音の里へと向かうチョウジと次郎坊だったが・・?
登場人物
秋道チョウジ。仲間想いでおっとりした性格。中忍合格を目指している。
次郎坊。土遁の術を使う巨漢。チョウジに2度も破れ、復讐を誓っている。
──タソガレ村から数キロ歩いた地点。
森の中の一本道で、ときおり大木の間から陽の光が差し込む。
散歩には心地よい小道であろうが、いまのチョウジには地獄へと続く道にしか思えなかった。
(ハァハァ・・・どこまで歩くんだ・・)
チョウジは次郎坊の後ろに従うように、少し距離をあけて、音の里へと歩を進めていた。
しかし、先の戦いで体中が悲鳴をあげており、まともに歩けるような状態ではなかった。
フラフラと足がもたつき、だんだんと次郎坊との距離が離れる。
次郎坊はチョウジが遅れたことに気がつくと、途中で立ち止まる。
「どうした? 豚は四つん這いで歩いた方が速いんじゃないのか?」
「う、うるさいっ」
「ほう、声だけは元気じゃねーか」
次郎坊が、再び歩き出す。
チョウジは次郎坊に悪態をつかれながらも、フラフラと揺れる足取りであとを追っていった。
しかし、それを何度も繰り返すうちに、次郎坊はいい加減に焦れてきたのだろうか?
振り返り、いまにも倒れそうなチョウジに、ゆっくりと近づく。
そして、少しイラついたような口調で話しかけてきた。
「なんだよ、本当にまともに歩けないのか?」
「僕はこれでも精一杯歩いているんだ」
「まったく、太った豚はどこまでも世話が焼けるぜ」
次郎坊はなにかを思いついたのか、無言でその場にしゃがみこむ。
そして、大きな背中をチョウジに向けた。
「俺様が特別におぶってやるぜ。早く乗りな」
「お前の世話になんか、なりたくないよ!」
「このままのペースじゃ一ヶ月かかっても、音の里につけないぜ」
「・・・」
「それにあまり遅くなると、俺が困るんだよ。
大蛇丸様にいらん処罰を受けることになるからな。だから俺が音の里まで運んでやる。ありがたく思え」
たしかにこのペースで歩けば、音の里に着くのに何年かかるか分からない。
ここは次郎坊に従うしかないとチョウジは観念した。
「・・・分かったよ」
「そうだ。それでいい」
次郎坊の背中におんぶされるのは抵抗があったが、チョウジは仕方ないという表情で背中に乗った。
次郎坊はチョウジを背負うと、片足で地面を蹴り上げて、木の枝に飛び乗る。
そして、巨漢の忍者とは思えない身の軽さで、木から木へと飛び移っていった。
激しい動きに、チョウジは背中から落ちそうになる。
チョウジはあまり話しかけたくはなかったが、耳元で次郎坊に呼びかける。
「ちょ、ちょっと、次郎坊?」
「・・・」
「次郎坊ってば! わざとらしく無視しないでよ」
すると、次郎坊がそっと後ろを振り向く。
「なんだよ? いちいちうるせーな」
「もうちょっとゆっくり進んでよ。落ちちゃうじゃないか」
「どこまでも世話が焼ける豚だぜ」
次郎坊はチョウジの申し出を渋々ながら、受け入れたようだ。
少しペースが落ちて、動きも緩やかになった。
チョウジは次郎坊の背中に必死にしがみつきながら、ふと思った。
次郎坊の背中が、とてつもなく広くて大きいと。
それに、次郎坊は太ってはいるが、自分と違って筋骨逞しい。
チョウジがぽっちゃりした体型ならば、次郎坊はガッチリした体型とでもいおうか。
おそらく、毎日過酷な訓練をし、鍛え上げられた体なのだろう。
自分が次郎坊に勝てたのは奇跡に近いと思えるほど、
肉体だけをみれば、次郎坊のほうが圧倒的に洗練されて鍛え上げられていたのだ。
さすがは音の里の中でも、大蛇丸から直接命令される部下だけはある。
チョウジはいままで次郎坊のことなど考えたことはなかったが、
背中に揺られているうちに、この大男がどのような人間なのか興味が沸いたのも事実だった。
チョウジは次郎坊の耳元に向かって、話しかけた。
「あのさ・・」
「なんだ?」
「ちょっと聞いてもいい?」
「うるせーな」
「これから僕はどうなるの?」
チョウジの不安そうな顔。
次郎坊はニンマリと笑みを返しながら、返事をした。
「大蛇丸様は、お前が持っていた3色の丸薬を研究したいそうだ」
「丸薬の原料を知ってるから?」
「大蛇丸様は研究熱心な方でな。秋道一族の体に興味があるらしいぜ」
「僕は・・僕は殺されちゃうの?」
「さぁな。大蛇丸様はお前の体が必要なばすだから、殺すことはないだろう」
「でも、研究が終わって必要がなくなったら・・」
「いちいち肝っ玉が小せーな。お前は俺のものになるんだから心配するな。たっぷり可愛がってやるよ」
「・・・」
次郎坊に質問をしたところで、ますます不安が募るだけだ。
余計なことを聞いてしまったなと、チョウジは少し後悔をした。
しばらく進むと、今度は次郎坊が話しかけてきた。
「おい、チョウジ?」
「な、なに?」
「俺はこの一年間、ずっとお前のことを考えてきた。だからお前にとても興味がある。
それに、これからは俺が
一方的な次郎坊の言い草に、チョウジは不満げに口を尖らせた。
しかし、ここで黙っていても会話は成立しない。
チョウジは仕方なく、ボソッと呟いた。
「僕の何が知りたいの?」
「お前はどうして忍者になったんだ?
