やはりエロなしだと、微妙かなぁ。
登場人物
柴山純平です。
織本泉です。
ブリッツモン。ヒューマンスピリットの雷の闘士。
「ちょっと純平、出てきなさいよ!」
純平の姿が消えた。
デジコードが浮かび上がり、天に消えたという事実。
最悪のシナリオを考えたとき、泉は体の震えが止まらなくなった。
表情が険しくなり、喉がからからになる。
「純平! 変なイタズラしないで出てきなさい! 怒るわよ!」
強がって見たものの、声がかすれた。
そのとき、立ち尽くす泉に、野太い声がした。
『泉・・』
「あっ、純平!」
『泉・・』
「その声は、ブリッツモン?」
『そうだ』
純平が倒れていた場所をよく見ると、デジバイスがひっそりと転がっている。
──青いデジバイス。
純平が大切に持っていた、ブリッツモンとボルグモンのスピリットが入ったデジバイス。
泉はゆっくりと、それを拾い上げた。
デジバイスを見ると、小窓にブリッツモンの姿が写っている。
泉は表情をこわばらせながら、ブリッツモンに尋ねた。
「純平はどこに行ったの?」
『・・・』
「ちょっと、ブリッツモン! なんとか言ってよ!
まさか純平と一緒に、私のことをからかっているんじゃないでしょうね?」
ブリッツモンはしばらく黙っていたが、真面目な声で返事をしてきた。
『純平はもうこの世界にいない。このデジバイスを泉に託して、消滅した』
「えっ・・?」
『純平は勇敢に戦った。その勇気で俺とボルグモンは、こうしてデジバイスの中で会話ができるまでに実体化した。
俺たちは純平にとても感謝している。
純平が消える寸前、俺たちは堅く誓い合ったんだ。
純平の分までルーチェモンと戦うと。
泉に、このデジバイスを預かって欲しい。
純平の命ともいえる、このデジバイスを。
そして、純平の代わりに俺たちを必要なときに使ってくれ。
いや、俺たちの力を使って欲しい。それが純平の最後の願いでもあるのだから』
「純平が消えた・・・私がデジバイスを預かるって・・?」
泉は、しばらく言葉を発することはなく、ただ呆然としていた。
ときおり吹く風が、泉の横髪を揺らす。
『泉、聞いているのか?』
ブリッツモンから声がする。
しかし、泉は純平のデジバイスを握りしめたまま、無表情で立ち尽くしていた。
そんな泉の心中を察して、ブリッツモンがもう一度気持ちを伝える。
『純平がいなくなって、ショックなのは分かる。
俺だって、こんなことは信じたくない。考えたくない。とてもつらいんだ。
しかし、事実なのだ。
お前には、純平のデジバイスと共に最後まで戦う義務がある。
純平は泉のために命をかけたのだから。
お前は純平のためにも、戦わなくてはいけない。
おい、泉、聞いているのか?』
表情を固ませて、呆然と立ち尽くす泉。
ブリッツモンの声に無反応だったが、やがて重い口を開いた。
「消えたってなによ・・」
『泉・・?』
「なに訳のわからないことを言ってるのよ。純平が消滅したとか、デジバイスを託すとか」
『どうしたんだ、泉?』
「純平はどこに行ったのよ! 本当のことを言いなさい!」
『だから言っている。純平は消滅した』
「純平が私のために命をかけた・・? それって、私のせいで純平が死んだっていう意味なの?」
『それは・・』
「消滅ってどういうことなの? デジタルワールドから消滅したんだったら、死んだのと同じじゃない!」
『・・・』
「それに義務ってなんなの?
私が純平を死なせたから、純平の分まで戦えってことなの?
まるで純平が死んだのは、すべて私に責任があるみたいじゃない!
だいたい、純平が最初に言い出したのよ。『私のためなら死ねる』って。
私は純平に死んでくれなんて、頼んでないわ。
それが、格好つけて本当に死んじゃって、それで私が純平のことを好きになるとでも思ったの?
