ブリッツモン×純平小説(9)


なんか今回の長すぎますね・・・。


登場人物

柴山純平です。

ブリッツモンです。

神原拓也です。


純平は、拓也に強引に袖を引かれるまま、駅に向かっていた。
「おい拓也! ゆっくり家で話そうと思ったのにどうしたんだよ!?」
純平はちょっと不機嫌そうな顔をする。
「あのなぁ?警官がいたんじゃ、話も何もできないだろ」
「そ、そっか・・」
純平は妙に納得した様子で、拓也と並んでトコトコと駅に歩き出した。
しばらく黙って歩いていた拓也だが、急になにかを思いついたように純平に話しかける。
「純平、さっきの話だけどさ・・・」
拓也は少し不安気な声で話す。
「アグニモンに、一体なにがあったの?」
「う、うん・・それなんだけど・・・」
「話してくれよ」
「あぁ」
純平は田園調布の駅に着くまでの間に、昨日渋谷で起こったブリッツモンの事件や、
 デジタルワールドで起こっている衝撃的な事実を、すべて拓也に話した。





ガタンガタン・・・・。
線路の繋ぎ目の音が響く車内。
祝日の午前中のためか、渋谷行きの電車に乗っている人はあまりいなかった。
拓也は座席の端に座り、ただ黙ってうつむいていた。
隣にチョコンと座って、心配そうに拓也を見つめる純平。
きっとアグニモンが苦戦していることを拓也も心配しているだろうと、純平は思った。
「純平は行くんだよな・・?」
拓也は下を向いたまま、いつもより低い声で切り出した。
「うん・・。俺はデジタルワールドに行くよ」
「もう人間界に帰ってこられないとしても?」
「あぁ」
「そんなに簡単に決められることなのかよ・・」
拓也は頭を抱えて、なにやら苛立っているようだった。
そして、思い立ったように純平に顔を向け、鋭い視線を送る。


←いい感じの場面があったので入れて見ました。


「どうしてデジタルワールドに行くって決めたんだ?」
「どうしてって・・・」
「だって、普通そんなこと言われたら、悩んで結論なんてだせないだろ!?」
「そうなのかな・・」
「当たり前だろ!帰ってこられないって意味が分かってんのか!」
キョトンとしている純平に、拓也は思わず襟首を掴んで怒鳴りつける。
「た、拓也! 苦しいって!」
胸元を掴まれてゴホッと咳き込む純平。
拓也があまりに大きな声を出すものだから、車内の人たちがチラッと横目で見ている。
「ご、ごめん・・・つい・・」
車内の人たちの視線を感じた拓也は、純平の襟首から手を放した。
衝動的とはいえ、デジタルワールドに行くことを決めた純平を、うらやましいと感じたのか。
拓也はそんな自分に戸惑った。


しばしの沈黙のあと・・・。
拓也はフッとため息をついて、純平に話しかける。
「なぁ純平? 俺もデジタルワールドに行くって、言い出すと思ってただろ?」
「うん、拓也のことだから、そう言うんじゃないかって・・」
「俺、行けないよ・・・」
わずかだが、拓也の声が震えている。
「拓也・・・?」
「そりゃ、俺だってデジタルワールドのことは心配だし、アグニモンのことだって放ってはおけないよ」
「うん・・・」
「でも、一生戻ってこれないなんて・・家族や友達と会えなくなるんだぜ?」
「そ、そうだよな・・」
拓也は、拳を握り締めながら、なにやら少し悔しそうな表情をしている。
純平は、そんな拓也にどう言葉をかけていいのか分からずに、すまなそうに視線を落とした。
「純平は、そんなにブリッツモンのことが好きなの?」
「う、うん・・」
「両親や友達よりも大切なのか?」
「たぶん・・・」
純平はその質問に明確に「うん」と答えられなかった。


純平は胸から青いデジバイスをそっと取り出す。
そして、いつもの純平らしい明るい口調で話した。
「俺さ、3ヶ月前に人間界に戻ってきたときから、ずっと思っていたんだ」
「えっ、何を?」
純平は、デジバイスに映るブリッツモンの姿を見ながら話を続ける。
「またすぐにブリッツモンに会えるんじゃないかって」
「どうしてそう思うの?」
「なんかさ、デジタルワールドって本当はすぐ近くにあって、
  自由に行ったり来たりできる世界だと思うんだ」
拓也は、いつになくロマンチックな話をする純平を、不思議そうにみつめた。
「まさか・・・純平は本気でそう思ってるの?」
「だから、きっと俺すぐに戻ってこれるよ」
超楽観主義の純平に、さすがの拓也も頭を抱えた。
「純平は前とちっとも変わってねーな」
「な、なんだと! ブリッツモンは約束してくれたんだぞ。ちゃんと人間界に戻す方法を見つけてくれるって」
「それを信じてるの?」
「当たり前だろ!」
「ったく・・・」
「それに、俺がブリッツモンに会いたいって願っていたら、本当に会いに来てくれたんだ。
  ブリッツモンは俺にウソなんかつかないよ!」
「それはオファニモンが命をかけて・・・」
拓也はそこまで言いかけて、途中で言葉を止めた。


