今回は完全に学園モノと化していますね・・。
登場人物
金太君です。
権藤大三郎です。
大河原。権藤の舎弟らしく、以前金太を陵辱したこともある。
次の日から、本格的な部活動が開始された。
軽い柔軟体操を行った後、1年生は2年生を相手に受身の基礎稽古を行う。
もっとも、2年生は5名ほどしかいなかったため、相手がいない場合は1年生同士で相手になっていた。
しかし、金太は初めての部活動なので、一体なにをどうしたらよいのか分からない。
ポツンと1人取り残され、キョロキョロと周りを見渡す。
そんな金太に、地響きのような怒声が飛ぶ。
「おい、白金! てめーなにやってるんだ!」
主将の土門の声だ。
「ス、スミマセン・・」
「なにやってるのかって聞いてんだよ。部活は遊びじゃねーんだぞ!」
そういうと、土門は肩に竹刀を乗せながら、ゆっくりと金太に近づく。
そして、金太のわき腹を竹刀で叩きつけた。
「ぎゃああ!」
道場に響く竹刀の軋む音。
金太は、わき腹を押さえたまま、うずくまる。
「白金、早く立て! 俺が相手してやる!」
「ううっ・・」
「俺様が相手してやるって言ってんだ。ボケッとしてんじゃねぇぞ!」
そういうと、土門はうずくまる金太の髪の毛を強引に掴み、そのまま中央の畳にズルズルと引きずり出した。
──後輩を服従させる方法。
土門は、その方法を心得ていた。
先輩後輩の関係で、重要なのは最初の一撃なのだ。
竹刀での一撃は、1年生全員に対する先制攻撃とでも言おうか。
(ヘッ。この竹刀で白金はかなりビビッたはずだ。さらに周りの1年生も凍り付いてるはずだぜ)
それが証拠に、土門の周囲は異様に静まり返っている。
その雰囲気を見て、満足気にニタッと笑う土門。
"主将"という圧倒的な権力で、まずは場を支配する。
これが土門のやり方だった。
(ヘヘッ。さっそくだが、白金に俺流の先輩後輩の関係ってヤツを教えてやるぜ。
まずは、お前の美味しそうな体をじっくり触ってやるか。先輩には絶対服従だからな。
お前は全員が見ている前で、俺の愛撫を受け続け、たっぷり恥をかくがいい。
もし、俺を脅かすほどの実力があるようならば、そのままリョウジョクして追放してやる。
春風中に俺以外の実力者は必要ないんだからな)
「さぁ白金、早く立つんだ」
芋虫のように転がる金太を急かすように、土門は竹刀で畳をドシドシと叩きつける。
「うくっ・・」
(ヘヘッ。痛さを耐えている顔も、なかなか可愛いぜ、白金くんよ)
金太はわき腹を押さえながら、なんとか立ち上がる。
土門は余裕の笑みを浮かべながら、金太に尋ねた。
「おい、白金。お前は部活が初めてだと言っていたが、柔道暦はあるのか?」
「・・・は、はい。春風小の柔道大会で、『4年連続で準優勝』でした」
その言葉を聞いて、土門はけげんな顔をする。
「俺はな、柔道をしたことがあるのかって聞いてるんだ。小学生時代の武勇伝なんて聞いてないぜ」
「スミマセン。柔道暦は6年です・・・」
「ほう。では、柔道日本一を目指す白金くんの実力を試してやろうじゃねーか。どっからでもかかってきな!」
土門は竹刀を取巻きの一人に渡すと、そのまま身構える。
土門が構えに入ったのを見て、金太も反射的にカッと目を見開き、そして構える。
「あの・・土門主将、本気でやってもいいんですか?」
「何度も同じこと言わせるんじゃねーよ。早くかかって来い!」
「よ、よろしくお願いします!」
金太は、痛みの走るわき腹にグッと力を入れて、呼吸を整える。
道場の中央で対峙する土門と金太。
(ヘーヘヘッ。まずは白金の実力をチェックだぜ!)
