ついに荒谷の怒りを買ってしまったがハルユキだが…?
登場人物
ハルユキ。小柄で太った体型。性格は内向的。
荒谷とその取り巻きの2人。集団でハルユキをいじめている。
久しぶりに感じる頬の痛みだった。
口の中に、唾液に混じった苦い血の味がする。
いままで殴られたことは何度もあったが、
荒谷のパンチは、他の誰のパンチよりも想像を絶するほど痛くて、まるでカミソリのようだった。
ジンジンとした痛みが、頬から体全体に伝わり、やがてそれは恐怖に変わった。
ハルユキの体が覚えていた。
この痛みは二度と味わいたくない…!
屋上に来るまでは、「殴られてもいいや」と安易に考えていたが、
いざ本当に殴られると、恐怖で背筋が凍るような感覚に陥った。
荒谷は悪魔の笑みを浮かべながら、近づいてきた。
「ブタくんは最近、殴られていないから、痛みを忘れたんだろう。
これからたっぷりと制裁を加えてやるよ。たっぷりと苦しんで痛みを思いだせ!」
「ま、待って…」
「ダメだ。お前はこれからもずっと俺のペットだ。ずっと俺に従い続けるんだ」
「ペットって…」
「正確にはペットじゃなくて、醜いブタだけどよ」
「……」
「ブタはきちんとシツケをしないと、反抗的になるな」
「くっ…」
「おい、お前ら。この臭いブタくんに調教してやれ」
荒谷は他の2人の取り巻きに目配せをする。
1人が起き上がろうとするハルユキの横に立ち、そしてあざけり笑った。
「まん丸で、サッカーボールみたいな体をしてるな!」
そのままサッカーボールを蹴るように、ハルユキのわき腹にひと蹴りを喰らわせた。
「うがっ!」
横転して、のた打ち回るハルユキ。
転げまわった先には、もう1つの取り巻きが待ち構えていた。
今度は、もう1人の取り巻きが、逆側からハルユキのわき腹に、足の甲で蹴りを入れる。
「げほっ!」
「ハーハハッ、こいつの体、マジでサッカーボールみたいだぜ」
いま来た方向に、再びぐるぐると横転するハルユキ。
肋骨が悲鳴をあげて、脂汗が滴り落ちる。
そんなハルユキの焦燥も気にせず、2人の取り巻き連中は左右から同時に迫ってきた。
小動物のように震え、うつ伏したハルユキを見て、2人の取り巻きからは余裕を感じられる。
ニタニタとしながら、2人で左右から挟むように足蹴りしはじめた。
背中を踏みつける足。
ミシミシと背骨が悲鳴をあげ、わき腹がきしむ。
なんとか立ち上がろうとするが、すぐに重い足で踏み潰される。
「がああっ!」
2人はボールのようにハルユキを蹴り合いしていた。
蹴り飛ばされたハルユキを、もう1人が足の裏で受け止めて、また蹴り上げる。
ハルユキはなんとか頭と顔を守るのが精一杯で、とても逃げ出せそうにはない。
「おらおら、ブタくん、なんか言ってみろよ!」
「ぎゃあ、ああっ!」
「痛いのか? 痛くねーのか?」
痛いに決まっている。
とにかく呼吸ができない。
「痛い」という声をあげることすらできないほど、息も絶え絶えだった。
「ハァハァ…」
しばらくストンピング攻撃は続いた。
もはや抵抗する気力も失せ、意識も半分失いかけていた。
「うっ…ううっ…」
なんとかこの場を逃げ出そうと、ハルユキは腕を伸ばす。
しかし手を伸ばした先には、汚れた靴の先端。
荒谷のものだった。
「おいブタ! まさか逃げようっていうんじゃないだろうな?」
「もう許して…」
「俺はまだブタ君に、何も調教してないんだぜ」
そう言うと、荒谷はハルユキの伸ばした手の甲に足を乗せて、そのままグイグイと踏み潰した。
