金太君小説(11)


またもや話が進みませんね・・・。


登場人物

我らが金太君です。

金太の親友の拳一です。

権藤大三郎です。

次の日の朝から、金太はさっそく猛特訓を開始した。
早朝、空き地で拳一と落ち合った後、2人でランニング。
その後、拳一に汚れたドラム缶の上に乗ってもらう。
「とりゃーーーーーー!!」
重くなったドラム缶を根性で引っ張る柔道着姿の金太。
グググッ・・・。
(金太・・すげぇ・・こんなのが動くのかよ・・)
正直、大人でもこのドラム缶を動かすのは大変そうだ。
ドラム缶がズルズルと動くさまを見て、拳一は金太のパワーに改めて驚いていた。
「んなぁろーーー!!」
金太は気合の雄たけびをあげながら、さらにグイグイとドラム缶を引っ張った。
闘志に満ちた金太をみていると、小学生で金太に勝てる相手がいるとは到底想像がつかない。


しばらくドラム缶を相手にしたあと、再び拳一と一緒にランニング。
金太はあんな無茶な練習をしたあとでも、拳一よりも早く走っている。
「金太、ちょっと飛ばしすぎじゃねーか?」
「勝つためにはこれくらいは当然だろ!」
「おまえ、あんなパワーあるのに、権藤はもっと強いのかよ?」
「アイツは体がめちゃくちゃでかいから、寝技を返すぐらいのパワーが必要なんだ」
「たしかに、アイツは小学生とは思えない体してるしな・・」
(小学生とは思えない体か・・・)
金太はフッと権藤の体を思い出した。
自分よりも一回りデブで逞しい大きな体。
寝技で密着されたときの、あの汗臭い匂い。
触られたときの、ゾクッとする感覚。
「おい、金太!」
「えっ・・」
「なに、ボケッと走ってるんだよ」
「な、なんでもないよ・・・」
「金太?」
「くそぉぉーーーっ!」
金太はさらに全力で走っていく。
「おい・・金太・・・何をそんなにムキになってるんだよ・・」
いつもと違う金太に、拳一は一抹の不安を覚えた。


一週間の間、拳一と金太は一緒に練習を続けた。
低血圧の拳一には、初めは早朝から放課後まで柔道の練習に付き合うのはきつかった。
それでも、金太と一緒に練習し続けたことには、理由があった。
もちろん、「約束したから」という理由もある。
しかし、それ以上に金太と一緒にいることが楽しかったのだ。
それは金太の生活の一部を、垣間見ることができたからかもしれない。
金太が朝起きて、どのように一日を過ごし、どんなことを考えているのか。
そういうものが見えてくる。
練習しながら話をしていると、いままで知らなかった金太の性格が見え隠れする。
夕方になると、たまに結花がおやつを差し入れにくる。
拳一はいままで、このことを知らなかった。
そのときの金太の困ったような顔。
いつも腕を組んで格好つけている金太からは、想像がつかない。
金太の結花に対する表情を見ていると、結花よりも金太の方が可愛くみえてくるから不思議だ。


拳一が一番感心したのは、金太の柔道に取り組む姿勢だった。
真面目なのだ。
いや、金太の性格が真面目なのは以前から分かっている。
なんというか、柔道を愛する心とでもいうのだろうか。
そういう態度がヒシヒシと伝わってくるのだ。
どんなに苦しくても、弱音を吐かずにボロボロになるまで練習する。
妥協をしない。
一体、柔道の何が金太をそこまで熱くさせるのかは、わからない。
きっと金太は本当に柔道が好きなんだろうな、と拳一は感じた。
だからこそ、柔道を遊びにしてしまう権藤を許せないのだろうとも思った。


金太は小さい頃からいつも1人で練習をしていた。
誰かと一緒に、一週間も練習するのは初めてだった。
練習しているときは、途中でヘコんだり、挫折したり、悩んだりする。
1人のときは、誰も励ましてくれない。
一緒に悩んだり、泣いてくれる仲間もいない。
孤独に練習することほど、つらいものはないのだ。
そのことは金太が一番よく知っていた。
しかし、それが精神を鍛える修行にもなると考えていた。
だから、金太は人とつるんで行動することを好まなかった。


