ゲンちゃん小説(3)


今回は現在と未来が交錯する話なので、分かりにくいかも?


登場人物

玄田ゲン。愛称ゲンちゃん。かおりを絶対に守るという強い信念がある。

かおりに似た高校生。その正体は?

はるか先生。学校の主治医でありながら、発明が大好きなデブおっさん。


──次の日。
ゲンはいつものように、朝7時に起きて歯を磨き、朝食を取り、そして学校へ出かけた。


赤褐色の制服に、紺色のキッチリとしたネクタイ。
これは七星小学校の制服で、随分とおしゃれな柄をしている。
──トボトボ・・。
ゲンは不機嫌そうに歩いていた。
もっとも、ゲンはいつも不機嫌に見えるのだが、
 特に朝はボーッとした眠たさが残っており、さらにテンションが低い。
それに、昨日の占いのお婆さんの言葉が、どうも気になる。
<アンタは自分の未来を変えられるかい?>
(クソッ、なんか俺らしくねぇ。
 そうだ。今日は、かおりに赤ちゃんができる方法を教えてやろうっと)
実は昨日の夜、コッソリと母親に「赤ちゃんはどうしたら出来るのか」を聞いたのだ。
こんな恥ずかしいことを母親に聞く自体、ゲンにはかなり勇気が必要なことだったのだが。
案の定、母親はゲンの真面目な質問にブッと吹き出していたが、優しく教えてくれた。
(かおりに教えてやらないとな。
 赤ちゃんはキスしないと生まれないんだぞ。そういえば、かおりのヤツ、まだ来ないな・・)
ゲンはゆっくりと学校へと歩を進めていく。



「ゲンちゃん・・」
突然、道端にいる女性から声をかけられた。
どこかで聞いたことがあるような可愛い声だった。
ゲンが、ゆっくりと視線を向けると、そこにはスラッとした綺麗な女性。
年は16,7の高校生ぐらいだろうか?
黒い長い髪に、おしゃれな学生服。
顔つきは、とても優しそうだが、どこか悲しそうに見える。
(あれ? どっかで見たことがあるような・・)
そもそも、自分のことを「ゲンちゃん」と呼ぶ人間など、数人しかいない。
ゲンは必死に、目の前の女性の顔を見ながら、思い出そうとする。
(担任の小池先生じゃないし、となりの家のおばさんじゃないし、この人、誰だったかな・・)
いろんな人間の顔が脳裏をよぎるが、合致する顔は誰もいない。


ウームと悩むゲンに対し、その女性は優しく声をかけてきた。
「ゲンちゃんだよね・・・玄田ゲンちゃんでしょ」
「そうだけど・・お姉ちゃんだれ?」
「やっぱりゲンちゃんだ・・ずっと会いたかった」
突然、グズンと涙をぐむ女性に対し、ゲンは驚いて表情が固まる。
「な、なに泣いてんだ・・」
「ゲンちゃん!」
その女性は、突然ゲンの元に駆け寄りる。
正面からゲンの体をギュッと抱きしめた。
「うわ〜あっ! お姉ちゃんなにすんだっ!」
「ううっ・・」
「お、おい! こらっ、離せよ!」
「これが、ゲンちゃんの生きている体・・」
「離せ! 俺はおめーなんか知らねー!」
ゲンは大声をあげたが、女性はゲンのことを力一杯抱きしめてくる。
突然の出来事に、這い出さんばかりに逃げ出そうとするゲン。


いきなり知らない女性に抱きしめられたゲンは、パニックになっていた。
高校生くらいの女の子に、知り合いはいないし、抱きつかれる覚えもない。
「やめろ! おめぇ、誰なんだっ!」
「私が分からないの?」
「知るわけないだろっ」
「かおりよ、かおり!」
「か、かおりだって!?」
「うん。ホラ、よく見て」
ゲンは真面目な顔をして、涙目の女の顔をジッと見つめてみる。
長い黒髪、パッチりした瞳、癖のある前髪。
しばらく女性の顔を見つめているうちに、ゲンはハッとなにかを思い出したような声を上げた。
「おまえ、たしかに・・似ている・・」
「私のこと、分かる?」
「そういや以前、かおりがはるか先生の成長促進剤を飲んで、
 17歳になったことがあったけど、それにそっくりじゃねーか!」
「そっくりじゃなくて、本物よ。ゲンちゃん、どうして分かってくれないの?」
「もしかして、はるか先生の成長促進剤を、また飲んじまったのか!?」
「違うわ! 本物の17歳のかおりよ」
「ウソつけ!」


いつの間にか、ゲンと女性の周りには、人が数人が集まっていた。
なにやらヒソヒソと話をしている。
道路の真ん中で、小学生と高校生の女の子が抱きついているのだから、普通の人から見れば、朝の珍事に違いない。
そのことに気がついたゲンは、ようやく我に帰った。
「おい、ちょっと離れろよ!」
「ゲンちゃん?」
「小学生と高校生が、抱きついていたら、みんなが不審がって、見てるじゃねーか」
その女性も我に帰ったのか、周りをみてさすがに場が悪いと感じたようだ。
「そ、そうよね・・」
「しょうがねぇなぁ・・」
ゲンは女性の手を、強引に掴む。
そのまま、学校の裏山に向かって引っ張っていった。



