hanaさんに金太君小説、『if〜その後の2人〜』を寄稿していただきました。ありがとうございます。
登場人物
我らが金太君です。今回は立派な大人に成長?
水原結花。金太の小学生6年生のときからの恋人です。
if〜その後の2人〜
*この話は、あくまでhanaの中の想像上の設定であり、実際の設定とは全く違っております。予めご了承ください。
”ミ〜ン、ミンミンミ〜ン”
誰もいない休日の神社の境内・・・蝉の声だけが木霊していた。
炎天下の中、一人柔道の練習に励むガッシリとした大柄な青年(身長は180センチ位、体重は3桁までは辛うじていっていない様だが・・・)が、汗で濡れた柔道着の上着を脱ぎ、タオルで吹き出る汗を拭きながら、ふと・・・真っ青な空を見上げた。
どこまでも続く青い空に、光る人影を見たような気がしたのだ。
『気のせいか・・・? でもあれから、もう10年か・・・。 あっという間だったなぁ。』
白金太郎・・・金太は小学6年生のとき、”ザウラーズ”として巨大ロボットを操り、機械化帝国の脅威から地球の平和を守るという(普通の小学生では経験できないような)貴重な体験をしてきた。 勿論一人ではない・・・クラスメート全員で成し遂げた、輝かしい功績だった。
そして卒業式の日、小学校と”ザウラーズ”を卒業した。 しかも春風町と、仲間とも別れなければならない日が近づいてもいた・・・父親の転勤だった。
最初、父の転勤話を聞いた時、クラスメートに引越しの話をすることが出来なかった。 勿論、慣れ親しんだ街を離れることに抵抗があったし、仲間と離れるのが嫌だったのだが、今の自分にはどうすることも出来ないことだった。
それに、一番言えなかった理由・・・水原結花に泣かれることが辛かったからだ。
結花は、同じ”ザウラーズ”として1年間一緒に戦ってきた仲間だ。 最初の頃、只でさえ『女の子』が苦手なのに、すぐに泣くので余計に苦手だった。
だが、自分よりも小さな体で、弱いながらも常に一生懸命で、邪険にしていたはずの自分に対しても心配りをしてくれたのだ。 それに気付いた時、<俺が守ってやらなくっちゃ>と、いつしか思うようになっていた。
だが・・・戦いの中で『守ってやりたい』と切に願いながらも、『守られている』と気付いた時、自分の傲慢さに・・・心の弱さに愕然とした。
《互いが相手を信頼し、相手を思いやること》が、《本当の強さを導き出す方程式》であると解ったとき、今までの自分がいかに独り善がりであったか痛感した。
そのことが解ったのも、全て結花のお陰だった。 だからこそ、辛い戦いの中でも歯を食いしばってみんなと頑張ってこれたのだ。
結花と別れる時、彼女が言った言葉が今でも鮮明に思い出される・・・。
「金太くん・・・。 結花ね、駅に来る前に鏡に映った自分と約束してきたの・・・。 『いつもみたいにワンワン泣いてたら、金太くんに泣き顔しか覚えてもらえないぞ! だから一番いい笑顔を覚えてもらおうね!』って・・・。」
「結花・・・。」
さっきまで見送りに来て居たはずのクラスメート達がいつの間にか居なくなり、ホームの待合室には結花と金太の2人きりになっていた。
「だから・・・今日は絶対に泣かないって決めたの・・・大好きな金太くんが、結花を思い出すときに辛くならないように・・・。」
そんな健気な結花の言葉を聞いて、思わず抱きしめたくなってしまう自分を必死になって堪えた。
「ハイ、これ結花が作った”お守り”。 金太くんがどんなに辛い時でも、頑張れますように・・・って。」
そう言って結花が金太に手渡した物・・・形は歪(いびつ)だが、一生懸命に作った事が窺(うかが)える小さなお守り袋だった。
『自分のためにこんなことをしてくれるなんて・・・』という気持ちで一杯になり、堪えていたものがフッと途切れてしまった金太は、結花を抱き寄せ、
「この先・・・もし、結花が俺の事を必要としていてくれるなら・・・一緒に居たいと思っていてくれるなら・・・俺、必ず迎えに来るっ!」
「金太くん・・・約束だよ・・・。」
その様子をコッソリと見ていた拳一は、
「何2人の世界造っちゃってんだよ〜。 それにアレって・・・プロポーズじゃねぇ・・・!」
”ゴツンッ!”