「ぎゃあああっ!」
「骨折しない程度にやらせてもらうぜ」
荒谷の嫌らしい作戦だった。
もし骨折すれば、病院に行って事態が発覚し、イジメが表向きに知られるだろう。
そうなれば、イジメの証拠が残ってしまう。
つまり、荒谷はハルユキが病院に行かないギリギリのところで、痛めつけていたのだ。
荒谷は再び、取り巻き連中に目配せをする。
地面に伏したハルユキを強引に立ち上がらせた。
そして1人が後ろに回りこんで、羽交い絞めにする。
正面から荒谷が近づいてきて、ゆっくりとヒザを落とす。
ハルユキと同じ目線まで腰を落として、ささやいた。
「苦しいのか?」
「ううっ…」
「お前は約束を破った。どうなるか当然分かっているな?」
「……」
「肉まんの刑だよ。分かってんのか!」
その言葉を聞いた瞬間、
まるで荒谷に心臓が鷲づかみされるような感覚が走った。
喉がカラカラになり、心臓が口から飛び出そうなほど鼓動が速くなっていった。
「そ、それだけは……やめてください……」
「ほう、声が出せるのか。よほど肉まんの刑が怖いらしいな」
「やめて…」
「ワーハハハッ、こりゃ面白くなってきたぜ」
荒谷は高笑いをしながら、もう1人の取り巻きに指図をする。
「おい、肉まん買ってこい! このブタを処刑するぜ」
取り巻きの1人が、屋上から駆け足で出て行った。
ハルユキはぼんやりとした視界で、その姿を見て目の前が真っ暗になった。
「肉まんの刑はやめてください…お願いです…」
精一杯の声を振り絞る。
しかし、その声は荒谷に届かなかったのか、彼は一方的に怒鳴り始めた。
「肉まんの刑を執行するまで、まだ時間があるな。その間、たっぷりと可愛がってやるよ!」
荒谷は、ハルユキを羽交い絞めにしている取り巻きに合図をする。
すると、彼はハルユキをさらに締め上げて、丸いお腹を荒谷の前に突き出させた。
「デブの腹は、サンドバッグみたいだな!」
荒谷はごつい拳で、ハルユキのみぞおちにパンチを食らわした。
「げはっ!」
あまりの激痛に、ハルユキは全身をぶるぶると痙攣させた。
「いい感触だぜ。さすがは人間サンドバッグだ」
荒谷は左右からハルユキをビンタし、さらに腹に食い込むようなパンチをふるった。
「あっ…がっ…」
ハルユキの腹に打ち込んだ拳が、丸々とした肉に沈んで半分くらい見えなくなる。
めり込むといった表現のほうが正しいだろうか。
あまりの強烈な打撃に、ハルユキは首を垂れて、後ろの取り巻きの胸の中でガクリと失神した。
ズボンの股間周辺は、薄っすらと濡れた液体が広まっていく。
「ブタくんはきたねーな! 小便もらしやがったぜ」
「ワーハハッ、臭せーな、コイツ!」
荒谷たちの嘲笑を受けながら、後ろの取り巻きはゆっくりと腕を外す。
ずるずるとだらしなく、ハルユキは地面に崩れていった。
「ハァハァ…ボクはこのまま…」
ハルユキは伏したまま、わずかに残る意識の中で、横向きになった地面を眺めた。
骨も内臓も痛い。
もはや体はアザだらけだろう。
以前も荒谷にリンチにされたときは、
体育の授業で、他人にアザを見られるのが恥ずかしくて、着替えることができなかった。
今回のリンチも、それに匹敵するほどのダメージだろう。
さらにまだ「肉まんの刑」が残っている。
──肉まんの刑…。
ハルユキの頭の中に渦巻く、最悪の言葉。
体が覚えている。
あのときの屈辱を…。
そして拒絶している。
しかし、このまま意識を失う以外に、何もすることはできなかった。