ガス君小説(3)


ナブーの邪動力に手も足もでないガス。このまま敗北してしまうのか?


登場人物

ガス。ナブーに囚われてしまったが果たして?

ナブー。邪動帝国一のインテリと豪語するが、肉体も鍛えられているようだ。


・ ・ ・ <おいで・・・>
何者かが、ガスに手を差し伸べている。
(あっ・・・)
寝ぼけ顔のガスは周りを見渡すと、どこまでも緑が続く高原が見える。
自然がとても美しい。
昔、ここに住んでいたような気がする。
・・・それにしても、風が気持ちいい。
このまま風に乗って、空に飛んでいけそうだ。
<お前も私と同じ、風を感じる子なんだな・・>
その声は死別した父親の声に感じた。
ガスは覚えていた。
父親の存在を。
そして父親が武闘家であることを。


ガスの記憶がはっきりしているのは、すでに自分が祖父に育てられている時からだった。
父親がどうして死んだのかは分からない。
祖父は、父親と母親はガスが幼少のころに事故で亡くなったと言っていた。
しかし、ガスはたまに分からなくなる。
自分の両親は、本当に死んでしまったのか・・・。
なぜなら、ガスは両親の夢をよくみるから。
それはガスが本能で父親と母親を求めているからかもしれない。
<さぁ家に帰ろう・・>
父親の優しい声。
「はい!」
元気なガスの返事に、父親は軽々と胸の前に両手で抱っこする。
壁のように大きい体。
まさに武闘家の胸というべきか。
大きな体と逞しい筋肉にガスはしがみつく。
すると父親は、ガスの顔に頬ずりをする。
伸ばしたアゴヒゲがゴツゴツとガスの顔に当たる。
「お父様、痛いです・・・」
<ははは・・>


ガスはどうしても父親の顔を思い出せなかった。
父親の存在は覚えているというのに。
父親が世界で有数の武闘家で、幼少のガスも憧れていた。
だから、ガスも自然に武闘家になったのだ。
まるで、父親の後を追うように。
ガスは父親の顔を懸命に見るが、その顔は影になってみえない。
そのうち、父親は優しくガスの唇に、キスをした。
(ああっ・・・お父様・・)
それはガスが覚えている、唯一の父親の愛情の記憶。
その気持ちよさにガスは再び目を閉じた。





ナブーは自分の居城である洞窟の入り口に到着していた。
ハービザンは変形して人型の形態になると、ウインザードを壁に押し付ける。
「ジャハ・ラド・クシード!」
ナブーが叫ぶと、ウインザートは立ったまま凍付けにされていった。
「ふふふっ、これで動けまい。風の魔動王を封印したも同然だな。
  さてと、風の魔動戦士さんを拝見するとしよう・・」
そういうと、ナブーはハービザンのコックピットから姿を消し、ウインザートの内部へ入っていった。


「ここがウインザートの中か・・・」
ふわっとした浮遊感。
ハービザンの窮屈なコックピットとは違い、ウインザードの内部は円柱状の大きな空間が広がっていた。
床はないが、空中を歩くことが出来る不思議な空間でもある。
ナブーはキョロキョロと周りを見渡す。
(魔動戦士がこのような空間で戦っていたとは・・)
初めて魔動王の中に侵入したナブーは、いささか興奮気味だった。
持ち前の研究心と好奇心が煽られるのだろう。
ふと、前方をみると魔法陣の上で子供が倒れている。
(あの子が風の魔動戦士だな・・・)
ナブーは魔法陣へ近づいていった。


そっと近づいたナブーは、ガスの体をジッとみる。
ガスは顔を天に向け、大の字に倒れていた。
ハービザンの攻撃をまともに喰らったのか、傷だらけになっている。
顔は、ナブーと同じ浅黒色の肌。
(この服は、魔動戦士の法衣服なのか?)
薄い緑色のタイツは、鍛えられた体躯にピッチリとフィットしている。
また、白いプロテクターのようなものが肩と手足に付けられている。
額には星型の紋章。
まさに光の戦士といった正装だ。
しかし、このずんぐりむっくりした少年には、あまり似合っているとは思えない。
ナブーはその可愛らしい姿に、思わずクッとらしくない笑いをする。


(どうやら気を失っているようだな)
ナブーはそっとガスを両手で胸の中に抱えあげた。
(小さい割には重量のある子供だな・・)
抱っこをすると意外と重い。
もっともナブーの力を考えれば、ガスの体重などは問題にはならないのだが。
しかし、いざガスを抱き上げてみると、その体が筋肉の鎧で覆われているのがよくわかる。
法衣服の上からでも、筋肉の感触でそれが分かるのだ。
(たいした体だ・・・まだ子供なのに・・)
風の魔動戦士が、あまり魔動力を使わずにパワーに頼る理由をナブーはこのとき知った。


