次郎坊の圧倒的なパワーの前にチョウジは・・?
登場人物
秋道チョウジ。仲間想いでおっとりした性格。中忍合格を目指している。
山中いの。アスマ班の紅一点。綱手からの任務に激怒するが・・?
次郎坊。土遁の術を使う巨漢。チョウジに2度も破れ、復讐を誓っている。
「ハァハァ・・」
わき腹から血を滴らせたチョウジの痛々しい姿。
右手でキズをかばいながら、なんとか立っていた。
次郎坊の土槍太刀は、肉弾戦車の内部に突き刺さり、チョウジのわき腹に命中していた。
次郎坊は、チョウジの高回転で殺傷力のある肉弾戦車を、素手で簡単に受け止め、
さらに土槍太刀で、あっさりと大ダメージを与えたのだった。
「フフフ、わき腹に命中したか。もっとも、これで終わりじゃ、おもしろくない」
「ううっ・・」
「秋道チョウジ、よく聞けよ。
俺はお前のことだけを、一年間も凍えるような牢屋の中で、考えてきたんだぜ。
だから、お前の技はすべて破る自信がある。
肉弾戦車も止めてしまえば、実はスキだらけの技だったというわけだ。
さぁ、次はどうする? 部分倍化の術でも出すか?」
「くっ・・」
「早くしないと、ドームの中にいるポニーテールのアホ女が死ぬぜ」
「アホっていうな! いののことを、これ以上悪く言うと許さない!」
焦ったチョウジは、痛めた体にムチを打ち、再びチャクラをハッと溜め込む。
そして、次郎坊に向かってそのまま突進した。
「うぉ〜!」
拳にすべての力をこめて、突進するチョウジ。
(僕だって、この一年間の修行で強くなったはず・・! だから力で押してやる!)
チョウジらしい単純な作戦だ。
単純というよりは、チョウジが自然に取った行動だった。
わき腹の痛みと、いのを人質に取られた動揺で、チョウジには作戦を考える余裕はなかった。
チョウジは次郎坊に向かって突進すると、そのまま肩と肩がぶつけて組み合った。
ゴツンと音がする。
まるで相撲の立ち会いのように、お互いの胸をぶつけ合う。
正面からぶつかってきたチョウジを、そのままドッシリと受け止めた次郎坊。
力比べに入る。
しばらく押したり引いたりが続いたが、次郎坊が肩越しに囁いた。
「ほう、随分とパワーが増したな。さすがは俺好みのデブなだけはある」
「だからデブっていうな!」
「うれしいぜ。こうして組み合うと、秋道チョウジの息遣いまで感じることができるんだからな」
「お前、本気で戦ってないな!?」
「ヘヘッ。随分と呼吸が乱れているな。心臓の鼓動までよく聞こえるぜ。
お前とこうして触れ合っているだけでうれしくて震えてくる。
お前は憎らしいヤツだが、憎らしさを通り越して、いまじゃ秋道チョウジに愛情すら感じるんだぜ。
たいしたもんだろう? お前のことを考えすぎて、頭がおかしくなっちまったのかもな。
お前を俺のものにしたくてうずうずしているんだよ」
「へ、変なこというな!」
「だから、食ってやるよ」
「なに・・」
「戦いにスマートさはいらねぇな。勝てばなんでもアリだぜ」
そういうと、次郎坊は呪印の状態を2にあげる。
皮膚が黒くなり、人間とは思えない異形の姿となる。
チョウジは次郎坊が呪印の状態2になったことに気がつき、背筋にぞっと寒気が走った。
しかし、組み合った体勢では、うかつに離れることもできない。
チョウジがどうしようかと迷っているスキに、次郎坊は行動を起こしていた。
歯はグイッと伸ばして、先端をまるで獣の牙のように尖らせた。
「では、いただきますか」
目の前にあるチョウジの肩に、ガブリと噛み付いた。
それは次郎坊らしくない原始的な攻撃だった。
プライドの微塵も感じられない、えげつない攻撃とでもいおうか。
「ぐわああっ!」
次郎坊のいきなりの噛み付き攻撃に、チョウジを咄嗟に悲鳴をあげた。
食い込む牙の肩の激痛に、体の力が抜けていく。
「ぎゃあああっ、放せ!」
「ハーハハッ、うめーなー。秋道チョウジの体はよ!」
「ああっ・・力が・・放せ・・」
「分かった、分かった。放してやるぜ」
肩に食い込んだ牙を外すと同時に、次郎坊は手にチャクラを集中させる。
そして、チョウジを突き放すとすぐに技に繰り出す。
「
「
あっという間に、チョウジの肩を弾き飛ばし、拳で腹をえぐるようなパンチを加える。
次郎坊の得意の連続攻撃がモロに決まり、チョウジは数メートルは軽く吹っ飛ばされた。
「フフッ、呪印の状態はチャクラを食うからな。すぐに解放しなくては」
次郎坊は呪印の状態を解いて、元のモヒカン頭の姿に戻る。
長期戦を見越して、チャクラを温存する戦略的な戦いだった。
