かなり長編となりましたが、今回で終了です。長い間、ありがとうございました。
登場人物
金太君です。
権藤大三郎です。
大河原。以前は権藤の友人だったらしい。
──それから一週間後。
金太は土門から受けた傷を癒すために柔道部を休んでいたが、
ようやく一週間が経って、復帰することになった。
久しぶりに道場に入ると、なにやら雰囲気がいつもと違う。
ピリッとした緊張感がない、とでも言おうか。
入り口の近くに、顧問の山根先生がおり、なにやら金太のことを呼んでいる。
山根先生は、見覚えがある2年生を横に従えていた。
「白金くん、先週から新しい主将を勤めている2年生の足立くんだ。主将のいうことをきちんと聞くように」
(えっ・・!?)
金太は困惑した表情する。
そして、思わず言葉が出ていた。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「白金くん、どうしたのかね?」
「あの、土門主将はどうしたんでしょうか?」
「あぁ。彼ね。彼は一週間前に自分から退部するといってね。他の3年生もだ。私はこれで失礼するよ」
そういうと先生は、まるで柔道に興味がないように、そそくさとその場をあとにする。
(なんだ、一体どうなっているんだ・・)
金太は心の中にモヤモヤを残したまま、稽古を続けていた。
「よーし、今日はこれで解散な。あとは適当に練習してくれよ。俺は帰るからな」
まだ練習時間が終わっていないというのに、解散の号令がかかる。
やる気のない弛んだ声だった。
「主将! 待ってください!」
金太が大声をあげる。
「どうした、白金?」
「まだ練習時間があるのに、どうして終わりなんですか。こんなことじゃ全国大会に行けないんじゃ・・」
金太の発言に対し、新しい主将はお腹を押さえて笑い出した。
「あはは、白金。お前なにを言ってるんだよ。このメンツで全国なんかいけるわけないだろ?」
「そ、そんな・・。初めからあきらめちゃ、なんにもできないじゃないですか!」
「土門さんがいなくなって、せいせいしてるんだ。一番喜んでいるのは白金、お前だと思っていたんだが?
なぁ、これからは大いに部活をエンジョイしようじゃないか」
新しい主将の言葉に、金太の顔つきがみるみる変わっていった。
体を震わせて怒鳴る。
「お、俺は喜んでなんかいない。俺は全国を目指したいんだ!」
「なにを興奮してるんだよ。和気あいあいとやればいいじゃないか。
楽しめればいいんだ。それとも俺の命令が聞けないのか?」
「こんなの・・柔道じゃない!」
金太の怒声に、周りから2年生たちが集まってくる。
<全国大会だってさ、笑わせるよな>
<ちょっと柔道が強いからって調子に乗ってるんじゃねーぞ>
<柔道なんて、適当に汗流せればいいんだよ>
2年生たちの言葉に、金太の目が吊りあがっていく。
「俺は調子に乗ってなんかいない。先輩たちには目標がないんですか!」
「おい白金! いきなりチームワークを乱そうっていうのか!?」
「くっ・・」
いきなりの対立ムードに、道場はシーンと静まり返る。
新しい主将の言葉に、語気を荒立てる金太。
道場での睨み合いが続く中、1人の男が金太の手を握った。
そして、気が抜けるような猫なで声を出す。
「足立主将。コイツぅ、なんでも真面目に考えちゃうんで、今日のところは許してやってくださいね〜!」
そのまま金太の手を引っ張る。
(お、おい・・大河原!?)
(白金、いいから、ちょっと来い!)