──学校の裏山。
学校の裏は、大きな雑木林になっており、とても緑が豊かで閑静だ。
昔は、たくさんの生徒が、この裏山で遊んでいたらしいが、
 いまはテレビゲームやマンガを読むほうが楽しいから、子供すらここに来ることはない。
「ハァハァ・・」
「ふぅ・・」
ゲンと女性は、学校の裏山にまで全速力で走ってきた。
ここならば、誰もいないし、人に見られる心配もない。
ゆっくりと話をすることができる。
ゲンはふぅっと大きく息を吸い込み、そしてゆっくりと吐いた。
いま起こっていることを、落ち着いて整理する必要がある。
自称、"17歳のかおり"が、一体何者なのかを知らなければ、事態を飲み込むことはできない。
一方の女性も、ハァハァと息を切らしていたが、彼女もだいぶ落ち着いてきたようだ。
2人は、裏山にある一番大きな大樹まで、足を進める。
そこでゆっくりと、お互いが向き合い、そして見つめ合った。


ゲンは、もう一度女性の顔を見上げた。
たしかに何度見ても、以前にはるか先生の成長促進剤を飲んで、17歳に成長したかおりに見える。
しかし、どこかヤツれている感じがする。
あまり顔に元気が無い。
もしかして、目の前にいるのは、本物の17歳のかおりなのかなと、ゲンは内心は思ったが、
 成長促進剤を飲まずに、かおりが17歳になるはずがない。
まさか突然変異で、かおりがいきなり17歳に成長しちまった!?
いや、そんなことがあるもんかと、首をふるゲン。
そんなゲンに対し、女性はゆっくりと口を開いた。


「ねぇ、ゲンちゃん・・・」
「気安く、俺の名前を呼ばないでくれ。お前、誰なんだよ?」
「ゲンちゃん、驚かないでね。私は未来から来たわ」
「み、未来だって!?」
突拍子もなし話に、ゲンは素っ頓狂な声を上げた。
「10年後の未来から、ゲンちゃんに会いに来たの」
「そんなバカな話が、信じられるわけねーだろ!」
「それはそうよね。ここは1999年10月25日かしら?」
「そ、そうだけど・・」
「よかった。ちゃんとタイムワープできたんだ」
「タイムワープって、なんなんだ!? 意味わかんねー!」
「私は2009年から来たの。はるか先生が発明したタイムワープ装置で、過去に来たわ」
「く、くだらねぇウソをつくな!」


タイムワープだの、未来だの、現実とあまりにかけ離れた話をする女性。
そんな事実を受け入れろという方が、無理な話だろう。
慌てふためくゲンに、女性は僅かな笑みを浮かべる。
その笑みに、ゲンの心臓はなぜかドキンと高鳴った。
(この感じ・・まさか本物のかおり・・!?)
その女性が話しかける。
「ゲンちゃん、赤ちゃんはどうして生まれるか知ってる?」
「急に何言ってるんだ・・・」
「ゲンちゃんは、一番最初に『赤ちゃんは病院で買ってくるんだ』って答えてくれた」
「・・・」
「でも、その後に『赤ちゃんはキスするとできるんだ』って教えてくれた」
「ど、どうしてそれを知ってんだ!? まだ誰にも話していないんだぞ」
「覚えてるわ。12月25日のクリスマスのことよ。
  それがゲンちゃんと最後に話したことなんだもの。忘れるわけないわ!」
「最後って・・・どういう意味だ・・」
「ゲンちゃん、落ち着いて聞いて。私は、ゲンちゃんの未来を変えるために来たのよ」
「俺の未来・・?」
「ゲンちゃんは、いまから2ヵ月後の12月25日に交通事故に遭うわ・・。私をかばって・・トラックに跳ねられて・・」
「なに言ってんだ、おめぇ・・意味わかんねぇ・・」


ゲンは女性の衝撃的な発言に、口から心臓が飛び出そうになった。
フゥーッと大きく息を吸って、吐き出す。
そうでもしないと、目の前にいる女性の言っていることが、理解できなかったからだ。
「ウソだ・・・いい加減にしやがれ!」
「ウソじゃないわ」
「みんなで俺のこと、からかおうとしてるんだろ。くだらねぇ」
「ゲンちゃん、どうして信じてくれないの?」
「信じろっていうほうが、おかしいだろ!」
「そっか・・そうよね・・」
女性は、視線を落としてため息をついた。
ションボリした姿。
ゲンはその姿を見て思った。
たしかに姿は17歳の高校生だが、肩の落とし方や、ため息のしかた、そのすべてがかおりそっくりだと。
そして、匂いも、雰囲気も・・なにもかも・・。
ゲンの直感が、この子が本物のかおりだと、教え始めていた。


R太朗さんに挿絵を描いていただきました。ありがとうございます!

戻る