口元を軽く緩ませ、含み笑いをする土門。
2年生たちは、なぜか全員顔面を蒼白にさせている。
<また始まったぜ・・・>
<恒例の生贄だぜ・・あれ・・・>
<白金ってヤツ、すぐにギブアップして、土門主将に従えばいいんだけど・・>
その言葉を聞いて、大河原が2年生に尋ねる。
「ねぇ先輩、恒例の"いけにえ"って何ですか?」
「土門主将は、新入部員の1人を全員の前で徹底的に潰すんだ。
いや、潰すというか・・その・・見ていれば分かる。寝技しながら精神的に追い込むんだ」
「寝技?」
「ここだけの話、土門主将にはちょっと変わった趣味があるとしか思えないんだけどね。
ホラ、わざと道場の中央で目立つようにやっているだろ?
土門主将は、相手を寝技でねちっこく触るんだ。全員の前でそれをやられたら、もうトラウマさ。
強くてプライドの高いヤツほど、屈辱になる。
昨年も、俺たちの中で一番実力のあったヤツは、生贄にされて、次の日に柔道部をやめちまったんだ。
土門主将は自分に服従しないヤツは許さないからさ」
「ほ、本当ですか?」
「あぁ。白金ってヤツ、もし実力とプライドがあるなら潰されちまうかもな・・」
土門の真意を知った大河原は、権藤の所へ急いだ。
大河原は権藤の元に駆けつける。
権藤は不敵な笑みを浮かべながら、土門と金太に鋭い視線を送っていた。
「権藤さん、大変です!」
「どうした?」
「土門主将のヤツ、白金をこの場で潰すつもりです!」
「へぇ・・」
「助けなくていいんですか? このままじゃ白金が・・・」
その言葉を聞いても、権藤はいつも通り沈着冷静なままだった。
「たしかに、土門ってヤツはいけ好かねーぜ」
「えっ?」
「キンタを全員の前で喰うつもりだろ」
「喰うって・・」
「そう、リョウジョクだ。土門の目を見れば分かるぜ。だが俺とは全く違う目だ」
「どういう意味ですか?」
「あいつのリョウジョクは、言ってみれば"手当たり次第"だ。悪意たっぷりのな。
しかし、土門もとんだ食わせ者だぜ。まさかそういう趣味があるとはな」
権藤の的を射た発言に、大河原は驚く。
「じゃ、どうすれば・・・」
「たしかに土門は県下一の強さだ。並の1年生ならどうにもならないが、キンタなら・・これからおもしろいことが起きるぜ」
「えっ?」
「黒帯野郎がどこまで強いのか、ゆっくり観戦と行こうじゃないか」
権藤はいつものせせら笑いを浮かべて、道場の中央に視線を向けた。
道場の中央で、睨みあう土門と金太。
「さぁ、白金! さっさとかかってこい!」
土門は、余裕で構えを取る。
2年前に春風小学校の大会で、金太に惨敗を喫した土門。
しかし、いまは状況が違う。
2年間、必死に努力して黒帯を取った。
金太よりも体はひと回り、いや、ふた回りは大きい。
たかが1年の坊主に負けるはずがない。
(白金のヤツ、正面から向き合うと、思ったよりも体がでかいな。
しかし、見れば見るほど真面目で硬派な男だ。それが余計に食指をそそるぜ。
コイツ、触診されたらどんな反応をするんだ? こういうヤツほど触られた時のショックはでかいからな。
俺のテクニックの前に、たっぷり悶えるがいい。
全員の前で喘ぎまくって、さぞトラウマに打ちひしがれるがいいさ。
お前の柔道など、中学では通用しないことを教えてやるぜ。ハーハハッ)
──フッと土門が息を抜いた瞬間。
「とりゃーーーっ!」
金太は片足を畳に擦り付けて、その反動で一気に土門の懐へ駆け込む。
(は、速い!)
一瞬のことだった。
「ウゲッ!」
道場全体が揺れるかと思うような、巨体が畳に叩きつけられる音。
金太は、土門の懐に飛び込んだかと思うと、一気に背負い投げで畳に叩きつけていたのだ。
シーンと静まり返る道場。
一体、なにが起こったのか、全員が口を開けたまま呆然としていた。
「うっ・・げっ・・」
受身を取り損ねて、頭から畳に落ちて失神している土門。
ジュボジュボ・・・。
土門の股間から、透明な液体が畳に浸透している。
「一本、決まりだぜ! おまけにションベン付きだな! アーハハッ!」
(ご、権藤!?)
