柴山純平小説(3)


登場人物

柴山純平。小学6年生でチョコレートが大好きな甘えん坊。ブリッツモンに進化する。

織本泉。イタリアからの帰国子女で勝気な性格。フェアリモンに進化する。


純平と泉は岩陰に腰を下ろしたまま、会話を続けた。
トレイルモンのところへ急がなければならなかったが、いまは純平の話が面白く感じたのだ。
「それでさ、泉ちゃん」
「うん」
「俺、この戦いが終わって、人間の世界に戻ったら・・」
「戻ったら?」
「1つだけ、やりたいことがあるんだ」
「へぇー? 純平がやってみたいことってなぁに?」
「それは・・今は言えない」
「どうしてよ? もったいぶらないで言いなさいよ」
「ひ・み・つ。人間の世界に戻ったら、きっと泉ちゃんにも分かるよ」
「ふーん」
「ねぇねぇ、ところでさ。デジタルワールドに来て、一番変わったのは誰だと思う?」
またもや、純平が突拍子もない質問をしてくるので、泉は返事が遅れる。


泉は「うーん」とアゴに指を当てて、考える。
「そうね・・・。一番は友樹かな?」
「えーっ、友樹!?」
「だって、友樹はいじめられっ子だったけど、いまは立派に戦っているし、強くなったと思うわ」
「そ、そうだよね。俺もそうじゃないかと思ってたんだ。じゃ、次は?」
「次は・・うーん・・輝二かな?」
「えーっ、輝二!?」
「だって、輝二って最初は冷たい人だと思ったけど、お兄さんのこともあって、成長したと思うの」
「そ、そうだよね・・・じゃあさ、次は?」
「次は拓也かな?」
「えーっ、拓也!?」
「どうして、いちいち驚くのよ!」
「だ、だって・・」
純平は手をモジモジとさせながら、なにやら落ち着かない様子だ。
泉は、そんな純平の態度に、不思議そうに首を傾ける。
「純平、さっきからどうしたの?」
「いや・・その・・泉ちゃん、俺はどうかなって・・?」
「純平がどうかしたの?」
「いやだなー、泉ちゃんったら。俺も変わったよね・・? 
  俺、自分で言うのもなんだけど、デジタルワールドに来てから自信が持てるようになったっていうか。
  強く勇ましくなったと思うんだ」
「勇ましくねぇ・・?」
明らかに疑いの目で、純平を見つめる泉。


泉は純平とは目をあわさずに、サラッと返事をした。
「純平は、あまり変わってないように見えるけど?」
「ええ〜!?」
「たしかにブリッツモンに進化したときは、"少しは逞しくなったかな"と見直したけど。
  でも純平は進化しないと、からっきしダメなのよね。
  一番最初に会ったときと、あまり変わらないように思うし・・」
「そんなー。俺、デジタルワールドに来てから、すごい変わったよ」
「どんな風に?」
泉の質問に、純平は答えに躊躇した。
「その・・例えば・・胸板なんて、こんなに厚くなったし・・」
「それは逞しくなったんじゃなくて、さらに太っただけでしょ」
「・・・」
泉の言葉が、純平の胸にグサリと突き刺さる。
しかし、負けじと切り返して見る。
「実はさ、見えないところが変わったんだよ」
「見えないところって?」
「えーと、心だよ、心! 俺、立派な心構えが出来たっていうか」
「どんな心構えよ?」
すると、純平は「へへん」と自分の大きな胸をポンと叩き、言い放つ。
「聞いて驚かないでよ。『俺は泉ちゃんのためなら、死ねる!』 ねぇ、すごいでしょ?」
「・・・」
「俺は強い信念を持って戦っているのに、トレイルモンって全然勇気ないよなぁ」
得意満面の純平に対し、泉はふて腐れたように返事をした。
「アナタ、本気で言ってるわけ?」
「本気だよ! 俺は泉ちゃんのためなら死んでもいい!
  だから泉ちゃんは安心して。どんなデジモンがきても俺がやっつけるからね。
  さてと、そろそろトレイルモンのところへ行かないと」
なにやら一人で上機嫌な純平。
なぜなら少し遠回りであるが、これは純平にとっては"告白"であることには変わらないのだから。
もっとも、泉がそれをどう受け止めたのかは、純平には知る由もないのだが。