一方、地面に穴が開くほど強く叩きつけられて、転がったチョウジは、
しばらく、ヒクヒクと痙攣をしながら、地面を這いつくばった。
「ハァハァ・・うぐっ・・・」
牙を突き刺された肩を押さえ、そこにチャクラを流して少しでも治療を行う。
チョウジは医療忍者ではないが、多少のキズの回復ならば、自分のチャクラでできないこともない。
なんとかヨロヨロとしたぎこちない体勢で、立ち上がった。
次郎坊は、牙で吸い取った血をベロンと舌で舐め、懸命に立ち上がるチョウジを見てあざけり笑う。
「もう戦いにならねぇな」
「ハァハァ・・・」
「戦いにプライドを捨てた俺にスキはない。勝つためならなんでもする。それが俺の流儀になった」
「うっ・・ぐっ・・」
「さぁ、今度はお前の"覚悟"を見せてみろ。
死を目の当たりにしたとき、お前は真の力を出すだろう? だから、とことん追い込んでやる」
次郎坊は、立っているのがやっとのチョウジにさらに追い討ちをかける。
猛スピードでチョウジの目の前に現れ、膝をチョウジのアゴに入れる。
「
「げはっ!」
アゴが砕けるような音とともに、フワッと浮き上がったチョウジの体。
そこにさらに拳をぶちこむ。
「
次郎坊が得意とする
通常の打撃技だが、パワーのある次郎坊が放つだけで、それは凶器へと変わる。
チョウジは腹を打ちぬかれ、背骨を叩き折られ、トドメに顔面を殴打される。
ミシミシッと骨が軋む音がして、意識を失いかける。
拳は体を突き抜けて、内臓に直接をダメージを与える。
「げはっ!」
圧倒的だった。
もはや戦いとはいえない、次郎坊の一方的な殺戮が続く。
「あぐっ・・」
次郎坊の圧倒的な攻勢に、チョウジは成すすべもなく倒れた。
全身が砕けるように痛い。
めまいがして気持ち悪い。
ハァハァと呼吸は乱れ、意識が朦朧とする。
地面に、口から流れた血が滴り落ちている。
それでも、なんとか立ち上がろうと、必死に腕を地面に伸ばす。
「ハーハハッ、どうした?」
「僕は負けない・・」
チョウジの目はまだ死んでいなかった。
次郎坊は薄ら笑みを浮かべ、チョウジを見下ろして話しかけた。
「秋道チョウジ・・いい目だぜ。以前に戦ったときもそうだった。
どんなにボロボロにされても、決して諦めていない。まだ仲間を助けようとしているな」
「当たり前だろ・・」
「フフフッ、ではどうする? 俺を倒さないとドームの中の女が死ぬぞ」
「くっ・・」
「早くお前の"覚悟"をみせろ」
次郎坊の挑発的な言葉に、チョウジは足をふらつかせながら、根性で立ち上がる。
そして歯を食いしばって、次郎坊をカッと睨みつけた。
「ハァハァ・・僕は絶対にいのを助ける。いのは僕の友達なんだから。
僕は友達を傷つけるヤツは絶対に許さない。この命に代えても、お前を倒してみせる」
「そうだ。その意気だぜぇ。早くかかってきな」
「だから、僕は次の一撃にかける」
「一撃か。いいねぇ、気に入ったぜ」
(僕は絶対に、次郎坊には負けない!)
意を決したチョウジは、服のポケットから一本のクナイを取り出す。
そこに自分のいま持っている、ありったけのチャクラを凝縮した。
クナイが青白く光り、まるで白い炎に包まれているようだ。
「なるほど。忍術ではかなわないとみて、一本のクナイに全てを賭けるか。以前と同じだ」
「このチャクラは、僕の最後の切り札だよ。絶対にお前の心臓を貫く」
「さて、当たるのかな?」
チョウジは、腰につけている忍具のポーチから、1つの煙玉を取り出す。
それを、次郎坊めがけて思いっきり投げつけた。
──ドボン!
次郎坊の目の前で、煙玉が勢いよく破裂した。
そこから真っ白な煙が、モクモクと立つ。
「うわっ、なんだ!? ゴホッ!」
次郎坊は、突然視界を遮られ、前後左右を煙で覆われる。
その場から飛び上がって、脱出しようとしたが、それをやめた。
(いま飛び上がれば、その瞬間に秋道チョウジのクナイにやられる・・)
おそらくチョウジの狙いは、次郎坊が煙から脱出しようとした無防備な瞬間を、クナイで攻撃すること。
(すべてお見通しなんだよ。それにたいして濃い煙でもない。ならば待たせてもらおう)
そう考えた次郎坊は、煙が収まるまで、そこから移動せずにどっしりと構えることにした。
・・・。
やがて時間が経ち、煙が消えていく。
(なに・・秋道チョウジがいない・・)
白い霧のような煙が晴れると、次郎坊の視界からチョウジの姿は消えていた。
次郎坊の攻撃がエゲつないかな?(^^; 挿絵はきんたろーさんにいただいてます。