プロレス金太(3)


ついに対決することになった拳一と金太。果たして?


登場人物

峰崎拳一。ヤンチャで快活な少年。金太をライバル視している面も。

白金太郎。黙して語らず、努力と根性の男。拳一とは悪友?

金太と浩美。浩美は気が少し弱いが、ランドステゴのパイロット。


温泉旅館の部屋で、正面から対峙する拳一と金太。
<やっと昨年のチャンピオンのお出ましだぜ!>
<拳一、やっちまえ!>
<金太なんか、ギャフンと言わせてやれ!>
金太のプロレス参戦に、周りの連中はお祭り騒ぎになっていた。
なぜか周りは全員、拳一を応援している。
しかし、金太は余裕の腕組みをしていた。
「おい、拳一。俺に挑戦するなんて、10年早いぜ。負けて後悔するんじゃないぞ」
「ヘーンだ。俺は金太になんか絶対に負けねーんだよ!」
「本気で俺にかなうと思ってんのか?」
「やってみないと分かんないぜ」
「たいした自信だな」
金太は余裕からなのか、僅かな笑みを浮かべる。
腰に両手を当て、厚い胸板を拳一に見せ付けて、ニッと笑う。
そんな金太のほくそ笑みをみて、拳一は「くそっ」と呟く。


「とりゃー」と猛然とダッシュする拳一。
金太の体に飛び込み、肩からタックルをかます。
しかし、金太は得意の柔道の足裁きで、軽く拳一のタックルを交わすと、そのまま拳一の足を引っ掛けた。
「うわっ!」
バランスを崩した拳一は、そのまま布団の上にズッテンとうつ伏せに倒れる。
「拳一っ、甘いぜ!」
金太は、倒れている拳一の背中に、またがる。
そのままドシンと腰を下ろした。
「うげっ!」
「どうだ!」
「うぐぐ、重い・・」
「拳一、さっきまでの勢いはどうした!」
「重てぇ・・ぐるじい・・」
「どうした、これで終わりか?」
金太がドシンと拳一に乗っかっている姿は、
 まるで子供が大人に潰されているようだ。



金太は「よっこいしょ」と、拳一のお尻に向き直す。
そのまま拳一の両足首を、それぞれのわきの下にはさみこむ。
そのまま体重を後ろにかけた。
拳一は、足首から腰までが、逆えびぞり状態になり、まるでチャチホコのようだ。
「ぎゃああああ!」
あまりの痛さからか、拳一は布団をバンバンと叩きつける。
これはいわゆる、プロレスでいう逆エビ固めの状態だ。
プロレスではよくある、フィニッシュホールドなのだ。
「ぎゃああ、ぐるじいっ! 痛っえええ!」
大きな悲鳴をあげる拳一に、金太は吹き出したように笑う。
「拳一! ずいぶんと大口を叩いてたが、まさかこれで終わりじゃないだろうな!」
「うぐぐぐっ、ちくしょう!!」
「ほら、もうギブアップしちまえよ!」
「ぢぐじょう・・」
なにやら拳一の勢いがなくなり、すっかり涙声になっているようだ。
その声を聞いて、内心は爆笑の金太。
布団を、バンバンと叩いて悔しがる拳一だが、もうこのホールド技からは抜けられそうもない。
しばらく耐えていた拳一だが、やがて全身の力が抜けていく。
「ぎ、ぎぶあっぷ・・」
「なんだ、拳一? 聞こえないぞ!」
「ぎぶ・・」
「なんだよ! もっとハッキリ言えよ!」
「金太、ぎぶあっぷ・・」
拳一の弱々しい声を聞いて、思わずブッと吹き出してしまう金太。
金太は、ゆっくりと両足首を放して、起き上がる。
そして、山頂からふもとを見下ろすかのように、ヒクヒクと痙攣している拳一を眺めた。
「まったく、弱すぎるぜ。拳一も口ばかりで、たいしたことないな」
金太は両腕を組んで、勝利の笑みを浮かべる。


いつまでも起き上がってこない拳一。
金太は腕組みをして、周りを鬼のような形相で見渡す。
「次に挑戦するのは誰だ?」
金太の余裕の発言に対し、先ほどまで盛り上がっていた全員が、なぜかシーンとして顔を伏してしまった。
金太に、力では誰もかなうわけがない。
好き好んで、金太に挑戦する者などいないのだ。
「なんだよ、せっかくやる気になったのに。誰も俺にかかってこないのかよ・・?」
<・・・・>
「なら、浩美と秀三。お前ら2人でかかってきてもいいぜ」
しかし、浩美と秀三は、まるでお葬式のように暗い顔をして、体育座りをしている。
そして、小さな声で浩美が呟いた。
<ごめん、金太。僕たち2人でも、たぶん無理・・・>
せっかく盛り上がったのに、金太が参戦した途端にプロレスのテンションが下がる。
なにか気まずい雰囲気だ。