あまりに無責任じゃないの! なんで純平のデジバイスまで私が面倒をみないといけないわけ!?」
『それが純平の意思だからだ』
「意思ってなによ! 私の意思よりも、純平の意思が優先されるってこと!?」
『泉、落ち着くんだ』
「落ち着いているわ。私はいつだって冷静よ!」
泉の思わぬ発言に、ブリッツモンは驚いたような声を上げた。
そして、泉のあまりの取り乱し方に、慌てて言葉を返す。
『泉、頼むから落ち着いてくれ・・』
「だから、落ち着いているわ! 私はただ、おかしいって言ってるのよ。
だって純平は勝手じゃないの。私のことを勝手に好きになって、私のために勝手に死んで。
私は純平のことは嫌いじゃないけど、特別に好きってわけでもないのよ。
だから勝手に命までかけられたら、困るのよ。迷惑だわ。私は、どうしたらいいの?」
『・・・』
「私は純平のために責任をとって、ずっと純平のために何かをしなければならないの?
そんなのおかしいじゃないの!」
『・・・』
「ほら、ブリッツモンだって、答えられないじゃない!
もう嫌よ、すべてが嫌になってきたわ! デジタルワールドを救うなんて、もうどうでもいい!」
『泉、いい加減にしろ!』
「どうして私がブリッツモンに指図されなきゃいけないわけ!?」
泉は大きな叫び声をあげると同時に、純平のデジバイスを地面に投げつける。
そして、そのままヘナヘナと座り込んだ。
全身が脱力するように。
泉は、膝をかかえて黙りこんだ。
顔を地面にうつむいて、じっと動かなくなった。
地面に投げつけられたデジバイスは、数メートル先に転がったままだった。
そのデジバイスから、小さな声が届く。
『泉・・聞いてくれ・・』
「・・・」
『泉・・・』
暫し、沈黙の時が流れた。
・
・
『いつまでそうしているつもりだ!』
「ブリッツモン・・?」
『もし俺が、デジバイスから実体化できるのならば、お前のことをぶん殴っているぞ!!』
「・・・」
『たしかに純平は勝手に消滅した。泉の言うとおりだ。
純平は泉が好きだった。だから命までかけた。それも純平の勝手といえばそれまでだ。
お前が純平のことを嫌いならば、それでも構わない。
だがな、お前は純平に、「ありがとう」の一言も言っていないぞ。
言え!! 天に向かって、純平に「ありがとう」と礼を言え!』
「・・・」
『純平が命をかけなかったら、全員がアイスデビモンに殺されていた。
純平はダブルスピリットができたわけじゃない。
命と引き換えに・・泉を守るために、無理矢理ダブルスピリットで進化したんだ。
その代償が、ビートグレイモンの金色に輝く粒子だ。お前も見ただろう?
あの飛び散ったプラズマエネルギーは、純平の命そのものだったんだ』
「あの金色の光が・・?」
『純平の気持ちに応えたくないなら、このままデジバイスを拾わなくてもいい。
デジタルワールドだって、救わなくてもいい。
その代わり、純平に「ありがとう」と礼だけは言ってくれ。純平の気持ちを無為にして欲しくない』
ブリッツモンの言葉に、泉は肩を震わせた。
泉はしばらく、ひざを抱えて顔を伏せていた。
「分からない・・どうしてこんなことになったの・・」
わずかだが、嗚咽する声がする。
ずっと肩を震わせ、なにも話すことはなかった。
・
・
それから、どのくらいの時が経ったのだろう?
