なんか展開の歯切れが悪いかな・・・。
登場人物
柴山純平です。
ブリッツモンです。
神原拓也です。
東急東横線の渋谷駅。デジタルワールドへの入り口がある場所。
地下のターミナルへと続く渋谷駅のエレベーター。
押し寄せる警官達に、拓也は足が震えていた。
大きく息してなんとか心を落ち着かせようとする。
(俺がしっかりしなきゃ、純平が大変なことになっちまう・・・。
しかし、一体どうやってこの状況を切り抜けたらよいのか・・・)
拓也はアレコレと策を練るが、何も状況を打破する作戦を思いつかなかった。
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<ご乗車ありがとうございました>
<まもなく渋谷に到着します>
緊張でシーンと静まり返った車内に、車掌のアナウンスが響く。
20人ほどの警察官たちに取り囲まれた拓也と純平。
逃げようのない状況に、2人は震えるだけだった。
「さぁ、こちら来たまえ!」
サングラスの男が目配せする。
1人の警察官が純平のことを野良犬でも扱うかのように、粗暴に腕を引っ張った。
「痛い!やめてください!」
「黙れ、このデブのバケモノ小僧め!」
あまりの不当で乱暴なやり口・・・。
そのやり方に、拓也は怒りの表情を浮かべる。
そして警察官に思いっきり体当たりした。
拓也の捨て身の体当たりで、警官の腕は純平から離れた。
しかし他の数人の警官が、拓也をすぐに取り押さえる。
「痛ってー、放せよ! 俺たち小学生なんだぞ!」
拓也はジタバタとするが、腕を後ろに回され、
簡単に力ずくで押さえ込まれてしまう。
非力な拓也の力では、屈強な大人たちに対してはなんの抵抗にもならなかった。
「まったく、世話のやけるガキどもだな」
サングラスの男は冷酷な言葉でそういうと、今度は手で合図して純平を取り押さえようとする。
電車は渋谷駅に到着しようとしていた。
いつも通りの平穏な渋谷の駅中。
渋谷駅はもう昼に近いためか、多くの人でごったがえしている。
1人の男が、半ば強引に純平の腕を捕まえようとした瞬間・・・。
プッシュー・・・。
電車が駅に到着したのか、純平の後ろにあったドアがゆっくりと開く。
「わっ!」
ドアにもたれかかっていた純平は、その瞬間プラットフォームに放り出される。
背中からゴロンと倒れるように転倒した。
そのときだった。
コロン・・・。
『純平!』
倒れた純平の横に落ちた、デジハイスから聞こえるブリッツモンの声。
どうやら倒れた瞬間に胸のポケットから落ちたらしい。
「ブリッツモン!?」
『俺をここから解放するんだ!』
「で、でもそんなことしたら、また昨日の二の舞じゃないか!」
『しかし、このままでは俺たちは捕まってしまう。そしてデジタルワールドへの道も閉じてしまう』
ふと電車の中をみると、拓也が警官に取り押さえられジタバタと暴れている。
そして、警官の1人が拓也を殴りつけているではないか。
「な、なんてひどいことをするんだ・・・拓也、待ってろ!」
意を決した純平は、デジバイスを拾って天に向けて叫んだ。
「スピリット!!」
その瞬間、デジバイスから上空にデジコードが出現した。
やがてデジコートは、ブリッツモンを形成していく。
渋谷駅は騒然となった。
昨日、世間を賑わしたあの怪物が、突然駅に現れたのだから。
<なんだよ、アレ!>
<昨日のバケモンじゃねーのか!?>
<キャアーーーッ!>
地面に轟くような驚きの声。そして女性たちの割れんばかりの悲鳴。
阿鼻叫喚のるつぼと化した駅は、パニックに陥った。
渋谷駅は騒然となり、改札に逃げ込む人や電車の中に避難する人で、大混乱になっていく。
そんな中、純平はブリッツモンに向かって叫ぶ。
「ブリッツモン、早く拓也を助けて!」
『分かっている!』
ブリッツモンは上空から一気に急降下したかと思うと、拓也を捕まえていた警察官に体当たりをした。
<ぐわっ!>
ブリッツモンの体当たりで、車内にいる警官がまとめてなぎ倒される。
『拓也は純平を連れて、早くエレベーターまで行くんだ。俺が時間をかせぐ!』
拓也を殴られた腹を押さえながら、根性で立ち上がる。
「ブリッツモンなのか・・・よし、わかった!」
拓也は、素早く車内を抜け出した。
拓也は、純平の手を握ると一目散に隣の電車に飛び込んだ。
「た、拓也!エレベーターに行くんじゃないのかよ!?」
「いや、このまま直行してもすぐに捕まっちまう。
まず警察から隠れることが先決だ!」
拓也は一瞬の間に考えていた。
直接エレベーターに行くのは危険であることを。
──群集に紛れること。
田園調布の駅に着くまでに純平から聞いた、昨日の純平自身の行動。
それにヒントを得て、咄嗟に思いついた作戦だった。
まずは群集に紛れて姿を見えなくすることが、一番確実な方法だと思ったのだ。
拓也と純平はしゃがみながら、ほふく前進をするかのように車両の中を進んでいく。
