ブリッツモン×純平小説(3)


ブリッツモン×純平。純平はブリッツモンを救うことが出来るのか?


登場人物

柴山純平。デジタルワールドではブリッツモンに進化していた。

ブリッツモン。デジタルワールドからやってきたデジモン。人間界に来た目的は?


純平がどうしようか考えていると、ブリッツモンが先に行動を起こした。
『どうしても・・道をあけないならば、強引に進ませてもらう!』
ブリッツモンはゆっくりと腕から雷を放出し始めた。
どうやら周りを威嚇する意味らしい。
しかし、それが返って人間を恐怖を植えつけてしまった。
「うわぁ、撃て!!」
警官達は一斉にブリッツモンに拳銃を撃ち始めた。
弾はブリッツモンの装甲に弾かれているようだったが、その集中砲火にブリッツモンは痛みに耐えている。
「ブ、ブリッツモン!!」
純平は泣きながら叫ぶ。
「ダメだ・・このままじゃ・・・なんとかしなきゃ・・・」
純平は青いデジバイスを両手でもって、ブリッツモンの方向へ差し出す。
そして、祈るような気持ちで叫んだ。
「お願い!スピリット!!」


その瞬間、青いデジバイスが光った。
ブリッツモンの体はデジコードに包まれる。
やがてそれはバーコードのようなデータとなり、そのまま純平の持つデジバイスの中へ引き込まれた。
「あっ・・・あっ・・・ブリッツモン・・・?」
純平がデジバイスを見ると、小窓に「雷」の文字が映っている。
それは、ブリッツモンが純平の持つデジバイスへスキャンされたことを意味していた。
(ブリッツモンがこのデジバイスにスキャンされたんだ・・・よかった・・本当に・・・)
純平は熱い涙を拭いながら、両手でデジバイスを抱きしめた。


しかし、喜びの束の間だった。
突然消えたブリッツモンに周りの人間たちは驚いた。
<お、おい。消えたぞ!>
<どこにいったの?>
<バーコードみたいになってあっちに飛んでったぞ!>
野次馬たちの視線が、一斉に純平の方向へ集中する。
(ま、まずいぞ・・)
純平は冷や汗をかきながら、人ごみの中に太った体を潜らせた。
そして、いま来た道をほふく前進の格好で、そのまま後退する。
人の足元を後退していくのは容易なことではない。
何度も体を、人の足で踏みつけられる。
しかし、大勢の群集が純平を隠すような形になったのは不幸中の幸いだった。
なんとか後退して群集から脱出すると、そのまま立ち上がってその場から走って逃げた。


純平はようやく人ごみから出ると、額の汗を拭った。
(ふぅ・・)
この数分の間に、何回冷や汗をかいただろう?
野次馬たちは、依然として最前線に群がり騒然としている。
警官たちもブリッツモンのことを、血眼になって探しているようだった。
どうやら、自分のデジバイスにブリッツモンがスキャンされたことは、誰にもバレなかったらしい。
純平はツナギの埃を払いながら、いま来た道を急いで走り去る。
「ハァ、ハァ・・・」
太っている純平にとって、"走る"という行動は最も苦手なものだったが、いまは疲れを知らなかった。
時折、誰かがつけているのではないかと、チラチラと後ろを見る。
しかし、大勢の人ごみの中では純平を気にするものなどいなかった。


純平はようやく渋谷駅に着き、そのまま東横線のホームに入った。
駅も大勢の人でごったがえしていたが、間もなく発車すると思われる電車に飛び乗る。
<現在、徐行運転のため通常ダイヤよりも10分ほど遅れて運行しておます・・・>
<渋谷周辺でパニックになった事件ですが、どうやら広告会社の特撮パフォーマンスショーが行われたようで・・>
<警察ではこの広告会社を現在調べております・・・>
純平はそのアナウンスを聞いて、少しホッとする。
(ブリッツモンは未確認生物ではなくて、特撮のショーということになったのか・・・)
混んだ電車の中で初めて「はぁっ」と大きく空気をお腹に吸い込ではいた。
純平は、少しずつではあるが、落ちつきを取り戻していた。


しばらくすると、電車はようやく発進した。
純平はグッタリと疲れたのか、ドアに背中を向けてそのまま座り込んだ。
他の乗客の中にも、疲れ果てたのか電車の中に座り込む者がいる。
どうやら、渋谷でのパニックの度合いは相当激しいものだったらしい。
ふと気がつくと、どこからか声がする。
『ありがとう・・・純平・・・』
純平はその声にハッとした。
ポケットにしまっていたデジバイス。
それを誰にも見られないように、そっと取り出す。
デジバイスの小窓にはブリッツモンの顔が映っている。
しばらくブリッツモンをジッと見つめたあと、純平はニコッと笑う。
(ブリッツモン・・・この中にいるんだね・・・)
デジバイスを持つ手がなぜか震える。
飛び跳ねるほどうれしい・・・それが素直な気持ちだった。
先ほどのまでの不安な気持ちから、一転して幸せな気持ちが純平を包み込んでいた。