拳一に"練習に付き合ってくれ"と提案したことには、特別な意味はなかった。
ただ、なんとなく拳一が一緒ならいいな、そう感じただけだった。
だが、一緒に練習をしてみてどうだろう?
拳一に「がんばれっ!」と声をかけられる。
拳一が一緒に悩んでくれる。
拳一が一緒に喜んでくれる。
拳一の明るい笑顔と声は、金太の心に響き、勇気を与えてくれた。
一緒に練習するってこんなに楽しいのか、と金太は驚いていた。
口には出さないが、一週間だけじゃなく、ずっと2人で練習ができたらいいなと何度も思った。
すべてをさらけ出すって、裸を見せ合いっこするのではなく、こういうことなんじゃないか。
金太は心の中でそう思った。
不思議なことに、この一週間は夢を見なくなった。
正確には見ていたのかもしれない。
しかし、朝起きて夢精していることもない。
それがどうしてかは分からなかった。
ただ、こんなに応援してくれる拳一の分までがんばろうと、無我夢中だった。
それだけだった。



そして、あっという間に一週間が過ぎた。


その日は冷たい雨が降っていた。
拳一と金太は、学校が終わるとすぐに青空第2小学校へ向かった。
金太は、柔道着で歩いていたが、大きな傘を差していたのでそれほど目立つこともなかった。
しかし、不可解なことに、拳一も柔道着姿を着ていた。
(全く、どういうつもりなんだよ・・)
金太は、チラッチラッと柔道着姿でうれしそうに歩く拳一の姿をみていた。
恋人がペアルックで喜ぶことはよくあるが、なにかそれに近い感じがして、金太は照れた。
「おい・・拳一、ずっと気になっているんだけど、なんでお前が柔道着なんだよ・・」
「よくぞ聞いてくれた。俺は金太と運命をともにするのさ。共同運命体ってヤツさ」
「何、バカなこといってんだよ・・(それに運命共同体だろ・・)」
一体、拳一は何のテレビ番組に影響を受けているのか。
半分呆れたが、拳一らしい心遣いが金太にはうれしかった。


青空第2小学校。
権藤大三郎がキャプテンをしている柔道部がある。
金太と拳一は、その校門の前に立った。
まだ学校から帰る生徒が多い時間だった。
雨が降っていたので、いろんな色の傘で校門が埋まっている。
拳一と金太は柔道部の人間と間違われているのか、誰も気に留めていなかった。
校舎の横に体育館がみえる。
さらにその横に"いかにも"柔道部用と思える小さな柔道部屋がみえた。
「金太、あそこに柔道部みたいな小さな建物があるぜ」
「柔道だけで別の建物があるのか・・」
「青空第2小って、柔道にけっこう力を入れてるんだな〜。普通、小学校にあんな建物ないぜ」
金太はブルッと武者震いをした。
しかし、もう後には引けない。やるだけだ。
「よし、行こう」
拳一と金太はそのまま柔道部屋に向かった。


拳一と金太は建物に近づくと、入り口のドアからそっと中を覗く。
下に拳一、上に金太の顔。
コッソリ覗いている2人の姿は、泥棒コンビのようだ。
柔道部屋と思われる中には、10人程度の小学生が柔道の稽古をしていた。
20畳くらいの柔道畳が敷かれている。
奥にはまだ部屋があるようだ。
「権藤はいないのか・・」
「おい金太、どうするんだよ」
「権藤がいないのなら、引っ張り出すまでさ。拳一、お前はここにじっとしていろよ」
「おい、相手は10人くらいいるぞ」
「ケガしたくないなら、ここにいろ!」
金太の気合の入った姿に、拳一は少し圧倒された。
金太はガラッとドアを開けて中に飛び込んでいった。


え、陵辱まだですかって・・

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