ブリッツモン×純平小説(完)


登場人物

柴山純平です。

ブリッツモンです。

神原拓也です。

地下のターミナル。ブリッツモンと純平を迎えに来たトレイルモンが停車している。


──地下のターミナル。
人間界とデジタルワールドの狭間の世界。
エレベーターから放射状に線路が伸びている。
それぞれの線路は、デジタルワールドの各地に繋がっているのだろう。
3ヶ月前にここに来たときは、たくさんのトレイルモンが停車していた。
多くの子供達がいた。
しかし、今日はたった一台だけのトレイルモン。
ブリッツモンと純平を運ぶためだけに、やってきたのだ。
トレイルモンは時折、蒸気をモクッとはき出して発車する刻を待っていた。


まるで現実を逃避するかのように、操作パネルに向かって泣いていた拓也。
「拓也・・・どこ・・?」
拓也は、純平の言葉にハッと我に帰る。
「純平・・・」
拓也は純平に近づくと、そっと手を握ってあげる。
純平の手はまだ暖かく、血が流れているのがはっきりと分かる。
「拓也・・・地下のターミナルに・・着いたんだろ?」
「あ、ああ・・着いたぞ!」
「俺の・・・デジバイスがなくなっちゃってさ・・・どこにあるのかな・・」
純平のすぐ手元に落ちているデジバイス。
拓也は咄嗟にそれを拾い上げる。
「純平、まさか・・」
「さっきから目の前が真っ暗になっちゃってさ・・・おかしいよね・・?」
その言葉を聞いて、拓也は胸が締め付けられた。
「バカヤロウ・・・!」
拓也は悔しさと悲しさで歯軋りをする。
涙を拭っても止まることはない。
グシャグシャに濡れた手で、純平の手のひらにデジバイスを置いてあげる。


「ブリッツモンを解放してあげなきゃ・・・どっちにデジバイスを向ければいい・・?」
拓也はボロボロと涙を流しながら、純平の腕を両手でそっと握る。
「純平、もういいだろ・・・そんなこと・・・。早く地上に戻ろう・・」
「ブリッツモンを元に戻してあげなきゃ・・・ね・・・」
「うっ・・うっ・・」
「拓也、何してるんだよ・・」
拓也は大粒な涙を零しながら、丁寧に純平の腕をエレベーターの外に向ける。
「純平、この方向だぞ」
「拓也、ありがとう・・・」
しかし、純平の腕はすぐにも崩れ落ちそうだった。
拓也は、そんな純平の腕を支えてあげる。
「いくよ・・スピリッ・・・ト・・」
純平がつぶやくと、デジバイスからデジコードが発信される。
そして、エレベーターの外にはブリッツモンが姿を現した。


「拓也、ブリッツモンは・・?」
「あぁ、いまデジコードから元の姿に戻ったぞ!」
純平は目をつむり、微笑んだ。
「そうか・・・よかった・・・。これで俺と一緒にデジタルワールドに・・・ずっと一緒に・・・」
そこまで言うと、純平はガクッと下を向いてうなだれてしまった。
「お、おい、純平?」
拓也は震えながら、純平の肩をギュッと掴む。
「純平!しっかりしろ!返事してくれよ、おい!」
しかし、いくら純平に呼びかけても、いくら純平の肩を揺すっても、何も返事はなかった。


拓也は、純平を両腕でギュッと抱きしめて、何度も何度もつぶやいた。
(ウソだ・・・・。どうして・・・どうしてこんなことに・・・)
悔しくて、悲しくて、つらくて・・・胸が締め付けられて・・・。
そのときだった。
『純平っ!』
地下のターミナルに響き渡る声。
それはブリッツモンの大きな叫び声だった。
ようやく元の姿に戻ったブリッツモンは、エレベーターの入り口を破壊するような勢いで、飛び込んでくる。
しかし、その姿をみた拓也は、エレベーターの入り口に立ち、両腕を広げた。
ブリッツモンと純平の間に、壁のように立ちふさがる。
『拓也、一体なんのつもりだ!』
エレベーターの入り口を塞いだ拓也に、困惑するブリッツモン。
拓也は涙でグシャグシャになった顔で、ブリッツモンを睨み付ける。
その鬼のような形相を見て、ブリッツモンはその場に立ちすくんだ。


