チョウジ小説(第2部) (10)


登場人物

秋道チョウジ。仲間想いでおっとりした性格。中忍合格を目指している。

次郎坊。土遁の術を使う巨漢。チョウジを自分のものにしたと思ったが・・?

大蛇丸。音隠れの里の長で、三色の丸薬を研究するためにチョウジを捕らえる。

薬師カブト。大蛇丸の側近で音隠れの里の医療忍者。


──1ヵ月後。
地下の豚小屋からは、毎日かすれたようなうめき声が響いていた。
それはチョウジがもがき苦しみ、喘ぎ、そして嗚咽が混じったような歪んだ叫びだった。
次郎坊は部屋に入ることを許されていなかったが、
 チョウジの悲痛な声は、少し離れた場所からでも聴こえていた。
(クソッ・・秋道チョウジを捕えたのは俺だ・・。どうして俺のものにならないんだ・・)
次郎坊はこの一ヶ月間、イラついていた。
大蛇丸の命令で、チョウジを3色の丸薬の実験台にさせることは約束したが、
 次郎坊は、あくまでチョウジは自分のものだと考えていた。
なぜなら、秋道チョウジを捕えたのは、他でもない自分なのだから。
しかし、その功績を大蛇丸に称えられることもなく、チョウジを自分のものにもできない。
チョウジのうめき声を耳にするたびに、部屋の中で何が行われているのか、気になって仕方がなかった。
徐々に不満も募ってくる。
しかも、ここ数日はチョウジのうめき声すら聴こえなくなっている。
あまりに静かで逆に気味が悪いほどだ。
すでに、3色の丸薬の分析は終了したのだろうか?
我慢の限界に達した次郎坊は、大蛇丸のもとを尋ねることにした。


「大蛇丸様・・」
「あら、次郎坊じゃない? 久しぶりね」
大蛇丸は自分の書斎で、大きな椅子に頬杖をついて座っていた。
薄気味悪い笑みを浮かべて、次郎坊を横目でチラッと見る。
「本日は大蛇丸様にお願いしたいことがございまして・・」
「なにかしら?」
「秋道チョウジのことです。まだ実験が終わらないのですか? いつになったら私のものになるのでしょうか?」
次郎坊の質問に、大蛇丸はまるで関心がないようにクルッと背を向けた。
「あぁ。あの豚のこと? カブトがもう少し時間が欲しいと言っていたけど」
「どのくらいでしょうか?」
「さぁね。そんなにあの豚のことが心配ならば、部屋に入って愛撫してあげなさい」
「よろしいのですか?」
「好きにしていいわ」
返事を聞くなり、次郎坊は大蛇丸の書斎から飛び出し、すぐにチョウジのいる部屋に向かった。
その姿をみて、大蛇丸はどこか楽しそうな顔を見せる。
「フフフッ。いまさら行っても、もう賞味期限が切れているでしょうけど。
  それに、あの変わり果てた豚をみたら、次郎坊はどう思うかしら? それはそれで面白そうね」





次郎坊はチョウジが監禁された通称"豚小屋"の前に立った。
扉をゆっくりとあける。
一瞬、プンとした独特の生臭い匂いがした。
部屋の中は薄暗くて、一本のロウソクが周りを照らすだけだった。
それほど広い部屋ではなく、せいぜい5,6歩あるけば正面の壁に到達するような広さだ。
次郎坊は暗い部屋の中を見渡す。
目が慣れてくると、薄暗い部屋の右奥に、人間が壁に背をもたれて座り込んでいる。
(チョウジか・・・?)
次郎坊はその方向へと数歩進み、正面に立った。


チョウジは壁に上半身をもたれかけて、グッタリとうなだれて座っていた。
いまは眠っているようで、顔は見えなかった。
首には硬い皮でできた首輪がはめられており、鎖が天井に向かって伸びている。
腕には手枷の鎖がピンと伸びており、痛々しい。
額当て以外は、すべての服を脱がされており、生まれたままの格好を晒していた。
(へぇ・・こりゃうまそうな寝姿だな。大股開きで可愛いチンチン丸出しだぜ)
正面から見ると、豊満な胸も、おちんちんもすべてが丸見えだ。
この一ヶ月の監禁により、痩せてしまったのではないかと心配してたが、
 チョウジの体は以前よりも太っているように思える。
どうやら、実験ということで、食事は十分に与えられていたらしい。
この部屋の中では動くことが出来ないので、さらに太ってしまったのだろう。
肌の色ツヤが良く、壁に横たわっている太った姿は、まるで"豚"そのものだ。


