ハルユキがイジメられる部分を拡大解釈して小説を書いてみました。アニメでいうと1話の最初の部分です。原作の小説を読んでいないので細かい部分の設定は違うかもしれませんが、そのへんはスルーで。全体的に暗い雰囲気の小説になりそうなので、そういうのがダメな人もスルーで(^^;
登場人物
ハルユキ。小柄で太った体型。性格は内向的。
荒谷。手下と一緒にハルユキをいじめている。
■新規メールを受信しました■
突然、視界に現れるメッセージ。
昼食の前の授業時間中に、いつも送られてくる。
これで何度目だろうか。
このメールを開かなくても、送り主の憎らしい顔が脳裏に浮かぶ。
ボクが一番読みたくないメール。
学校で一番嫌いなメール。
読みたくないけど、読まないとイジメられる。
ため息をつきながら、手を伸ばしてメールオープンのアイコンをクリックした。
クリックした瞬間に、クス玉が割れて視界がウイルスのようなエフェクトで埋め尽くされた。
思わず「うわっ!!」という声にならない悲鳴を上げてしまう。
ボクのまん丸く太った体が、椅子から転び落ちそうになった。
……ったく。
アイツ、頭が悪いくせに、どうやってこんな仕掛け作ったんだ?
どうせ、ネットに落ちているプログラムをコピーしただけなんだろうけど。
開くだけでもウンザリしているメールが、さらに開きたくなくなるよ……。
アイツのムカつく顔のアイコンが、目の前に現れた。
『けーへへへっ、焼きそばパン2個、クリームメロンパン1個を昼休みに屋上まで持って来い!』
ボクにとっては悪魔の声としか思えない。
声はさらに続く。
『イチゴヨーグルトも追加だ。遅刻したら肉まんの刑だからな!』
「くっ……!」
ボクの斜め後ろに座っているであろう、声の主にそっと視線を向ける。
そいつは椅子で仰け反りながら、余裕の笑みを浮かべていた。
圧倒的な上から目線だ。
自分の全てが見透かされているような気がして、すぐに視線を元に戻した。
同じ人間なのに、どうしてそんな目で他人を見ることが出来るんだろうか。
いやだ……。
どうしてボクだけがこんな目に……。
──キンコーン。
昼休みの合図が鳴ると、ボクは一目散に売店に向かった。
授業が少し遅れたためだろうか、売店はすでに生徒たちで埋め尽くされていた。
ボクは額に汗を垂らしながら、焼きそばパンに手を伸ばした。
そしてクリームメロンパンに指をひっかける。
息をつく暇もなく、短い足を必死に動かして階段を昇る。
太った体で屋上まで駆け上がるのは、ボクにとっては体育の授業よりも重労働だ。
もし屋上で青空を見ながら、弁当を食べられるのなら、足取りも軽いのだろうが…。
屋上に扉の先に待っていたものは、ボクが世界で一番見たくない人間の顔だった。
両腕に抱えた焼きそばパンとクリームメロンパンを、その男はひったくるように奪い取った。
取り巻きの1人が、ボクに肩を組みながら話しかける。
友達でもなんでもないのに。
「ビクビクすんなよ、ちゃんとソーシャルカメラの死角に入ってるから安心だって」
……安心なのはお前らだけだろ!
