金太君小説(第5部) (12)


隼人のとんでもない行動に金太は・・?


登場人物

白金太郎。愛称「金太」。春風中学校2年生で柔道部の主将。後輩である南条隼人を育てたいと考えている。

南条隼人なんじょうはやと。春風中の1年生。柔道部で金太の後輩。金太は単なる憧れ?




「ううっ・・ごめんなさい・・」
隼人はいまにも泣きそうな表情で、畳の上に正座をしていた。
太ももの上の拳をギュッと握ったり、緩めたりして。
隼人は自分のしてしまった行為が、最低であることは分かっていた。
他人のパンツを脱がして、おちんちんを舐めるなど、無礼にもほどがある。
しかも、それが一緒に練習をしてきた柔道部の先輩であり、尊敬すべき金太に対してなのだ。
だから、金太に罵倒されようが、殴られようがかまわないと思った。


金太はブリーフ一枚の格好から、いつものパーカーがついた白い私服に着替える。
その間、一度も隼人に振り返ることはなかった。
その後も金太はしばらくの間、両腕を胸の前に組んで、ただ背中を向けて黙っていた。
金太の震える後姿から、彼が怒っていることは容易に想像がついた。
隼人には、その時間が永遠のように長く感じられたのだ。
(白金主将はオレのことを軽蔑したに決まってる・・。オレはなんてことをしてしまったんだ・・)
隼人は軽はずみな行動で、取り返しのつかないことをしてしまったのだ。
それが隼人の心に痛く、そして重くのしかかっていた。


沈黙を破ったのは金太だった。
「南条、自分のしたことが分かっているのか?」
「・・・」
金太の声は怒っているというよりは、隼人に問いかけているような感じだった。
てっきり、金太にぶん殴られると思った隼人は、ほんの少しだけ安心した。
「白金主将、スミマセン。
  オレ、主将が寝ているところを、ちょっとイタズラしようと思ってやっただけなんです」
その言葉に、金太は隼人に振り向き、そして激しい怒りをぶつけた。
「イタズラだと! ふざけんな!」
「あの・・その・・」
「ウソつくなよ。もしイタズラだったら、力一杯ぶん殴るぞ」
「ス、スミマセン・・」
「南条、頼むから本当のことを言ってくれ。
  どうして俺のアソコなんか舐めたんだ?
  だって・・その・・おかしいだろ? こんなところ、普通舐めるモンじゃねぇんだぞ。
  まさかと思うけど、お前は男のくせに、俺の体に興味があったのか? 触りたかったのか?」
「・・・・」
「黙っていちゃ、何も分からないだろ? 怒らないから本当のことを言ってくれ。
  このままじゃ明日の試合は、お互いに平常心でできるわけがない。
  勝てるものも勝てなくなっちまうんだ。このまま中途半端にしちゃいけないんだよ!」
金太は不満に口を尖らせたが、それは隼人の行為を怒っているのではなく、
  隼人が真実を伝えずに、ただ黙っているのが許せないという気持ちからくるものだった。


しばらくして、隼人は蚊の泣くような声を振り絞った。
「分かりました・・白金主将・・。
  オレ、いままで隠してきたけど、本当のこといいます。
  でも、オレのことを嫌いにならないで欲しいです。オレと一緒にずっと柔道して欲しいです・・」
「当たり前だろ。俺の柔道のパートナーは南条しかいないんだ。だからこそ言ってくれ」
隼人は真剣に金太の瞳を見つめる。
そして、少し気持ちが吹っ切れたのか、はっきりとした口調で語り始めた。
「帰り道に、白金主将は"どうして春風中の柔道部に入ったのか?"って聞きましたよね?
  だから、それから答えます。
  オレ、さっき話したとおり、父さんと口を聞かなくなって、それで柔道もやめました。
  柔道のことが嫌いになって、もう二度とやりたくないと思ったんです。
  でも、ある日たまたまテレビを見ていたら、柔道の試合がやっていて、その試合にオレは見入ってしまいました。
  いつの間にか手に汗を握りました。他人の試合で熱くなって、興奮したのは、そのときが初めてでした。
  それが、昨年の中学柔道大会の、白金主将と権藤大三郎さんの試合だったんです。
  たった1つ年上の先輩が、すごい試合をしているのを見て、オレはもう一度柔道やりたいって思いました」
「俺の試合で・・?」
「白金主将のことは、そのときからの憧れでした。
  今年になって、オレが引っ越す先が春風町だと知ったとき、
  オレは胸が躍りました。だって、春風町には春風中があって、そこには白金主将がいることを知っていたからです。
  オレは春風中に入るとすぐに柔道部に入り、白金主将に挨拶をしました。
  "白金主将に憧れてます。一緒に柔道やりたいです"って勇気を振り絞って言いました」
「あぁ。それは覚えているよ。夢はオリンピックで金メダルだったよな?」
「はい。でも金メダルなんてどうでもよかったんです」
「どういう意味だよ・・?」


