柴山純平小説(2)


登場人物

柴山純平。小学6年生でチョコレートが大好きな甘えん坊。ブリッツモンに進化する。

織本泉。イタリアからの帰国子女で勝気な性格。フェアリモンに進化する。


トレイルモンのいる山に向かって、2人は荒野を歩いていた。
「泉ちゃん、急ごうよ! レッツゴー!」
人差し指を天に向け、すっかり気張っている純平。
「トレイルモンのいる山って、あっちかなー? がんばろうね、泉ちゃん!」
一人ではしゃいでいる純平の後ろ姿を見ながら、泉はため息をつきながら歩いていた。
「まったく・・どこからそんな元気が沸いてくるわけ?」
「泉ちゃん、もっと元気だそうよ!」
「純平が張り切りすぎじゃないの?」
「そ、そうだよね・・ハハハ・・」
泉にまっとうなことを指摘され、頭を掻きながらごまかす純平。



純平は青いツナギを大きく揺らして歩いていた。
泉はそんな純平の後姿をジッと見つめる。
(純平って、前と全然変わってないわね・・)
以前に、2人きりになったとき、デジモン小学校を訪ねたことがあった。
はしゃいでいる純平の姿を見ると、そのときとまるで変わっていないように思える。


──泉は思う。
純平・・。
いつもデリカシーがなくて、自分中心で、周りが見えていない。
トレイルモンを一緒に説得すると言い出したのも、単なるわがまま。
純平のいいところって、なに・・?
頼りがいは拓也のほうがあるし、格好良さは輝二のほうがあるし・・。
純平は年上だけど頭が切れるってわけでもないし、どっちかというとトボけたことばかりいってる。
チョコレートが大好きで、家でも学校でも甘えているのかしら。
それじゃ、純平の長所って?
強いて言えば、自分勝手なところも含めて、裏表もないところかな?
でも、それってかなり無理やりな長所よね・・。
張り切るのはいいけど、すべてが空回りしている。
もっと逞しかったら、純平のことをもう少し好きになれそうなんだけどな・・・。


しばらくすると、純平が横に並んで話しかけてきた。
「あの、泉ちゃん・・?」
「どうしたの?」
「疲れたから少し休もうよ」
「はぁ?」
「休まない?」
泉はとっさに純平の腹にエルボーをくらわす。
「ほげっ!」
「まったく・・」


「泉ちゃん、痛いじゃないか・・」
「あのね、まだ歩き出してから20分も経ってないわよ」
「いやその・・ちょっと疲れて・・。あそこの岩場に座って休もう・・」
「アナタ、少しダイエットしなさいよ!」
「それを言われると、面目ない・・」
泉は仕方ないという表情で、近くの陰になっている岩場に座った。


純平と泉は、ベンチのような岩場に2人で並んで座った。
男の子と女の子が隣同士。
まるでデートの1シーンのようだ。
純平は、予期せぬツーショットに鼻の下を伸ばして、モジモジとする。
(あ〜、せっかく泉ちゃんと2人きりになれたのに、何を話そうか・・。
  思い切って告白しようかな。『泉ちゃん、好きです』って。
  でも、たぶん『嫌』の一言で終わっちゃうだろうしなー)
一人、苦悩に顔を歪ませている純平。
(なにかうまくアピールできないかなぁ。
  泉ちゃんと2人っきりになれるチャンスなんて、この先ないかも・・。
  よし、やっぱり思い切って告白して見ようかな・・俺は男だ・・そうだ、男なんだ)
純平はキッと眉を吊り上げて、隣でボッと休んでいる泉に話しかける。
「泉ちゃん」
「なに?」
「いや、泉さん」
「だから、なによ?」
「こーやって座っていると俺たち恋人同士みたいだね」
「全然」
(あーっ! もう終わっちゃったよ!)


純平がガックリと肩を落としている様子を見て、泉はお腹を押さえてクスッと微笑む。
ちょっと純平をからかってみる。
「純平、突然どうしたの?」
「いや、べつに・・」
「今日は随分と張り切っているけど、何かいいことがあったの?」
「いいことは・・もちろんあったよ」
「それって、なにかしら?」
泉の質問に、純平は頬を赤くする。
両の人差し指をツンツンとつけながら、返事をした。
「やだな〜、泉ちゃんったら。分かってるくせに・・」
「たしかに、純平は分かり易すぎるからね」
「そ、そうかなー・・」
(泉ちゃんには、俺の行動は全部筒抜けなんだ・・なにか話題を変えよう・・)


