柴山純平小説(9)


登場人物

柴山純平です。

織本泉です。

アイスデビモンです。


そのデジモンは、ブリッツモンともボルグモンとも違った。
ブリッツモンのようなヒューマンタイプを基調としているが、装甲はボルグモンのように分厚い。
カブトムシの形をした角は健在だが、ブリッツモンのそれよりは長くて鋭利な形をしている。
一見すると、重戦車ならぬ、動きが鈍そうなブリッツモンに見える。
しかし、丸みがあるわけではなく、近代兵器のような鋭角で洗練されたスタイルをしていた。
「雷の闘士、ビートグレイモン!」
『ほう、これは驚いた。まさかこの期に及んで、さらに別の進化をするとは。
  うれしいではないか。誕生したばかりのデジモンを、痛めつけられるのだから』
そういうとアイスデビモンは、目の前のデジモンの体を、嫌らしい目つきで嘗め回す。
そして、握っていた泉をポイッと放り投げた。
『もうこんな人間には用はない。ターゲット変更だ。
  ビートグレイモンとか言ったな。いい目をしている・・・。
  おもしろい。一番面白いのは、貴様のような目をした者を屈服させ、喰らうことだ!』
「・・・・」
『少しばかり、図体がでかくなったのではないか? 動きが鈍そうに見えるな。
  もしかすると、この私のスピードについて来られんかもしれんな。試して見よう。ニィィ』
不敵に笑ったアイスデビモンは、大きな翼を広げ、猛スピードで大空に舞い上がった。


上空から、ビートグレイモンを見下ろすアイスデビモン。
相変わらずの余裕の笑みを浮かべる。
『フフフッ。さぁ、ここまで上がって来い!』
「・・・」
『もしかして、空を飛べないタ〜イプ?』
「分かった・・」
ビートグレイモンは頷きながら、ゆっくりと瞼を閉じる。
そして、しばらくして意を決したように、カッと目を見開いた。
上空のアイスデビモンを睨みながら、背中の装甲をカブトムシのように斜め45度に広げる。
しかし、広げた装甲の中にブリッツモンのような羽は、存在していなかった。
『フン、羽がないのに、どうやって飛んでくるというのか・・まさか見掛け倒しってやつ? ワーハハハッ!』
腕を組み、ハハハッと笑いながら悪態をつくアイスデビモン。
だが、ビートグレイモンはそんな挑発を、まるで関知していない様子だった。


「空を飛ぶのにもう羽は必要ない。見せてやろう、ビートグレイモンの力を」
するとビートグレイモンの背中から、大量の粒子が放出されはじめた。
まるでジェット機が、エネルギーを噴射するかのようだ。
『な、なんだ・・背中から放出される金色の粒のようなものは・・?』
金色の粒子はさらに放出され続け、ビートグレイモンの姿を覆うほどになる。
大量の粒子が拡散をし始め、徐々に上空に舞い始めた。
『なんだ、なにが起こるというのだ・・?』
「では、行くぞ」
雷が落ちるような轟音がしたかと思うと、その場からビートグレイモンは消えていた。
地上には、金色の残像が存在するだけだった。
驚いたアイスデビモンは、冷や汗をかきながら辺りをキョロキョロと見渡す。
『き、消えただと・・!? どこに行きおった・・?』
「消えていない。お前の後ろだ」
背後から轟く声に、アイスデビモンは驚愕して振り返る。
そこには、粒子を放出しながら、空を浮遊しているビートグレイモンの姿があった。
『バカなっ!! どうやって・・』
「俺の体を覆う、プラズマエネルギーの成せる技だ」
『プラズマエネルギーだと? そんなもので移動することが・・くぅ〜生意気な』
「終わりだ!」
ビートグレイモンの手のひらから、凝縮されたエネルギーが放出される。
それは突き刺さるような稲妻に姿を変えて、アイスデビモンの背中に直撃した。
『うぎゃーーっ!!』
攻撃をまともに喰らったアイスデビモンは、そのまま真っ逆さまに落下する。
ズシンと地響きがして、大地が揺れた。


『ううっ・・そんなバカな・・。まさか稲妻と同じ速度で瞬間移動できるというのか・・?』
「俺の雷の闘士だ。それくらいのことができても不思議はあるまい」
『生意気なダンゴムシめ! 今度はこちちから・・・ってなんだ!?』
アイスデビモンが上空を見上げると、すでにビートグレンモンは行動を起していた。
ビートグレイモンは、頭の角を左手で掴むと、そのまま上に引き抜く。
すると、角は大型の電子ライフルに変形して、頭から分離した。
上空で静止したまま、右肩でライフルを固定する。
そして、左手を砲身に添えて構えた。
まるで、狙撃手のように。
『まさか上空から、そのライフルで私を狙い撃ちしようというのか!?』
「そのまさかだ」
ビートグレイモンは、ライフルに装備されたスコープを覗きこむ。
スコープの中にある「+」の照準線をアイスデビモンに正確にあわせた。
ライフルの先端から、金色の細いレーザー光が一直線に伸びる。
『な、なんだ・・今度はなにが起きるというのだ・・』
「お前だけは絶対に許さん!
  ロックオン・フィールドデストロイヤー!」
ビートグレイモンの持つ電子ライフルに、光り輝くプラズマエネルギーが凝縮される。
そして爆音とともにエネルギー弾が、一直線に発射された。


