒に喜んで・・。
キョウヤさんのため・・・。
キョウヤさん・・。
・・・。
死ぬんか・・わしは死ぬんか・・。キョウヤさんのために死ぬんか・・?)
死という現実を目の当たりにして、ベンケイは思い出していた。
キョウヤに初めて出会ったときのこと、
キョウヤとベイバトルで負けたときのこと、キョウヤと一緒に練習して強くなったこと、
すべての記憶が一瞬にして、走馬灯のように頭の中を駆け巡った。
一瞬ですべてのことを思い出せる・・・誰でもができることではない。
死に直面した者だけが垣間見ることができる境地なのかもしれない。
(なんで頭の中に色んなことが浮かぶんじゃい・・わしが死ぬからか・・?
キョウヤさんは言っとった。地獄から這い上がってこそ、仲間たる資格があると・・。
地獄なんぞ、わしには関係ない世界じゃと思っとった。
そんなことせんでも、キョウヤさんの仲間になれると思っとった。
わしが甘かったんじゃ・・。わしはもう終わりじゃ・・。
キョウヤさん、すみません・・。
・・・。
・・・。
こんなことで命まで落として・・。
キョウヤさんに命令されたこともあるが、マッドに挑戦したのはわしの意志じゃ。
あんなヤツに挑戦したこと自体、間違いだったんじゃ。
そうじゃ、あんなヤツに勝てるわけなかったんじゃ。
もう死んで楽になろう・・。
・・・。
・・・。
ベンケイはゆっくりと目を閉じた。
・・・。
・・・。
なんじゃ、この気持ち・・。
わしはバカなんじゃないか?
本当に死んじまったら・・・。
いやじゃ・・・。
死ぬのは嫌じゃ!! キョウヤさんにもケンタにも、みんなに会えなくなるのは嫌じゃ!!
わしは生きてやる。どんなことをしても生き抜いてやる!)
ベンケイが生きることを決意したとき。
頭の中にビリビリッと電流のようなものが走り、それが全身を貫くのを感じた。
脳内に広がる、白い光・・そして先にある出口。
白い光が脳内に広がった瞬間、ベンケイの体は勝手に動いていた。
無意識なのだろう。
後ろにいるマッドに、思いっきり後頭部で頭突きを食らわし、完璧と思われた首締めの体勢から逃れていた。
そして自然に立ち上がり、マッドに向かって戦闘の構えをとった。
顔面を強打されたマッドは、一回転して体勢を整えた。
右手で鼻血を拭きながら、マスクドブルにニヤッと笑みをこぼし、相対した。
「ほう、驚いたな。死んだと思った小僧に、まだこれほどの力が残っていたとは。
だが、そんな体では何もできまい。俺のパンチでトドメをさしてやる」
再びマッドはパンチを放つ。
しかしパンチをいくら放っても、ベンケイの体に当たることはなかった。
「なんだと!?」
「見えるんじゃい・・。お前のパンチが全部スローモーションのように見えるんじゃい!」
「まさか、そんなバカなことが!?」
マッドは聞いたことがあった。
人間が死に直面すると脳内からエンドルフィンという物質が放出され、運動神経をはるかに超えた能力を発揮すると。
そんなものは科学者のたわ言だと思っていたが、
目の前にいるマスクドブルの動きは、とても人間技とは思えない。
「いや、何かの間違いだ! 俺に出来ないことを、こんな小僧にできるわけが・・!」
マッドは認めた無くなかった。
格闘家ならば一度は夢見る、人間の能力をはるかに超えた運動神経。
その奇跡が目の前の相手、自分の年の半分にも満たぬ小僧に発生したのだ。
それは、いくつもの偶然が重なって起きた奇跡。
ベンケイの若さ、毎日の鍛錬、折れない心、追い詰められた状況・・すべてが重なったのだろう。
「このクソガキが、ふざけんじゃねーぞ! こうなったら捕まえてもう一度、首締めにしてやる!」
パンチやキックが当たらないとみるや、マッドは攻撃方法を変えて組み付こうとする。
しかし、ベンケイを捕まえようと体重をかけて足を踏み出した瞬間。
──なんだ!?
