なかなか物語が進みませんが・・。
登場人物
ゲンとかおり。相思相愛の2人だが・・?
──七星町のお祭り。
七星町は歴史がある町で、このお祭りは何十年も開催されている。
大通りに、所狭しとたくさんの屋台が並んでいた。
街頭には提灯が並び、縁日の気分を演出させている。
10円で、金魚すくいや、射的ができる。
子供には天国のような遊び場なのだ。
「すげー屋台の数だな・・・」
ゲンは普段とまるで違う大通りの光景に、目を大きく見開いていた。
一方、先ほどまでグスンと泣いていたかおりは、
楽しそうなお祭りの雰囲気に、すでに機嫌を直している。
早足で金魚すくいの露店に向かっていた。
「ねぇ、ゲンちゃん。金魚すくいやろうよ」
「おめぇも懲りねぇな。小学生にもなって金魚すくいやんのか?」
「うん。おじさん、10円ね」
「おいおい・・」
かおりは、ゲンの言葉などうわの空なのか、勝手に金魚すくいを始めているようだ。
ゲンがチラッと見ると、柄の付いたプラスチックの輪に、薄い紙の膜が貼られた道具。
どうみても、水に浸した瞬間に紙が破れそうだ。
(こんな道具で金魚すくうなんて、できるわけないだろ。まったく大人はくだらねぇ商売してるぜ)
ゲンには可愛らしい外見とは裏腹に、ちょっと生意気な部分がある。
まだ小学1年生だというのに、物事を意外と冷静に捉えており、
大人のやり方や、理不尽な言動が、気に食わないのだ。
ちょっとした早い反抗期かもしれない。
ゲンが腕を組んで、考えごとをしていると、かおりから歓声があがる。
「きゃはは、金魚さん、ちゅかまえた!」
「え゛!?」
ゲンが驚いてお椀を見てみると、すでに真っ赤な金魚が3匹も入っている。
「す、すげーな・・・かおり・・」
「うん。ゲンちゃんも、やってみる?」
「お、俺は遠慮しとくよ・・ハハハ・・」
「おもしろいのにー!」
かおりは、なるべく紙を水に浸さずに、水面近くでじっとしている金魚を狙いうちしている。
まさか、かおりに金魚すくいの才能があったなんて・・。
さすがのゲンも、頭をかきながら、かおりの超絶テクニックを見守るしかなかった。
「次は綿菓子!」
「あぁ、いいぜ」
「次はビー玉のお店ね」
「あ〜、はいはい」
「次は射的ね!」
「おいおい・・」
天真爛漫な少女に、ゲンはあちこちに引っ張りまわされる。
もっとも、ゲンにとっては、かおりの泣き顔を見ているより、笑顔のほうがうれしいのだが。
それにしても、かおりがこんなに楽しそうにするなんて、いつもに増して幸せなのだろう。
女の子って、そんなに縁日が楽しいのかなと、ゲンは不思議に思ってしまう。
「かおり、少し休もうぜ。そんなに縁日が楽しいのか?」
「うーん、縁日が楽しいってわけじゃないの」
「だって、楽しそうにしてるじゃねーか」
「違うの。ゲンちゃんと一緒にいるのが、とっても楽しいの」
その言葉に、ゲンの顔はカッと真っ赤になる。
自分の気持ちを、恥ずかしげもなくストレートに言うかおりに、ゲンは面食らってしまう。
手をモジモジとしているゲンに、かおりが話しかける。
「ゲンちゃん、じゃあ休もっか」
「えっ・・ああ・・」
かおりは笑いながら、ゲンの手を掴む。
ニコッと微笑んで、近くにあるベンチに、2人で腰をかけた。
「ねぇ、ゲンちゃん?」
「な、なんだよ・・」
「これ、私たちの結婚指輪」
「へっ!?」
「さっき、射的の景品でもらっちゃった」
「・・・」
唐突に会話を進めていくかおりに、どうリアクションしたらよいのか困ってしまうゲン。
この年で結婚指輪を買ってどうするんだと、ゲンはツッコミたくなったが、
それをかおりに言ったら、きっとまた泣き出してしまうに違いない。
そもそも、射的で景品をもらうならば、おいしいお菓子をもらうとか、
もっと他にもらうものがいくらでもあるだろうと、現実的なゲンは思ってしまう。
恋する乙女の心は、ゲンにはさっぱり理解できない。
「結婚指輪だなんて、ちょっと早すぎねぇか?」
「そんなことないもん」
「そ、そっかぁ・・?」
「私たちの赤ちゃん、どうやったら出来るのかな?」
「ええっ!?」
さすがにそんな話を振られて、ゲンはどう答えて良いのか迷ってしまった。
いつも硬派に決めているゲンだが、さすがに顔が真っ赤になる。
しかし、男たるもの、こんなことで慌ててはならない。
フームと腕を組んで考えた後、遅れて返事をした。
「赤ちゃんのことを考えるなんて、まだ早いぜ」
「えーっ! だって、私たち大きくなったら結婚するって約束したでしょ」
「ま、まぁな」
「そうしたら赤ちゃんが必要だもの」
(必要って言われてもなぁ・・。赤ちゃんってどうやってできるんだ・・?)