大河原は、金太を腕を引っ張ると、そのまま入り口近くに集まる1年生の輪の中に入れた。
元青空第二小のメンバーたちに囲まれてしまった金太。
なにやら、金太を睨みつけるような視線に満ちている。
(まさか・・コイツら権藤が退部になったことで、俺のことを恨んでいるのか・・)
金太の額に嫌な汗が流れ落ちる。
そこへ大河原が話しかけた。
「おい、白金」
「な、なんだよ・・・」
「ありがとうな」
「えっ?」
大河原の予期せぬ言葉に、困惑してしまう金太。
「権藤さんが東京に引っ越した夜さ、ここにいる全員に電話があったんだ。
俺たちびっくりしたよ・・。だって権藤さん、電話越しに泣いていたんだから。
いままでリョウジョクしたり、暴力を振るったことを許してくれって謝まっていたよ。
お前が権藤さんを、昔の優しかった権藤さんに戻してくれたんだな」
「権藤が・・本当か?」
「だから、俺たちは全員で決めたぜ。元青空第二小柔道部員は、これから白金太郎についていく。
白金と一緒に全国大会を目指す。お前と一緒に柔道をやりたいんだ。
これは俺たちの意志であると同時に、権藤さんの意志でもあるんだ」
「権藤の意志・・?」
「そうさ。権藤さんは東京で柔道を続けると言ってた。俺たちは権藤さんと戦いたい」
「大河原・・・みんな・・!」
金太の周りから、声がかかる。
<白金、以前は権藤さんと一緒に、お前をリョウジョクして悪かったな。許してくれ>
<いままで無視して悪かったな。ごめんよ>
<お前は権藤さん並に強いから、頼りにしてるぜ>
<俺たち1年生のリーダーになってくれ>
その声は、金太の心に勇気と希望を与えてくれた。
金太は顔を赤くして照れながら、やんわりと全員に話しかける。
「ありがとう。でも、俺は部活の経験がないし、どうやってみんなを引っ張ったらいいのか分からない。
俺には、みんなのリーダーになる自信も資格もない」
そんな迷いのある金太に、大河原が話しかける。
「おい、白金。別にリーダーになるのに資格なんていらないんだ。
俺たち全員がそう望んでいるんだ。柔道を最も愛しているお前なら適任だぜ。俺も手伝うからさ」
「分かったよ。俺は全国大会に行きたい。その気持ちはみんなと一緒なんだ。
だから、みんなでがんばろう。稽古して強くなろうぜ! そして全国だ! 1人も欠けちゃダメだぞ!」
金太は、そういうと手の甲を差し出す。
その手の上に、元青空第二小の部員全員の手が次々に重なっていく。
「みんな、ありがとう。俺、うれしいよ・・」
金太はグッと涙を堪えながらも、その表情は晴れやかなものだった。
金太はそこにいる全員に向かって尋ねた。
「ところで土門主将はどうしてやめたんだ・・? 大河原、なにか知らないのか?」
「いや・・その・・」
なぜか全員が、気まずそうに下を向いてしまった。
「大河原、なにか知っているんだな。俺に隠さずに話してくれよ!」
すると、大河原は気まずさを隠すように、ゆっくりと顔をあげた。
「分かったよ・・。白金が土門さんにリョウジョクをされたとき、顧問の山根先生が来ただろう?
先生はずっと柔道部を土門さんに任せていたが、薄々は土門さんが何をしているか分かっていたんだ。
そして先生は、あの現場で白金が裸にされて嫌がらせを受けているのを目撃した。
さらに、俺の持っているブツでさらに確証を得た。
先生に自分の行為を知られた土門さんは、自ずから柔道部をやめてしまったんだ」
「その"ブツ"っていうのは・・?」
「あぁ。実は・・これ・・」
そういうと、大河原は写真のネガを金太の前に差し出した。
「ん? なんだ・・?」
金太が天窓の光越しに、写真のネガをみると・・。
そこには土門とその取巻きたちが金太を陵辱したときの写真が収められていた。
「ど、どうして、こんなものがあるんだ・・!」
