金太君小説(第5部) (10)


なかなか先が見えなくてスミマセン。


登場人物

白金太郎。愛称「金太」。春風中学校2年生で柔道部の主将。後輩である南条隼人を育てたいと考えている。

権藤大三郎。現在は東京に引っ越しており、明法大付属中の2年生で柔道部に所属。金太のことが好き。

南条隼人なんじょうはやと。春風中の1年生。柔道部で金太の後輩。金太は単なる憧れ?


──金太の家。
春風中から15分ほど歩いたところにある一軒家だ。
金太は母親に、隼人のことを紹介しようとしたが、まだ仕事から戻ってきていないようだ。
そのまま2階の自分の部屋に隼人を招いた。
「南条がくると思っていなかったから、全然掃除してないぜ。
  ちょっと汚い部屋だけど、母ちゃんが帰ってくるまで、ここでガマンしてくれ」
金太の部屋は古風な畳部屋で、いかにも昔からの日本の家屋といった感じだ。
勉強机と布団が部屋を占有しているためか、自由に動ける空間は思ったよりも狭い。
しかし、机の上はきちんと整頓されており、金太が言うほど部屋が散らかってはいない。
柔道では律儀な性格の金太のことだから、部屋の掃除もきちんとしているんだろうなと、隼人は思った。
隼人がキョロキョロと興味深く部屋を見渡していると、金太が呼びかけた。
「南条、シャワー浴びてこいよ」
「いえ、先に白金主将が入ってください。オレ、そのあとに浴びさせてもらいます」
「そうか? じゃ、先に浴びるから待っててくれ。柔道の雑誌でも見てろよな」
そういうと、金太は汗でたっぷりと濡れた柔道着を脱ぎながら、部屋を出た。


1人っきりになった隼人。
しばらくボケッと部屋を眺めて見る。
これといった趣味がないのか、隼人が興味を引くものはない。
壁にアイドルのポスターが貼られているわけでもない。
ただ机の上には教科書や参考書が並べてあり、
 隣には、柔道の雑誌が重ねられていることから、家でも柔道のことを考えているのだろう。
(白金主将って、どこまでも柔道が好きなんだなぁ。
  だからこそオレの憧れ・・。そうだ、主将がいないうちに、ちょっとだけ・・えへへ)
他人の部屋で1人きりになると、むしょうに何かを探って見たくなる。
見えないところに意外なものが隠れていそうだから。
時間を持て余した隼人は、ほんの少し緊張しながらキョロキョロと部屋を探ってみる。
机の下を恐る恐る覗いて見るが、なにもを落ちていないようだ。
(白金主将は本当に真面目なんだな・・。エロ本とか読まないのかな・・?)
隼人は布団をジッと眺めると、自然に頬が緩んだ。
(白金主将は、この布団で寝ているのか・・)
隼人は、掛け布団を持ち上げて、コソコソと布団に入ってみる。
そのまま目を閉じてふぅっと息をついて、布団の感触を味わう。
そして、枕の匂いを嗅いでみる。
(えっへへ・・白金主将の匂いがする・・。汗臭いけど、オレにはすごい気持ちよくて、ドキドキする匂い・・)


しばらく仰向けになって、隼人はぼんやりと天井を見つめた。
(白金主将は、毎日この天井を見て寝てるんだ。
  横を向くと窓があって陽が入ってきて、その横には勉強机があって・・。
  オレの部屋とは違って、あったかい部屋だなぁ。いいなぁ・・。
  この布団、とっても気持ちいい・・。なんか不思議な気持ちだ)
隼人は、ムクッと起き上がる。
今度は勉強机に座って見る。
(参考書とノートがたくさんあるなぁ。横には柔道の雑誌があるから、暇なときに読んでいるのかな。
  白金主将って、柔道だけじゃなくて、勉強もしっかりとしてるんだ。オレも見習わなくっちゃ)
隼人は、ふと勉強机の、一番右上の引き出しをそっと開ける。
(ん? なんだこれ・・?)
そこには、綺麗に折りたたまれた、たくさんの手紙のようなものが積まれていた。


机の引き出しの中に、積まれたたくさんの手紙。
封筒と真っ白な手紙が別々に綺麗に折りたたんであり、重ねられている。
その引き出しの中だけ、きちんと整理されていることから、大切なものが入っているように見えた。
隼人は、その一番上にある封筒をそっと手にとって見る。
<白金太郎様へ>と書かれた封筒。
封筒の中身は、空っぽのようだ。
何気なく、その裏の差出人を見た瞬間、隼人は大きな目をさらに見開いた。
<権藤大三郎より>
(ご、権藤大三郎だって・・!!)
隼人は思わず、ゴクリと唾を飲み込んだ。
(権藤大三郎って、まさか白金主将のライバルの権藤大三郎さんからの手紙ってこと・・?
  白金主将は、権藤さんとは知り合いでもなんでもなくて、ただのライバルだと言ってた。
  なのに、どうして権藤さんからの手紙があるんだろう・・?)
嫌な予感がした隼人は、積み重ねられた封筒をまとめて取り、すべての差出人を確認する。
(これも権藤さんから・・これも・・全部そうじゃないか。
  どうなっているんだ・・。白金主将と権藤大三郎さんって、本当は手紙でやりとりをしている仲だったのか・・)


