綱手の命令で、タソガレ村にやってきたチョウジといのだが・・?
登場人物
秋道チョウジ。仲間想いでおっとりした性格。中忍合格を目指している。
山中いの。アスマ班の紅一点。綱手からの任務に激怒するが・・?
次郎坊。土遁の術を使う巨漢。チョウジに2度も破れ、復讐を誓っている。
──タソガレ村。
チョウジたちは、3日ほどかけてこの村にやってきた。
村というほど家が立ち並んでいくこともなく、田んぼと小川と流れているのどかな田園風景だ。
ざっと見渡しても、人が歩いている様子はない。
綱手は『村人に会って、書面を渡せ』と言っていたが、肝心の村人が見当たらないのだ。
いのが、不審な顔をして話しかけてきた。
「ねぇチョウジ、どうなってるわけ?」
「僕に聞かれても分からないよ」
「とりあえず、村人を探すしかないわね・・」
チョウジといのは、手分けをして村人を探すことに決めた。
トントンと家をノックして、勝手に家に入ってみる。
「おーい」と叫んでみる。
しかし、周りからは何の返事もない。
まるで、何年前も前から人が住んでいないような、廃村の匂いがする。
チョウジの心はなにかざわざわとした。
この村は、のどかな風景とは裏腹に、なにか異様さを感じる。
あまりに静か過ぎるのだ。
しばらく村人を探して見たが、人影は見当たらない。
(奇妙な村だなぁ・・どうしよう・・)
チョウジは空き家の庭の真ん中に「よいしょ」と座り込み、背負っているリュックを下ろした。
リュックの中身がゴソゴソと漁り、中からガルBと書かれたポテトチップの袋を取り出す。
袋をあけて、バリバリとポテチを食べ始めた。
(こんなときは・・もぐもぐ・・ヤケ食いだ)
腹に染みるポテチの味。
不安を感じるときは、こうしてポテチを食べて心を落ち着かせる。
チャクラの元である栄養補給にもなるし、なによりも気分が和らぐ。
これぞ、秋道一族の究極のグルメ思考でもあり、超プラス思考なのだ。
バリバリッと音を立てて、袋の中から次々にポテチを取り出すチョウジ。
(うーん、これからどうしようかな・・もう帰っちゃおうかな?)
小鳥のさえずりを聴きながら、チョウジはそんな気楽なことを考え始めた。
ポテチの最後の一枚を取り出して、口に入れようとした瞬間。
<きゃあああ!>
突然、閑散とした村に悲鳴が響き渡った。
チョウジは腰をぬかすほど驚いて、ポチテを放り出す。
そして、リュックを置きっぱなしにして、急いで空き家を飛び出した。
「いの、どうしたの!?」
いまの悲鳴は、明らかにいのの声だ。
「いのー!!」
なにかとてつもなく悪いことが起きたのではないか。
そう考えたチョウジは、急いで悲鳴がした方向へと重い体を走らせた。
(ハァハァ、いの・・)
尋常ではない悲鳴に、とても嫌な予感がする。
村のはずれまで全力で走ったとき・・。
チョウジはその光景を見て、全身に身の毛もよだつような恐怖心が沸いた。
そこには、半球状の土の塊が存在していた。
半径が5mほどあり、まるでドームのような形をしている。
乾いた土が、まるで生きた岩石のように重なり合い、中にいる者をあっという間に閉じ込める。
ドームの中に入ったら最後、脱出することは至難の業。
──土遁結界・土牢堂無。
チョウジには分かっていた。
この術の名前、この術の恐ろしさ。
そして、なによりこの術を使うヤツのことを。
チョウジが急いでドームに近づくと、そこには1人の巨漢の忍者が立っていた。
その忍者は土のドームのすぐ傍らに立ち、両手を土の壁に伸ばしていた。
ドームからは青白い光のような、エネルギーのようなものが、巨漢の忍者に吸い寄せられていく。
それは、おそらく中に閉じ込められた、山中いののチャクラだろう。