泉は、ゆっくりと口を開いた。
「純平は・・・」
『泉?』
「純平は、私を守ってくれたのよね・・?」
『あぁ』
「純平が死んだことを、受け入れなくちゃいけないのよね・・?」
『そうだ』
「ううっ・・・」
泉は再び崩れ落ちるように背中を落として、ため息をついた。
泉は、うつろな目をしながら、ブリッツモンに語り始めた。
「私は人間の世界にいるときと、全然変わってない・・」
『泉・・?』
「純平のことを『全然成長してない』なんて言っておきながら、
一番成長していないのが、私だったんだもの。笑っちゃうでしょ。
私は人間の世界にいるときから、面倒なことがあるとすぐに1人になっていた。
友達と一緒にいたいと思っても、途中で嫌なことがあると文句ばかりいっていたわ。
1人でいると強そうな人間に見えるかもしれないけど、
実際は他人と交わって自分が傷つくと嫌だから、ずっと逃げていただけ・・。
自分が傷つく位なら、1人のほうが楽だって」
『・・・』
「昔ね、こんなことがあったの。
ある日、遠足に行ったときに足をくじいた子がいて、私はその子の手当てをしてあげたわ。
そうしたら、その子は『一緒に昼ごはんを食べよう』と言ってくれた。
だけど、私がその子のグループに行ったとき、他の人たちから不満の声があがったの。
『織本さんと一緒に食べたくない』って。
私はみんなでお昼ごはんを食べたかった。でも、その子は言ったわ。『織本さんと一緒に食べられない』と。
私は逆に責めたわ。『約束したのに一緒に食べないなんて、最低!』と。
友達を作らなかった私が根本的に悪いのに、私は自分が傷つくのが怖かった。
だから、その子を徹底的に非難したわ。責任はあなたにあるって」
『泉・・』
「だから、純平が死んだと分かったときも、私は真っ先に逃げた。
"私のせいで純平が死んだ"という事実から、逃げたかったの。
私のために命をかけてくれた純平を、自分勝手な人間だと非難して、責任を逃れようとしたのよ・・。
本当にどうしようもないよね・・」
『・・・』
「私はデジタルワールドに来て、何も変わっていないことに気がついていた。
認めたくなかった。変わることすらできない自分に嫌気もさした。
でも、いまブリッツモンに言われて、やっと分かったわ。
いつまでも甘えていられないって。
それに純平に教えてもらったんだもの。人が変わるにはどうすればいいのかを。
だから、純平にお礼を言うわ。助けてもらったことにも。
それに純平のデジバイスも、私が大切に預かるわ。
私は純平の意思を大切にしたい。いまの私にはそれくらいしかできないんだもの」
『泉、ありがとう』
「ううん。お礼を言わなくちゃいけないのは、私のほう。ごめんなさい・・」
そういうと、泉は天に向かって叫んだ。
「純平、私を守ってくれてありがとう。
絶対にルーチェモンを倒して、デジタルワールドに平和を取り戻してみせるから、見守っていて!」
青いデジバイスを拾った泉は、小窓にみえるブリッツモンに微笑みかける。
そして、自分のデジバイスと一緒にポケットの中に、大切にしまった。
・
・
純平がいなくなったその日。
私は拓也たちに、純平のことを話すことができなかった。
話をしているうちに、涙がでそうになって・・。
そんな顔を、拓也や友樹にみせたくなかった。
ブリッツモンが代わりに話をしているときも、私は顔を伏せたままだった。
私はまだ変わっていない。やっぱり弱かったんだ・・。
・
・
デジタルワールドで、再びロイヤツナイツとの戦い日々が始まった。
フェアリモンに進化して戦っているときは、無我夢中だった。
でも、私が織本泉に戻ったときに、ふと気がついた。
とても寂しいと。
私には、いつも後ろから見守ってくれる人がいたことに気がついた。
おせっかいで、うるさくて、太ってて格好悪くて・・。
いい所が全然ないと思っていたけど、いまになって私は気がついた。
一つ一つの言葉や態度が、私に対する暖かさそのものだったことに。
純平・・。
純平、本当によかったの?