次郎坊は、首を落として眠っているチョウジに呼びかけた。
「おい、チョウジ」
「・・・」
「チョウジ、起きろ。次郎坊様が久々に来てやったぜ。これからお前の体をもてあそんでやるよ」
しかし、チョウジから返事はない。
不審に思った次郎坊は、チョウジの目の前まできてしゃがみこむ。
そして、ウトウトと眠っているチョウジの頬を軽くピシピシと左右に叩いた。
「ううっ・・」
「おい、起きろ」
チョウジがゆっくりと瞼を開ける。
次郎坊とチョウジは数秒間、お互いを見つめ合った。
すると、チョウジは突然慌てふためき、急いで壁に寄り添う。
「うわぁああ!! 来ないで!」
「なんだ、どうしたんだよ?」
「今日はもうやめて・・お願い・・」
「どうして怯えている?」
「四つん這いになります。豚になって食事もします。ブヒブヒって言えばいいんですよね・・だからもう許して・・」
「なにを言ってるんだ、お前は?」


チョウジはいまにも泣き出しそうな顔をして、ブルブルと体を震わせていた。
まるで、断崖絶壁を背にした、ライオンに襲われた小鹿のように。
次郎坊はチョウジのあまりの変貌ぶりに、表情を曇らせた。
「どうしたというんだ、チョウジ?」
「うわああっ、近づかないで!」
次郎坊の知っているチョウジは、一見弱そうに見えるが内面に"覚悟"を持つ勇気がある少年だ。
しかし、いま目の前にいるチョウジは、泣いて許しを乞うような弱々しい子供で、まるで別人だった。
ビクビクとして、まるで落ち着きがない。
次郎坊は突然の出来事にどう対応してよいのか分からず、苦悩に顔を歪ませた。


体を震わせて怯えきったチョウジ。
次郎坊は柔らかい顔つきで、話しかけた。
「なにをおびえているんだ? 俺だ。次郎坊だよ。まさか忘れたわけではあるまい」
「次郎坊・・?」
「まさか俺様を忘れたと言うのか!?」
「分からない・・何も思い出せない・・君は誰なの・・?」
「な、なに!?」
「君はいつもの人とは違うみたい・・僕のことを"チョウジ"とか・・。
  僕は"人間"なの?それとも"豚"なの? 僕のことを知っているんでしょ、だったら教えて!」
チョウジは切羽詰ったような表情で、次郎坊ににじり寄った。
その姿をみて、驚いて額から汗が流れ落ちた。
(どういうことだ・・チョウジが俺のことを覚えていないなんて・・。
  薬師カブトがチョウジになにかをしたのか・・・まさか"抹消"したのか!?)
そう考えたとき、次郎坊の顔に緊張が走り、ゴクリと唾を飲み込んだ。


──抹消。
それは音の里では、実験体にしばしば使われる言葉だ。
捕虜として連行した相手の記憶を消し去る。
そして、その相手を自分の意のままに操り、音の里の一員として使う。
音の里は基本的に人数が少なく、若い忍者を育てる環境も整っていない。
そこで他の里から、優秀な忍者を捕まえて、記憶を消してしまうのだ。
そうすれば、教育費をかけずに立派な音の里の忍者が誕生する。
大蛇丸らしい、実に打算的で厭らしい人間の扱い方だった。


──秋道チョウジは記憶を消された。
次郎坊はその事実を認めたくはなかったが、
 目の前にいるチョウジの哀れな姿を見れば、現実を受け入れないわけにはいかない。
次郎坊は背筋を凍らせながら、口を開いた。
「チョウジ、どこまで覚えている?」
「え・・?」
「どこまで記憶がある?」
「"チョウジ"っていうのは、僕の名前なの・・?」
その言葉を聞いて、次郎坊は表情を曇らせた。
「自分の名前も分からないのか!?」
「うん・・」
「お前の名前は"秋道チョウジ"だ。他になにか覚えていないのか?」
「秋道チョウジ・・・うっ・・木の葉の里・・・シカマ・・ううっ、頭が痛い・・」
チョウジは頭を振りながら、その場でうずくまってしまった。
次郎坊は慌てて、チョウジの背中に手を回して、抱くようにゆっくりとさすった。
「しっかりするんだ」
「僕の名前は"秋道チョウジ"っていうんだね・・。君は、誰なの?」
「俺は"次郎坊"だ」
「次郎坊・・・。次郎坊は僕の味方なの? もしかして、僕のことを助けに来てくれたの?」
「そ、それは・・」
「どうしたの・・? まさか次郎坊も僕の敵なの!? 
  アイツらと同じように、僕の体を好きなだけ触ってもてあそぶ奴らの仲間なの!?」
チョウジは目に涙を溜めながら、次郎坊に尋ねていた。