「何覗いてんのよっ! 2人っきりにしてあげるって、皆との約束でしょう?」
「痛ぇ〜な! しのぶっ! チョットぐらいいいじゃねぇ〜かよ〜!」
「シーッ!! 声が大きいっ! アンタには、デリカシーってものがないの? ホントに子供なんだから・・・。」
というやり取りがあったことは、金太と結花はまったく知らなかったが・・・後日、2人は、散々拳一にそのことをからかわれてしまったことは言うまでも無く、その拳一も、しのぶにボコボコにされたことは言うまでも無い・・・。
『へっ、何が『泣かないよ』だ・・・。 目に一杯涙溜めてさ・・・。』
今は引越した町の役場で働きながら、休日には子供達に柔道を教えると言う日々を送っていた。
あれから何度も結花と連絡を取り合い、長期の休みの時はどちらかが互いの家を訪れていた。
会うたびに結花は女性らしく、精神的にも強く(涙もろいのと、背が小さいのは昔のままだが・・・)なってきた。
高校に入ってから、結花の家に遊びに行った時だ、結花の母親に、
「結花がね、どうしてもこの高校に入りたいんだって言い出したとき、お父さんは反対したのよ・・・。」
結花は、衛生看護科のある高校に通っていた。 看護士になりたいからだということは、手紙のやり取りでそのことは知っていたが、父親の反対があったことは全く知らなかった。
「お父さんったら、今まで結花がこんなに強く自分の意思表示をしたことが無いもんだから、慌てちゃってね。フフフ・・・。」
「えっ!?」
「結局、根負けして許してあげたんだけどね。 結花があそこまで強くなれたのは、白金君のお陰だと小母さん感謝してるのよ。」
「いえ・・・そんなこと無いです。 僕は何も・・・。」
「いつも結花が言ってるのよ。 白金君が頑張っているから、自分も頑張らなきゃ・・・ってね。」
「結花が・・・、いえ結花さんがそんなことを?」
「アラ、いいのよ。 白金君の事は小母さん認めてるんですもの。 真面目でキチンとした人だから、結花の事大事にしてくれるだろう・・・って。」
「・・・。」
顔を真っ赤にして俯(うつむ)くしかなかった。 こうやって結花の母親と向かい合って話しをするのは初めてのことだったし、まさかこんな話になるとは思ってもいなかったので、面食らった。
「お母さん! 金太くんに余計なこと話してないでしょうね?」
紅茶を持って、結花が部屋に入ってきた。
「ただ天気の話をしてただけよ・・・ねぇ、白金君。」
「はぁ・・・。」
”それじゃ、ごゆっくり・・・”と言って、母親は出かけてしまった。
結花の母親に言われたことを思い返した。 確かに結花は以前とは比べ物にならないくらいに精神的に成長していた。 しかし、自分は? 自分は果たして成長しているのだろうか? と思う。
「金太くん、前よりまた大きくなったね。」
紅茶とクッキーを金太の前に出しながら、結花が唐突に言った。
「ん? それは太ったって言いたいのか?」
「それもあるけど・・・。」
「どうせ俺は太ってますよ!」
口をへの字に曲げ、腕組みして天井を睨んだ。
「フフフ・・・。 すぐ拗(す)ねるんだから〜。 体型の話じゃなくて・・・人間的にっていうのかな? 会うたびに大きくなってるなぁ・・・って。」
確かに体は以前よりも大きくなった(178センチで98キロ、多少横への成長が著しいが・・・)し、柔道でも全国大会に出場するほどの実力はついていた。 だが、精神的にはどうだろうか? あまり変わらないように思った・・・。
「金太くんは、会うたびにどんどん優しく、そして強くなってきてるなって感じるの。 だから、私も頑張らなくっちゃ!」
「俺って、優しいか? 確かに柔道では大分実力はついてきてるとは思うけど・・・。」
「この間の大会、TVでみたよ。」
「そ、そうか・・・。 2回戦で負けちまったけどな・・・。」
「金太くん、1回戦の相手が怪我してるのに、全力で戦ってたでしょ?」
「あぁ、相手が怪我しているからって手を抜くのは失礼だろう?」
結花はジッと金太の目を見つめて言った。
「昔の金太くんならきっと、そのことが気になって全力を出さずにいたと思うの・・・。」
「・・・。」
「でも今は違う。 本当に相手の事を思うから・・・相手の事がわかるから全力で戦ったんでしょ?」
「・・・。」
「それが本当の優しさなんだ、と私思うの。 この間の試合を見て私、金太くんが今まで以上に、上辺の強さだけじゃない、本当の強さと優しさも兼ね備えているんだって強く思ったの。」
「・・・恥ずかしいだろ、そんなこと言われたら・・・。」
そう言われてみれば、そうだったかもしれない。 自分でも気付かないうちに、柔道を通して・・・結花と一緒にいることで何かが変わってきているのかもしれなかった。
そのことがあってから金太は、益々柔道に専念し、結花との時間、結花を大事にしようと強く思ったのだった。
「さてと! そろそろいかないとな。」
時間を見ると、もう14時をまわっていた。
「やべぇー! 急がないと時間に遅れる!」
慌てて荷物を抱えると、急いで神社の石段を駆け下りた。 今日は大事な約束があったのだが、つい思い出に浸っているうちに時間をオーバーしてしまったのだ。家に着くなり、シャワーを浴びて、スーツに着替える。 その姿を見た母親は、
「ホントに大丈夫なのかしらねぇ? ちゃんと水原さんに挨拶できるのかしら・・・?」
「さぁな、こればっかりは俺達には何にも出来ないしな・・・。」
新聞を読みながら、お茶をすする父親に対して、
「お父さん、息子の大事な時に、そんなノンキな・・・。」
「いってきまーす!」
飛び出した息子の後姿を、母親は心配そうに見送った。
「ホントに大丈夫かしら・・・? いざって言う時に度胸が据わってないからねぇ・・・父さんに似て・・・。」
電車に揺られること3時間・・・金太は片手に手土産を持って、春風町の駅に着いた。
「金太くん!」
結花が、白い薄手のブラウスにデニムのスカートで出迎えてくれた。 夏らしく女性らしい服装に、何故かドキッとしてしまい、思わず顔を赤らめ、ハンカチで汗を拭きながらそれを必死に隠そうとした。 そんな金太に気付いていないのか、結花は金太の手を引っ張りながら、家へと向かった。
「行こう、お父さんもお母さんも家で待ってるから。」
「お、おぉ・・・。」
「緊張してるの?」
「しないほうがおかしい・・・。」
”ピンポーン!”