「お前が土門さんからリョウジョクされているとき、俺と権藤さんは入口から様子を伺っていたんだ」
「な、なんだって・・!」
金太は額に汗を掻きながら、大きく目を見開いて、ネガを見ていた。
「大河原、これはお前を撮影したのか・・?」
「そうだ。権藤さんは、でかい体してるけど、あれでなかなかの策士なのは知っているだろう?」
「あぁ・・」
「権藤さんはずっと考えていたのさ。土門さんたち3年生を、一斉に柔道部から追放する方法を。
それが汚いやり方だったのは否定しない。白金をダシに使うような真似をしたんだから。
でも、それはすべて白金、お前のためなんだ」
「そうか・・。だいたい分かったよ。お前がこの写真を先生に渡したんだな。
権藤のヤツ、俺を助けもしないでこんなことを・・」
その言葉に、大河原は憤然とした様子で切り返した。
「バカヤロウ、権藤さんは助けたじゃないか!」
「でも、見ていたなら、どうしてもっと早く助けてくれなかったんだ」
「権藤さんは、俺に顧問の山根先生を呼びにいかせたんだ」
「ええっ? 先生を呼んだのは権藤だっていうのか!?」
「そうさ。権藤さんは計算していた。土門さんのリョウジョクをする姿を写真に収めた後、
顧問の先生に現場を押さえてもらおうとしたんだ。でも、たった1つ計算を間違えたんだ」
金太は大河原の言っている意味が分からなかった。
「計算を間違えたって、どういうことなんだ?」
「俺が先生を探すのに手間取ってるうちに、権藤さんは我慢できなくなったんだ。
白金が
「・・・」
「俺は道場についたときに驚いた。権藤さんが、あんなに取り乱して、まさか相手を殴りつけるなんて・・。
権藤さんは自分の感情まで、計算に入れることができなかったんだ」
「そうか・・それであのとき・・」
金太はすまなそうな顔をして、視線を落とした。
そして、しばらく黙っていたが、突然ネガをギュッと握り締めて叫んだ。
「大河原、俺ちょっと出かけてくる!」
「まさか、おい!」
「柔道部はこのままじゃ、ダメなんだ!」
「白金、ちょっと待てって!」
大河原は金太の後を追って、道場を飛び出していった。
──道場から少し離れた、学校の中庭。
大河原は金太を連れて、柔道着姿のまま歩いていた。
「おい、白金。あそこだよ」
「あ、あれは・・」
そこには学生服のまま、木陰で1人居眠りをする土門の姿。
「土門さんはこの一週間ずっと、あーやって1人ぼっちさ。ボケッとして、まるで人が違ったみたいにおとなしいだろう?」
「1人って・・土門さんを慕う取巻きの連中がいたじゃないか」
「柔道をしない土門さんなんて、単なるデクのボウなだけさ。みんな見限ったんだ」
「そんな・・」
「春風中で唯一黒帯を持ち、県下一の強さを誇る土門さんは、みんなの憧れだったらしい。
実際、土門さんに憧れて柔道部に入った人間もたくさんいたそうだ。
でも、あの人は自分の強さを、絶対的なものにしたかったんだ。
だから、ちょっとでも、強くなりそうな芽のあるヤツは、取巻き連中と一緒に潰していった。
2年生と3年生の部員が少なかったのも、そのせいさ。
実力のある部員は、嫌がらせとリョウジョクで、どんどん追い出していったんだ」
「・・・」
「いま土門さんが1人ぼっちなのも、自業自得かもな。
黒帯がない土門さんなんて、もう誰も相手にしてくれないだろうよ」
大河原の話を聞いて、金太は言葉に詰まった。
ゴロ寝している土門をよく見ると、顔の上に柔道の雑誌。
そして、横には黒帯で丸めた柔道着。
1人寂しくゴロ寝するしかない土門に、金太はもどかしい感情が沸きあがった。
金太は手に握っていた、写真のネガを大河原の前に差し出す。
「大河原、悪いけど、このネガを俺に預けてくれ」
「ふう・・・やっぱりそうしたいだな。白金は」
「えっ?」
「お前が何をしたいのか分かってる。さぁ、行ってこいよ。そして、言いたいことを全部言ってくるんだ。