再びガタンガタンという電車の音だけが2人の間に走る。
沈黙がしばらく続いた後、純平が切り出した。
「ところでさ、拓也が一番好きな人って誰?」
「えっ?」
純平の唐突な質問に、拓也はなんと答えてよいのか困ってしまう。
「うーん、一番好きな人か・・やっぱり家族かなぁ。父さんと母さんと、弟かな」
「そうか・・・拓也はいいよな」
「純平だって、同じだろ?」
「俺、分かんないよ・・・」
「分からない?」
「俺、思うんだ。
  ブリッツモンがいたから、俺は少しだけ変わることができた。
  それに、俺のことを一番分かってくれるのは、パパでもママでもなくてブリッツモンなんだ。
  俺がなんでも話せるのは、ブリッツモンだけ・・」
「そんなことないだろ・・・?」
「拓也には理解できないよな・・・。人間よりもデジモンの方が好きなんてさ・・・。
  俺ってつくづく悲しい人間だよな。ハハハ」
「純平!?」
拓也は驚いた。
いつのまにか、笑っている純平の目から、涙がこぼれていたのだ。
どうして純平から涙がこぼれたのか、拓也はこの時理解できなかった。


「えへへ。ごめんな拓也。なんか今日は俺、涙腺が緩いみたいでさ・・」
そう言いながら、純平は頬の涙を手でゴシゴシと拭い取る。
いつもは拓也の前では、自分の弱みを見せようとしない純平。
その姿を見て、違和感を感じる拓也。
拓也は、純平の気持ちを確かめてみることにした。
「なぁ、純平? 俺だってアグニモンは好きだよ。でも、デジモンは、やっぱりデジモンだよ・・。
  純平は両親よりもブリッツモンが好きっていうけど、本当にそう思うのか?」
「そ、そうだよ・・」
純平はゴシゴシと目を拭いながら、答えた。
「じゃあ、その涙はなに?」
「えっ?」
「どうして純平は、泣いてるんだよ・・・?」
「・・・・・」
「純平が一番大切なのは、やっぱり両親なんだろ? 本当は別れるのは嫌なんじゃないのか!?」
拓也は、純平の両肩をギュッと掴んで、真剣な眼差しで純平を見つめた。
その拓也の強い眼力に、思わず純平は視線を横に逸らせる。
「おい、純平!どうなんたよ!?」
「ご、ごめんな。お前に心配かけたりしてさ・・・。まるで拓也の方が年上みたいだよな・・。
  でも俺にとっては、デジモンも人間も同じなんだよ・・。
  俺がいま心を許せるのは、ブリッツモンだけなんだ。
  俺がデジタルワールドに行く理由はそれだけ。おかしいかな?」
純平は肩にある拓也の手をそっと握り返し、目に涙を溜めてニコッと笑った。


「じゃあさ、拓也はアグニモンのことどう思っているの?」
「えっ、俺・・?」
拓也は純平の質問に、ジッと考える。
「そうだなぁ。アグニモンは仲間さ。デジタルワールドで一緒に戦った仲間だ」
「単なる仲間?」
「うーん、あまり考えたことないけど、仲間としかいいようがないよ。
  恋人なわけないし、友達ってわけでもないし・・」
「そうか・・・やっぱり拓也には分かんないよな」
「どういう意味だよ!?」
拓也はいまの純平の発言に、ムッとしたのか肩をギュッと掴んで睨みつける。
「拓也、痛いよ!」
「じゃあ、ブリッツモンは純平にとって、一体なんなんだよ?」
「なにって・・・?」
「友達か?仲間か?それとも肉親以上の存在なのかよ?」
「そ、それは・・・その・・・」
「純平だって、答えられないじゃないか!」
純平は拓也の問いかけに、即答できなかた。
しばらく黙っていたが、純平はゆっくりと微笑みながら拓也に話しかけた。
「言葉でうまく言えないんだ・・。もし言えるとしたらブリッツモンは・・・。
  俺にとって"かけがえのない存在"・・・かな」
「"存在"ってなんだよ!?所詮デジモンだろっ。俺たち人間とは・・・家族とは違うんだ!」
「そうさ、デジモンだよ・・・だけどそれがなんだっていうんだ!
  俺にとって、一番大切な存在がデジモンじゃいけないのかよ!俺にとっては・・・両親よりも大切な・・。
  ブリッツモンのためだったら、俺はなんでも出来るよ!」
「そんなの絶対にウソだ!」
「ウソじゃないよ!パパやママはいつも俺を1人にして・・・勝手なことばかりして・・・」
「純平・・・?」
再び純平は涙を流す。
拓也には純平の言っている意味が分からなかった。