金太が初めて聞く、権藤の少し興奮気味の声。
一気に騒然となる場内。
<土門主将、小便漏らしてるんじゃねーのか?>
<まじかよ!?>
2年生たちのコソコソ話を遮るように、取巻きの3年生たちが、大慌てで一斉に動き出す。
「ど、土門主将、大丈夫ですか!」
小便を漏らして失神する土門を、必死を解放する取巻きたち。
土門は白目を剥いて、全く反応しない。
軽い脳震とうを起こしているようだ。
(信じられない・・・白金太郎にこれほどの実力があるなんて・・。
主将が必死に稽古した2年間で、白金はそれ以上に強くなっているというのか・・!)
取巻き連中は全員、1年生である金太の桁外れの強さに驚愕する。
しかし、このままでは柔道部の示しがつかないことは、明らかだ。
取巻き連中は、立ち上がって金太を睨みつける。
<おい白金、なにやってんだよ!>
<土門主将が手を抜いてやってるのに、本気でやりやがって!>
<1年坊主が技をしかけるんじゃねーぞ!>
金太に浴びせられる容赦のない罵倒雑言。
「そ、そんな・・土門主将は本気でやれって・・」
しかし、そんな金太の弁解が受け入れられるはずがない。
<白金、この落とし前は明日つけさせてもらうからな!>
<土門主将を保健室に運べ!>
<とりあえず、今日は解散だ!>
そういうと取巻き連中は、失態を見せた土門を、保健室へと運んでいった。
・
・
3年生たちが土門を運んでいなくなると、道場はシーンと静まり返る。
金太は道場の中央で、なにをどうしたらよいのか分からず、呆然と突っ立っていた。
(俺、主将の土門さんを投げちまった・・・これでよかったのかな・・?)
なにか釈然としない気持ち。
そんな金太の前に、ゾロゾロと2年生たちが集まる。
「おい、白金?」
「は、はい」
「お前、とんでもないことしてくれたな」
「えっ・・?」
なぜか2年生は金太を敵視するような、鋭い視線を送っている。
「お前のせいで、明日からの稽古がどうなるか・・俺たちまで、とばっちり喰らうのはゴメンだぜ!」
「ど、どういう意味ですか?」
「お前1人で全ての責任とれよ。俺たちは何も見ていなかったことにするからな」
「・・・・」
そういうと、2年生たちは全員プイと横を向いて道場を後にした。
冷たい視線だけが、金太の脳裏にこびりつく。
(どうなってるんだ・・俺は間違っていたとでもいうのか・・・)
2年生の言葉に、金太は動揺せざるを得ない。
金太が周りを見渡すと、先ほどまでいた権藤たち1年生の姿も見えない。
(どうしたんだ・・? なぜ誰もいなくなっちまったんだ・・権藤は・・?)
金太の周囲は、ただの冷たいすきま風。
シーンと静まり、金太の短い前髪を、無常に揺らしているだけだった。
誰か1人でも、金太の背中を叩いてくれる仲間がいれば、どんなに心強いだろう。
そして、安心できるだろうか。
(権藤・・・お前までどこいっちまったんだよ。俺、なにか悪いことしたのか・・?)
もしかしたら、権藤だけは自分の背中を優しく叩いてくれるのではないか・・。
土門を投げたときに、かけ声をだしてくれた権藤ならば、自分の行為を理解してくれるんじゃないか・・。
そう思ったとき、金太はなにか無性に寂しさを感じていた。
(俺は、権藤になにを期待してるんだ・・。あんな野郎を求めちゃいけないはずなのに・・)
金太は首をふって、権藤を求めたことを訂正しようとする。
(クソッ、俺は今までだって1人でやってきたじゃないか。絶対に負けるもんか・・!)
金太は言いようのない寂しさをグッと堪えて、1人帰途についた。
相変わらず話が進んでないですよね・・。