ゲンは、再び腕を組んでウームと悩む。
正直、赤ちゃんがどう生まれるかなど、いままで考えたこともない。
しばらく苦悩するゲンだったが、なにか思いついたのか、人差し指をあげて返事をした。
「赤ちゃんは、病院から買ってくるんだぜ。だって、野菜は八百屋で買うし、魚は魚屋で買うじゃないか」
「そっかー! ゲンちゃん、なんでも知ってるんだね」
「ま、まぁな・・」
額に大粒の汗を垂らしながら、困ったように頬をかくゲン。
「あ、ゲンちゃん?」
「こ、今度はなんだよ・・」
「あそこに占いの店があるから、かおりたちの将来を占ってもらおうよ」
「占いなんて、どうせインチキに決まってら」
「そんなことないもん! かおりとゲンちゃんの未来がどうなるか、知りたいもん!」
そういうと、かおりは半ば強引に、ゲンの手を引っ張って露店へと走っていく。
「おいおい・・」
その露店は『トランプ占い 一回100円』とだけ張り紙がしていた。
占い師と思われるお婆さんは、頭に白いスカーフのようなものをかぶり、なんか神秘的に雰囲気を漂わせている。
そして、ゲンとかおりをチラッと見ると、「ヒーヒヒッ」と薄気味悪い笑みをこぼした。
「ねぇお婆さん、かおりとゲンちやんの将来、占って!」
店の前で、お金も払わずに会話を進めるかおり。
そんなかおりを、占い師のお婆さんはジロジロと見つめる。
「おやおや、いらっしゃい。お譲さん、かおりちゃんっていうのかい?」
「うん。こっちが、将来結婚するゲンちゃんなの。占ってくれる?」
(かおり、そこまで説明することねーだろ・・・)
ゲンはかおりの後ろで、恥ずかしいのか、ふて腐れたようにソッポを向いていた。
「ほうほう、まだ子供なのにもう結婚するって決まっているのかい?」
「うん!」
「最近の子供は、結婚を決めるのが早いんだね」
「だって、ゲンちゃんは、かおりを守ってくれるもん」
「そうかい、そうかい。じゃ占ってあげるよ。かおりちゃんは可愛いから、タダでサービスだよ」
「わーい!」
バンザイをして喜ぶかおり。
どうみても、初めからお金を払う気などないように見えたのだが。
お婆さんは、トランプをよく切り、裏向きにして小さなテーブルに並べる。
「お婆さん、これってどういう占いなの?」
「これはね。カードを1枚ずつ表向きにして、出た数字で運命を占うんだよ」
「へぇ、おもしろそう!」
ゆっくりと5枚のカードを、1枚ずつ表向きにめくっていった。
ゲンがチラッとテーブルをみると、スペードの4、クローバーの4、ダイヤの4のカード、そして死神のジョーカー。
数字が「4」だらけなのが気になる。
しかも、なぜかそのお婆さんは、そのあとのカードをめくろうとしない。
目をカッと見開いたかと思うと、顔を伏せてしまった。
「悪い運勢ではないね。きっと幸せになるだろうよ」
「えーっ、それだけ!?」
「わしの占いに文句があるのかい?」
「別にないけど、つまんないの! ゲンちゃん、あっちの店行こう!」
「おい、待てよ! かおり!」
先ほどまでは、あれほど「占い」と連呼していたのに、
かおりは興味がなくなると、すぐに次の店に目移りしてしまうらしい。
ゲンが占いの露店から立ち去ろうと、一歩を踏み出したとき・・。
呼び止める声がした。
振り向くと、そこには先ほどのお婆さんが蒼白な顔をして立っていた。
「待ちなされ、そこの坊や」
「坊やって、俺のこと?」
ゲンは自分のことを指でさす。
「そうじゃ。アンタ、年はいくつだい?」
「小学1年生だぜ。それがどうかしたのよ?」
「そうかい・・・」
「婆さん、1人で何ブツブツ言ってんだよ」
「坊や、あの女の子のことが好きかい?」
「な、なに言ってんだっ」
「もし、本当に好きならば、いますぐあの子と別れたほうがいい」
意味不明な会話に、ゲンはお婆さんを睨みつける。
「ふ、ふざけんな、ババァ!」
「アンタは、あの子を不幸にするよ」
「俺が、かおりを・・?」
「そうさ。アンタは自分の未来を変えられるかい?」
お婆さんの言葉に、ゲンは不審な顔つきをする。
「なに訳の分かんねーこと言ってんだ? ばあさん、ボケてんじゃねーの?」
「そうだね。ごめんよ。いま言ったことはすべて忘れておくれ」
「もういいだろ。俺いくぜ」
ゲンは憮然とした表情で、その場を立ち去った。
しかし、なぜかお婆さんの言葉がとても気になった。
<アンタは自分の未来を変えられるかい?>
ゲンは心になにか釈然としないものを残して、かおりの後を追っていった。
次回に続きます。