「けっこう遠いわね・・」
トレイルモンの隠れている山は見えているのだが、なかなか近づかない。
泉が予想していたよりも、かなり遠いようだ。
一方の純平は歩きながら、ニヤニヤと一人で満足な表情を浮かべていた。
(さっきの俺の言葉、格好良かったかな・・?)
<泉ちゃんのためなら、死ねる!>
なんて格好いい言葉なんだろう。
なんて勇ましい響きなんだろう。
純平は「我ながら名セリフが決まった」と内心、ほくそ笑んでいたのだ。


──カチカチ。
地面が軋むような音。
その音が徐々に2人に近づいていた。
「純平? いま変な音しなかった?」
「音? 別に聴こえないよ」
「うーん、気のせいかしら?」
「分かった! 泉ちゃん怖いんでしょ!」
「そんなわけないじゃない!」
純平に話かけたのが間違いだったと泉は思いながら、さらに先に歩を進める。
──カチッ。
氷にヒビが入るような、不気味な音。
「純平、やっぱり何かが居るわ!」
「ええっ!?」
驚いて純平が下をみると、自分の足元が真っ白になっているではないか。
「わっ! 泉ちゃん、地面が凍ってる!」
「これは・・!」
2人が慌てて、その場から逃げようとすると、
 地面から何本もの氷の柱が現れて、あっという間に付近一帯を囲ってしまった。


──ジャリン!
ガラスが割れるような破壊音。
その裂け目から、ゆっくりと白いデジモンが顔を出した。
その姿は、堕天使のような格好をしている。
それに立ち上がると、体が大きい。
氷のように真っ白な体と、紫色の冷たい目。
背中には虫食いだらけの不気味な翼。
手足が異様に長いのも、いっそう気味の悪さを感じさせる。
「ひぃえ!」
突然現れた巨大なデジモンに、純平は腰が抜けたようにひっくり返った。



純平は地面に尻餅をつきながら、とりあえず怒鳴り上げてみる。
「お前は誰なんだ!」
『ふぅ〜、久しぶりにうまそうな獲物だ・・』
「おい、聞いてるんだぞ!」
すると、そのデジモンは薄気味悪い目を、ギョロッと純平に向ける。
純平は紫の凍るような目に、全身がブルッと震えた。
急にか細い声に変わる。
「あの・・スミマセン。どなたでしょうか・・?」
『ほう、貴様ら人間だな?』
「に、に、人間だったら、なんだっていうんですか」
『一匹はデブ。もう一匹は人間の女ってやつか・・?』
「デブって・・」
『私はアイスデビモンという。もっとも、これから喰われるヤツに挨拶をしたところで、意味はないと思うが』
「喰われる・・?」
アイスデビモンってどこかで聞いたことがあるような、無いような・・?
たじろぐ純平の後ろから、泉があらんばかりの声をだした。
「純平、気をつけて!
  アイスデビモンって、ケルビモンを倒したときに、地下牢に閉じ込められていたヤツの仲間よ!」
『ほほう、地下牢に閉じ込められたヤツのことを知っているのか』
「そうよ! 私たちはアンタの仲間をやっつけたんだから!」
その言葉を聴いて、純平はようやく思い出した。
以前にコイツと戦ったことがあることを。
なんでも凍らせる冷凍ビームと、切り裂く爪で、純平たちを散々苦しめた凶悪なデジモンだ。


泉の言葉を聞いて、しばらく考え込むアイスデビモン。
そして、ゆっくりと口を開いた。
『地下牢の仲間・・? なにを勘違いしているのか』
「えっ?」
『地下牢に閉じ込められ、デジモン裁判にかけられる愚か者などと一緒にして欲しくないわ』
「だったら、アイツは仲間じゃないの?」
『我がアイスデビモン一族の恥さらしよ。もっとも、ヤツは一族の中で最も弱かったからな』
その言葉を聞いて、純平は表情が固まった。
以前に戦ったアイスデビモンは、ケルビモンに匹敵する力を持っていた。
あのときは、純平と泉、友樹そして輝一の4人でなんとか倒したのだ。
しかし、それは相手が油断したから。
目の前の敵は、さらに強いということは・・?
そう考えると、純平は背筋にぞっと寒気が走った。


アイスデビモンの声は若本規夫さんがノリノリでやっておられたので、声は脳内変換してもらえるとうれしいです。第36話「勝利への飛翔! 対決ケルビモンの城」に登場します。

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