ナブーはウインザートの外に出ると、ガスを両腕で抱いたまま洞窟の中を歩き始めた。
その姿は、まるで父親が赤ん坊を抱いているようにも見える。
チラッと自分の胸の中で眠るガスの顔を、間近でみるナブー。
そのときガスから、かすかな声が聞こえた。
「お、お父様・・・・・」
ガスの目からスッと涙がこぼれている。
ナブーはガスの涙を見て、動揺する。
(なっ・・・一体どういうことだ・・・)
この子は倒すべき相手のはずなのに、妙な親近感を覚える。


ナブーはしばらく忘れていた不思議な感覚をいだきながら、
 洞窟の終端である広い闘技場に入った。
薄暗いジメジメとした広い空間。
地面には大きな闇の魔法陣が描かれている。
ナブーはしばらく立ち止まって、ガスの顔を見つめた。
屈託のない純朴な顔。
頬から流れ落ちる涙を、ナブーは手でそっと拭いてあげる。
「ううっ・・・」
ガスの口元から声が漏れる。
(この子は一体・・・)
ナブーは引き寄せられるように、ガスの柔らかい唇にそっとキスをした。
ガスの口元にナブーの固くてゴワゴワとしたヒゲが当たる。
ナブーはガスの唇の感触を確かめると、そのままスッと口を離した。
(私は・・一体なにをしているのだ・・)
ナブーは戸惑った。
いま自然に口付けをしてしまったことは、一体何を意味するのか。
それが自分でも理解できなかったから。
そのとき、ガスが薄っすらと目を開けた。


「ヒゲが痛いです・・・」
ガスはゆっくりと目を空けると、ヒゲ面のナブーの顔をじっと見つめる。
ナブーは汚れのないその瞳にドキッとする。
そして、次の瞬間、ガスから思いもよらない言葉が発せられた。
「お父様・・・やはり生きていたんですね!」
「なっ・・」
「うっ・・うっ・・遭いたかったです・・ずっと・・」
ガスはナブーの胸の中で、涙を溢れさせた。


あまりに突然な出来事に動揺したナブーは、そのままガスを地面に下ろした。
ひっく・・ひっく・・と泣きながら立ちすくむガスに対し、顔つきを変える。
「何を訳の分からんことを言っているのだ、風の魔動戦士よ」
「えっ・・・?」
「私は邪動帝国一のインテリ、ナブーだ」
「ナブーさん・・・あ、あなたが!?」
その言葉を聞いた途端、ガスはサッとナブーと距離をとる。
頬を流れ落ちる涙を、急いでゴシゴシと拭き取った。
すでにガスの顔は、先ほどまでの甘えた顔とは違う。
傷ついた体ながらも、戦う体制に入っている。


そんなガスを上から見落ろしながら、ナブーは笑みを浮かべる。
「私のことをお父さんと言っていたが、お前は父親がいないのか?」
「あ、あなたにそんなことを答える必要はありません!」
ガスは自分の弱い心を、敵に知られたことに多少なりとも動揺していた。
光の魔動戦士として、ナブーは倒さなければならない敵なのだ。
それを、死んだ父親と勘違いするなんて・・・。
ガスは自分自身の甘さと心の弱さを責めていた。
「フフフ、お前は父親が恋しいのか?」
「あなたには関係ありません!」
ナブーはガスに対して挑発を繰り返す。
「しかしお笑いだな。
  光の魔動戦士がどんな立派なものかと思えば、父親の愛情に飢えたションベン臭いガキだったとは」
その言葉を聞いて、ガスはグッと唇を噛み締める。
「ううっ・・それ以上侮辱すると、許しません!」
自分をバカにされるのが許せないこともあったが、光の魔動戦士を侮辱することは、
 親友の大地やラビも侮辱することになるからだ。
「許さないと、どうなるのだ?」
「あなたをいまここで、倒します!」
ガスは右手の拳をギュッと握り、顔の前に突き出した。


「お前はすでに負けたのだ。いまさら私と戦うというのか?」
「まだ・・まだ負けてません・・・」
「ほう、負けていないときたか。では今度は魔動力なしで、直接素手で戦ってみるか?」
その言葉を聞いて、ガスはキッと武闘家の顔つきとなる。
「素手で戦うというのならば、あなたはきっと後悔することになりますよ!」
「なぜだ?」
「私は武闘家だからです」
「ハハハ、こりゃおかしい。随分と可愛い格好をした武闘家がいたものだな」
ガスは自信があった。
それは武闘家としての自信。
ガスを子供だと見くびり、いままで何人もの大人がガスに敗れてきたのだ。
多少のダメージのハンデがあるにしても、肉弾戦となればガスの十八番だ。
「よし。では私と素手でやろうではないか」
「望むところです! 負けそうになっても邪動力は使わないでください!」
「フフフ、ではお前にも忠告してやる。負けそうになっても、決して魔動力を使うなよ」
「当たり前です!」
そういうと、ガスは「ハァ」と気合を入れた。


え、陵辱まだですかって・・・。

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