その忍者は、いののチャクラを吸い取り、自分のエネルギーに変えていたのだ。
チョウジはその光景に一瞬立ちすくんだが、憤然として叫んだ。
「やめろ!」
「フフフッ。よくぞいらっしゃいました」
「次郎坊・・・生きていたのか」
「地獄の底から舞い戻ってきたぜ。俺の大好きなおデブちゃん」
「デブっていうな!」
チョウジは、チャクラを吸い続ける次郎坊を睨み付ける。
いま次郎坊が吸い出しているのは、間違いなく、いののチャクラだ。
恐らく、いのはいきなりドームの中に閉じ込められ、チャクラを吸収されて動けなくなっているに違いない。
あまりに卑怯な奇襲攻撃。
そう考えたとき、チョウジは怒りで拳が震えてきた。
「僕の友達に、なにをするんだ!」
「バカか、てめーは。見れば分かるだろう?」
「うるさい! いの、いま助けるから!」
チョウジは大声を出して、土牢の中のいのに呼びかける。
そして、全身にチャクラをみなぎらせ、次郎坊に突撃しようとした瞬間。
「そう焦るなよ、秋道チョウジ」
なにやら落ち着いた、余裕を感じる声。
これまでの次郎坊とは雰囲気が違う。
あまりに冷静で余裕のある次郎坊の態度に、チョウジは罠があるのかと思い、動きを止めた。
チョウジは次郎坊を睨みながら、話しかける。
「いののチャクラを吸い尽くすつもり!?」
「違うな。もう吸い終わった。お前の連れのバカな女は、ドームの中で動けなくなっている」
「バカっていうな! でも、あまり頭はよくないかも・・」
「なぁ、久々に会ったんだぜ。少し話でもしようじゃないか」
「お前に話すことなんて、なにもないよ!」
「おいおい、随分と嫌われているな。俺はこの一年間、ずっとお前のことだけを考えて生きてきたんだぜ」
「ぼ、僕のことを・・?」
言葉の意味が分からずに困惑するチョウジ。
次郎坊は小さく頬を上げて笑う。
「お前のようなクズにどうして負けたのか、必死に考えて生きてきた。
だから、お前への想いは、陰気な影使いの隊長さんよりも強いかもな」
「シカマルのことをバカにするな!」
次郎坊はほぼチャクラを吸い取り終わったのか、両手を土の壁から放した。
そして、嫌らしい笑みを浮かべて、チョウジの方向に向き直る。
「俺はずっと秋道チョウジに会いたかった。いま心の底から嬉しいんだぜ」
「僕は会いたくなんかないよ!」
「あまり嫌うなよ。俺がどうしてお前に会いたかったのか、分かるか?」
「知るもんか」
すると、次郎坊は不思議と楽しそうな顔をしながら、話しかけた。
「俺は暗い地下室で、一年間も音の里で体をもてあそばれた。まるで家畜に成り下がった気分だったぜ」
「ど、どういう意味!?」
「お前のような"クズ"以下の"虫けら"に2度も不覚をとったせいで、俺は人間以下の扱いにされた。
だからお前に、俺と同じ苦しみを味わってもらいたいのさ」
「勝手なこというなっ」
「俺は忍術も体術も、なにもかもがお前よりも優れている。
チャクラの量も倍以上あるし、呪印の状態2になればお前に負ける要素はない。
考えて見れば当たり前のことだ。
しかし、俺は負けた。だから俺は、お前の強さがなんなのかを考えた。
捨て駒扱いのカスが、どうして俺に勝つことができたのかをな。
そして、俺は悟った。俺は、ある一点だけがお前よりも劣っていたのだ」
「一点だけ・・。それって何なの!?」
「なんだよ、お前は質問ばかりだな。
少しは自分で考えて見ろよ。もっとも、そのちっぽけな脳みそじゃ分からないだろうがな。
だからこれからそれを教えてやるよ。俺が手に入れた新しい力をな。
これで、お前に負ける要素はひとつもなくなった」
「新しい力だって!?」
