ん?なんか展開が微妙な・・。
登場人物
柴山純平です。
ブリッツモンです。
神原拓也です。
電車は中目黒を通り越し、渋谷駅に近づいていた。
駅に近づくに従い、2人のだんだんと言葉数が少なくなってくる。
このまま別れてしまう悲しさが、2人の心をどんよりと覆っていたのだ。
話せば話すほど、別れるのが辛くなるのでは・・と思い始めていた。
・
・
・
「ん・・・?」
拓也が車内を見てみると、先ほどまでいた他の乗客が1人もいない。
まるで回送電車のようにガランとしている。
焦った拓也は、周りをキョロキョロと見渡してみる。
両隣の車両にはいつのまにか、多くの警察官が陣取っていた。
まるで2人を閉じ込めるかのように・・・。
(おい、純平!)
拓也は隣でうつむいていた純平にそっと声をかけた。
(ど、どうかしたの?)
(なんかまずい雰囲気だぞ・・・)
(えっ・・?)
純平はそっと車内の様子をみる。
そこに映ったものは、ギラつくような警察官の視線。
(な、なんなのこれ・・・?)
それは先ほど自分の家から外を見たときと、同じような恐怖の光景。
只ならぬ気配に、純平の心拍数は一気に上がっていく。
拓也と純平は、何が起きたのか把握ができずに困惑していた。
先ほどのような、近所の住人が押しかけるのとは訳が違う。
相手は本物の警察官、すなわち国家権力なのだから。
そのとき、1人のサングラスをかけた男が、2人の前に近づいてきた。
男は30代くらいで痩せているが、長身でピシッと黒のスーツを決めている。
なにか、とても威圧感がある。
明らかに、他の警察官を仕切っている人間のようだ。
「柴山純平君だね?」
男の声は低く、陰湿に感じた。
拓也と純平は、一緒に立ち上がって恐る恐る男の方に向き直る。
「あの・・・僕に何かご用でしょうか・・?」
いまにも泣きそうな、純平のか細い声。
危険を感じた拓也は、通せんぼをするように純平の前にサッと立ちふさがる。
こういうときの拓也の判断は実に素早い。
そして大きな声で叫んだ。
「あの、俺たちに何か用ですか?」
拓也の声は大きく、遠くまで響くように透き通っていた。
(た、拓也・・・?)
(いいから、俺に任せとけ!)
チラッと後ろを振り向いて、ウインクして合図をする拓也。
純平は震えながら、後ろから拓也の肩をギュッと掴む。
拓也は強がって見せたが、実際には緊張して膝が震えていた。
なにしろ相手は大勢の警察官。
しかし、拓也は"純平を絶対に守らなくては"という気持ちで一杯だった。
サングラスの男は2,3歩前にでる。
そして片手で警察手帳をみせると、なにやら話を始めた。
「私は警視庁の黒木というものだが、柴山純平君に聞きたいことがあってね。
申し訳ないが、私に同行願いたいのだが」
「なんで俺たちが警察に行かないといけないんですか?」
拓也は、男と純平の間に割って入って話す。
「私は君ではなくて、柴山純平君に話があるんだが?」
男の声は、まるでコンピュータが話しているように冷徹に感じる。
「俺たち、これからどうしても行かなくちゃいけない用事があるんです。明日じゃダメなんですか?」
毅然とした態度で話す拓也。
全く物怖じしない拓也の姿に、純平は後ろから頼もしさを感じていた。
「今すぐ、同行して欲しいと言っているんだかね・・。
それともデジタルワールドになにか関係があるのかね?」
その言葉を聞いた瞬間、拓也と純平は口から心臓が飛び出すほど驚いた。
「デ、デジタルワールド、どうして!?」
純平は、思わず相槌を打つように呟いてしまった。
サングラスの男は、動揺した純平の一挙手一投足を見逃さない。
「ほう、やはり君はデジタルワールドのことを知っているんだね」
「い、いや・・・その・・・」
純平は今の発言をなんとか取り消そうと、しどろもどろになりながら、横を向いて男から目線を逸らした。
まずい状況になったと判断した拓也はすぐに切り返す。
「なんですか?デジタルワールドって?俺たちには関係ないですよ」
その言葉を聞いたサングラスの男は、薄っすらと笑う。
「もしかして、君もなにか知っているのかい?デジタルワールドのことを?」
「訳の分からないことを言わないでください!」
「まぁいい。では君達2人とも警察に来てもらおうか」
そういうと、男は口元に不気味な笑みを浮かべる。
拓也は怒りに満ちた表情で、警察を阻止しようと奮戦する。
「警察に行くって・・・そんなこと勝手に決めないでください!」
拓也の態度は小学生とは思えない凛々しいものであった。
しかし、相手の男はそんな拓也を全く眼中にしていない。
後ろで震えている純平に話しかける。
「実はね、もう分かっているんだよ。柴山君、昨日君は渋谷にいただろう?」
「えっ・・・?」
「いまの衛星からの映像は、実に鮮明に映るものでね。
昨日渋谷に現れた怪物が消えた瞬間、それがどこに移動したのか映っていたのだよ」
「映っていた・・・?」
まるで誘導するような男の質問に、純平の心臓の鼓動はどんどん速くなっていく。
「そう。君の携帯電話の中に吸い込まれたのをね」
「まさか・・」
「君はどうしてそのようなことかできるのかね?」
「・・・・」
「普通の人間にはできない能力・・・。
君は本当に人間なのかね? 君もあのバケモノと同じ、デジタルワールドから来た住人なのではないのか?」
「そ、そんなわけ・・・」
「柴山君。では疑惑を晴らすためにも、君をじっくりと調べさせてもらいたいのだがね。
ご両親にも了解は得ているんだよ」
「了解って・・?」
自分が警察に拘留されることを、両親が了承したことに純平は少なからずショックを受けた。
男の尋問に、純平は徐々に追い詰められていく。
「柴山君、昨日渋谷に現れたバケモノを我々に引き渡してくれないか?
君は携帯電話からバケモノを出したり自由にできるのだろう? 危険な生物を小学生が飼ってはいけないよ。
もっとも君は、小学生の格好に化けているのかもしれないが」
「そんな・・・危険なものなんて、一方的に決め付けないでください!それに俺は人間です!」
純平は男の不当な扱いに対して、思わず大きな声をあげた。
「どうして危険じゃないと分かるのかね?」
「そ、それは・・・」
男は、ウジウジとした純平の態度に苛立ち始める。
「さあ、さっさと携帯電話を渡すんだ! 抵抗するのではあれば容赦はせんぞ。このバケモノ小僧がっ!」
男は手を振って、後ろに陣取った警察官たちに合図をした。
警察官が車内にゾロッと入ってくる。
純平は、昨日ブリッツモンが渋谷で囲まれた、あの最悪の状況を思い出した。
警察に囲まれて、一方的になぶられる光景。
得体の知れないものを見る時の、人々の冷たい視線。
まるで、人間ではない異形のモノを見るかのように・・。
今度は自分にその番が回ってくるなんて・・・。