俺たち1年生は全員、お前のすることに文句は言わないさ。
もし、それでも土門さんが動かないようなら、俺たち一年生全員が、土門さんのケツをひっぱ叩いてやるからさ!」
「大河原・・・ありがとうな!」
金太はニコッと微笑み、そのまま土門のもとへと急いだ。
中庭で学生服のまま、ゴロンとふて寝している土門。
その足元に、金太はゆっくりと歩を進めた。
フゥと1回深呼吸をし、真面目な表情で土門に話しかける。
「土門さん」
その声に土門は目を擦りながら、ゆっくりと顔をあげる。
「白金・・・なんでここに・・?」
みっともない姿を晒すまいと、我に帰り急いで立ち上がる土門。
そんな土門を、金太は真剣な目で見つめた。
「土門さん、柔道部に戻ってください」
「えっ?」
「いまの柔道部は魂が抜けたようにバラバラです。強い柔道部を作れるのは、土門さんしかいないんです」
「俺が作る・・?」
「俺は、どうしても全国大会に行きたいんです!」
「なにいってやがる。柔道部から俺がいなくなって、一番喜んでいるのはお前だろーが!」
「そんなことはない・・土門さんは柔道を続けるべきなんだ」
そういうと、金太は腰を曲げて礼をする。
金太の実直な態度に、土門はポカンと口をあける。
そして、困ったように頬を掻きながら話してきた。
「白金・・お前、どういうつもりなんだ・・? もう俺は、お前に礼をされる覚えはねぇ。
それに、俺はお前に散々ひどいことしたんだぞ。恨んでないのか?」
「全く恨んでないといえばウソになる・・。一発、土門さんを殴りたい気持ちだってあります。
でもそれはもう終わったことです。俺はそれ以上に、黒帯の土門さんと一緒に柔道して、強くなりたい。
そして、全国大会へ行きたいんです!」
「全国・・だって・・・?」
金太の真っ直ぐな言葉に、土門は一瞬照れくさそうな顔をする。
しかし、すぐにプイッと横を向いて、ふて腐れた。
「俺がいまさらどの面下げて戻れっていうんだ!?
先生にすべて知られちまったんだ。俺がいままでしてきたことを・・・もうおしまいなんだ」
土門はその場で、頭を抱えてうずくまった。
「土門さん、これがなんだか分かりますか?」
金太は、右手にもっていたネガを土門に見せ付ける。
「それは・・」
「こんな写真の一枚や二枚で、土門さんが柔道できないのなら、いまここで断ち切ればいい!」
「な、なにする気だ」
「こんなもので、土門さんが柔道をやめる必要なんてないんだ!」
金太はもっていたネガを、その場でビリッと破り捨てた。
跡形もなく破られた写真のネガ。
まるで白い粉雪のようになった紙切れを、土門はしばらくの間、ボーゼンと見つめていた。
金太は、土門の瞳を見つめながら話しかける。
「土門さん、柔道好きなんですよね?」
「フン、別に・・」
「じゃ、なぜいまここに柔道着を持っているんです? 黒帯を大切に持っているんです?」
「・・・・」
「土門さんはどうして黒帯を取ったんですか?」
「う、うるせーっ!」
「黒帯を取ったとき、どんな気持ちだったんですか?」
「・・・」
「どうして自分の気持ちをはっきり言えないんですか!」
「き、貴様っ!」
「土門さんは黒帯を見せびらかしたかっだけですか? 黒帯を床の間の飾り物にでもするつもりだったんですか?」
「てめーっ!」
土門は、金太の柔道着の襟を掴みあげる。
そして、金太の顔に唾がかかるような勢いで、怒声をあげた。
「そんなわけないだろ! 俺はお前に負けてから、ずっと練習してきた。血ヘドを吐くくらいがんばったさ。
その努力の結晶が、黒帯だ。黒帯は俺の命の次に大切なものだ。
俺は誰にも負けたくない。全国大会で優勝だってしたいさ・・!」
「それは俺も同じなんです! その気持ちがあるなら、俺と真剣に柔道できるはずです!」
「ううっ・・」
金太の言葉に、土門はグッと唇を噛みしめる。
