最後の賭けに出たチョウジだが?
登場人物
秋道チョウジ。仲間想いでおっとりした性格。中忍合格を目指している。
山中いの。アスマ班の紅一点。次郎坊のドームに閉じこめられる。
次郎坊。土遁の術を使う巨漢。チョウジに2度も破れ、復讐を誓っている。
煙玉が消えて視界がはっきりとしたとき、チョウジの姿は消えていた。
「煙玉で時間を稼ぐつもりか? 消極的な作戦だな。がっかりしたぜ」
次郎坊は、チョウジの情けない行動にくけけっと笑いをこぼす。
しかし、次郎坊の笑いが終わらぬうちに、背後から凄みのある声がした。
「僕は逃げたりしないよ。このクナイをお前の心臓に一刺ししたら、それで終わりだ」
「なるほど。こりゃいい。以前戦ったときと、全く同じ体勢だな」
いつのまにか、次郎坊の背後にチョウジが立ち、背中からクナイを刺す体勢になっていた。
剣先が、次郎坊の背中にチクチクと突き刺さる。
どうやら煙玉は時間を稼ぐためではなく、次郎坊の背後に回るための囮だったらしい。
チョウジは背後から次郎坊に囁く。
「念のために確認するよ。お前は自分の意思であのドームを崩すことができるよね?」
その言葉に、次郎坊は振り向かずに、視線だけをチラッと後ろにやった。
「なぜ、そんなくだらんことを確認する? クナイで刺せばお前の勝ちだ」
「お前のことは大嫌いだけど、僕はできれば殺したくはないんだ。だからいますぐにドームの術を解け!」
「・・・」
「早く術を解くんだ。聴こえないのか!」
チョウジは体を震わせて怒鳴った。
チョウジの言葉に、次郎坊はフッとため息をついた。
「なんだよ・・秋道チョウジは、随分と優しいんだな。がっかりしたぜ」
「なに!?」
「いま、俺を殺したくないといったな?」
「だからどうしたって言うの!?」
「ハーハハッ、これでお前の弱点がはっきりした。俺が考えていたとおりだ」
次郎坊のほうが不利な体勢なのに、なぜか余裕が感じられる。
チョウジはその雰囲気に居たたまれなくなり、怒気を漲らせる。
「早くしないと本当にクナイを刺すからね!」
「あぁ、刺して見ろよ。その瞬間、お前の首もへし折ってやるから」
「前にも言ったはずだ。僕は友達をバカにするヤツは許せないって。相打ちになっても構わないんだよ!」
「あまり虚勢を張るなよ。それに俺だって、命を捨てても構わないんだぜ」
「なっ・・!」
チョウジはクナイを次郎坊の背中に立てて、有利な体勢を保っていた。
しかし、なぜか追い詰められているのはチョウジの側だった。
次郎坊の死をも恐れぬ、得体の知れない雰囲気。
それがチョウジの気迫を、圧倒していたのだ。
次郎坊は後ろを振り向かずに、チョウジに語りかけた。
「俺はお前に2度も負けた。お前の"覚悟"に負けた。だが、いまは俺にも"覚悟"がある」
「覚悟だって・・?」
「俺がここで死んでも誰も悲しまない。それに骨を拾う人間もいないだろう。
だから俺には失うものはなにもない。俺はいつ死んでもいいのさ。それが俺の覚悟だ」
「そんなの、覚悟じゃない」
「ほう。覚悟じゃなきゃ、なんだっていうんだ?」
「ヤケになってるだけだろ!」
「違うな」
次郎坊はククッと笑うと、胸から一本のクナイを取り出す。
「そのまま動かないで!」
「まぁ、そう慌てるなよ。このクナイでお前を攻撃するわけじゃないし、逃げもしない」
「な、なにをする気!?」
「こうするんだよ」
次郎坊は腕に握ったクナイを、平然と自分の右胸にグサリと突き刺した。
チョウジは次郎坊の予想だにしない行動に、背筋を凍らせた。
額に汗を流しながら、次郎坊に尋ねる。
「な、なにをしてるの!?」
「ヘヘッ、やっぱり相当に痛てぇな」
胸に突き刺されたクナイの部分から、血がプシュッと前方に飛び散った。
「なぁ、秋道チョウジよ。
俺は生まれて初めて、自分で自分の胸にクナイを突き刺して見たが、こりゃ我慢できないほど痛いな」
「お前、正気なの!?」
「ヘッ、正気だぜ。俺はな、いつ死んでもいいって言ってるだろう?
