柴山純平小説(8)


登場人物

柴山純平。泉に一目惚れしたがなかなか報われない。ブリッツモンに進化する。

織本泉。他人に合わせるのを嫌う性格。フェアリモンに進化する。

アイスデビモン。デジコードを喰う凶悪なデジモンで、その実力はケルビモン以上らしい。

ブリッツモン。純平がヒューマンスピリットで進化した姿。

ボルグモン。純平がビーストスピリットで進化した姿。


純平はブリッツモンの瞳を見つめながら、必死に尋ねた。
「ブリッツモン、頼むから教えてくれよ。一体なにが必要なんだ・・?」
<そ、それは・・>
答えを詰まらせるブリッツモンに対し、純平は小さく口を開いた。
「俺の命・・かな?」
<・・・>
「人間もデジモンも不便だよね・・。だって命は1つしか持てないんだもの。
  だけど、人間がデジモンに進化すると、いままでなかった不思議なことが起きるんだろ?
  これは俺の勝手な推測なんだけどさ・・。
  ダブルスピリットって、人間の命を媒体にして、デジモンのデータ、いや命がくっつくことなんじゃないかなって。
  だから、ブリッツモンとボルグモンが融合したときに、
  俺の身に何が起こるのか、誰にも予測はつかないし、誰もわからない。
  どう? 半分くらいは当たっているかな?」
<・・そのとおりだ。セラフィモンの助力なしに、ダブルスピリットをしたら、純平がどうなるか分からない。
  ダブルスピリットを制御することは、とても難しい。できたとしても、その代償は計り知れない。
  俺は純平を失いたくない。だからダブルスピリットをすることはできない>
「やっぱりそうだったんだ・・。ブリッツモン、俺のことを心配してくれてありがとう」


ブリッツモンの答えに、純平は満足するようにうなづいた。
そして、僅かな笑みを浮かべる。
「3つの命を、1つにしよう・・」
<純平、本気か・・?>
「俺さ、いますごい自分に満足してるんだよ。本当は痛くて苦しくて、動けないはずなのに・・。
  こんな高揚感に包まれたのは、生まれて初めてだよ。
  それはさ、たぶん俺が自分の未来を、自分で決めているから。
  すべての力を出し切ろうとしているから・・。
  自分を変えることは難しいよ。
  だけど、自分の力を出し切れば、それが自分の目指すものに自然に近づくことになると思うんだ。
<し、しかし・・>
「そんなことに、命までかけるのはおかしいって言いたいんだろ?
  でも、俺は男だ。『泉ちゃんのためなら死ねる』って約束したんだ。心に決めたんだ。
  だから、泉ちゃんを絶対に守る。もう後には引かない。
  ここで立ち止まったら、俺は何もできないまま、結局は命が尽きるんだ。
  ブリッツモン、ボルグモン、お願いだ。俺の一生の頼みを聞いてくれ!」
懇願する純平を前に、ブリッツモンとボルグモンは言葉に詰まった。


ブリッツモンとボルグモンは、しばらく沈黙を続けた。
そんな彼らに対し、純平は拳をギュッと握り、ブリッツモンの前に突き出す。
「ブリッツモン。俺の拳を握ってみて」
<純平?>
「いいから早く!」
ブリッツモンは、差し出した純平の拳を、そっと握って見る。
すると、その拳はわずかに震えていた。
「これって、武者震いっていうのかな・・? 俺、いままでこんな経験したことないから分からない。
  心臓がドクンドクンっていって、心の底からエネルギーが奮い立つっていえばいいのかな。
  それに、すごい緊張してるよ」
<・・・>
「ブリッツモン、ボルグモン。3人で力を合わせて戦おう。
  大丈夫。俺は死なない。ブリッツモンとボルグモンが力を合わせるんだ。
  だから、俺は死なない。絶対に死ぬわけがない」
<純平、お前って子は・・!>
「ブリッツモン、うわわっ!」




