登場人物
柴山純平。小学6年生でチョコレートが大好きな甘えん坊。ブリッツモンに進化する。
織本泉。イタリアからの帰国子女で勝気な性格。フェアリモンに進化する。
アイスデビモン。デジコードを喰う凶悪なデジモンで、実力はケルビモン以上の強敵。
純平はアイスデビモンの迫力に、ズルズルと後退していた。
一方の泉は、アイスデビモンの前に立ちふさがる。
そして、睨み付けながら叫んだ。
「私たちになんの用なの!?」
『随分と威勢がいいではないか。私は貴様らが戦っているロイヤルナイツよりも強いぜ!』
「ウソ言いなさい!」
『ウソなどつかんわ。私はルーチェモンから直接デジコードを集めるように依頼されたのだ。
ルーチェモンは、すでにロイヤルナイツを使い捨ての駒にしかみておらん。
私の実力を認め、世界の半分をくれる代わりに、私にデータを集めるように協力を求めてきたのだ』
「あまり強そうには見えないけど?」
『フフフ、そのような言葉は戦ってから言ってもらいたい。
まず手始めに、いままで涙ぐましい努力をしてきた貴様らに敬意を表して、データを喰ってやろう。
デジモンと人間・・・どちらのデータがうまいのやら』
「そんなことさせないわ!」
アイスデビモンは、厭らしい笑みを浮かべる。
『随分と元気がいいが、どこまで私を楽しませてくれるかな?
私の手でじっくり痛めつけてやろうと申しておるのだ。思う存分泣きわめくがいい。どうだ、うれしいだろうが!』
「うれしいわけないじゃない!」
怒声を発する泉。
その後ろで、純平が呟く。
「泉ちゃん、コイツらの一族、やっぱり変態だったんだ・・」
「んもう、純平ったら、突っ込み入れている場合じゃないでしょ!」
「だって・・」
泉はポケットからデジバイスを取り出した。
そして、後ろにいる純平に向かって叫ぶ。
「純平、進化して戦うわよ。ここでコイツを食い止めるのよ」
しかし、しばらく経っても純平からの返事がない。
「ちょっと純平、なにやってるのよ!」
不審に思った泉は、後ろを振り返って見る。
すると、純平はすでに数十メートルは遠くに逃げ去っているではないか。
あまりの素早い行動に、さすがの泉も驚きのあまり、アゴが外れそうになる。
「コラーッ! 純平!」
「泉ちゃん、そんなところでなにやってるんだよ!」
「なにって・・?」
「早く逃げないと!」
泉を置いて一人で逃走してしまった純平に、泉は目尻を吊り上げる。
「純平! アナタ、何逃げてんのよ!」
「泉ちゃん、早くこっちに!」
「戦うんじゃないの!?」
「だって、コイツはロイヤルナイツよりも強いんだよ。俺たち2人で勝てるわけないじゃないか」
「そんなのハッタリに決まってるでしょ」
「拓也たちを呼んできたほうがいいって。これだって立派な作戦だよ。俺だって考えているんだから」
「私のことを命をかけて守ってくれるんじゃないの?」
「だから、その・・守るときと逃げるときは別なんだよ。
いまデジバイスで交信してるんだけど、なぜかノイズだらけでつながらないんだ」
「どうして、そういう風にしか考えられないわけ? 戦う勇気がないの?」
「違うよ、いまは逃げるんだ。戦うばかりが勇気じゃない」
「何なのよ、その屁理屈は。はじまりの町に戻る前にやられるわ!」
「逃げるが勝ちとも言うじゃないか」
この状況下で、漫才コンビのように大声で言い争う純平と泉。
『貴様ら、おもしろいぜ。おもしろすぎるぜ!』
純平と泉のやり取りに、お腹を抱えて笑うアイスデビモン。
『さぁて、漫才ごっこは終わりだ。
逃げ足の速いデブの言うことが正論だとは思うが・・。逃がすものか。
まずは威勢のいいお前から相手してやる』
そういうと、アイスデビモンは泉を指差す。
『珍しい獲物だからな。じっくりと料理してやるぜ』
「そうはさせない。スピリットエボリューション! フェアリモン!」