「ブリッツモンのせいだ・・」
『な、なに!?』
「ブリッツモンさえ人間界にこなければ、こんなことにならなかったんだ・・」
『・・・・』
拓也の言葉を聞いて、ブリッツモンは呆然とした。
「みんな勝手すぎるだろ・・・」
『拓也・・・?』
「誰も純平の気持ちを考えないで・・・大人たちはいつも勝手じゃないか!
  デジタルワールドだって・・・ブリッツモンだって!」
『どういう意味だ・・』
拓也は頬を涙で濡らしながら、話し続けた。
「純平の両親は、どうして純平に優しくしてやれないんだよ・・・。
  純平はずっと寂しい思いをしていたんだぞ・・・。
  警察官だって・・人の命よりも、仕事の方が大切なのかよ・・・。
  デジタルワールドのことを知りたいとか勝手なことをいって、
  純平を人間以下の扱いにしてさ・・・。人の命を守る人間が、命の重さを何とも思ってないじゃねーか・・・。
  今日の朝だってそうだ。ちょっと人間と違う姿をしたものを見ただけで、
  勝手に純平の家の前で騒いで、勝手に純平が悪いと決め込んで、責任を押し付けて、追い詰めて・・。
  純平は何も悪いことしてないんだぞ! 純平が死ぬ理由なんてどこにもないだろ!」
拓也は目を真っ赤にしながら、拳を握って壁に叩きつける。
「純平は言ってた。"ブリッツモンが自分を変えてくれた"って。
  純平は人間界に戻ってから、友達とも楽しく遊べるようになっていたんだ。
  お父さんやお母さんとだって、これから変わっていけたかもしれない。
  デジタルワールドから戻って、前とは違う生活が始まって・・これからっていうときに・・。
  どうして現れたんだよ・・勝手すぎるだろ・・・」
『そ、それは・・デジタルワールドが・・・』
「純平1人守れないデジモンが、デジタルワールドを救えるのかよっ!」
『・・・・』
「そんなにデジタルワールドを救う英雄になりたいのかよ!」
『違う・・・』


拓也は涙に濡れた真っ赤な目をカッと見開いて、唇を噛み締める。
「ブリッツモンは、デジタルワールドを救うって綺麗事を言ってるけど、
  人間界に一生戻って来れない選択を純平にするなんて、ひどいじゃないか!」
『そ、それは・・・』
「ブリッツモンは、純平がデジタルワールドに行くと最初から分かってたんだろ?
  純平はブリッツモンのことが好きだから・・・大好きだから・・・。
  純平には初めから、Noと言える選択肢なんてなかったんだ・・。
  そんなのあまりに自分勝手じゃないか・・。純平を殺したのは、ブリッツモンだ!」
『拓也・・・』
ブリッツモンは拓也の言葉を聞いて、グッとうなだれた。


ブリッツモンは、いますぐに純平のそばに行って声をかけてあげたかった。
しかし、その前に立ちふさがる拓也を、押しのける権利も立場も、どこにもなかったのだ。
ブリッツモンは声を震わせながら、拓也に話しかける。
『拓也のいうとおりかもしれない・・・俺には純平が絶対に断らないと分かっていた・・・。
  俺は純平の部屋で日記を見たときに、迷ったんだ。
  本当に純平をデジタルワールドへ連れて行ってよいのか・・・。
  純平はいまの友達と、そして両親の愛を受けて暮らしていくべきなのではないか・・・。
  だが、俺は純平のことを・・・』
その言葉を聞いて、拓也は激しい怒りの口調で叫んだ。
「そこまで分かっていたなら、どうしてそのまま1人で帰らなかったんだ!
  ブリッツモンは、ただ純平と一緒にいたかっただけなんだろ!
  純平を苦しめるようなことするなよ! 頼むから・・・頼むから純平を返してくれよ・・・」
拓也はその場で溢れそうな涙を、拳を握り締めてグッと堪える。