純平は、その後、拓也にいろんなことを話した。
──自分の両親がいつも家にいなくて寂しい思いをしていたこと。
──いつも友達のことで悩んでいたこと。
いまになって、純平は自分の本当の姿を、拓也に全て打ち明けた。
拓也とここまで深い話をしたのは、もちろん初めてだった。
他の誰にも話していない、純平だけの心にとどめておきたい真実。
いまになって、こんな話を拓也にしたのは、
 デジタルワールドに行ってしまったら、もう2度と拓也と話ができないと純平自身が薄々感じていたからかもしれない。
(そうか・・・そうだったのか・・・)
拓也は、今になって初めて純平の本当の姿を見たような気がした。
純平はいつもわかままで、どこかおどけているように見えるが、
 本当はいろいろと悩んでるヤツだったんだなと、拓也は思った。
そして、純平がなぜブリッツモンに、身を委ねようとしているのかをようやく理解した。


「俺、やっと分かった気がする・・。
  たぶん純平とブリッツモンの関係って、俺が思っている以上に強い絆で結ばれているんだろうなって」
「そ、そうかな・・・?」
純平はさらに照れているのか、太った体を小さく丸めて可愛い仕草をする。
「でも、やっぱり両親以上の存在なんて、俺には理解できないや・・・ごめんな」
「ううん、そんなことないよ・・」
「純平、一緒に地下のターミナルまで行こうぜ。俺がお前のこと見送ってやるからさ!」
「拓也・・・?」
「俺が見送ってやらなきゃ、他に誰がいるんだよ!」
「拓也、ありがとう!」
そういうと、2人はガッチリと握手をした。


──柴山純平。
俺が最初に純平にあったのは、地下のターミナルからトレイルモンに乗った直後。
最初は、俺より年上だと思わなかった。
だって、デジタルワールドに来た理由が泉が目当てだというし、
 チョコをたくさんもった甘えん坊だったし。
年上だと威張る割りには、わがままでお調子者な子供のような性格だった。
でも一緒に戦っているうちに、純平は少しずつ変わっていった。
なんていうか、優しくなった。
そして純平の方から、俺に歩み寄るようになったんだ。
デジタルワールドから帰って知ったことだが、純平の家はお金持ちらしい。
一人っ子で何不自由のない生活をしているんだな、と思った。
弟のようなうるさい存在もなくて、気楽なんじゃないかって。
でも、実際は違っていたんだ。
純平は純平で、いろいろと悩んでいたんだな・・。
今日だって、純平が抱きついてきたとき、俺は正直驚いた。
あれが本当の純平の姿なんだって。
純平は素直で純粋な心を持っているのに、それを恥ずかしがって隠しているだけなんだ。
いまの純平なら、ギュッと抱きしめても悪くないなと、柄にもないことも考えちまう。
友達のことだって、家族のことだって、
 もっと早く知っていたら、俺はもっともっと純平と仲良くなれただろう。
だから、余計に残念だった。
もし、これで2度と純平と会えなくなってしまうとしたら・・・。
これが純平との最後の会話だとしたら・・・。


純平は拓也の横顔をみながら思った。
──神原拓也・・。
俺が最初に拓也に出会ったのは、デジタルワールドに向かうトレイルモンの中。
第一印象は、勝手に熱血していて、それでいてお節介なヤツ。
俺のようにデブじゃないし、スマートで運動神経がいい。
拓也は、俺に無いものをたくさんもっていた。
なんだか輝いて見えた。
俺は泉ちゃんと仲良くしたかったのに、たいしてアピールしていない拓也のほうがいい関係になったりして。
それに比べて俺はつくづく空回りしてるなぁと、いつも思っていた。
だから拓也のことがうらやましかった。
最初は拓也のことを、ひがんだり、妬んだりしていたかもしれない。
でも、デジタルワールドで一緒に戦っているうちに、だんだんと分かってきた。
コイツ、けっこういいヤツじゃんって。
拓也は自分の思ったことをハッキリ言うけど、俺に対しても気を使ってくれていた。
ただの熱血漢じゃなくて、本当に友達思いのヤツっているんだなって。
もし、拓也が俺と同じ年だったら・・・。
 もし、同じクラスだったら、俺の生活は少し違ったものになっていたかもしれない。
たぶん拓也は、いま俺が一番信頼できる友達なんだ。
もっと早く拓也に、俺自身のことを全部話せばよかったな・・・。
それだけが、いまの俺にとって心残りだ。
デジタルワールドへの出立を、最後に見送ってくれるのが拓也でよかった・・。
拓也、最後までありがとうな。


まだ終わらんよ。ふぁいさんからまた挿絵もらいました。ありがとうございました!

戻る