小説仲間のりんとさんに純平のSS書いていただきました。
登場人物
神原拓也。正義感が強く明るい熱血漢。運動神経抜群で、サッカーが得意。
柴山純平。明るいが、どこかおっちょこちょいなムードメーカー的存在。
何もかも焼き尽くさんばかりの日光が肌を直撃する。
こんな攻撃的な猛暑の中で、彼らはサッカーをしていた。
パスを回せ。マークを外すな。もっと動き回れ。
炎天下に若い声が幾重にも響き渡る中、乾いた土を蹴り駈ける。目指すはゴールネット。
対抗するのは二人。どちらも見知った顔じゃない、だからこそ遠慮はせずに全力でぶつかっていける。
背を向き体を壁にしてブロック。けれど相手も馬鹿じゃない。ボールを奪うため、隙間に自身の足を差し込んでくる。
もうこうなると根競べ。どちらが先に折れるか。一瞬で攻守の入れ替わるせめぎ合いとなっていく。
ゴール前の攻防。二人が揉みあい、その外側でもう一人が様子を伺っている。
敵側が勝ったらその隙を狙い、味方が勝てばそのまま共に前線へと走り出す為に。
そこは最早彼らだけの舞台。他の選手はギャラリーとして、その攻防の行く末を固唾を飲んで見守るしかない。
一瞬のはずの攻防。その一瞬が繰り返されて既に数十秒。攻め手が鋭い訳でもなく、受け手がしぶとい訳でもない。
ただ、そこに意地が有るだけだ。
あるいは。そのこう着状態に情けなさを感じていたのかもしれない。
自分の大きな体型が幸いし、こうしてせめぎ合いを維持出来ては居るが。かといって、打開策なんて無い。更に数秒。
焦りはより確かになっていく。
叫びたくなる程暑い中、冷たい汗が額から垂れてくる。
いくら遊びと言えど勝負事には負けたくないという、双方の意地は確かに煮えたぎっているのだ。
「…純平っ!」
拓也だった。他が緊張で動けない中で、神原拓也ただ一人だけが動いていた。
純平の焦りを察し、サポートすべく駆け寄る。
「後は頼むッ!!」
スイッチを切り替えるような動作だった。
あれだけ拘っていた攻防戦を放棄し、足元にあったボールを拓也に蹴り渡す。
相手が唖然としているのが背中越しに伝わる。
待機していたもう一人が慌てて駆け出しブロックするも、僅かばかり遅かった。
加速し始めていた拓也にその程度の初速で対応出来る訳も無く、あっさりと抜かれてしまう。
途端、フィールドに歓声が沸き起こった。
皆に燃え移ってく感情の渦。
何が起こったかなんて、見なくても──分かる。
だからこそ純平は、別の事を。擦れ違う際の拓也の顔を思い出していた。あの自信に満ちていた笑顔を。
思い出していた。あいつは、こんな風に何もかもを燃えたぎらせる真夏のような炎だった事を。
次回に続きます。