『純平・・・俺が人間界に来た理由は・・・』
デジバイスからブリッツモンが純平に話しかける。
「い、いまはダメだよ!」
純平は周りをキョロキョロと見渡しながら、急いでデジバイスを胸のポケットにしまった。
横にいた女性がチラッと純平を見ていたが、すぐに興味なさそうに下を向いた。
きっと、純平が携帯電話で話していたと思ったのだろう。
純平は周りの目が、自分に向いていないことを確認して、ホッとする。


ガタンガタン・・・・
線路の継ぎ目の音が響く・・・。
心地よい振動が眠りを誘う。
純平は家に帰るまでの間、ウトウトとしながらいろいろなことを考えていた。
──ブリッツモンはどうして人間界にきたのだろう?
──どうしてあんな騒ぎになったのだろうか?
──多くの人がブリッツモンの姿を見たが、大丈夫なのだろうか?
ブリッツモンに会えたことはうれしいが、いまは分からないことが多すぎる。
胸の中にしまったデジバイスをギュッと握り締めたまま、純平は疲れからかコクリコクリとし始めた。





純平はようやく自分の家に到着した。
閑静な住宅街にある、立派な家。
お金持ちらしく、門構えは豪華で車も2台停めてある。
一見、幸せに恵まれているような家庭環境。
しかし、純平は自分の家が好きではなかった。
なぜなら、玄関の扉を開けても、誰も迎えてくれる人がいなかったから。
純平の父親と母親は、夫婦喧嘩が絶えなかった。
母親は実家に帰っていることが多く、純平にお金だけ置いていく。
父親は仕事に熱中し、純平とあまり言葉を交わすこともなかった。
なによりも純平にとってつらかったのは、
 朝も夜も、長い時間1人で家で過ごさなければならなかったことだった。
家族の愛情もなしに。


今日も玄関を開けたが、誰も家にいる気配はない。
シーンと静まり返った広い室内。
きっと、今夜も父親と母親は帰ってこないかもしれない。
子供にとって、これほど悲しい現実はないだろう。
純平は気を取り直して、ゆっくりと玄関に入りドアを閉めた。
そして微笑みながら、デジバイスをそっと取り出す。
「ブリッツモン・・・ここが俺の家だよ・・。
  これから俺の部屋に行こうね」
純平は、ニッコリと笑う。
デジバイスを胸に抱きながら、トコトコと2階の自分の部屋に駆け上がっていった。


──純平の部屋。
床はフローリングで小奇麗に整理整頓され、清潔感がある。
ベッドに机、そしてテレビとたくさんのゲーム機が綺麗に積みあがっている。
両親がおしゃれ好きなのか、カーテンは高級そうなレースで、しかも出窓だ。
部屋に入った純平は「ふぅっ」と大きく息をして、デジバイスの小窓を見つめる。
雷の文字。そしてブリッツモンの顔。
純平はデジバイスを両手で差し出しながら、大きな声で叫んだ。
「スピリット!」
すると、デジハイスからバーコードのようなものが出現した。
デジコードはやがてぐるぐると渦巻き、ブリッツモンの姿を形成していく。
そして、純平とブリッツモンは向かい合って対面した。
(ブリッツモン・・・)
(『純平・・・!』)
それは、純平がずっと待ち望んでいた瞬間とき


純平は、自分の身長の倍はある、大きなブリッツモンを見上げる。
カブトムシのよう青いな装甲に、円らな瞳。
以前と全く変わらない、ガッチリと逞しいその姿。
手を伸ばせば、お互いの体に触れることができる距離にある。
だが、2人はしばらくお互いを見つめ合うだけだった。
感極まると声がでないというのは、このような状態をいうのだろうか。
純平を見つめる優しいブリッツモンの瞳。
そんなブリッツモンを目の前にして、純平はニコッと微笑みかける。
(あ、あれ・・)
スーッと頬を伝わる一粒の雫。
自然と目から涙がでて、笑顔が泣き顔に変わる。
「ははっ、ブリッツモン、俺なんか涙出てきちゃって・・・恥ずかしいよね」
純平は急いで、ゴシゴシと腕で涙を拭う。
「ちょっと、飲み物でも持ってくるから・・」
居たたまれなくなった純平は、ブリッツモンに背を向けた。
・・・そのときだった。


『純平・・!』
背中に感じる暖かい温もり。
ブリッツモンが後ろから抱きついたことは容易に想像できた。
「ブ、ブリッツモン・・・!?」
『しばらくこのままにさせてくれ・・』
「う・・うん・・」
純平はそっと目を閉じる。
ブリッツモンに抱かれているだけで、こんなにドキドキするなんて。
背中に感じた暖かい感触が、体全体に広がっていくのが手に取るように分かる。
先ほど拭いたはずの涙が、再び頬を滴り落ちる。
どうして涙が止まらないのか、純平自身にも理由が分からなかった。
「ブリッツモン・・・いつから・・・いつからこうしたかったの・・・?」
『ずっとさ・・・デジタルワールドで純平と別れたときから・・・。
  俺は毎日純平のことを考えていたんだ。こうして純平を抱きたかった・・』
「うっ・・うっ・・俺だって・・・!」
純平は、自分のお腹の上にあるブリッツモンの腕に、そっと手を重ねあった。


純平の両親が不仲であるという裏設定を相変わらず使わせてもらいました。

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