ハルユキの苦悩(3)


チユリとタクムから逃げ出したハルユキだが…?


登場人物

ハルユキ。小柄で太った体型。性格は内向的。


ハルユキは自分の部屋に戻っても、何も手につかなかった。
やがて夜になり、ベッドにうつ伏せになったまま枕を涙で濡らした。
思い出したくない出来事が、走馬灯のように頭をよぎる。
──チユリのサンドイッチを台無しにしたこと。
──タクムに自分がイジメられていることを知られたこと。
──その場でタクムとチユリから逃げ出したこと。


荒谷にイジメられ、殴られることは確かに耐え難い苦痛だ。
しかし、いまのハルユキは、自分の心の弱さに打ちひしがれる思いだった。
それは肉体的な痛みではなく、深い心の痛みだ。
……。
チユリがサンドイッチに込めた想い。
タクムが声をかけてくれた優しさ。
それらすべてを拒絶した行為は、チユリやタクムを傷つけたのではなかろうか?
考えれば考えるほど、精神的に落ち込み、ハルユキの心を不安が襲った。
(ボクはタクに自分がイジメられていることを、知られたくなかった。
  だから、タクに知られたときに、真っ先に逃げ出した。
  自分が傷つくのを恐れて、相手のことを何も考えていなかったんだ。
  そしてボクはチユからも逃げだした……なんてバカなことをしてしまったんだろう……)
いままで感じたことがない、寂しさと絶望感。


「ううっ…う……」
洪水のように押し寄せる不安。
ハルユキは額に汗を滲ませ、なかなか眠りにつけなかった。
いつの間にか、頬に流れる涙。
枕を濡らすまいと、起き上がって両手でまぶたを塞いだ。


「うっ…くっ……」
しばらく嗚咽したあと、ハルユキの脳裏に言葉が浮かんだ。
《友達》、そして《親友》。
いままで考えたことはなかったが、その言葉が頭の中で唸るように繰り返された。
ハルユキは涙を堪えながら、その意味を自分に問いかけた。
……。


ハルユキは思った。
《友達》ってなんだろう?
気軽に話せる人間が、友達だろうか?
幼少のときから知っている人間が、友達だろうか?
タクムとは気軽に話せるし、幼い頃から一緒に遊んでいる。
だから、タクムは《友達》だ。
……。
では、タクムは《親友》なのだろうか?
そもそも親友って…?
"たくさんの友達"の中で"一番大切な友達"。
そんな言葉が頭をかすめた。
チユリは幼馴染だが、親友だとは思わない。
なぜなら、男には男の親友しかできないからだ。
タクムは自分にとって、一番大切な友達。
だから親友。
自分には友達すらロクにいないのだから、たった1人の友達であるタクムは親友。
親友だから、楽しいときは一緒に笑い、つらいときは一緒に泣く。
親友だから、自分のことをなんでも話せる。
親友だから、なんでも…。
親友だから…。
……。


ハルユキはふと我に返った。
自分の悩みも相談できないような友達が、本当に親友なのだろうかと。
ハルユキは自分の本当の姿を、《親友》であるタクムに知られるのが怖かった。
だから、タクムから逃げ出した。
タクムはそんなハルユキを、《親友》と思ってくれるのだろうか?
そう考えたとき、今まで必死につないでいた細い糸が切れてしまったような、そんな感覚に陥った。


ハルユキは悔いた。
本当は、タクムに相談すればよかったのだと。
そうすれば、少なくともいまここで枕を涙で濡らすことはなかっただろう。
でも、それをさせたのは他でもない自分。
だから悟った。これは報いなのだと。
自分にとって都合のいい親友像を作ってきた、自分への報い。
(ボクはもう…タクと会えないかもしれない…)。
そう考えると、タクムへの想いが涙へと変わり、頬に滴り落ちた。


──次の日。
ほとんど一睡も出来なかった。
朝から何もやる気が起きずに、ボケッと朝食を食べて学校へ向かう。
昨日までの荒谷からイジメられている状況とは、根本的に何かが違った。
いつもの日常が繰り返されるだけなのに、心にポッカリと穴があいたような、虚無感。
魚の死んだような目をしながら、ハルユキはただ歩き続けた。


校門に足を踏み入れたとき、視界にウインドウが開いた。
《学生呼出
 学生番号460017 有田春雪、
 進路指導室に出頭のこと》
進路指導室…?
先生に怒られるようなことをした覚えはない。
無視するわけにもいかず、進路指導室に歩を進めた。




物語がなかなか進まなくてスミマセン。

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