ここで朽ち果てようが、音の里に戻ろうが、どちらにしても地獄が待っているだけだ。
だから2人で仲良くここでオダブツしようぜ。2人で一緒に死ぬとしよう」
「バカな・・」
次郎坊の覚悟とは、チョウジの覚悟とは全く別のモノだった。
守るものがないゆえに、すべてを捨て去ることができる次郎坊の無謀とも思える行動。
果たしてそれが覚悟と呼べるものかは分からない。
失うものが何もない人間だけが持つ、一種独特の強さとでもいおうか。
チョウジはその狂気に満ちた気迫に、凍りついた。
次郎坊は薄ら笑いを浮かべながら、さらに話を続ける。
「どうした、クナイを刺さないのか?」
「・・・」
「もしお前が死んだら、影使いの陰気な隊長さんは、さぞ悲しむんだろうな」
「ど、どういう意味!?」
「シカマルとか言ったよな。一番の親友なんだろう? お前が死んだらシカマルはどうなるかな?
きっと立ち直れないよなぁ。あまりの悲しみにシカマルも後を追って自殺しちまうかもな。
お前は大切な友達を置き去りにして、俺と一緒に死ぬことが出来るのか? あの女はそんなに価値があるのか?」
次郎坊の核心をつくような発言に、チョウジは額から汗を垂らした。
「うっ・・」
「どうした? 図星だろう?」
「仲間の命は、単純に比較できるものじゃないよ」
「ほう。なら俺と一緒に死んでみようぜ。そしてシカマルを悲しませるがいいさ」
「シ、シカマル・・」
「死んだら、シカマルに2度と会えなくなるぜ。それでもいいのか? フフフッ」
次郎坊の言葉に、チョウジの脳裏にシカマルの笑顔が浮かんだ。
普段は一緒にじゃれあって、自分のお腹を枕にして眠るシカマル。
ポテチを横取りしあって、頬っぺたをムニッと横に伸ばしてくるシカマル。
そんな幸せな思い出が、チョウジの頭に走馬灯のように蘇った。
(フフッ、秋道チョウジ、お前の負けだぜ!)
シカマルのことを思い出して、一瞬躊躇したチョウジ。
次郎坊は、その隙を見逃さない。
あっという間に振り向いた次郎坊は、チョウジがもっていたクナイを叩き落す。
「
次郎坊の膝が、チョウジの下腹部にモロに入る。
「がはっ!」
チョウジは不意に喰らった膝蹴りにうずくまり、お腹を押さえて地面に仰向けに倒れこんだ。
次郎坊は足をゆっくりとあげて、チョウジの「食」と書かれたシャツを踏みつける。
「うぎゃ!」
まるで道端のゴミを踏みつけるように、何度も何度もチョウジの胸板を蹴りつけた。
「げはっ、ごほっ!」
「ハーハハッ、なんとか言ってみろ! このカスが!」
「あっ・・がはっ・・」
しばらくすると、チョウジは虫の息となり、ただ荒い呼吸を繰り返すだけとなった。
次郎坊は倒れたチョウジの横に立ち、チョウジの右手を踏みつけた。
「ぎゃああっ!」
「ハーハハッ、これでもう印は結べなねぇな。術が使えなきゃ単なる豚だ。俺様の完全な勝利だぜ」
「まだ、負けてない・・」
「秋道チョウジよ、お前は迷ったんだ。お前はシカマルとあの女のどちらが大切なのか、天秤にかけたのさ。
そして、お前はシカマルを選んだ。あの女が大切だといいながら、命を賭けられなかった。
そんな中途半端な覚悟で、俺様の覚悟に勝てるものか!」
「ち、違う・・」
「違わねぇな。その証拠にお前は俺を殺すことができなかった。なぜだ?」
「それは・・・」
「答えられないだろう? なぜなら、お前にとってあの女はどうでもいい存在だったからだ」
「くっ・・」
チョウジは次郎坊の問いに、反論することができなかった。
なぜなら、いのを助けるために命をかけると言っておきながら、
最後にはシカマルのことを考え、いのよりも、シカマルを優先してしまったのだから。
(僕は、いのを助けられなかった・・。
僕はシカマル以外の仲間には、本当は命をかけることができないんだ・・。
もう僕はいのに顔向けができない。仲間と呼ぶ資格からないのかもしれない・・)
