プロレス金太(2)


なかなかプロレスになりませんが(^^;


登場人物

峰崎拳一。ヤンチャで快活な少年。金太をライバル視している面も。

白金太郎。硬派で強い、努力と根性の男。拳一とは悪友?

左からチョビ、洋二、ボン。クラスメートでザウラーズの仲間。


和気あいあいとした雰囲気の中。
突然、大きな声が部屋に響き渡る。
「カーン、カーン!!」
部屋の全員が驚いて、声の主に振り返る。
そこには、両手を腰に当てて、「えへへ」と鼻をすすっている拳一の姿。
「ほら、カーンだよ! カーン! 始まりだぜ!」
得意気な顔をして大声を出す拳一を、みなは不審な目で見つめている。
そんな中、金太が寝そべりながら、話しかける。


「拳一、1人でなにやってんだ?」
「なにって、プロレスごっこだよ、プロレス!」
「プロレスごっこ?」
「昨年の修学旅行もやったじゃねーか」
「そうだったか?」
「早くやろうぜ!」
どうやら、先ほどの「カーン」というは、プロレスのゴングの合図らしい。
1人でやたらと盛り上げる拳一に対し、金太興味なさげにプイッと横を向く。
「そんなくだらねぇこと、お前1人でやってろよ」
「金太、お前もやるんだよ!」
「な、なんで俺がやるんだ?」
「だってお前が、昨年のチャンピオンじゃねーか」
「チャンピオン? そうだったか?」
金太の投げやりな言葉に、拳一は少しムキになってきたようだ。


「おい、金太!」
「なんだよ、拳一」
「まさか、昨年のプロレスごっこのこと忘れたのか?」
「そんな昔のこと、覚えてるわけないだろ」
「じゃ、昨年のプロレスごっこの罰ゲームも、覚えてねーのか?」
「そんなの、とっくに忘れちまったぜ」
「俺がどんな屈辱的な罰ゲームされたのかも、覚えないっていうんだな?」
「そんなこと、いちいち覚えてなくちゃいけないのか?」
「へぇー、金太くぅ〜ん。あの罰ゲームは、金太にとってその程度のことだったんだ・・」
「な、なんだよ・・」
拳一が妙に絡んでくるので、金太は寝そべりながら、チラッと目線を上げてみる。
すると、なにやらニンマリと笑みをしている拳一の顔。
明らかに、ロクでもないことを考えているときの顔だ。
嫌な予感がした金太は、負けじと切り返す。
「プロレスごっこなんて、くだらねぇぜ。お前らで勝手にやってろよ」
「本当はやりたいくせに」
「や、やるもんか!」
畳に横に寝そべり、プイッと反対を向く金太。
拳一は、そんな金太の後姿をみて、ククッと笑いを堪えていた。


「カーン! まずは俺とチョビの対戦だぜ!」
温泉旅館の大部屋に、拳一の声が響き渡る。
なにやら、拳一は勝手にプロレスごっこを開始したらしい。
「よーし、行くぜチョビ!」
「負けるか!」
チョビはタックルをかまそうとするが、拳一はそれを俊敏な動きでかわす。
突っ込んできたチョビに対し、拳一は肩と膝に手足をかける。
「えーへへっ!! 決まったぜ! これが拳一スペシャル、卍固めだぜ!」
「ぎゃあああーーっ!」
なにやら不恰好ではあるが、チョビの手足を見事に決めて卍固めに持って行ったらしい。
<拳一やるなー!>
<うおーー!>
その鮮やかさな行動に、それまで興味がなかったザウラーズメンバーも歓声をあげた。


グイグイとチョビを締め上げる拳一。
ボンがエキサイトしてきたのか、声を張り上げる。
<おおっ、すげーぞ、拳一!>
<やれー、拳一!>
<チョビ、負けるな!>
ボンの声に釣られたのか、卍固めをする拳一の周りに、みんなが野次馬のように集まってくる。
なにやら騒然となってきた、大部屋。
「ギ、ギブ〜! 拳一ぃ、ギブアップ!」
「なんだ、チョビもう終わりか〜?」
「ギブア〜ップ!」
どうやらチョビは、拳一の卍固めにあっさりと負けを認めたらしい。
「じゃ、次はボンな! かかってこいよ」
「よぉし!」
ボンは指をボキボキと鳴らして、拳一に飛び掛っていく。
「行くぜ、拳一!」
「返り討ちだぜ!」
ボンが飛び掛る寸前、拳一はヒョイとボンの足を引っ掛ける。
ボンは、あっさりと布団の上にうつ伏せに倒れてしまった。
拳一は、そのままボンの背中に飛び乗り、馬乗りのポジションにもっていく。
圧倒的に有利な体制だ。