隼人の発言を不審に思った金太は、再び尋ねた。
「金メダルなんてどうでもいいって、どういうことだ?」
「オレ・・白金主将のことが好きです」
その言葉に金太はビクッと反応する。
しかし、すぐに冷静を装って返事をする。
「"好き"っていっても、いろいろとあるだろ。友達として"好き"とか、先輩として憧れているとか。
  お前の"好き"は、どういう意味の"好き"なんだ?」
「言葉のとおり、好きなんです。オレは男なのに、白金主将のことが大好きです。
  おかしいッスよね・・。だって、普通は男は女の子を好きになるはずなのに。
  白金主将のこと、毎日考えてるんです。毎日ビデオみてます。
  そして考えてます。オレの部屋に白金主将がいて、優しく微笑んでくれるんです。
  外では主将と腕を組んで歩いて、一緒にお風呂入ったりして、それで一緒に体を触りっこしたりとか・・」
「・・・」
「だから、主将がこの部屋で寝ている姿を見たとき、自分の欲求を抑えることができなくなりました。
  毎日、あれこれ考えていることが、現実にできることを知って、居てもたっても居られなくなりました。
  思わず、白金主将の一番大切なところを触りたくなりました。白金主将のすべてを知りたかったんです。
  もうビデオを見ているだけじゃ、満足できないんです。
  オレ、とんでもないことしちゃって、本当にスミマセン。ごめんなさい。
  軽蔑されて当然です。男が男を好きだなんて、本当におかしいとは思っているんです・・」
隼人の声は徐々に震えだしていた。
そして、目に一杯の涙をためて、必死に言葉を伝えていた。
たとえ、それが金太に伝わらなくても、隼人は自分の正直な気持ちを話したかったのだ。


隼人の話に、金太は困ったように頬をかいた。
そして、改めて尋ねた。
「俺のことを"好き"っていうのは、俺のことを"愛している"っていう意味なのか?」
「・・はい。たぶん・・」
「俺の体を触りたいのか? 俺と・・その・・エッチみたいなこともしたいのか?」
「はい・・」
「寝技の練習のときに俺の体を触ったのは、本当はエッチしたかったのか?」
「すみません・・。父さんから教えてもらったというのはウソです。
  白金主将の体をどうしても触りたくて・・・俺、最低なことしちゃいました。本当にすみません」
「リョウジョクを知らずにやったってことか・・」
「え?」
「いや、その・・なんでもない」
金太は再び、黙り込んでしまった。
隼人はそんな状況がいたたまれなかったのか、さらに会話を続けた。
「オレが柔道をしているのは、ただ白金主将と一緒にいたかったからです。
  不純な動機ッス。白金主将は全国大会に出るために一生懸命がんばっていたのに、
  オレは、ただ白金主将と柔道ができれば、それだけで満足だったんです。
  そんなオレでも、これからも柔道をしてくれますか? オレのことを受け入れてくれますか?」
隼人の頬からは、いつの間にか涙が溢れていた。
グズンと喉を詰まらせながら、懸命に言葉をつなげていた。
そんな隼人に対し、金太は腕組みをしたまま、しばらく黙ったままだった。