前を行く拓也を見ながら、純平は話しかける。
「どうして、みんなブリッツモンを攻撃するんだよ・・・人間の味方なのに・・・」
「仕方ないだろ!あんな生物、地球上に存在しないんだから!」
「で、でも・・!」
人間もデジモンも、仲良くできるはずなのに・・・。
純平は納得できなかった。
『ミョルニルサンダー!』
<うわっ!>
<近寄れないぞ!>
ブリッツモンは警察官に怪我をさせない程度に、電撃を放出していた。
「なにをしている、早くそのバケモノを捕獲せんか!」
サングラスの男は、この期を逃さんとばかりにブリッツモンを捕獲しようとしていた。
どうやら男は、ブリッツモンの捕獲または抹殺の使命を受けているらしい。
「全員で一斉に射撃して捕獲するのだ! できないならば射殺しても構わん!」
サングラスの男は、多くの警察官を手で誘導しながら、ブリッツモンを追い詰めようとする。
そして、横目で拓也と純平を探していた。
(どこに逃げやがった、あの小僧どもめ・・)
突然現れたブリッツモンに気を取られたサングラスの男は、拓也たちを見失っていた。
そうこうするうちに、パンパンと鼓膜が破れそうな発砲音がした。
<きゃあああ!>
<人がいるんだぞ!>
いきなりの発砲音に、さらにパニックになる駅構内。
あちらこちらで、悲鳴とも恐怖ともとれる叫び声が上がっている。
もはや車内も安全ではないと考えた人たちは、我先にこの場から離れようとする。
年寄りや子供を押しのけ、踏みつけ、改札口に殺到する人たち。
もはやパニックと化した群集を誰も止めることはできなかった。
ブリッツモンは、拳銃の弾を厚い装甲で防ぎながら、エレベーターの方を見るが、まだ拓也たちは到着していない。
『まだか、拓也!』
次々に浴びせれる攻撃に、ブリッツモンも少しずつ後退していく。
「なんだ、あのバケモノ・・・さっきからどこをみている?」
サングラスの男はブリッツモンの行動に気かついた。
「そうか、あのバケモノは小僧たちを守るための
ブリッツモンがチラッチラッと見つめる方向に目をやる。
その先には例のエレベーター。
「なるほど・・。あそこにデジタルワールドの入り口があるというわけか!」
男は1人先回りをして、エレベーターに向かって走り始める。
拓也と純平は、電車の中をしゃがみながら慎重に進んでいった。
やがて先頭車両から、ホームにでて改札を抜ける。
「よし、純平!一気にエレベーターまで走るぞ!」
「う、うん」
改札は人々でごったがえしていたが、拓也はすり抜けるようにスイスイと進んでいく。
「おい、拓也!ちょっと待てって!」
純平は太った体を必死に揺すりながら、先を行く拓也のシャツを片手で摘んでいた。
拓也があまりに狭いところばかり通るので、純平にとっては一苦労だ。
「拓也、もっと道を選んでくれよ!」
「うるせー、こっちだって必死なんだ!お前がダイエットしろ!」
「あのな・・」
太った体のことを言われると、何も反論することはできない。
純平は大きく息を切らせながら、なんとかエレベーターまで辿り着いた。
──地下のターミナルへ続くエレベーター。
普段は地下2階までしかいけないエレベーター。
しかし、今日だけはデジタルワールドへの架け橋となる、地下のターミナルに行くことができる唯一の場所だ。
一体、それが地下何階に位置するのかは、誰も知る由はない。
純平は、エレベーターに駆け込むと、そのままズテンと倒れこんだ。
「ハァ・・ハァ・・・もう動けないよ・・・」
バテ気味の純平に対し、拓也は入り口でならやら周りをキョロキョロと見つめている。
純平は汗を拭いながら、緊張した面持ちの拓也に話しかける。
「おい、拓也。なにやってんだよ・・・」
「ブリッツモンがいない・・・。どうやらまだ警察官と交戦しているみたいだ」
「じゃあ、早く地下に・・」
「バカ野郎!純平はブリッツモンを置いていく気かよ!?」
「そ、そっか」
考えてみれば、いくらブリッツモンといえ、地下のターミナルまで穴を掘って進むわけにはいかない。
しかも、この小さなエレベーターにはブリッツモンは乗れそうにない。
「純平、早くブリッツモンをデジバイスに戻すんだ!」
「よし、わかった!」
「ブリッツモンを戻したら、すぐにドアを閉めるから気をつけろよ!」
「うん!」
純平はエレベータの中で疲れて尻餅をついていたが、重い体を揺すって立ち上がる。
拓也はエレベーターの[開]のボタンを押し続け、純平の行動を見守った。
エレベーターのドアから、少し外に身を乗りだす純平。
改まって駅構内を見渡すと、銃声や人々の悲鳴がこだましている。
改札の付近では人が将棋倒しのように倒れ、苦しそうにしている人たちもいる。
「な、なんてひどい・・・」
このパニックを起こした原因が自分にあるのかと思うと、純平は良心が痛んだ。
ふぁいさんに挿絵ありがとー!