純平はゴホンと咳をしながら、再び泉に話しかけた。
「ねぇ、泉ちゃん?」
「なに?」
「話は変わるけどさ。デジタマって、なにか不思議だよね?」
「え?」
「卵の一つ一つに、デジモンの命が宿っていてさ。
  人間はお母さんから生まれるけど、デジモンって卵から生まれるって、神秘的な感じがしない?」
「たしかに神秘的よね・・」
純平が、突然彼らしくないロマンチックなことを言うので、泉は戸惑ってしまう。
「俺、思うんだけどさ。ブリッツモンやボルグモン、
  それから泉ちゃんのフェアリモンも『はじまりの町』で生まれたと思うんだ。
  だったら、『はじまりの町』は俺たちにとって第二の故郷ってことになるよね?」
「私にはよく分からないけど、たぶんそうね」
「だから、俺は守りたいんだ。『はじまりの町』をさ」
「純平・・・」


純平は普段はお調子者だったり、一人で空回りしていることが多い。
しかし、たまにドキッとするような、説得力のある発言をする。
以前に、拓也と輝二がケンカをしたとき、
 純平は焚き火の前で、『個性がぶつかりあうのも、悪くない』と、泉を説得したことがある。
純平は他人の気持ちを考えてはいるが、それを上手く表現できないタイプなのかなと、このとき泉は感じた。
ただし、恋事情だけは別だが。


「俺、デジモンが生まれるのを見て思ったんだけどさ」
「なにを?」
「命が生まれるってすごいことなんだなぁーって。
  俺たち人間には命は1つだけしかないだろ。俺にも、泉ちゃんにも、拓也にもさ。
  どんなに偉い人間だって、命は1つしか持てない。お金じゃ買えない。平等なんだよ。
  それはデジモンも同じことさ。人間と違って卵から生まれるけど、やっぱり命は1つしかない。
  だから、その大切な命を奪っていくロイヤルナイツとルーチェモンは許せないって」
「へーっ?」
「な、なに・・泉ちゃん、その不審な顔は!?」
「いやね、純平が柄にもなく、真面目なことをいうから」
「お、俺だってそのくらいは考えてるよ」
「そうかしら?」
泉は純平の真面目な発言がおかしかったのか、まだクスクスと笑っている。


純平は真剣な顔で、さらに話を続ける。
「デジモンって器用だと思わない?」
「どういう意味?」
「デジモンってスキャンされると、肉体を失って、『はじまりの町』に魂が戻ってくるだろ。
  悪い心を持ったデジモンは、魂が浄化されて生まれ変わる。
  デジモンって便利だよなー。例えスキャンされても、卵になって生まれ変われるんだもん」
「たしかに、人間とは違うわね」
「人間の世界にも『前世』とか『生まれ変わり』があるって聞いたことがあるけどさ。
  でも、人間はデジモンみたいに簡単に生まれ変わったりはできない。
  人間も死んだら、卵になって復活できればいいのになぁ。
  そうすれば、嫌なことがあったら簡単に最初からやり直せるしさ。
  最初からやり直せたら、本当にいいよなぁ。
  そうすれば、俺と泉ちゃんはもしかして恋人に・・」
「え?」
「あーー!いや、なんでもない。ハハハ・・」
(イケね。危うく泉ちゃんの前で、変な妄想を喋るところだった・・)
額に垂れる汗をぬぐう純平。


「そうそう、『生まれ変わる』で思い出したんだけどさ」
「どんなことを?」
「"進化"って生まれ変わることに、似ていると思っていたんだ。
  俺、初めてブリッツモンに進化したときに、生まれ変わった気がした。
  なんか進化するとさ、いままで感じたことがない"勇気"や"力"が沸いてこない?」
「うーん。私もフェアリモンに進化したときは、自分が自分じゃなくなるみたい」
「そうそう、それだよ。
  俺は雷が怖いけど、ブリッツモンに進化すれば、雷を操ることができる。
  物凄いおっかない敵にも、立ち向かうことができる。
  デジタルワールドに来て、拓也や泉ちゃんと出会って、ブリッツモンに進化して、戦って・・。
  みんな変わったと思うんだ」
「そうよね。私たち、みんな変わったわ。私だって変わったと思うもの」
泉は気がついた。
いつのまにか、純平の話に引き込まれて、相槌を打っていることに。
純平って、意外とロマンチックなことを考えていて、
 それを口に出すのが単に恥ずかしいだけではないのか・・・。
お調子者に見えるが、自分の考えを話しているときの純平こそが、本物の純平なのではないか。
そう感じたのだ。
純平が、いつも妙な格好をつけずに、こうして自然に接してくれたら、
 もうちょっとうまく行きそうなのに・・と泉はこのとき感じた。


ボツボツ進んでまっせ。

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