いきなり俺の視界が、青い装甲でいっぱいになった。
正面から抱き上げられて、足が宙に浮いていた。
ドキッとした。
だって、ブリッツモンが俺の体を包み込んでいたんだもの。
これって、ちょっと恥ずかしい格好かも・・。
だって、俺はもう小学6年生なんだから。
でも、ブリッツモンの逞しい体はまるで、
 昔にお父さんに抱っこされたような、そんな不思議な感覚がした。
装甲はちょっと痛かったけど、俺の心臓は弾けそうに高鳴った。
ブリッツモンは、しばらく俺の体を抱いて、一言だけ呟いた。
俺の体から、チョコの甘い匂いがするって。
だからぁ、俺はもう小学6年生なんだぞ!
俺の体を下ろしたブリッツモンは、自分の行動が恥ずかしかったのか、視線をはずしていた。
俺も少し照れくさかった。
だから目を閉じて、まだ体に残るブリッツモンの温もりだけを感じることにした。
目を閉じているだけで、心が暖かくなる。
ブリッツモンの心。デジモンにもやっぱり暖かい心があったんだ。
俺がしばらくして目をあけると、そこは一面の氷の世界に戻っていた。
ブリッツモンもボルグモンも消えていた。




『フーハハッ! どうだ、手も足も出ずに一方的になぶられる気分は?』
「ううっ・・やめなさい・・」
『もっと泣いて叫べ! 助けを求めてみろ! じゃないと、いまひとつ面白みに欠けるではないか』
「もう体に力が・・入らない・・」
アイスデビモンは長い舌を伸ばして、泉の顔を舐める。
『ベロ〜リ!!』
「きゃあああ!」
『ハーハハハッ。まだ元気があるな。ではじっくりと殺すとしよう』
アイスデビモンが泉を強く握り潰そうとした瞬間──。
「泉ちゃんに、手を出すな!」
凍えた大地に、突き抜けるような声が響き渡った。


『あ〜?』
アイスデビモンはゆっくりと、声の主の方向に首を廻す。
そこには、傷だらけになりながらも、歯を食いしばって立ち上がる純平の姿があった。
(純平・・!)
泉は目に涙を浮かべる。
いつもは頼りない存在なはずなのに・・・。
いつもはおっちょこちょいで、格好悪いはずなのに・・。
いまも、傷だらけで、フラフラとして足元がおぼつかなくて、何もできなさそうなのに・・。
しかし、いまの純平はとても勇ましく思えた。


純平は握った拳を突き出して、アイスデビモンに叫んだ。
「俺は泉ちゃんとの約束を果たすまでは、絶対にやられない!」
『フン、誰かと思えば、単なる余興で散ってしまった、役立たずの人間ではないか』
「泉ちゃんを放せ!」
『この人間のことか? 貴様が寝ている間に、たっぷりと痛めつけてやったぞ』
「な、なんてことを・・」
『これから本格的に殺すところだ。貴様には特別に見物させてやろう。ニィィ!』
その言葉に、純平は怒りに全身が震えた。


「なんてひどいことをするんだ・・」
『ひどい・・? うまいデータを喰らうのが最高の喜び。人間もデジモンも同じことよ』
「お前は、命をなんだと思っているんだ!」
『命だと?』
「命は1つしかないんだ・・」
『なにを当たり前のことを言っているのか・・私に喰われて光栄に思うべきだ』
「ふざけんな! デジモンだって人間だって、みんな懸命に生きているんだ!
  この世界を守るために、そして大切な命を守るために、みんな戦っているんじゃないか!
  それなのに、お前は・・お前は・・」
純平は拳をギュッと握り締め、怒気を漲らせる。
「お前のような最低のデジモンに奪われていい命なんて、1つだってあるもんか!」
『ほう・・その体でよく減らず口が叩けるな』
「お前のようなヤツがいるから、みんなが苦しむんじゃないか! 許さない」
『許さない・・? 強い者が弱い者をいたぶる・・当たり前のことだろうが!』
「違う。強い者が弱い者を守る・・それが当たり前のことなんだ」
『コ、コイツめ・・』
純平の鋭い眼光に、アイスデビモンは一瞬たじろぐ。


純平は右手に握ったデジバイスを、見つめた。
「ふぅっ」と大きく深呼吸をして、呼びかける。
(頼むよ、ブリッツモン、ボルグモン・・俺に力を貸して!)
そして、純平はいつもの進化の体勢に入った。
左手を天に向かってかざすと、そこには、おびただしいデジコードの塊。
『な、なんだ・・あのデジコードの量は・・?』
一回転しながら、大量のデジコードとデジバイスを重ねて叫んだ。
「ダブルスピリット・エボリューション!!」
放出された大量のデータは、純平の体に纏わりながら、形を変えていった。
いままで見たことがない装甲が、純平を包み込んでいく。
その過程で、何本もの稲妻が純平の体を貫いた。
「うわぁーーーっ!!」
苦しみとも悲鳴とも取れる、純平の叫び声が収まったとき・・。
そこには新たな闘士が誕生していた。


今回はエロねーのかって・・? もうすぐ終わりです。

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