私なんかのために、命までかけて・・。
私は気がつくと、青いデジバイスに話しかけていた。
純平が何を考えていたのか、知りたかった。
ブリッツモンだけが知っている、純平の本当の心。
純平のことなんて、それまで考えたこともなかったのに、
いまは純平のどんな些細なことでもいいから、知りたかった。
純平が普段、なにを考えていたのか。
純平が私のことをどう思っていたのか。
とにかく気になって仕方がなかった。
ブリッツモンは私が問いかけると、純平のことをたくさん話してくれた。
純平は、私に一目惚れした。
純平は、どうやったら私が振り向くのか、必死に悩んでいた。
純平は、どうやって告白しようか、戦っている最中も考えていた。
純平は、チョコと私とどちらが大切か、真剣に悩んでいた。
ちょっと、最後の悩みは一体なんなのよ!
ブリッツモンの話を聞くたびに思う。
純平はとても無邪気で、分かりやすくて、おっちょこちょいで。
思わずクスクスと笑ってしまう。
でも、笑っているうちに、自然に涙も零れていた。
だって、純平はもう、いないんだもの。
悲しくて、せつなくて、涙が止まらなかった。
私は純平のことを、デリカシーがなくて、すぐにヘソを曲げて、周りの人のことを考えない自己中心的な人だと思っていた。
それに、女の子なら誰でも声をかける、軽い人間だと思っていた。
でも、それは違った・・。
純平は、本当に正直に生きている人だった。
私にいつも声をかけてくれたのは、純粋に私に好意を持ってくれていたんだ。
陰から私のことをいつでも心配してくれて・・。
私はずっとそれが迷惑で、面倒くさいと感じていた。
しかし、失って初めて、それがかけがえのないものだということに気がついた。
私のことを命がけで守ってくれる、唯一の人。
それが純平だった。
どうして、こんな大切なことに気がつかなかったのだろう。
私はある日、どうしても聞けなかったことを、ブリッツモンに尋ねた。
それは・・。
──純平は本当に死んでしまったのか?
純平はデジタルワールドで消滅した。
だけど、デジコードは天に向かって伸びていた。
それは何を意味するのか?
デジコードは人間のすべての情報のはず。
もしかして、純平は生きているのでは・・?
ブリッツモンがわざわざ「消滅」という言葉を使ったのには、理由があるのでは・・?
だけど、怖くて聞けなかった。
もし、「本当に死んだ」という答えが返ってきたら、私は・・。
・
・
ブリッツモンは、私の質問に明確には答えてはくれなかった。
たぶん、ブリッツモンも分からなかったんだと思う。
デジモンは死んだら、『はじまりの町』に戻り、卵になって蘇る。
でも、人間がデジタルワールドで死んだらどうなのか、誰もわからないのだから。
ただ、ブリッツモンは1つだけ教えてくれた。
純平は人間の世界で、生きているかもしれないと。
どういう形かは分からないが、純平の息遣いを感じると。
だから、私は早く人間の世界に戻りたかった。
純平が生きているならば、どうしても会いたかった。
会って、私は純平に・・。
想いを伝えなくちゃいけない。
いまの私の気持ちを。
・
・
激闘の末、ルーチェモンを倒したその日・・。
私は人間の世界に戻った。
久しぶりに見る渋谷の町を眺める時間もなく、
私は輝二の兄である輝一君が、病院で生きていたことを知って喜んだ。
でも、私は一目散に病院を飛び出していた。
なぜなら、もし純平が人間の世界に戻っているのならば、すぐにでも会いたかったから。
それに、この携帯電話を純平に渡したかったから。
いまは青いデジバイスではなく、普通の携帯電話だけど、純平にとって大切なものなはずだから。
・
・
私は「柴山純平」という名前と、携帯電話に入っていた情報を頼りに、なんとか純平の家の住所を知ることができた。
次の日、私は学校が終わるとすぐに、純平の住んでいる街に向かった。
純平が生きていることを信じて。
純平にもう一度会えることを信じて。
次回最終回です。