ブリッツモンと共に行動することに決めた純平の行く末は・・・?
登場人物
柴山純平です。ブリッツモンとの苦難な道を選んだが・・・。
ブリッツモンです。
神原拓也です。デジタルワールドではリーダー的存在で、アグニモンに進化する。
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<トゥルルルルル>
<ピンポーン!>
うるさいなぁ・・・。
誰だよ・・・こんなに朝早く・・・。
拓也か・・・?
もう少し寝かせてくれよ・・・。
ウトウトとする純平は、寝ぼけ眼なままもう一度眠りにつこうとした。
『純平!』
「ん・・・」
『純平!起きるんだ!』
「えっ・・・?」
布団の中から、ベッドの上に置いてある時計を見ると、朝の7時だった。
寝ぼけ眼の純平は、目をこすりながらブリッツモンに「おはようっ」と言おうとした。
しかし、なにか周りが騒々しい。
玄関のチャイムが立て続けに鳴ったり、1階の電話が鳴り響いているようだ。
『外を見てみろ。様子がおかしいぞ』
純平はゆっくりとベッドから出ると、窓の外をそっと覗いてみる。
「な、なんだよ、あの人だかりは・・・」
純平の家の玄関前に、10人くらいの人が集まり、なにやら騒いでいたのだ。
(一体、何が起こったんだよ・・・。
ま、まさかブリッツモンのことで・・・)
妙な胸騒ぎがした。
しかし、ブリッツモンが自分の家にいることは、絶対に知られていないはずだ。
事の顛末が把握できない純平は、急いでパンツとTシャツを着る。
そしてベッドに横に脱ぎ捨ててあった、いつもの青いツナギに足を通した。
「ブリッツモンは、ここで待ってて!」
そういうと、純平はツナギを着ながら、1階に駆け下りていった。
一体なにが起こったのか、まずは状況を把握しなくては・・・。
純平は玄関の小窓から、恐る恐る外を覗いてみる。
放射状にみえる外の光景は、まだ小学生の純平には恐怖としか映らなかった。
怖い顔をした男、睨み付ける人、いらついている女・・・。
なにやら近所の人たちが、家の前で騒いでいるようだ。
<柴山さん!いないんですか!>
<化け物をどうしてるんだよ!>
<早く開けなさいよ!いるのは分かってるんですよ!>
<開けねーとぶち壊すぞ!>
・・・まるで純平を捕まえに来ているような地面に蠢くような怒声。
人が集団になると、こんなにも恐ろしいものなのか。
突然、ドアが地鳴りするようにドン!と叩かれる。
「うわっ!」
純平は飛び跳ねるように驚いて、尻餅をついた。
(この人たち、一体なにしてるんだ・・・)
全く事態が把握できずに、ブルブルと震えだす純平。
そして、もはや冷静な判断が下せなくなる。
そのとき、トゥルルルとけたたましい電話が鳴った。
(うわっ!)
純平はその音にビクッと反応する。
普段は聞き慣れている音なのに、こんな状況では自分を追い詰める恐怖の音にしか聞こえない。
その電話に出るか出ないか純平はしばらく迷う。
・・・もしかすると両親からの電話かもしれない。
わずかな希望を持ちながら、純平は震えた手で受話器を握った。
「もしもし、柴山ですが・・・」
純平はオドオドとした声でその電話に出た。
<なんだよ、柴山さん、家にいるんじゃないか!>
<家に化け物かくまっているだろ! 早く出てこいよ!>
その声を聞いた瞬間、純平は血の気が引いた。
ガチャン!
受話器が壊れるほどの勢いで、電話を切る。
(どうして・・・どうして、こんなことに・・・)
一体なにをどうすれば事態が収集するのか・・・。
心臓の鼓動が、いつもの何倍にもなっていく。
目の前が真っ暗になり、汗が吹き出してくる。
そのとき、ドンドン!とさらにドアを叩く音がさらに大きくなる。
<柴山さん、やっぱりいるんじゃねーか! 早く出てこいよ!>
<バケモノの仲間なんか警察に突き出してやれ!>
<このドアぶち破ったほうがいいんじゃないのか!>
(一体どうしてこんなことに・・・ブリッツモンは何も悪いことしてないじゃないか・・!)