2人の間に静寂が走った後、金太が重い口を開いた。
「南条。すべてのことをきちんと話してくれたことは感謝する。ありがとう」
「主将・・」
「でも、今日のことはすべて忘れよう」
その言葉に、隼人は表情を曇らせ、耳を疑った。
「それはどういう意味ですか・・?」
「言葉通りだよ。南条が俺のことを男として好きなのは分かったよ。
  だけど、俺には理解できないんだ。だって、男が男を愛するなんておかしいじゃないか。
  もし、俺が中途半端に南条に愛情をかけたら、お互いが苦しい思いをすると思うんだ。
  だから忘れよう。忘れることなんてできないかもしれないけど、俺はこれからも南条を後輩として接することにする。
  そしていままでどおり、柔道もしよう。元のままが一番いいんだ」
「そんな・・」
「それでいいだろう? 俺のことは悪いけどあきらめてくれ。男に興味はない」
金太のあまりに厳しい返事に、隼人の目から大粒の涙が落ちる。
もしかしたら、金太が男同士の恋愛に心を開いてくれるんじゃないか・・。
金太から「付き合おう」と言ってもらえるんじゃないか。
そんな淡い期待を抱いていた隼人が、最も聞きたくない返事だったから。
「ううっ・・うっ・・」
「お前は男だろ。だったらもう泣くな」
「うっ・・えぐ・・」
「頼むから、しっかりしてくれよ」
「白金主将は、あまり驚かないんですね。"男が男を好きだ"と言われても。
  普通なら嫌悪感さえ抱きそうなのに、まるで以前にも誰かから告白されたような答えです。
  もしかして、以前にそういうことが・・あったんじゃないですか?」
「そ、そんなことあるわけないだろ!」
「白金主将は、男同士は付き合っちゃいけないと思いますか・・?」
「それは・・」
隼人の質問に一瞬たじろぐ金太だったが、すぐに切り返す。


「南条・・。ならば、教えてくれ。
  男同士の恋愛の先に一体なにがあるんだ? 体を合わせたその先になにがあるってんだ!?」
隼人は涙を必死に拭いながら、なんとか返事をする。
「オレは先のことなんかどうでもいいんです。
  オレは白金主将と一緒に居たいだけなんです。だって白金主将のことが好きなんだから。
  理屈でなんか言えません。それじゃいけないんですか・・?」
「そんなの答えになっていないじゃないか。納得できるわけないだろ。
  南条にはすまないが、俺には男同士の恋愛は、どうしても受け入れられないんだ。
  それに、男が男を好きだなんて、他のヤツには言わない方がいい。理解されるわけがない。
  俺は・・その・・軽蔑しないけど、他のヤツはきっとお前のことを毛嫌いするぞ」
「そんなの構わないッス」
「お前自身が悲しい思いをするんだ。もし、南条が俺に恋愛の関係を求めるようならば、
  これ以上、一緒に柔道はしないほうがいいと思う。南条が傷つくだけだと思うんだ」
「う・・うっ・・どうして・・?」
「俺は南条のことが好きだよ。だけど、それは"愛する"ってことじゃない」
「・・・」
「だから、お互いに忘れよう。ごめんな。お前のことを受け入れてやれなくて」
「"ごめん"だなんて・・そんなこと言われたら、オレはますます主将のことが忘れられません。
  だって、白金主将は優しいんだもの・・。でも、忘れろなんて・・!」
たしかに、いますぐに忘れるなんて言葉は、隼人にはひどい言い方だと金太は胸が痛んだ。
なぜなら、金太自身にも心当たりがあったから。
権藤大三郎のことがあったから。
しかし、隼人に優しい言葉をかけるのは、ただいたずらに隼人を苦しめるだけなのではないかとも思った。


隼人はしばらく声を詰まらせて泣いていた。
金太は隼人のことを優しく抱いてあげようとしたが、もしそれをしてしまったら、
  それこそ取り返しのつかないことになると思い、ギュッと拳を握ってただ耐えていた。
お互いが苦しい時間を耐え抜いたあと、隼人の声が耳元に届いた。
「オレ、今日はもう帰ります。
  白金主将が受け入れてくれなかったのは悲しいけど、主将はオレのことを軽蔑しませんでした。
  だから、オレなんとかがんばってみます。
  明日の試合はでます。白金主将のために絶対に勝ちます」
「南条・・・」
「もしかしたら悲しくて、心が苦しくて、今日は眠れないかもしれないけど、
  オレは元気だけが取り得だし、メソメソしているのはオレらしくないから・・。
  明日は実力は発揮できないかもしれないですけど、そのときは許してください。
  でも、精一杯やりますから」
「ごめんな。お前のことを受け入れてやれなくて」
「いいんです。じゃ、オレ帰ります」
「じゃそこまで送って・・」
「いいです。白金主将にこれ以上優しくされたら、苦しくなるだけですから・・えへへ」
そういうと隼人は作り笑いをして、走って部屋をでていった。
金太は「がんばれ」と言葉をかけてあげたかったが、喉元でその言葉は止まってしまった。
心の中で、ただそう叫ぶしかなかった。


ノンケの人って同性愛を理解できるんでしょうかねぇ。

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