拳一は倒れたまま起き上がらず、さらに気まずい雰囲気が漂う。
「おい、浩美と秀三もやらねーのか?」
<・・・・>
自分が拳一をコテンパにのしてしまったことで、
 楽しいプロレスごっこに水を差してしまったのでは・・と、金太は不安に思い始めた。
「あの、そのさ・・2人で無理だったら、まとめてかかってこいよ・・なっ?」
<・・・・>
「俺は昨年のチャンピオンだからさ。別に構わないぜ」
まだシーンとしている部屋の中。
「ハハ・・・そのくらいのハンデあったほうがいいだろ?」
すると、それまでピクリとも動かなかった拳一の背中が、なにやらブルブルと震えているではないか。


「くくくっ・・・」
拳一は背中を震わせているようだった。
その様子を見て、金太は何事かとおもむろに口を開いた。
「拳一、どうしたんだ・・?」
「くくくっ・・金太くぅ〜ん?」
拳一はまだ布団に伏したままだったが、その声は笑いを押し殺しているように感じる。
異様な拳一の雰囲気に、背中にゾッと寒気が走る金太。
「け、拳一・・?」
「金太、いま言ったよな?」
「な、なんだよ・・」
「いま、全員でかかってこいっていったよな!」
突然、ゾンビが生き返ったかのように、ピンと布団から飛び起きる拳一。
先ほどのダメージはウソだったのか。
顔には悪魔の笑みがこぼれ、先ほどとは明らかに様子が違う。
元気ピンピンの拳一を見て、金太の顔が引き攣っていく。
なぜなら、拳一の笑みは、確実にロクでもないことを考えている証拠だからだ。


拳一は、人差し指を天に突き上げ、大きく口を開いた。
「これから、プロレス第2ラウンドの開始だぜ!」
「なっ・・!」
「金太VSここにいる全員」
「お、おい・・全員って・・・」
「お前がまとめてかかってきてもいいって、言ったんだからな。男に二言はないんだろ!」
「そ、それはその・・・勢いでつい・・」
「じゃ、金太が負けたら罰ゲームね」
「罰ゲームって・・?」
額に嫌な汗が滴り落ちる金太。
拳一は、厭らしい声で尋ねた。
「なぁ金太? 昨年のプロレスごっこの罰ゲームを覚えてるか?」
「し、知るもんか」
「昨年は、金太が勝ったんだぞ。それでプロレスごっこをやろうと言い出した俺が、罰ゲームさせられたんだ」
「そ、そうだったっけ・・?」
一体、拳一がなにを言い出すのか、不安でたまらない金太。
自然に表情が固まってくる。
「忘れているなら、思い出せさてやるぜ!
  昨年、俺が負けて罰ゲームすることになったんだ。
  金太は『罰ゲームなんてどうでもいい』って言ったんだけど、
  チョビがボソッと呟いたんだよ。
  『拳一がパンチ一丁になって、チンポ揉まれ放題』ってさ。
  そうしたよ、お前はどう返事したか覚えてるか?」
(そ、そういえば、そんなことあったような・・)
金太は腕を組んでウームと悩む。
昨年のプロレスごっこを、思い出してみる。
頭の中の記憶が徐々に蘇ってくる。
(そうだ。たしかあのときは、俺が全員やっつけて、
  言いだしっぺの拳一が罰ゲームすることになったんだ・・!
  それで、あのとき俺は・・ま、まさか!)


金太の顔は、だんだん蒼白になっていく。
「金太くぅ〜ん、やっと思い出したー?」
「いや・・それはその・・」
「ヘヘッ。思い出したんだろ。
  あのときお前は、こう言ったよな。
  『おもしろそうだな、どうせなら裸で揉んじまえ、ハーハハッ』ってな!
  そのあと、お前は外にいっちまったが、俺がその後、どうなったと思う?」
「まさか、本当に裸で・・?」
「そりゃもう、トラヌマっやつさ」
「それを言うなら、トラウマだろ!」
「うるせー! 俺は裸にされて、それはそれはひどいことに・・いま思い出しても身の毛がよだつぜ」
「ひぃえ!」
「だからさ、今年の罰ゲームも同じだ。
  金太が負けたら、『チンポ揉まれ放題』だ!」
「そ、そんなのダメに決まってるだろ!」
「なんでぇ〜?」
「だって、そんな罰ゲームなんて・・」
「なんでダメなのかな〜?」
「・・・」
「金太くぅ〜ん。文句あるわけないよね〜? 
  なぜなら、俺はチンポ揉まれまくったんだぞ! そもそも金太が決めた罰ゲームなんだからな!」
「ちょ、ちょっと待て!」


拳一の思わぬ罰ゲームに、顔面が蒼白になっていく金太。
「ちょっと待て! その罰ゲームの言い出しっぺはチョビだろ!」
その言葉を聞いて、チッチッと指を立てる拳一。
「お前が『どうせなら裸で揉んじまえ』と言わなければ、成立しなかったんだぜ。
  この罰ゲームは、金太が決めた罰ゲームなんだよ!」
「俺に罪はない!」
「男らしくないな」
「そういう問題か!」
「じゃ、第2ラウンド開始〜! カーン!」
「ま、待てっ! 拳一!」
金太は、その罰ゲームは本意ではなかったことを、必死で気持ちを伝えてみようとしたが、
  もはや復讐の鬼と化した拳一は、聞く耳を持っていなかった。
すでに第2ラウンドのゴングは打ち鳴らされていたのだ。


次回に続きます。

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