汚いよ…。
ソーシャルカメラに写っていれば、ボクがイジメられていることは証明できる。
でもコイツらは頭が悪いくせに、ソーシャルカメラのある場所だけは記憶している。
卑怯だよ…。
目の前の赤い髪の男が、ボクを睨みながら話しかけてきた。
そいつの名は荒谷。イジメの張本人だ。
「焼きそばパンが、1個しかねぇぞ」
ボクは荒谷の顔を見たくないから、思わず顔を伏せた。
「その……売り切れで……」
「おいおい、お使いひとつできないの?」
「………」
「いいかブタくん。明日はクリームメロンパン2個とイチゴヨーグルト5個。
忘れたらマジで肉まんの刑。これが最後のラストチャンスだ! 分かってんのか!」
捨て台詞のように、赤い髪の毛の男は叫んだ。
ボクはしょんぼりと、その場をあとにしようとする。
「おい、待てよ」
またしても嫌な声がした。
荒谷はボクが返事をしなかったことに、腹を立てたのだろうか。
ボクの肩を後ろから掴んで、強引に振り向かせた。
そして、そのままボクのまん丸に太ったお腹に、鋭いコブシを一発ぶち当てた。
「うぐっ…!」
「ヘッ、ブタごときが無礼な態度をとるからだ」
「うっ……うう……」
お腹の痛みで胸がつかえ、息が出来なくなる。
その場で四つん這いになって、お腹を押さえたまま動けなかった。
「その格好がお似合いだぜ。ブタくん」
(ちくしょう……ちくしょう……)
涙がこぼれた。
ボクの心は、憎悪以外には何も残っていなかった。
荒谷たちの足音が聞こえなくなると、ボクはゆっくりと立ち上がって無意識に洗面所に向かう。
たぶん他の誰にも、情けない涙の跡を見られたくなかったから。
いま起こったすべての嫌な出来事を忘れようと、思いっきり蛇口をひねった。
ひんやりとした水で、顔を何度も洗った。
排水溝に溜まる水を見ながら、自分の中に鬱積したモノが一緒に流れ落ちることを期待した。
「"最後"の"ラスト"チャンスってなんだよ、意味がかぶってんだよ」
いつの間にか、独り言を話していた。
「バーカ、バーカ、バーカ!!」
鏡に向かって、何度も何度も叫んだ。
鏡の前にいるのは自分。
何も出来ない自分に、腹が立っているのか。
結局、なにも洗い流すことはできなかった。
仕方なく、ボクは自分の顔を鏡でジッと見つめた。
(丸い顔だなぁ……)
背は小さくて、体が丸くて、全然強そうに見えない。
もっと背が高くて痩せていて、格好良かったら、荒谷にもイジメられなかったのかもしれない。
(どうしてこんなことになったんだろう……)
ボクは思い出していた。
荒谷のイジメが始まったのは、中学に入学した次の日だった。
席順がたまたま「あいうえお」順に並んでいて、荒谷がボクの前に座っていた。
ボクの名前は「ありた」で、アイツは「あらや」だから、必然的に前後の席になったんだ。
入学したときはまだ不良の本性を隠していたのだろうか、荒谷は黒い髪をしていた。
髪の毛の色で判断するのは良くないけど、前に座っている荒谷は普通の生徒に見えた。
授業と授業のあいだに、荒谷が後ろに振り返って話しかけてきた。
「よう。お前、名前は?」
ボクは友達が欲しかったから、ニコッと笑いかけて返事をした。
「有田です。有田春雪です。よろしく…えへへ」
「ふーん、俺と友達にならね?」
「はい、喜んで」
軽々しく友達になろうと思ったのが、とんでもない間違いだったことに後で気がついた。
ボクは小学生のときからイジメられていた。
だから友達がほとんどいなかった。
中学生になったら、昔のボクを知らない生徒がたくさんいる。
少し期待をしていた。
普通にゲームの話が出来て、普通に笑って、普通に話しながら帰って……。
そういう普通の友達が欲しかったんだ。
…。
でも、ボクにとっての友達と、荒谷にとっての友達は、大きなへだたりがあった。
その日、ボクは荒谷に屋上に呼び出させれた。
何も知らなかったボクは、心が弾んでいたと思う。
今、考えてみると笑っちゃうような行動なんだけど……。
「荒谷くん、お待たせ!」
「お前、これからブタくんな」
「え?」
「お前の容姿、ブタにそっくりだって言ってるんだよ」
意味が分からなかった。
すぐに首根っこを掴まれて、そのまま頬を殴られた。
「あっ…がっ…」
「ブタくんは、明日から俺の舎弟な。逆らったらどうなるか分かってんだろうな?」
ボクは恐る恐る荒谷に視線を向けた。
ボクがいままで出会ったことが無い人種だった。
狼のような顔つきで、獲物を狩るような目つきをしていて、逆らうことは絶対にできないと思った。
その日から、ボクの地獄の日々は始まったんだ。
ほとんどアニメの1話を文字にしただけです…orz 次回をお楽しみに。