「はーい! どうぞ、上がって。」
結花の母親が笑顔で出迎えた。
「どうも、ご無沙汰してました・・・。 これ、つまらない物ですが・・・。」
「何緊張してるの? もっとリラックスしないと・・・。」
「は、はぁ・・・。」
結花と同じ事を言われ、苦笑いするしかなかった。 居間に行くと、結花の父親が椅子に座ってアイスコーヒーを飲みながら待っていた。
「やぁ、遠いところをご苦労さんだったね。 暑かったろう? 母さん、白金君にも冷たい物を出してあげなさい。」
「し、失礼します!」
父親の顔を見たとたんに、益々緊張の度合いが高まった。 椅子には座ったが、出されたアイスコーヒーには手をつけることが出来なかった・・・。
「こうしてちゃんと話をするのは初めてだよね? 今、役所に勤めているんだって?」
「ハ、ハイ・・・。 ま、まだ雑用しかさせてもらえませんが・・・。」
「柔道をやってたんだよね? 今でもやってるのかい?」
「きゅ、休日に近所の子供達に教えていますが、以前よりは練習量も減ってしまって・・・。」
「ふむ・・・。 少し、体重を落とした方がいいんじゃないかな? 成人病の恐れがあるしな。」
「きょ、恐縮です・・・。」
流れる汗をハンカチで拭きつつ、いつ、今日来た理由を言おうかとタイミングを計りかねていた。 まだ柔道で技をかけるタイミングの方がわかり易い・・・。
「結花の料理は絶品だぞ? そんなのを毎日食べたら益々体重が増えそうだな?」
「へっ?」
思わず間の抜けた声を出してしまった。
「結花を、嫁にもらいに来たんだろう?」
「ハ・・・ハイ・・・。」
「それに、結花も働き口を君の住んでる町の診療所にしたって言うしな・・・。」
出鼻をくじかれ、頭の中は真っ白だ。 だが、ここで言わなきゃ男が廃る。 椅子から腰を上げ、土下座した。
「お、お嬢さんを俺・・・僕に下さい! 僕には結花・・・さんが必要なんです! 月並みなことしか言えませんが・・・必ず幸せにしてみせます!」
「おいおい・・・君が幸せにならなかったら、結花だって幸せにはならないだろう?」
「は、はぁ・・・。」
「私はね、結花が選んだ君に何の異存も無い。 だが、これだけはアドバイスさせてくれ。」
「は、はい!」
「結花も聞きなさい。 結婚は、2人が努力して走るゴールの無いマラソンだ、どちらかが欠けても駄目なんだよ。 今からがスタートなんだ・・・いいかい? これからは、2人で息を合わせて、二人三脚で頑張っていきなさい。」
「はい! ありがとうございます!」
「ありがとう・・・。 お父さん。」
それから、トントン拍子で話がまとまり、10月・結婚式当日。 真っ青な空が広がる晴天の吉日・・・チャペルの中庭での披露宴に、久しぶりに集まった元”ザウラーズ”の面々に囲まれて、2人は幸せを噛み締めていた。
・・・が、相変わらずの輩もいるようだ・・・。
「何、バカスカ食べてんのよ! ほっんとに卑しいんだから、拳一は! お祝いしに来たんでしょ?」
「うるせーな! このオトコオンナ! だからしのぶは嫁にいけねぇんだよ!」
「なんですってーっ! もう一度言って御覧なさいよ!」
「まぁ、誰ももらってくれないようなら、俺がもらってやるよ・・・。」
「・・・・・!」
・・・相変わらず、と言うわけでもなさそうですがね・・・。
そんな騒ぎをよそに、青空を見上げる”夫”となった白金太郎に気付いた結花が、
「何を見てるの?」
「いや・・・どこからか、エルドランも見ていてくれてるような気がしてさ・・・。」
二人が見上げた青空の向こうで、”キラリ”と何かが光ったように見えた・・・。
-おわり-
hanaさん、金太君小説の寄稿、ありがとうございました!またよろしゅう!!!