「純平はさ・・・ブリッツモンのことを両親以上の"かけがえのない存在"って言ってたよ・・・。
  でも、俺にはそんなのは信じられない・・。
  だって、純平は両親の話をしたときに涙を流していたんだ」
『涙・・・。まさか、あのときの涙も・・・』
「ブリッツモンが、純平の両親以上の存在なわけないだろ・・・。
  ブリッツモンにとって、純平はなんだったんだよ!?」
『俺にとって・・・?』
ブリッツモンは、拓也の質問に動揺する。
しかし、すぐに拓也に向かって真剣な眼差しを向ける。
『純平は・・・俺の大切なパートナーだ。いや、俺はそれ以上の感情を純平に持っていたんだ』
その言葉を聞いて、拓也は怒鳴るような声で叫ぶ。
「ふざけんな! 純平は・・純平はな・・・大切なものを全て捨てて、
  ブリッツモンと永遠に一緒にいることを選んだんだぞ!
  そんな感情くらいで、純平の一生を左右するなっ!」
『そんなことはない。俺だって、純平のことをひと時だって忘れたことはない!
  俺は純平と一緒にずっと過ごしたかったんだ・・・』
ブリッツモンは、拓也に必死に訴えかける。
それでも拓也は納得できなかった。
「分かってねーよ、ブリッツモンは・・・。
  純平は、俺の大切な友達だったんだぞ・・・。
  デジタルワールドに永遠に行っちまって・・・2度と会えなくなって平気なような人間じゃないんだ!
  純平はブリッツモンだけのモノじゃないんだぞ。
  純平のことが好きなら・・・本当に好きなら・・・うっうっ・・・」
『・・・・』
そういうと、拓也もブリッツモンも脱力したように、その場に座り込んだ。


しばらく2人の間を、沈黙の空気が支配した。
そして、拓也が重い口を開く。
「ブリッツモン・・このままトレイルモンに乗って帰ってくれ・・」
『拓也・・・?』
「そして、もう2度と俺の前に姿を現さないでくれ! デジタルワールドなんて、もううんざりだ!
  俺は、このまま純平と一緒に地上に戻る」
『し、しかし・・・純平にはまだ魂が・・スピリットが残っているんだ』
「スピリット・・?」
『俺がスピリットだけで生き続けたように、純平の魂、すなわちスピリットはまだ体に残っているんだ!』
その言葉を聞いて、拓也はわずかだが体を震わせる。
「ブリッツモン・・・まだ利用するのかよ・・」
『な、なに!?』
「死んだ純平の魂まで、利用するのかよ!」
『利用だなんて・・そんな・・・』
拓也には分かっていた。
ブリッツモンは決して純平を利用しているのではないことを。
そして他の誰よりも、純平のことを愛おしく思っていることも。
そして、純平が生きているとしたら、ブリッツモンと一緒にデジタルワールドに行くことを望むであろうことも。
だから、拓也はそれが悔しくてたまらなかった。
純平を苦しめた張本人がブリッツモンであるという事実。
 そして、ブリッツモンを健気に受け入れ続けた、純平のひたむきさ。


拓也には、純平の死を受け入れることができなかった。
だから、その責任をすべてブリッツモンになすり付けた。
いまの拓也には、無念の気持ちを、その場にいるブリッツモンにしかぶつけることができなかったから。


拓也はそっと後ろを振り返る。
そこには、エレベーターの壁にグッタリと寄りかかった純平の姿。
「純平・・・本当にブリッツモンとデジタルワールドに行きたいのかよ・・」
しかし、辺りはシーンとして、何も返事は返ってこない。
拓也は純平のそばにゆっくりと歩き、無言の純平に問いかける。
「いいのかよ・・・本当にいいのかよ・・」
もしかして、純平から答えが返って来るんじゃやないか・・・。
そんな僅かな望みが拓也にはあった。
しかし、いつまで経っても、純平からの返事はない。