お前のようなデブでノロマなヤツじゃ、忍者の資質もないし、向いていないだろう?」
「デブっていうな! 次郎坊だってデブじゃないか」
「俺はこういう体型に"作られた"んだよ」
「作られた・・? どういう意味・・?」
チョウジの質問に、次郎坊はしばらく黙ったままだった。
次郎坊は遠くを見つめながら、語りだした。
「俺は小さい頃に、大蛇丸様に拾われた」
「両親はいないの?」
「分からない。気がついた頃には俺は大蛇丸様のものになっていたからな」
「"作られた"って?」
「なんだよ、俺が逆に質問されてるじゃねーか」
「僕も自分のことを答えるから、次郎坊のことを教えてよ。お願い」
チョウジはいままで、目の前の巨漢で憎たらしくて、口の悪い男のことなど、考えようと思わなかった。
しかし、いまはなぜか次郎坊のことを知りたくなったのだ。
コイツはとんでもなく悪いヤツだが、いののことを殺さなかったし、前とは少し雰囲気が変わったような気がしたから。
「俺は、パワーのみを追求した忍者の実験体にされた」
「パワーって?」
「要するに力だ。大蛇丸様はいろいろなタイプの忍者を研究されているからな。
俺は元々体が大きかった。だから、俺は忍者でありながら、ありったけの食料を食わされた。
そして、忍者にあるまじき巨大な体になり、土遁の術も覚えさせられた。
大蛇丸様は、パワーと忍術と素早さが同時に兼ね備えられるのか実験したのさ。この俺の体でな」
「そんなの、ひどいじゃないか!」
「ほう、俺に同情してくれるのか? うれしいぜ」
「べ、別にお前に同情なんか・・・」
「秋道チョウジは優しいからな」
次郎坊の皮肉な発言に、チョウジはプイッと横を向いて口をすぼめた。
今度は次郎坊から尋ねてきた。
「おい、チョウジ。それでお前はどうして忍者になったんだ?」
「・・・」
「早く答えろよ。俺はちゃんと答えたんだぜ」
チョウジは、ほうっとため息をついて語り始めた。
「僕の家は先祖代々忍者だから・・。忍者の家に生まれたから、そうなるしかないでしょ。
でも、僕は人と殺しあうのが嫌いなんだ。だから本当は忍者に向いていないのかもしれない・・」
「じゃ、忍者なんかやめちまえよ。てめーのようなカスには似合わないぜ」
「カスっていうな! ・・・だけど木の葉では忍者といっても、いろいろとあるんだ。
僕は人を助ける任務がほとんどで、暗殺のような暗部がやる仕事は回ってこないんだ。
それに僕にはたくさんの仲間が出来たから・・」
「仲間?」
「シカマルがいたから・・」
「影使いの陰気の隊長のことか?」
「シカマルのことをバカにすると怒るからね」
「あぁ、分かった分かった。シカマルはお前の命よりも大事な存在だったよな」
「僕はシカマルと一緒だったら、ここまでやってこられんだ」
チョウジの答えに、次郎坊はけげんな顔をする。
少し不機嫌そうな口調で、話しかけてきた。
「それで、お前が初めてシカマルに出会ったのはいつなんだ?」
「僕が6歳のときだよ」
「シカマルのどこがいいんだ?」
その質問にチョウジは即答できずに、少しだけ首をひねった。
次郎坊は、返事のないチョウジに向かって、茶化すように話す。
「なんだよ、シカマルにはいいところは無いのか?」
「そんなこと考えたことがないんだ。だって友達だから・・」
「ずっと、一緒なのか?」
「うん。僕はシカマルとずっと一緒だった。2人で野原を駆け回って遊んで、
疲れたときは2人で一緒に眠って、僕がポテチを食べていると、シカマルが横取りしてケンカになったり・・。