土門は金太の言葉に瞼を閉じた。
そして、拳を震わせながら、金太に少し荒い声で話した。
「俺のプライトが許さなねーんだよ。いまさら柔道部に戻れるかっ」
「プライドって・・。柔道をするよりも大切なことなんですか!」
「だ、黙れ、このスットコドッコイが!」
「いい加減にしろ! プライドだか黒帯だか知らないけど、柔道をするのにそんなものは必要ないんだ!」
金太の突然の怒声に、一歩後退する土門。
その様子をみた金太は、地面を思い切り蹴って、その反動で土門の懐へ飛び込む。
そのまま土門のYシャツの襟を掴み、一気に背負い投げの体勢に入った。
「お、おい、白金」
「とりゃーーーっ!」
金太が土門を投げようとした瞬間。
「甘いぜ、白金! もうその背負い投げは食らわないぜ!」
土門は足を引っ掛けて、キッチリと防御していた。
「ヘヘッ。残念だが、俺は伊達に黒帯じゃないんでな」
「なにが黒帯だ! 今の根性のない土門さんに、俺の投げは止められない!!」
金太は防御する土門を無視して、襟をさらに強く握り直す。
「なに!?」
「柔道部に戻る勇気もない、根性なしがぁぁっ!」
金太は全身の血液が集まったかのように、顔を真っ赤にする。
そして、強引に背負い投げに持っていった。
「う、うわぁぁぁぁ! おい、白金、やめろ!」
・
・
「ハァハァ・・・」
「ふぅ・・はぁ・・・」
草むらの中に、荒い息遣い。
天を向いてバッタリと倒れている2人。
「ハァハァ・・白金、お前はムチャクチャするな」
「だって・・・」
「俺は、やっとお前のことが分かった気がする。一週間、俺の嫌がらせを受けても、お前が柔道を続けていた理由が。
お前は本当に柔道が好きなんだな・・。俺なんか、足元にも及ばないぜ・・・」
その言葉に土門はフッと微笑むと、よっこらせと言いながら立ち上がる。
そのまま仰向けに倒れている金太のお腹の上に、またがった。
「重量級の俺が乗っかってもビクともしねぇ。1年坊主のくせにたいした腹筋だな」
「俺の体は、あのとき全部調べたじゃないですか」
「ハーハハッ。それは違いねぇ!」
土門は豪快な笑いをしていたが、やがて真剣な表情になる。
上から金太の両肩をギュッと掴む。
「白金、お前の言うとおりだ。俺は柔道が好きだ。
柔道ができなくなって初めて分かった。俺は柔道なしじゃ生きていけない男だ・・」
「土門さん・・」
「俺は柔道部に戻りたい・・もう一度やり直したいんだ・・」
「ほ、本当ですか?」
「あぁ。お前にはずいぶんとひどいことをしたな。すまねぇ。
俺は2年前の大会でお前に負けたことが悔しくて、あんなくだらないことをしちまった。
それに、黒帯を取ったときに、周りの連中からチヤホヤされてよ・・。
みんな、俺に一目置くようになったんだ。俺はその居心地の良さを守りたかった。
今考えてみれば、本当にくだらねぇことさ・・。黒帯よりも大切なものがあったのによ・・。
俺は主将の器なんかない、小さな男さ。それでも、いいのか?」
「土門さんはみんなを引っ張っていく力がある。それから、どうせ謝るんなら、上から見下ろさないで・・・」
「ワハハハッ。お前、言うようになったじゃないか」
「ええ。土門さんに鍛えられましたから」
「白金。悪いが立ってくれないか」
そういうと、土門は金太の手を引っ張りあげ、お互い向き合った。
目と目が、真剣にぶつかり合う。
「白金、俺はケジメつけるぜ。いままでずっと横暴を繰り返したことへのケジメだ。俺の顔を思いっきり殴れ」
「で、でも・・」
「デモもヘチマもねぇ。そうしないと俺の気が済まねぇんだ」
その言葉に、金太はしばらく黙っていたが、土門の瞳を見て決意する。
「分かりました。じゃ、思いっきり殴る・・」
そういうと、金太は渾身の力で土門を殴り飛ばした。
「ぐはっ!」
土門は、数メートルはもんどりうって、吹っ飛んだのであろうか?