拓也は、純平の顔をそっと覗いた。
・・・その顔をみて、拓也はハッとする。
純平は、全く苦しそうな顔をしていない。
いや、むしろ幸せそうな顔をして、眠っているではないか。
「ウソだろ・・・どうしてそんな顔できるんだよ・・・純平・・・」
拓也はそのまま純平の胸の中でしばらく号泣した。
もう、涙は枯れ果てたと思っていたのに。
「馬鹿だよ・・・純平、お前馬鹿だよ・・・。
 そんなにブリッツモンのところへ行きたいのかよ・・・」


『拓也・・・』
純平の胸を涙で濡らしていた拓也は、ブリッツモンの声で現実に戻された。
「ブリッツモン・・・」
『お前は俺のことを一生許してくれないだろう。
  俺が純平の命を奪ったのならば、それを償うのも俺自身だ』
「償う・・?」
『俺は純平のことをずっと愛おしく思ってきた。
  だが、それをどう表現したらよいのか、わからなかった・・。
  しかし、いまの拓也の姿を見てはっきりと分かった。
  人を愛するということがどういうことなのかを』
「・・・・」
『俺は・・・俺が純平のそばにいれば、それが純平の幸せになると考えていた。
  しかし、それは大きな間違いだった・・・。
  俺が純平のそばにいることと、純平が幸せになることは、別のことだったんだ・・・。
  いまの拓也は、俺よりも遥かに強い心で、純平のことを想っているではないか・・・』
「ブリッツモン・・・」
ブリッツモンは、拳を握り締めながら話を続ける。
『俺は誓う。一生、純平を見守ってあげると。たとえ離れ離れになったとしても。
  こんな愚かな俺に、もう一度純平のデジバイスを託してくれないか・・』
「どういう意味・・?」
『拓也、頼む。この俺に・・・最後にもう一度だけ、純平を託してくれ!』
その言葉を聞いて、拓也はしばらく黙っていた。
そして、もう一度純平の顔をみる。
何度みても、純平は微笑んでいるように見える。
拓也はそんな純平の頬に、そっと自分の顔を当てる。
「純平もういいよ・・・分かったからそんな顔しないでくれよ・・・。
  ブリッツモンのところへ行きたいんだな・・・」
一瞬、純平が拓也の言葉にうなづいたように見えた。
拓也は純平が大事に握っていたデジバイスを見つめる。
「純平、ごめんな。お前のデジバイスをちょっと借りるよ・・」
そういうと、純平の手を丁寧に開き、デジバイスをそっと取り出す。
そして、それをブリッツモンに渡した。


──青いデジバイス。
ブリッツモンは、純平が大切に持ち歩いていたデジバイスを握り締める。
まだ純平の温もりが少し残っていた。
ブリッツモンは、デジバイスを純平に向けてかざした。
『スピリット!』
ブリッツモンの勇ましい声が、地下のターミナルに響き渡る。
拓也の目の前で、純平はデジコードに包まれていく。
「純平・・・」
拓也の瞳には、デジコードに包まれてフワッと浮き上がる純平の姿。
そのまま純平はデジコードとなって、青いデジバイスに吸い込まれていった。


拓也は急いで、ブリッツモンの傍に駆け込んだ。
そして、デジバイスをそっと覗いてみる。
すると、青いデジバイスの小窓に、純平の笑っている顔が映し出されていた。
「こ、これは・・・!?」
その光景に拓也はただ驚くばかりだった。
『俺がデジバイスにスピリットとしてスキャンされていたのと同じだ。
  いまは純平のスピリットがここにある』
「純平のスピリット・・・純平はこの中で生き返ったの?」
『いや、生き返ったのではない。魂がスキャンされただけだ。以前の俺のように・・・』
「以前のブリッツモンみたいに・・?」
ブリッツモンは拓也に問いかけにゆっくりとうなづいた。
『さぁ、拓也。よく見ていてくれ!』
ブリッツモンは、手を交差してデジバイスを顔の前に突き出す。
そして、片手を伸ばすとその手にデジコードが綺麗に浮かび上がる。
そしてゆっくりと一回転しながら叫んだ。
『スピリットエボリューション!』
その姿はまるで、純平が進化するときのポーズの生き写しだった。