次郎坊は悟った。
この一ヶ月間、大蛇丸がチョウジにしたことは、3色の丸薬の原料である精子の搾取。
それだけなら納得できるが、実際にはもっと卑劣なことをしたのだろう。
おそらく、チョウジを豚のように扱い、四つん這いにさせて見世物にし、
 毎日体を愛撫して、チンポをしごきまくった。精液という精液をすべて吸い取った。
さらに記憶を消して音の里の人間に服従をさせる。
ひどい虐待も毎日のように行われたのだろう。
そうでなければ、チョウジがこんなに怯えて、弱々しくなるはずがない。
次郎坊はそれを考えたとき、怒りで全身が震えた。


チョウジは、次郎坊に泣きそうな声で尋ねる。
「次郎坊も、僕に豚になってほしいの・・? 僕の体をおもちゃにしたいの・・?」
次郎坊は弱々しいチョウジの姿をみて、自然に言葉が出ていた。
「違う、俺は味方だ。心配するな」
「僕の味方・・よかった・・じゃあ、僕の友達だよね・・?」
「うっ・・」
「ち、違うの!?」
その質問に次郎坊は一瞬、躊躇する。
「と、友達だ。俺は幼少のころからお前のことを知っていて、いつも一緒にいた友達だ」
思わず口から出てしまった。
自分はチョウジの敵であり、チョウジを捕えて己の奴隷にしようと考えた張本人なのに。
(俺はなんて都合のいいことを言っているんだ・・)
次郎坊は、自分自身の言葉に罪悪を感じざるを得なかった。
咄嗟に出てしまった言葉とはいえ、記憶がなくなったチョウジに同情しているのか?
それは次郎坊自身にも分からなかった。
しかし、いまここで"友達だ"とウソを言わなければ、
  秋道チョウジは永遠に路頭に迷い続け、音の里の"豚"に成り果ててしまうと思ったのだ。


「次郎坊のことをもっと教えて。僕と次郎坊はどういう関係だったの!?」
チョウジの質問に、次郎坊は一瞬答えをためらう。
しかし、その場をつなぐために、焦りながら返した。
「俺とお前はその・・小さい頃からの友達だ。お前はポテチが好きで、それを俺と横取りしてケンカをしたり・・。
  いつも一緒だった。親しい仲間だ。だから・・・忍者の修行もずっと一緒にしていた。大丈夫だ、安心してくれ」
「よかった・・。僕にはそういう友達がいたっていう記憶があるんだ。次郎坊がそうなんだね?」
次郎坊には、チョウジの言う"友達の記憶"が、シカマルであることはすぐに察しがついた。
再び返答をためらったが、声を絞り出した。
「あ・・あぁ・・そうだ」
「本当によかった・・。僕は1人じゃないんだ・・うっ・・うっ・・」
チョウジは次郎坊の目の前で、頬に涙を流してすすり泣きをした。
まるですべての苦痛から解放されたように、初めて柔らかい表情を取り戻した。
その表情に、次郎坊も心が救われた感じがした。
チョウジは泣きながら必死に笑顔を作り、それを次郎坊に向ける。
その笑顔はまるで子供が、母親に甘えるような純粋で無垢なものだった。
次郎坊はそんなチョウジのあどけない笑顔をみて、心臓がドクンと高鳴った。


「僕のことを助けてくれるの?」
「あ・・あぁ。しかし、いまはムリだ。でも、必ず助け出してやるから待っててくれ」
「もう行っちゃうの!? 僕を1人にしないで・・アイツらがまた来るんだ。
  "豚の汁を出せ"って僕の体が犯されてどんどん蝕まれていくんだ・・。もう嫌だよ・・1人は怖いよ・・」
「うっ・・!」
チョウジの切羽詰った言葉に、次郎坊は激しく動揺した。
このまま1人にしておいたら、チョウジの体も心もすべてがダメになってしまう気がした。
しかも、その原因を作ったのは、他でもない自分自身。
チョウジを音の里に連行したのも自分であり、チョウジの記憶が消えたのも元を正せば自分が原因だ。
次郎坊は心に激しい葛藤を持ちながら、あることを決意する。
──いますぐに、秋道チョウジを助けなければならない。
例えこの先どんな困難が待ち受けていようと、自分がチョウジを守らなければ、他に守る人間はいない。
だから、次郎坊は誓った。
秋道チョウジを守るために戦う。
秋道チョウジからすべてを奪った、大蛇丸と音の里は許さない。
それは、次郎坊が決めた覚悟だった。
次郎坊は、自分でも気がつかぬうちに、チョウジを拘束していた首輪と手枷をぶち壊していた。
そして、チョウジを背中におぶり、部屋から飛び出していた。


次回、最終回です。

戻る