純平SS(2)


サッカーに興じる拓也と純平だが・・?


登場人物

神原拓也です。

柴山純平です。


「うげぇ…埃くせぇー…。さっさと終わらせちまおうぜ」

試合も終わり、昼の休憩が始まる少し前。純平と拓也は先ほど使ったボールを片付けに来ていた。
グラウンドの端に申し訳程度に佇む小さな金属の箱。ちょうど、学校の脇に建てられた物品倉庫に似ている。
拓也に声を掛けられたのがキッカケだった。
久しぶりに連絡をよこしたかつての仲間は、電話越しに「お前さ、サッカーやんね?」の一言で純平を連れ出した。
公共のグラウンド。彼らは休日になると、不定期にこうして趣味の草サッカーに興じていたと言う。
その催しに参加してみないか?との誘いだったわけだが…。

「しっかし、お前その体型でよく動けるよな」
「るせぇよ。そこは関係ないだろ」

これが、普段から運動とは無縁の純平としては結構キツかった。
暑いし苦しい。その連続だったが、それでも楽しかった。

資材の置かれた狭い倉庫を二人で進んで行く。

「た、拓也こそ、良くあの場面で動いたな」
「んあ。へへっ、そりゃあお前困ってたしな」

得意げな顔をして俺を見る。

「べっ…別に俺一人でアイツら全員抜いてたさ」
「ホントにかー?」
「おおう。俺にだってそんぐらい簡単だっての」
「へいへい、そうですねぇーっと」

話を軽く流しつつ、ボールの入ったカゴを奥の棚にしまう。
まるで「お前の事なんて、全部分かってるんだぜ」と言わんばかりの態度。
そんな空気を感じ取った純平は「お前は、何も…」と呟いてしまう。

「ん?何か言ったか?」
「いや…なんも」

話しながらも手馴れた様子で荷物を片付けている拓也を視界に収めつつ、純平は考えていた。

冷静に考えて。いや、冷静に考えずとも、この状況はダメだ。と。
二人きりって奴じゃないか。と。

「今日は来てくれてサンキューな」
「んー…おう」
「来てくれるとは思ってなかったんだけどな」

やっぱり、分かってない。己が裡に嘆息を逃がす。

電光石火に駆け抜けた大冒険。
あれから二年とちょっとだけの月日が流れた。

それこそ、最初の内は仲間内でも頻繁に連絡を取り合っていたのだが…。

「そういえばさ、輝ニと泉付き合い始めたって聞いてるか?」
「そうなのか?聞いてないな」

けれど、それぞれの路とでも言えば良いのか。
純平だってその後友人が出来て、それなりに充実した日々を送っている。けれど、何かが違う気はしてた。
そんな違和感も、忙しい毎日に埋没してやがて消えていった。
連絡を取り合う頻度はどちらからとも無く減っていき、ついには途絶えた。

「残念だなー」
「そうでもねーよ。それに、泉ちゃんは拓也の事が好きだと思ってたけどな」
「…そうだったの?」
「鈍感やろうめ」
「純平も人の事言えねぇじゃん」

久しぶりに拓也から連絡をくれた時は嬉しかった。
俺の事ちゃんと覚えてたんだな。と、柄にもなく素直に喜んだものだ。
だから、運動は好きじゃないなんて関係無く、勢いでその誘いを快諾してしまい────今、此処に居る。

「拓也よりかは敏感なつもりだぜ?」
「ほほーう。言ってくれるじゃん」

倉庫は四方を金属の壁で覆われた空間。痛いくらいの直射日光を受け、昼間となれば中はサウナめいてしまう。
そんな中に於いて、話しながらの作業は、お互い汗だくになってる事に気が付くのを少しだけ遅らせてくれた。

その暑さは、外気のせいか。それとも、久しぶりに拓也と会えた事によるものか。
額から汗を滴らせる丘陵を描いた輪郭が、否応無しに視界に入る。
乾いた空気に、拓也の熱を帯びた湿気が伝わってくる。

「拓也、俺…──」

鼻腔をくすぐる拓也の臭いに眩暈がする。
冷静さという冷静さがことごとく追い出され、違う何かで満たされていく。

認めよう。ずっと拓也に会いたかったんだと認めよう。
ずっと溜めてた感情はダムのよう。一度決壊してしまえば取り戻せない。

「じゅ…純平!?」

純平は、気が付いたら拓也に抱き付いていた。


次回に続きます。

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