突然ブリッツモンの体か光り輝く。
「わっ!」
拓也はびっくりして、腰を地面を落とした。
ブリッツモンの体が、明らかに変化している・・・?
一体何が目の前で起こっているのか、拓也には分からなかった。
しばらくすると、光が徐々に消え、そこにはブリッツモンとは違う、別の姿をしたデジモンが立っていた。


「ブリッツモン・・・?」
『拓也・・・』
その声はブリッツモンと同じだった。
しかし、見た目は違う。
カブトムシのような一本角は、途中で鋭角に2つに分かれている。
それに、以前よりも装甲が厚く、丸みを帯びた風貌を感じる。
クリッとした瞳だけは、以前のブリッツモンと同じだ。
「ブリッツモンなの・・?」
拓也はそこに立っているデジモンに恐る恐る質問する。
『私はもうブリッツモンではない。人間の・・いや純平の魂で進化したデジモンだ』
「えっ・・・?じゃあ、一体・・・?」
『名前は分からない。デジモンそのものが、人間のスピリットで進化したことなど、過去に一度もないのだ。
  俺はもうデジモンじゃないのかもしれない・・・」
「デジモンじゃないって・・・どういう意味・・・?」
『進化してからずっと、俺の頬に"涙"というものが零れ落ちているのだ。
  人間が悲しいときに流れる涙・・・デジモンには決して涙か流れることはない』
「そうか・・・人間の感情が分かるようになったんだね・・。
  でも純平のスピリットで進化したら太目になっちゃったじゃん・・・前より弱そうじゃんか・・・」
拓也は、少し体型が太った微笑ましいデジモンの姿を見て、
 確かに純平の魂が交じっているんだなと、目に涙を浮かべながら思った。
そして、その姿をなんとなく可愛らしいと思った。


「あのさ・・・えっと・・・なんて呼んだらいいのかな?」
『いままで通りブリッツモンでいいさ、拓也』
「う、うん・・。ブリッツモンは、純平と話はできるの?」
『いや、話はできない・・・ただ純平は私にいつも力を貸してくれる。
  そして私のことをいつも見ているだろう。いままでと逆の立場になったんだ』
「そっか・・・また純平と話ができるようになると思ったんだけどな・・」
そう思うと、拓也は少し残念な気持ちがした。
『これからは私が戦う番だ。私が熱い心と強い意志をもって戦えば、いつか・・・』
「いつか・・・?」
『いつか純平は、デジタルワールドで私と同じように蘇ることができると思うのだ』
「ほ、本当に?」
『あぁ。私は純平の力で蘇ったのだ。今度は私が純平を蘇らせてみせる!』
「そうだね・・・いまのブリッツモンなら、きっと純平を蘇らせることができるような気がするよ・・」
『拓也、ありがとう・・』
ブリッツモンと拓也の目に、希望の光がわずかに差し込んだ。
「俺も・・」
『拓也?』
「さっきはブリッツモンにひどいこと言っちゃったけどさ・・・いつかデジタルワールドに戻れるかな・・?」
『拓也・・・許してくれるのか?純平を追い詰めてしまった私を・・』
拓也の顔からは先ほどまでの迷いは消えていた。


「俺、最初から分かっていたんだ。悪いのはブリッツモンじゃない・・。
  俺はこれから地上に戻って、俺の戦いをするよ。まだ終わっていないんだ」
『拓也・・・。私もデジタルワールドに戻り、純平と共に戦う』
「お互い、厳しい戦いになるかもね・・」
そういうと、2人はお互いに手を取り合った。
ブリッツモンの手はまるで血が通っているかのように、暖かかった。
デジモンに血は通っていないはずなのに・・・。
拓也はそのときはっきり感じた。
目の前にいるのは、純平とブリッツモンが融合した、デジモンではない、なにか別の存在なんだと。
純平がその中で生きているんだ・・・。