<いいぞー、拳一!>
<ボン、なにやってんだよ!>
<情けねーぞ! 反撃しろ!>
騒然となる大部屋。
さすがに、これだけ部屋が盛り上がってくると、金太も無視はできない。
横にゴロンとなりながら、チラッと片目をあけて様子を見てみる。
どうやら拳一が、ボンの背中にまたがって、ぎゅうぎゅうと首締めをしているらしい。
「うげっ、ギブッ!!」
ボンもあっという間にギブアップ。
拳一は体は小さいが、金太とクラスで張り合うだけあって、なかなかの強さのようだ。
「まったく、みんな弱ぇなー。じゃ、次は・・」
拳一は、ニンマリと笑いながら、部屋をぐるっと見回す。
「洋二、お前だ!」
「え?」
「参考書なんて読んでるんじゃねーぞ!」


洋二と金太だけは、プロレスごっこの輪の中に入っていなかった。
拳一は、そんな洋二を指名したのだ。
「さぁ洋二、いくぜ!」
「えっ・・ぼ、僕ですか〜!?」
「そうだよ、洋二! お前もプロレスやるんだよ!」
「だ、だって、僕はお勉強がありまして・・そんな野蛮なことをしている場合では・・」
「温泉にまで来て、勉強してどうすんだよ!」
「し、しかし・・わぁ、拳一、やめてぇ!」
洋二はガリ勉で、とてもプロレスごっこをするような性格やノリではない。
しかし、いまの大部屋の雰囲気から、プロレスごっこから逃れるのは難しいようだ。
「おい洋二! なに格好付けてるんだよ!」
「ぼ、暴力反対ぃ〜! プロレスごっこ反対ぃ〜!」
「ホラ、洋二こっち来い!」
拳一は、嫌がる洋二の服を、ムリヤリ引っ張り始めた。


「洋二、観念してこっち来やがれ!」
拳一が、強引に洋二の服を引っ張ろうとした瞬間。
「うわっ!」
拳一は、ドスンと後方に吹っ飛んでいた。
なにか物凄い力で、後ろから肩を引っ張られたのだ。
拳一は、布団にステンと転んだまま、「いてて」と腰を手をやる。
そして、上半身を起こしてみると・・。
そこには、洋二の前に立ちふさがる大きな姿。
腕組みして、仁王立ちの金太だった。
しかも、目尻を吊り上げて、少し怒っているように見える。


金太の姿を見て、ニタッと小さく頬を上げて笑う拳一。
しかし、その笑みをすぐに隠して、叫んだ。
「おい、金太! なにすんだよ!」
「洋二が嫌がってんだろ。いい加減にしろよ」
「ヘン、たかがプロレスごっこじゃねーか」
「したくないヤツは放っておけばいいだろ」
「お前は、プロレスごっこしないんだろ? だったら参加するなよ!」
「うるさい! 洋二が可哀相だろ!」
「こんなときだけ正義の味方かよ。ずいぶんと昨年のチャンピオンは偉いんだな」
「な、なにを!」
「金太くぅ〜んさぁ、本当は負けるのが怖いんじゃねーの?」
「なんだと!」
挑発とも取れる発言に、拳一を睨みつける金太。
そんな金太に対し、拳一は余裕の笑みを浮かべてぼやいた。
「昨年は金太が一番強かったけどさ。いまは俺の方が強かったりして」
「そんなことあるもんか!」
「じゃ、プロレスごっこやろうぜ。俺を倒してみろよ!」
「そんなくだらないこと、やってられるか」
「本当は自信ないんだろ?」
「なに!」
「ここにいる全員よりも、金太って案外弱かったりして・・」
「てめぇ、言わせておけば・・上等だ。プロレスやってやらぁ!!」
その言葉を聞いた瞬間、拳一は悪魔の笑みを浮かべてみせた。


次回に続きます。

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