泉はデジバイスを手のひらにかざし、そのまま進化した。
フェアリモンに進化した泉。
その姿は羽が生えた妖精のそのものだ。
美しい姿をみて、舌なめずりをするアイスデビモン。
『ほほう、可愛らしいデジモンに進化するのだな。
フェアリモン・・たしか伝説の風の十闘士だったと記憶しているが。
進化した人間がどこまで私を楽しませてくれるのか、お手並み拝見といこうではないか』
「黙りなさい。ブレッザ・ペタロ!」
フェアリモンは両手の指先から、風を吹き出して小さな竜巻を作り出す。
その風は鋭いカッターのようになり、アイスデビモンの翼を切り裂いた。
『うおーーっ、痛てーーっ!』
「フェアリモンの力を、みくびったようね」
『フフフ、なんちゃって。こんなハエ叩きみたいな攻撃が効くわけねーだろ!』
「なんですって・・あわっ!」
アイスデビモンは長い腕を伸ばして、フェアリモンの体を鷲づかみにする。
そのまま胴体を握りつぶしはじめた。
(ど、ど、どうしよう・・フェアリモンが捕まっちゃった・・)
純平は戦いを始めたフェアリモンとアイスデビモンを遠くから見て、どうしたらよいのかと迷っていた。
(助けに行かなくちゃ・・でも拓也たちを呼びに行ったほうが確実に助かる・・・どうしたら・・)
どちらを選択するのか決断できずに、純平は頭を抱える。
アイスデビモンは剛力で、フェアリモンの体を握りつぶす。
「きゃあああ!」
『ハハハ。かわいいお顔が、つぶれちゃう』
「苦しい・・」
『ブハハッ、泣け、わめけ! もっと楽しませてくれないと、本当につぶしちゃうよ』
「あああっ! 純平、純平!」
フェアリモンの痛々しい叫び声に、気が動転していた純平は我に帰った。
首を振って、迷いを断ち切る。
(俺は何を迷ってるんだ・・。泉ちゃんを助けなきゃいけないに決まってるじゃないか!)
声を張り上げながら、一度逃げた道を急いで戻る。
大きな巨体を揺らしながら、息を切らせて。
「泉ちゃーん!」
『おやおや、逃げていれば死なずに済んだものを・・。もしかして、人間ってわざわざ弱いものを助けるターイプ?』
「うるさい! 泉ちゃんを放せーっ!」
『ようやくおもしろくなってきたぜ。ニィィ』
太った体で精一杯走る純平を見て、アイスデビモンはくけけっと笑いをこぼす。
「泉ちゃんを放せ!」
『分かった分かった。ではフェアリモンを返してあげよう』
アイスデビモンは、ピッチャーがボールを投げるように振りかぶる。
そのまま握り締めたフェアリモンを、走ってくる純平に剛速球のように投げつけた。
「うわぁ!」
「キャアア!」
走ってきた純平に、投げつけられたフェアリモンが直撃した。
2人は糸が絡むように、もつれて地面に叩き付けらる。
『あーらら。弱いくせに助けに来るのが悪いのよ』
「痛てて・・泉ちゃん大丈夫?」
いつのまにか、フェアリモンは進化が解けて、泉の姿に戻っていた。
進化が解けるということは、かなりのダメージを受けたということだ。
『おっと、せっかくフェアリモンに進化したのに、人間に退化してしまったのか。
弱い、弱すぎるぜ! これでは戦いではなく一方的な殺戮になってしまうではないか。
こりゃ手加減をしないと、うっかり殺してしまいかねない』
「お、お前、泉ちゃんになんてことするんだ!」
『なんてこと・・? 強い者に弱い者がぶっ飛ばされるのは当たり前だろ!』
「くっ・・」
『さて、今度はどうやって痛めつけようか・・。
そうだ。貴様ら人間が窮地に陥ると、どうするのか実験してみよう。5分間待ってやるから、行動を決めろ』
勝手に話を進めるアイスデビモンは、そのまま破れた翼を広げ、上空へと飛び上がる。
『慎重に決めたほうがいいぞ。つまらないことをしたら殺しちゃうからね、ニィィ』
アイスデビモンは冷笑しながら、じっくりと上空で見物を初めた。
純平がヘタレてる?(^^;