隼人は封筒を元の位置に戻すと、今度はその隣にある手紙に腕を伸ばす。
(権藤大三郎さんからの手紙・・・なにが書いているんだ・・?)
隼人は、一番上にあるまだ綺麗な手紙をそっと手に取る。
緊張で手を震わせながら、その手紙を開いた。
そこには、ボールペンで書かれた丁寧な筆跡。
『金太へ。
  何度も手紙を書いてゴメン。
  ずっとお前からの返事がなくて、心配してるんだ。
  まさか俺のこと、嫌いになっちまったのか? 俺の気持ちは変わっていない。時間のあるときに返事が欲しい』
そこまで読んで、隼人はもう一度ゴクリと唾を飲み込んだ。
<俺のこと、嫌いになっちまったのか?>
<俺の気持ちは変わっていない>
その言葉が、隼人の頭の中で何度も繰り返された。
(『金太』って誰のことだろう? もしかして白金主将のことを言ってるんだろうか?
  それに『嫌いになっちまったのか』とか『気持ちが変わっていない』ってどういう意味なんだ・・?
  まるで恋人同士のような会話だ・・どういうことなんだ・・)
なにやら心の中がざわざわとする。
隼人はさらに視線を下ろして、文章を読み進めていく。


「おい、南条! シャワー終わったぞ〜!」
(ヤバッ!)
階下からの突然の声に、隼人は口から心臓が飛び出そうなほど驚いた。
急いで、手紙を元にあった場所に戻して、引き出しを閉じる。
そして机から離れて、畳にゴロンと横になる。
いわゆるタヌキ寝入りってヤツだ。
「おい、南条、どうしたんだ?」
金太がガラッと扉を開けると、そこには横に寝転がった隼人の姿。
疲れて寝てしまったのかなと、金太は一瞬思った。
「南条、寝てんのか? 早くシャワー浴びて来いよ。汗でびしょびしょだろ?」
「あ・・ハ、ハイ・・」
「疲れてるのは分かるが、先にシャワー浴びたほうが気持ちいいぞ」
隼人は無言ですっくと立ち上がると、金太と視線を合わせずに部屋を急いで出る。
しかし、扉を出たところで立ち止まり、金太に恐る恐る尋ねた。
「あの・・白金主将・・?」
「どうしたんだ?」
「『金太』って、白金主将のことですか?」
「な、なんだよ、急に」
「・・・」
黙ってしまった隼人に対し、金太は不審に思ったがそのまま返事をした。
「そうだよ、俺の名前は「白金太郎」だろう?
  真ん中の文字をとって「金太」ってあだ名なんだよ。昔からの友達はみんなそう呼んでるぜ。
  ちょっと恥ずかしいニックネームだけど、俺はけっこう気に入ってるんだ」
「昔からの友達・・」
「それがどうかしたのか?」
「な、なんでもないッス!」
隼人はドシドシと物凄い音を立てて、階段を下りていった。
(なんだ、南条のヤツ・・? そんなに慌てなくてもいいのにな・・)
疑問に思った金太だったが、まぁいいやと寝転がった。




シャワーから大量の水が流れ、床のタイルに反射しては消えていく。
(ウソっす・・・信じたくないッス・・。
  白金主将がオレにウソをついていたなんて、絶対にありっこないッス・・)
隼人は、シャワーを顔面で滝のように浴び続けていた。
風呂場の壁に両手をついて、うなだれる。
(ううっ・・)
全身から、ただ水が滴り落ちる。
金太は以前に隼人に話した。
権藤大三郎とは、ただのライバルで特に知り合いでもないと。
しかし、手紙は間違いなく権藤大三郎からの手紙だ。
(あの手紙の先には、なにが書いてあったんだろう。気になる・・。
  白金主将と権藤大三郎さんって、一体どんな関係なんだろう? 好きとか嫌いとかなにか深い関係とか・・。
  いや、きっとオレが考え過ぎなんだ。単なる昔からの友達なんだ・・。
  よく考えれば、柔道のライバルならば、少しくらい手紙でやりとりをしていても、おかしくないじゃないか・・)
隼人は、心が落ち着かないまま、何度も深い溜息をつく。
そのまましばらく目を閉じて天を向き、シャワーに浴びながら立ちすくんだ。


次回をお楽しみに(←ォィ)

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