マッドの腹部、いや心臓の下・・・そのあたりに激しい痛みが走った。
そして呼吸ができなくなり、目の前が真っ暗になる。
(これはカウンターパンチ!?
ガキのくせに俺の急所に全体重をかけて・・たった一撃で・・このマッド様が負ける・・だと!)
わずかコンマ何秒ずれても、このカウンターは成功しなかっただろう。
プロボクサーでも難しいと思われるタイミングを、たかが小学生に計ることができるのか?
すべてはエンドルフィンのなせる技なのか?
やがてマッドはリングの中央に前のめりで倒れた。
マッドがこの後、数時間起き上がることはなかったのだ。
・・・・。
ベンケイが気がつくとそこはベッドの上だった。
(あれっ!?)
なにがなんだか分からずに、横を振り向くとボロボロになったブルのマスクとシャツが無造作に置かれていた。
(わしは生きとるのか・・。でも一体どうやってあのリングから・・?)
反対方向に振り返ると、そこには腕組みをしてジッと睨み付けているキャウヤの姿があった。
「目が覚めたか」
「キョウヤさん! びっくりさせないでください」
「まだ寝ていろ。かなり内臓を痛めたようだが、驚異的な回復力で一週間もすれば退院できるらしい」
「あの・・わしは・・?」
「俺が助けるまでもなかったな」
「は?」
「お前の試合を一部始終見せてもらった。覚醒したお前の力、しっかりと見届けさせてもらったぞ。
震えるほどいい試合だったぜ。チームワイルドファングの4人目は"マスクドブル"に決定だ。
ナイルとダムレも、今のお前ならばチームメイトとして歓迎だと言っていた」
「俺が・・キョウヤさんと同じチームに・・」
「そうだ」
ベンケイの頬に自然と涙が零れ落ちた。
苦境からの脱出、地獄からの生還、そしてキョウヤの厳しくも優しい言葉。
いままでの苦労が積もり積もった、男泣きだった。
「でもキョウヤさん? マスクドブルが4人目って、まさかマスクマンのままなんですか?」
「そうだ」
「どうしてですか!? わしは"ベンケイ"としてキョウヤさんのそばに置いてもらえないんですか!?」
「だってマスクマンのほうが萌え・・」
「え゛?」
「い、いや、あのマスクをかぶれ! マッドと戦ったときの根性を忘れないためだ。分かったか!」
説得力があるのか甚だ疑問ではあったが、キョウヤの檄はベンケイの心に届いていた。
「はい! 男ベンケイ、キョウヤさんのためならどんな格好であろうと、ついていまきます!」
本当にどんな格好でもするのかと興味津々のキョウヤであったが、
ベンケイの自分を慕ってくれるひたむきな気持ちと、何事にも折れない心は大きな力になるだろうと感じていた。
「まずは、マイクパフォーマンスでインドチームを挑発してこい!」
「それが初仕事ですか・・」
相変わらずキョウヤにこき使われるのは、以前と何ら変わらなかった・・。
最後まで読んでいただいた方、ありがとうございました。メタルファイト ベイブレードが「爆」になってから、ベンケイの登場もほぼ無くなりました。正直「終わったなぁ・・」と思っていたところに、マスクをしたベンケイ、別名「マスクドブル」が出てきまして、かなり萌えました。せっかくプロレスラーの格好をしているし、前から書きたかったプロレスの小説でも書こうかなと思い、がんばって書いてみました。ベンケイは体が大きいし、強そうだし、あんまりキャラ人気が無さそうだから(←ォィ)、相当に無茶しても文句こないだろうと思い、ぶっ殺す勢いで書いてみました。本当に死にそうになってましたけどね・・。最後はオチは、ほとんどグラップラー刃牙です。すみません。いちおうこのあとアニメの70話につながる感じです。