チョウジは言葉に詰まり、そして目から薄っすらと涙がこぼれた。
チョウジは抵抗する気力を失った。
次郎坊は、仰向けに倒れたチョウジを蔑むように見下ろした。
「所詮、なにかを守るための覚悟は、その程度が限界なのさ。
仲間がたくさんいれば、当然優先順位ができる。一番守りたいものを優先するから、死ぬ覚悟が揺らぐ。
お前は"仲間が大切だ"とか、"友達をバカするヤツは許せない"とか、
口では威勢のいいことを言っておきながら、結局はたった1人の人間しか守れない程度の覚悟なのさ。
だが俺は違う。お前を倒すためなら、いつどこで死んでも構わない。俺様の執念が上回ったのだ。ハーハハッ!」
空に向かって、高笑いをする次郎坊。
「ううっ・・」
「さて、お前のチャクラを全部喰ってやるよ」
次郎坊はしゃがんで、チョウジの首根っこを掴む。
そのままチョウジの首を締め付ける。
「うぐっ、がはっ!」
「ヘヘッ、まだチャクラが残ってるな。カスのようなチャクラだけどよ!」
チョウジの首根っこから、青白いチャクラが放出され、次郎坊の腕に絡み付いていく。
それはチョウジの体内に残る、すべてのチャクラを吸収したことを意味していた。
次郎坊はチョウジの首を片手で掴み、そのまま持ち上げていた。
もはや動くこともままならず、天を向いてハァハァと呼吸を乱すだけのチョウジ。
「ヘッ、終わってみればくだらねぇ戦いだったな。俺様の一方的な勝利だ」
「ああっ・・うぐっ・・・助けて・・」
「ハーハハッ!」
次郎坊はチョウジの首をゆっくりと解放する。
そして、チョウジの哀れな姿を見て微笑み、そしておもむろに口を開いた。
「秋道チョウジよ。お前の負けだ。だが、俺は慈悲深い。条件次第であの女を助けてやろう」
「げほっ・・条件・・?」
「いま、俺は最高に気分がいい。お前は完全に戦意を喪失し、目が死んでいる。
俺はずっとその顔を見たかった。秋道チョウジの心がへし折れて、心の底から哀れみを求める姿をな。
さぁ、潔く俺の奴隷になれ。そうしたら、あの女の命は助けてやる。どうする?」
「できわけないだろ!」
「考えている暇はないぜ。もう女はドームの中で死んでるかもしれないんだから」
その言葉にチョウジは全身を震わせ、拳をギュッと握り締めた。
自分がいのを助けられなかったことに、チョウジの心は激しく葛藤していたのだ。
苦悩に満ちるチョウジの顔を見て、次郎坊はあざけり笑う。
「さて、もう選択肢はねぇよな?」
「分かった。僕は・・お前に従う・・」
「声が小さくて聴こえねぇな!」
「従う・・」
「モノには言い方ってものがあるだろう? 『次郎坊様の奴隷になります』と言え!」
「うっ・・」
戦うものにとって、最も惨めな敗北宣言。
"奴隷になる"などという言葉は、口が裂けてもいえるわけがない。
しかし、そうしなければ、いのを助けることはできない。
せめて、いのが助かるならば・・。
自分がいのを助けられなかった罪滅ぼしとして、チョウジは決意した。
「次郎坊様の・・奴隷になるから・・いのを助けて」
「ハハハッ、よく言ったぜ。では約束どおり土牢は解いてやる。そしてお前の体をいただくぜ」
次郎坊がパチンと指を弾くと、土牢堂無が音を立てて崩れていった。
中には、山中いのがぐったりとして倒れている。
わずかに指先が動いていることから、一命は取り留めたようだ。
チョウジは、いのが無事だったことにホッと安堵した。
しかし、そんな思いもつかの間。
次郎坊がチョウジのお腹にまたがり、マウントポジションのように乗っかってきたのだ。
「さて、軽く前菜からいただきますか」
「は、放してっ!」
「ヘッ。そんなに緊張するなよ。もうお前は俺に従うしかないんだから」
次郎坊は、チョウジの焦りの表情を見て、悪魔の笑みを浮かべてみせた。
エロまでが長い?(^^;