殴られた頬を押さえながら、土門はゆっくりと立ち上がる。
「ヘヘッ。効いたぜ、今の一撃。いままでの、お前の恨みつらみがすべてこもった拳だ。
俺の腐った精根をすべて吹き飛ばすようなパンチだったぜ」
「恨みだなんて・・」
「これでお前に対して行った過ちが、すべてが償われたとは思わない・・。
でも、もし先生と柔道部のみんなが許してくれるのならば、俺はもう一度柔道に打ち込みたい。
そして、お前のために俺の1年間をすべて使ってやる。お前を全国大会に必ず連れて行くためにな。
それが、俺の目を覚ましてくれた、お前へのせめてもの礼だ」
「土門さん・・」
「俺はこれから先生の所にいって、いまの俺の気持ちをぶつけてみる。
先生とみんなが許してくれるまで、土下座もする。プライドも捨てる。顔を地面に擦り付けてでも、柔道を続ける」
「土門主将・・!」
「俺は主将じゃないぜ」
そういうと、土門は金太の肩をギュッと握り、悠然とその場を立ち去った。
金太は、そんな土門の後姿に深々と礼をした。
(権藤・・・俺は土門主将とお前の残してくれた仲間たちと、絶対に全国大会に行ってみせる。
だからお前も絶対に全国大会に出てこいよ! 俺はもう一度、権藤大三郎と柔道で戦いたい・・会いたいんだ)
金太は顔にはいつもの清々しさが戻っていた。
最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。
金太君小説(第一部)は自分の処女作ともいえるものでした。ラクガキみたいに書いた陵辱小説を「こんなのおもしろいかな?」と興味本位でホームページにアップしたものです。だから今見るとある意味、エッチシーンは欲望丸出しですw また金太君小説(第二部)は、パンツ一丁で柔道するというくだらないアイデアを妄想して膨らませものでした。金太君小説(第三部)は、第二部が非常に好評だったので、権藤×金太の関係に終止符をうとうと書いたものでしたが、結局書ききれずに拳一×金太の友情モノになってしまいました。でも、第三部を書いている途中で、「これは第四部を作れるかもしれない」と思い、権藤の家庭環境などの伏線を入れておきました。
そんな経緯なので、第四部は第一部から読むと、変なところがかなりあるんじゃないかと思います。お見逃しを・・。
第四部にテーマにあるとしたら、友情を求める金太と、愛情を求める権藤の気持ちのすれ違いかなぁと。第四部では、舞台が中学校に移ったこともあり、自分のプチ小説としては珍しくアニメと関係ない新キャラを投入しました。それが土門というキャラクターです。シゴキ陵辱したいという意図もあって入れたキャラですが、土門の陵辱は読んでいて、さぞ胸くそ悪い気持ちになったんじゃないかと思います。土門が悪意の陵辱、権藤が好意の陵辱。金太は悪意たっぷりの陵辱を受けて、権藤のことを考え直しますが、2人とも所詮は陵辱。好意の陵辱と言っても、陵辱自体は好ましいものじゃありません。だから、どんなに愛のある陵辱をしても、金太にはそれが伝わるわけがないんですね。
また、金太は権藤の気持ちを確かめるために、やはり陵辱という好ましくない方法で権藤を説得するのですが、筆者には無骨な金太が権藤を説得する方法はこれしか思い浮かびませんでした。もっといい表現方法があればなぁ・・なんてかなり考えたんですが。
また、大河原というオリキャラが1人いますが、彼を権藤と金太の仲人役にしました。彼は第一部から権藤の舎弟のような存在として登場していますが、今回はかなり活躍してもらいました。権藤と金太は、お互い自分のことを相手に語ろうとしません。金太は硬派、権藤はいわばツンデレ(ヤンデレ?)に近いわけです。自分の中ではそういうキャラクターです。だから、誰かが仲介してあげないと、永遠に2人は分かり合えないと思い、大河原に仲介してもらいました。
さて、長かった金太君小説はここで終わりです。このあと金太と権藤はどうなるのか? それは読者様のご想像にお任せします(^^;。どういう話でもアリだと思うんです。金太は権藤のことを永遠の柔道のライバルとしてみるという展開もアリだし、権藤とは2度と会わないかもしれないですし。いろいろと妄想していただければ幸いです。