忍者のアカデミーに入ったのも、シカマルが一緒だったから。アカデミーのときは楽しかったよ。
僕とシカマルで火影様にイタズラをして怒られたり、授業を抜け出して雲をみながらポテチを食べたり・・」
チョウジの言葉に、次郎坊はバカにしような口調で話しかけてきた。
「木の葉の里ってのは、とんでもねぇ甘ちゃんだな。信じられねぇぜ。
音の里では、忍者ってのは、幼少のときから暗い部屋の中で、必死に修行して鍛えていたぜ」
「木の葉の里は、音の里とは違うんだ」
「所詮は、仲良しグループの忍者ごっこだな。お前にはそれがお似合いだ」
「仲良しごっこって言うな!」
「だってそうじゃねーか?」
チョウジは次郎坊の言うことに声をあげて反論しようとしたが、途中でやめた。
フーッと息を吐き出して、怒りを沈めてやんわりと答えを返した。
「次郎坊には分からないんだよ」
「なにをだ?」
「忍者だって人間なんだ。だから友達が必要じゃないか」
「人を殺す忍者に、友達が必要なのか?」
「当たり前でしょ。次郎坊には友達がいないの!?」
「そ、それは・・」
次郎坊は一瞬ためらったが、すぐに切り返した。
「俺は昔、音の四人衆と呼ばれていたときがあった。
多由也、鬼童丸、左近っていうヤツらがいてな。お前もサスケを奪還しにきたときに会っただろう?」
「うん。次郎坊と同じような服装していた。じゃ、次郎坊には友達がいたんじゃないか」
「ケッ、あんなヤツらが友達なものか。ヘドが出るぜ。
アイツらは同じ音の里にいただけで、仲間でもなんでもないんだよ。
それになにかにつけて、俺のことをバカにしやがって、俺はアイツらがいけ好かなかった。
だから、もし機会があれば、俺がこの手であの3人をぶっ殺そうと思っていたさ」
「一緒に生死を共にした仲間じゃないの!?」
「お互いが利用しあっただけだ」
「そんなの悲しすぎるじゃないか!」
「なにをムキになってるんだ、お前は?」
チョウジが突然に怒声をあげたので、次郎坊は驚いたような声を上げた。
チョウジは言葉を詰まらせならがら、話しかける。
「友達がいないなんて悲しすぎるよ・・。
だって苦しいときはどうするの? 嬉しいときは誰が一緒に喜んでくれるの!?」
「苦しいときは耐えればいいさ。それに生まれてこのかた、嬉しかったことなど1つもないぜ」
「大蛇丸に誉められたら嬉しくないの?」
「それは・・」
「嬉しいんでしょ? だったら、それを誰かに話したりしないの?」
「話すヤツなんて、誰もいねーんだよ」
次郎坊の話を聞いているうちに、チョウジはだんだんと胸が詰まってきた。
コイツは敵であり、悪いヤツだとは分かっている。
それでも、なぜかチョウジは次郎坊に同情さぜるを得なかった。
「もし、僕が一緒にいたら・・」
「なんだと?」
「こんなこと言いたくないけど、もし僕が音の里にいたら、次郎坊と友達になれていたかもしれないよ・・」
「ハーハハッ、バカか、てめーは!」
「次郎坊は、本当は友達が欲しいんじゃないの!? 僕とシカマルを見て何も感じないの?」
「うるせーな! 友達と馴れ合うなんて、鳥肌が立つほど気持ち悪いぜ!」
そういうと、次郎坊はプイッと前に向いてそのまま黙ってしまった。
(次郎坊・・)
チョウジは釈然としない気持ちのまま、次郎坊の大きな背中に顔をうずめた。
もしかすると、次郎坊ともっと話をすれば、心を開いてくれるのではないか?
そんな淡い気持ちを抱いたチョウジだったが、実際には次郎坊が心を開くことはなかった。
そのあと、音の里に着くまで、お互いが話すことは一度もなかったのだ。
なかなか先に進みませんね・・。