光の矢のように一直線に発射された、強力なエネルギー弾。
しかし、それを見たアイスデビモンは不敵に笑う。
『フィールドデストロイヤーだと? 一度破った技ではないか。
  それに、そんな遠くから撃ったものが、当たるわけがないだろ!』
アイスデビモンは、エネルギー弾の軌道を見極める。
そして、翼を広げて斜め上方へと素早く移動した。
『バーカめ! いくら高密度のプラズマエネルギーも、当たらなければ無意味だぜ』
エネルギー弾は地面に激突すると、地響きを鳴らして小爆発を起した。


アイスデビモンは、上空のビートグレイモンを見上げてニンマリと笑みを見せる。
『高速で空を飛んだり、狙撃したりと、なかなかおもしろい能力を持っているではないか。
  しかし、貴様はプラズマエネルギーを操れるだけで、あとは何も出来ない能無しデジモンだ。
  じっくりと私が痛めつけてやろう。もっとうれしそうな顔をしろ』
「終わりだと言っただろう?」
『終わりだ? なにをくだらんことを・・って、うげーーーっ!!!』
アイスデビモンは突然、苦痛に顔を歪めて、叫び声をあげる。
腹部に視線を向けると、そこには大きな風穴が空いていた。
『バカな・・! ゲハッ! いつ攻撃を・・!?』
「先ほどのエネルギー弾は、すでにターゲットをロックしている。お前が死ぬまで追い続ける」
『まさか、地面に落ちたエネルギー弾が、地中を這って戻ってきたというのか・・! グゥワワアアア!!』
空中を飛んでいたエネルギー弾の軌道が変わり、再びアイスデビモンの腹部を貫き、風穴を空けた。
『ギャアアア!!』
壮絶な叫びとともに、アイスデビモンからデジコードが浮かび上がる。



ビーグレイモンは、ゆっくりと大地に降り立った。
そして、デジバイスを顔の前に差し出す。
「悪に染まった魂よ。我が雷で浄化する。デジコードスキャン!」
アイスデビモンは悲鳴をあげながら、一本のデジコードとなり、デジバイスに吸収されていく。
デジバイスの小窓には、アイスデビモンのデジコードが収められた。
「やったよ、泉ちゃん・・・」
ビートグレイモンの姿は、いつのまにか、純平本人へと変わっていた。
敵を倒して安心したのか、すでにダブルスピリットの進化は解けていたのだ。


「純平〜!」
泉は遠くから、純平の背中に声をかけた。
強敵から解放されてホッとしたのか、いつもの笑顔が戻っている。
傷ついた腕を振りながら、ゆっくりと純平のもとへ歩を進める。
「もう、純平ったら!」
いくら声をかけても、振り向かない純平。
泉は少し苛立ったが、きっと純平のことだ、アイスデビモンを倒して感極まっているのだろうと、考えた。
立ち尽くす純平の背中に、ようやく辿り着いた泉。
「純平、すごかったわ!」
泉の声は弾んでいた。
なにしろ、ロイヤルナイツの力に匹敵するアイスデビモンを、純平は1人で倒したのだ。
いつも冷静な泉も、声がうわずっていた。
「純平、やればできるじゃない。いつからダブルスピリットできるようになったの?」
「・・・」
背中を向けて無言の純平に、泉は問いかける。
「ちょっと純平、答えなさいよ!」
「・・・」
「さっきから、なにを黙って格好つけてるの?」
泉は純平の肩に触れようとしたとき・・。
ドスリ──。
純平は一度も振り返ることなく、前のめりで地面に倒れた。



力なく倒れた純平の姿。
青いツナギはボロボロになり、痛々しい。
地面に伏したまま、ピクリとも動かない。
さらに体に、デジコードが浮かび上がっている。
「純平!?」
泉が声をあげたときには、すでに純平からデジコードが天に向かって伸びていた。
徐々に、純平の体は透明になっていく。
「こ、これって・・・」
泉が驚いている間にも、純平からデジコードが天に向かって昇り続ける。
そして、純平の姿は完全に消えた。
あっという間の出来事だった。
「やだ・・なによ・・突然消えて・・。変な冗談はやめてよね・・」
泉は血の気が引く思いがした。
一体なにが起こったのか分からない。
しかし、只ならぬ事態が起きたのではないかという、不安がどんよりと心を覆っていた。


もう終わるはずなだけど・・。ビートグレイモンの設定については最終回のあとがきに書く予定です(あまり考えてないが)。 戻る