──駅から発車のベルが鳴り響く。
『拓也、ありがとう。すまないが、私はもう行かなくてはならない』
「あのさ・・・」
拓也はトレイルモンの扉に足をかけたブリッツモンに別れを惜しむように話しかける。
『どうしたんだ?拓也?』
「俺もさ・・俺もいつかアグニモンと一緒になる日がくるのかな・・?」
『分からない・・・それは拓也自身が分かっていることなんじゃないのか?』
「う、うん・・そうかもね・・・。
  でも俺はまだアグニモンとは一緒になれないよ・・・。俺、たくさん見つけちゃったからさ・・。
  人間界でやらなくちゃいけないことを。全く純平のヤツ、いつも俺に押し付けやがって・・・」
『拓也・・・』
拓也は手で頭をかきながら、少し照れたような顔をした。
『拓也、最後にお願いがあるんだ。純平の部屋にある日記を、大切に持っていてはくれないだろうか・・?
  それを純平だと思って、たまに思い出してやってくれ・・・いや、純平のことを絶対に忘れないでくれ!』
その言葉を聞いたとき、もう枯れ果てたと思った涙が、再び拓也の頬を伝わった。
「忘れるわけないだろ・・・純平・・・」
そして・・・トレイルモンがゆっくりと動き出す。
拓也はブリッツモンのことを泣きながら見送っていた。
(純平・・・これで本当によかったのかよ・・・)
いまの拓也には、悲しみと希望と後悔が複雑に入り混じっていた。
(いつかお前がデジタルワールドで蘇ったらさ・・・笑顔で俺のことを迎えてくれよな・・・。
  そして、お前の本当の気持ちを聞かせてくれ。
  ブリッツモンを選んだことが、お前の一番の幸せだったのかを・・・なぁ、純平?)
拓也は、フッと息をしてエレベーターに向かって歩き始める。
そのとき、足元にカチッというなにか踏んだ音がした。
「こ、これは・・・」
純平がいつも持ち歩いていたチョコレート。
拓也はそれをゆっくりと拾うと、思い出したようにトンネルの向こうに叫んだ。
「純平ーっ!ブリッツモンとケンカするんじゃねーぞ!
  いつかこのチョコを渡しに、デジタルワールドに行くからな!それまで待ってろ!」
拓也は、チョコレートをそっとポケットにしまうと、涙を堪えてエレベーターに向かって歩いていった。


最後まで読んでいただいた方、ありがとうございました。
えと、まず謝ります。純平を死なせてしまってごめんなさい。
デジモンフロンティアは、子供が携帯電話のYesNoというゲームの選択肢で、命の危険まで冒すような物語でした。勝手に「未来を決めるゲームをスタートした」などと言い出し、例えそれが拓也や純平の選択であったとしても、デジタルワールドの住人はまるで責任を感じていない。もちろん、劇中ではそのことに対して全く語られていないわけですが。デジモンたちは、拓也や純平たちに無理難題を押し付け、最後に役割を終えると「はい、さようなら」とばかりに人間界に返してしまいます。デジタルワールドって責任もなにもないのかな?というのがこの話の根底にあります。
デジモンと人間の間に肉親以上の愛情が成立するのか? 普通に考えれば肉親以上の関係などありません。さらに主人公の純平が小学生なこともあって、たぶん純平自身にも明確な答えはだせないんだろうなと思いました。ブリッツモンと一緒にいることが純平にとって本当に幸せなのか。自分なりに考えたことは、最後のブリッツモンを責め続ける拓也の長いセリフと、ブリッツモンとのやり取り、そして純平とブリッツモンが1つになった部分に集約したつもりです。表現能力がいまひとつなので、意味不明だったらごめんなさいです。幸せっていろんな形があると思うんですよね。え、もっとエロいの書けですよね・・(^^;。

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