「さぁ秋道チョウジよ。全力で俺と戦え。お前の"覚悟"をもう一度見せてみろ。じゃないと死ぬぜ」
自信ありげに語る次郎坊に、チョウジは躊躇していた。
なぜなら、次郎坊の実力はチョウジが一番良く知っていたから。
コイツは、とんでもない強さを持っていて、戦えば自分もタダでは済まない。
以前戦ったときの痛みを思い出すだけで、体が震えてくる。
特に、次郎坊に呪印の状態を発動させたら、まず勝ち目がない。
いまは3色の丸薬は持っていないのだから。
チョウジはゴクリと唾を飲み込んで、次郎坊をジッと観察する。
しかし、スキらしいスキは見当たらなかった。
「どうしたんだ、秋道チョウジ? 早く俺を倒さないとドームの中にいるバカ女が死ぬぜ。
ドームの中はどんどん空気が薄くなっているからな。動けない女は酸欠でオダブツだ」
「卑怯だぞ!」
「さぁ、早くかかってこいよ。忍者ごっこがお似合いの哀れなデブ!」
「う、うるさい!!」
執拗に挑発する次郎坊。
チョウジは「ハァ!」と気合を入れて、体の周囲にチャクラを集中する。
青白く練り上げられたチャクラが、チョウジの全身から湧き上がった。
「ほう、以前よりもチャクラの量が膨大になったらしいな。それでもメインディッシュには程遠い」
「僕だって、この1年間で相当に修行したんだからね。3色の丸薬がなくてもお前に負けるもんか」
「口だけは一人前になったな」
「そんな余裕をかましていられるのも、今のうちだよ!」
チョウジは両手で素早く印を結び、そして叫んだ。
「倍化の術!」
お腹を中心に体の表面積が、数倍に跳ね上がる。
腕と足、そして頭を膨らんだ体内に埋める。
「いくぞ、肉弾戦車っ!!」
球状に膨れ上がった体が、勢いよく回転しはじめる。
まるで自動車が急発進したような勢いで、タイヤならぬ、チョウジの肉弾がキューッと音を立てて突進した。
「ゴロゴロゴロゴロ!!」
「フン、一度見れば十分な大道芸だぜ」
目の前に迫った肉弾戦車を、次郎坊は避けようともしなかった。
次郎坊は呪印の状態1を発動させる。
額から頭頂部にかけて、呪印の証である模様が浮かび上がった。
次郎坊は、回転で殺傷力のついたチョウジの肉弾戦車を、そのまま素手で正面から受け止めた。
「ゴロゴロゴロ!!」
「以前よりも、随分とパワーアップしているが、こんなもので俺様を倒せるものか」
次郎坊は腕で肉弾戦車を受け止めるたが、そのままズルズルと後退する。
地面に足をひきづって、しばらくチョウジの肉弾に押される形になった。
しかし「ハァ」と渇を入れて踏ん張ると、その場で肉弾戦車を力で停止させ、回転を完全に殺してしまった。
「肉弾戦車ってのはよ、体の表面積をでかくして、急回転させる技だ。
並の忍者ならば、この回転は止められない。まして素手で止めれば大火傷だ。
しかし、俺様のパワーには通用しないんだよ。
それに、止めてしまえば、全身がスキだらけなのが致命的だぜ。お前の弱点を一刺しにできる」
次郎坊は素早く両手で印を結ぶ。
「土遁・土槍太刀」
次郎坊の腕に、土で固められた鋭利や槍のような武器が、作られる。
「どんなに体を脂肪で膨らませても、中心には貴様の大切な肉体があるからな。この攻撃は防げまい」
次郎坊は手に持った硬い槍を、チョウジの肉弾に向かって、ブスリ!と突き刺した。
その槍は、チョウジの肉塊に食い込み、奥深くまで突き刺さったのだろうか?
「ぎゃああっ!!」
「さて、どこに命中したかな。心臓ならば、運が悪かったと思いな」
ボンッという煙を吹きながら、チョウジの倍化の術は自然に解けていた。
そして、術の煙の中から現れたのは、傷ついたわき腹を必死にかばうチョウジの痛々しい姿だった。
勝手に次郎坊に新技を増やしてみました(^^;