悪い夢なら早く覚めてほしい。
そのとき2階から声が聞こえた。
『純平、一体なにが起こっているんだ!?』
なかなか事態が収集できない純平を心配して、ブリッツモンが顔を出している。
純平はかなり取り乱していたが、それでも必死に笑顔を作る。
そして、ブリッツモンに心配をかけないように話しかけた。
「ブリッツモンは2階で隠れていて。今なんとかするからさ・・・」
『本当に大丈夫なのか?』
「うん、大丈夫だから・・・早く・・・」
ブリッツモンは純平の言葉に従って、2階に戻っていった。
ドンドンと叩かれる扉を背にして、純平は震えた。
そして耳を塞ぎながら、テーブルの前で崩れ落ちた。
(パパ・・ママ・・どこにいるの・・・助けて・・・)
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拓也は朝一番に起き、パン一枚と牛乳を飲んで家を出た。
今日は祭日なので、自由が丘の駅はガランとして人気はない。
そのまま東横線にのり、田園調布へ。
(純平のヤツ、電話では妙に落ち着いていたけど大丈夫なのかなぁ)
もしかすると、ブリッツモンと純平はすでに会ったのかな?と拓也は思った。
そうでなければ、純平の方から真っ先に連絡してくるはずだ。
拓也はアレコレと考えらながら、純平の家に気ままに歩いていた。
天気は穏やか、いたって平和に感じる。
「ん?な、なんだ、あれ?」
純平の家の近くまで来てみると、なにやら人が集まっている。
一体何事かと驚いた拓也は、その群集の中に無理矢理入っていく。
拓也はこの騒動に動揺したが、いまは冷静にならなくちゃ、と自分に言い聞かせる。
「あの、一体なにがあったんです?」
しかし、誰も拓也の言葉に耳を貸そうとはしない。
「あの、ちょっと聞いてるんですけど!」
拓也は、家の前に集まっていた人をつかまえて、いつもの倍の大きさの声で尋ねてみる。
すると、ようやく1人の女性が拓也の質問に答えてくれた。
<柴山さんの家に、昨日渋谷に現れたバケモンがいるらしいんですよ>
(な、なんだって・・・)
──純平の家にブリッツモンがいるということか?
しかも、そのことがバレてこんな騒ぎになっているなんて。
──落ち着け。
──冷静になれ。
拓也は自分自身にもう一度言い聞かせる。
拓也は輝二のようにクールな性格ではないので、冷静になるということは元々得意ではない。
しかし、この状況は明らかにまずい。
拓也は「ふぅっ」と一呼吸置いて、さらに尋ねてみる。
「もう少し詳しく聞かせてもらえませんか?」
すると、女性が興奮した様子で拓也に話した。
<私みたのよ!昨日の夜、柴山さんの2階にカブトムシみたいな生物がいたのを>
<インターネットで話題になっている生物と良く似ていたものだから、今日近所の人と確認しにきたんですよ>
<そうしたら、窓にその生物らしき影がやっぱりいたのよ!>
<昨日の夜に、近くの人がバケモノに襲われて病院に運ばれたっていう話よ>
<柴山さんのインターホンを押しても返事がないし・・家に人はいるのよ。きっとかくまっているんだわ>
(そんなバカな・・・)
拓也はその話を聞いて状況を整理しようとした。
──ブリッツモンが純平の家にいる。
これは間違いないなと、拓也は確信した。
しかし、このままでは渋谷の騒動の二の舞だ。
拓也は、昨日渋谷にいたわけではない。
しかし、インターネットにアップロードされていた動画をみれば、
人がパニックになったときにどういう行動を起こすか、その恐ろしさは感じていたのだ。
拓也がいろいろと思案を回らしているうちに、数人が大きな声をあげた。
<構わないから、ドアをぶち壊して確認しちまえ!>
なんて過激な奴らなんだ、と拓也は思ったが、未知の生物に恐怖を感じた人間は何をするか分からない。
拓也は我慢できなくなり、力の限り叫んだ。
「純平!いるんだろ! 拓也だよ!俺、拓也!!」
拓也の目の覚めるような大声に、その場にいる全員はポカンと口をあける。
すると、1人の男性が拓也に近づいてきた。
「アンタ、柴山さんの息子の知り合いかい?」
「ええ。俺が中に入って確認してきますから、みなさんここで待っていてもらえませんか?」
「し、しかし、本当にバケモノがいたら危険だぞ」
「もし、バケモノがいたら、純平だって生きてないでしょ!」
「しかし、柴山さんの息子はバケモノの仲間かもしれないぞ」
「そんなわけないだろ!」
拓也は勝手なことを言う大人たちを睨み付ける。
そして、ゆっくりと1人で玄関の前に立った。
あらん限りの声で叫ぶ。
「純平!俺だよ、拓也だ! いるんならここを開けてくれ!
おい、純平!聞いてんのか!」
1人の少年の叫び声を、黙って見守る大勢の人たち。
<おい、純平! いるんだろ!>
純平はテーブルの前で崩れ落ちていたが、拓也の叫ぶ声が耳に入る。
「た、拓也・・・?」
あの声は間違いなく拓也の声だ。
純平は急いで立ち上がり、玄関に駆け込でいく。
そして、ドアの小窓から外を恐る恐る覗いてみる。
そこに楕円形になった拓也の顔。
(拓也・・・来てくれたんだ・・!)
拓也の顔をみた瞬間、純平の心に言い知れぬ安堵の気持ちが広がった。
純平は無我夢中でドアのチェーンロックを外し、扉をガチャッと開ける。
純平の青いツナギがチラッと見える。
その瞬間、「わぁ」と周りの人たちの声があがった。
純平は急いで拓也だけを、強引に中に引きずりこんだ。
次回へ続きます。